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第九十五話 圧倒

登場人物紹介

◇アリエラ

主人公。魔王軍四天王最強の怪力と頭脳を持つ紅一点。

『殲滅女帝』の二つ名を持つ。

褐色肌にボブカットの黒髪、猫のような紅い瞳、獅子の耳と尻尾が特徴の獣人。

冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。

特級冒険者としての二つ名は『爆心地のアリエラ』

マトンカレー派。


◇ピチカ

蒼い髪と瞳にギザ歯が特徴のアクセサリー付けすぎなギャルっぽい女面鷲ハーピィ。

異世界転生者。チートスキル【楽々御粧し】の使い手。

冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』の一応リーダー。

一級冒険者。

チキンカレー派だが、“鳥食べるの!?”みたいな反応をされる。


◇レイメイ

魔王直属暗殺部隊『五毒姫』の末妹。

白い長髪と肌に鬼灯のように赤い瞳と愛嬌紅が特徴。

魔王特製の最上級キョンシー(札は丹田に貼っている)。

冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。

特級冒険者としての二つ名は『毒蛇姫レイメイ』

カレーに蛇を入れようとして嫌がられる。


◇フュリス

エルタナ聖王国の女騎士。『百合爵家のフュリス』

小柄な金髪碧眼のエルフで緑基調の騎士装束を着ており、ドングリを発射するウーツ鋼製の銃を使う。

仕事の邪魔をした埋め合わせにアリエラたちが手柄を立てさせてやる事になった。

ジビエカレー派。


◇ルネローザ

『薔薇爵家』の貴種森妖精ハイエルフの令嬢。

翠の髪と瞳に真っ赤なドレスと薔薇の髪飾りで着飾っている。

その正体は吸血鬼『薔薇の真祖』にして『ゲダの指』幹部『指輪付きエンゲージド』であり『竜血のエルトート』の眷属でもある。

残虐な性格でお嬢様言葉に汚い言葉遣いが混ざる。

スープカレーに血を混ぜる派。

「“鋼鉄にも勝る”……ね。その程度ではワタクシの柔肌すら傷付けられなくてよ」

「あガガッ……や、柔肌ァ……?

激痛(クソイテェ)ですわ! いやそれより痙攣で身体が……!)」


 周囲に張り巡らせたイバラに高圧電流を流されたルネローザは激痛に悶えながら体勢を立て直そうとするが、不意を打たれた事もあり身体が思うように動かなくなってしまった。


「隙だらけ──(ダンッ)よッ!(ゴギャッ!)

 瞬間、アリエラはルネローザの膝を踏み台に小さく跳躍し、飛び膝蹴りを顔面に勢いよく捩じ込む。

 ルネローザの顔面の骨が陥没する鈍い音が響いた。


 閃光(シャイニング)魔術(ウィザード)である。


「ぐギュっ……この──(カッ)…………(ボンッ!!)がボッ……」

 反撃しようとした刹那、アリエラの膝から比喩抜きで閃光が放たれ、小さな爆炎と共にルネローザの顔面は弾け飛んだ。


 客席のエルフたち──フュリスとピチカからも──小さな悲鳴が上がる。


「意外と手応えが無いのね……」

「グごごッ……(ビチビチッ)やりやがりましたわねッ!?

 コロネちゃんッ!! おいでなさいッ!!」


「ヒヒヒヒィィィン!! ブルルルッ……(ドカカッ ドカカッ)


 ルネローザの呼びかけに応じて奥に引っ込んでいた一角馬(ユニコーン)の『コロネちゃん』が歯茎を剥き出しにしながら駆けて来る。

 その歯は通常のユニコーンのものではなく、鋭い吸血鬼(ヴァンパイア)のそれであった。


「オホホホホッ! さァ仕切り直しですわ〜!」

 アリエラが呆気に取られている内に颯爽と騎乗したルネローザは高笑いをしながらユニコーンを後脚だけで立たせて威嚇する。



「それはズルじゃん! Boo(ブー)!!」

「ルネローザ! キサマ誇りは無いのかァー!!」

「提案した側がルールを破るのが一番興醒めですよね……」


 アリエラ側の客席に座る一行は各々ブーイングを飛ばすが、ルネローザは意に介さずユニコーンを乗り回した。



「“人馬一体”ってご存知ありませんのォ!? 無教養ですわねェ〜! コロネちゃんはアテクシの一部って事で・す・わ!(ビシュッ)

 言いながらドレスの裾からイバラを生やしたルネローザは、イバラを巻き付けて癒着させると自らの手足のようにユニコーンを駆り、立派な螺旋の一本角をアリエラ目掛けて突撃させる。


「フフッ──……(ガシッ)フンッッッ!(ズンッ!)

へっ──?(ふわっ……)


 ルネローザは突然の浮遊感に間の抜けた声を出してしまった。

 

 角を避けるか掴んで止めるくらいの事はするだろうとは思っていたが、アリエラは角を掴んだ上で地揺れが起きるほど力強く踏み込みながら力を流すと、棒切れかのように掴んだ角を振り下ろしルネローザごとユニコーンを砂場に叩きつける。


「──やッッッ!(ビュンッ)

「あッ──ごヴュっ……(ゴチャッ!)


 一本背負いならぬ、“一本()背負い“である。


 頭を粉砕されたユニコーンは悲鳴を上げる間もなく倒れ、ルネローザも首や全身の骨を歪に折られ大量の血反吐を吐き散らかした。


──(パキッ)アナタ……ワタクシが魔王軍四天王筆頭であると分かった上で挑んで来ているのよね? 実力差が分かるほどの戦闘経験は無いのかしら?

 無理そうならその血溜まりから逃げるなり『導師ゲダ』に助けを求めるなりしたらどう?」


 アリエラは折れた角を指で弄びながら、ユニコーンの身体に押し潰され赤黒い血溜まりから這い出すルネローザを見下ろす。


「〈早贄の刺剣(インペールレイピア)〉──……!(ギュルルッ) 無礼(ナメ)すぎでしてよッ!(ビュンッ)

 立ち上がったルネローザは袖口から樹木を生やすと、収束させて刺突剣(レイピア)を創り出し、アリエラに向けて連続突きを繰り出した。


 ──が、弄んでいたユニコーンの角を上へ放り投げたアリエラは涼しい顔で刺突を躱す。


「フン……まあ貴族の手習いにしては中々やる方ではあるのかしらね?」

……ッ!!(ヒュンッ) ()()()!!」


 一応褒めはするものの、明らかに嘲る意図の感じられるアリエラの態度に沸騰したルネローザは、躱されて虚空を付いた刺突剣に魔力を込めた声で短く命じる。


 すると刺突剣の切先はアリエラの首筋に向かって鋭角軌道を描いて急成長した。


 しかし──


……(パキッ)まあ、そう来るでしょうね」


──刺突剣の切先はアリエラの素肌の強度に負け、呆気無くへし折れてしまう。


「なッ──(ぐいっ)かハッ……(ドシャアッ!)!」

 驚く間も無くドレスの袖口と襟首を掴まれたルネローザは綺麗な背負い投げを決められ、再び強かに砂場へ叩きつけられた。


「剣術はジーク……魔術は王妹殿下と比べると雲泥の差ね……アナタ本当に真祖なの?」

「ギギギ……一体どんなお手入れ(スキンケア)してますの……!?」


  

 アリエラと客席に座るレイメイは真祖の吸血鬼(ヴァンパイア)である事を疑ってしまう程の実力差が有るにも関わらず、冗談を飛ばすルネローザに不気味な違和感を覚える。


「妙ですね……真祖にしては弱すぎる……」

「たしかに……再生能力以外は元のルネローザと大差無いように思えるが……」

「アーちゃんと相性悪いだけじゃ──あ! てかヤバいよ! ユニコーン起きてる!!」



ブル゛ル゛ル゛ル゛(メキメキメギッ)……!」

 一行が話している間にユニコーンの『コロネちゃん』は肉体と角を再生させ、アリエラを背後から貫こうとしていた。


 しかし──


……(パシッ)──〈戦ぎ穿ち(グングニル)〉ッ」


──アリエラは上に放り投げていた角を無造作に掴むと、ろくに振り返りもせずに魔術を発動し、貫通性能を極限まで引き上げた角を元の持ち主であるユニコーンの胸へ投げつける。


ギひュッ(ドスッ)──……(ボシュッ)

 アリエラの赫い魔力に心臓を灼き貫かれたユニコーンは青白い炎に包まれ灰の山と化した。


「コロネちゃんッ!! ()りやがりましたわねッ!?」

「戦いの場に連れて来るなら殺される覚悟くらいはしておきなさい。本当に呆れるわ……」


 心底うんざりした表情を見せたアリエラの言葉を聞いたルネローザは邪悪な笑みを浮かべる。


「オホホッ……『薔薇の真祖』としてのアテクシでは勝てない相手であるという事は理解(わか)りましたわ。

 けれど『竜の血族』としての力を見る前に勝負が決したような態度(ツラ)するのは少ゥし早計(せっかち)なんじゃありませんこと?(ゴゴゴゴゴゴ……)


ギャヒィ〜!?(ゴゴゴゴゴ……) 何ナニなに!?」

 不穏な発言と共に地下をナニかが這い回るような地響きが轟きピチカは慌てふためくが、他の客席のエルフヴァンパイアたちはルネローザと同じく邪悪な笑みを浮かべていた。


オホホホホッ!(ドスッ) 完全体のアテクシには通用するかしら!?」


 高らかに笑うルネローザは地響きの原因であろう地中から生えてきた巨大なイバラに胴体を貫かれると、見る見る内にそのイバラと融合し、眼がドス黒く染まり口は八方に裂けて薔薇のような捕食器へと変化する。


キャハ(ドスッ)はハはハ!」「あヒャひゃヒャ!」

「クけケけケ!!」「ふぃヒひヒヒヒひィ!」


 客席に座っていた取り巻きのヴァンパイアエルフたちも次々とイバラに貫かれては融合し、下品な笑い声を上げながらルネローザと同様の変化を遂げた。


「ギャヒィー!?」

「チィッ……! 形振り構わなくなった……かッ!(パァンッ!)


 周囲のヴァンパイアエルフたちも参戦して来る気配を見せた瞬間、フュリスは腰の短銃(ピストル)を素早く抜き、まだ原形を留めているルネローザの胸を撃ち抜く。


 しかし──


カッ……(ジュッ……)ちょっと早とちりが過ぎるんじゃありませんの? へなちょこフュリス。」

「なッ!? 効いてない……だと……ッ!?」


銀のドングリ弾で胸を貫かれたにも関わらず、ルネローザは“大した事無い”とでも言いたげに肩をすくめた。


「(命中した部分はしっかり灼けている……)

 なるほど……おそらく百頭樹竜(ラドン)ね? アナタの『竜の血族』としての力とやらは」



 ── 百頭樹竜(ラドン)──

 亜竜の一種。

 堅い樹皮のような鱗が生えた蛇のような亜竜であり、成長に伴って枝分かれする首は成体ともなれば百にも達するとされる。

 果樹に寄生して栄養を吸う代わりに、その果樹と世話人を守る習性を持つ。

 毒こそ持たないが口から火を吹き、九頭蛇竜(ヒュドラ)と同様、真竜(ドラゴン)を凌駕する事も珍しく無い強大な亜竜である。

──────────────────


「ご明察ゥ〜! 心臓(ほんたい)は地下深くに埋まってますわ!

 アナタが必死こいて戦り合っていたのは切り離されたアテクシの頭一つに過ぎないってワケですわァ〜!!」

「ワタクシが圧倒してたでしょ……」


「当然客席の連中も変身させたアテクシの頭ですからしてェ〜? 一対一(タイマン)の約定は破ってないのにィ〜? 今へなちょこフュリスが手ェ出しましたわよねェ!? 卑怯なんじゃありませんこと!?」

「なんだとォッ!? 先に“人馬一体”だとか詭弁を弄したのはキサマだろうがーッ!」


 口論している間にもルネローザの身体は裂けて薔薇のような捕食器へと変貌していくが、フュリスは自分がルールを破った扱いされた事への抗議で頭が一杯になっているためか臆する様子は無い。


あ゛ーもうッ!(ビキビキッ)どうでもいいですわ! 人質も含めて全員まとめて喰い散らかしてやるっつッてんですわよォ!!(バキバキッ)


 ついに貴種森妖精(ハイエルフ)としての原形を留めなくなり巨大な薔薇の花のような姿の竜と化したルネローザとヴァンパイアエルフたちは一匹の百頭樹竜(ラドン)として地表へ顕現した。


 その時──


「──〈屠絲魘縛(としえんばく)刎頚(ふんけい)』〉ッ!」


 突如として技名を叫んだレイメイが両手を思い切り振り下ろすと、客席のヴァンパイアエルフから展開された捕食器がドチャリと汁気を含んだ音を立てて地面に落ちた。

 輝鋼銀(ミスリル)の糸によるイバラの切断面は灼け焦げて煙を吹き、再生できずに脈動して踠いている。


「は ァ ッ ! ? な、何しやがったんですの!?」

 突然頭を99本失ったルネローザは動揺して首を動かし生き残った首がないか探すが、客席から生えた首は綺麗サッパリ切り落とされていた。


「ヘヒヒッ……小競り合いに夢中になっている隙に糸を張り巡らせて貰いましたよ」

「フフッ……“小競り合い”ってほど拮抗してなかったと思うのだけれど」


 実戦慣れしていない事を嘲笑うレイメイとアリエラの態度にルネローザは亜竜と化した身体を震わせる。


「……ッ!! ギギギギィッ……!!

 が ()ァ ()あ ()()ア ()ァ ()あ ()あ ()ア ()ァ ()あ ()


 震えが最高潮に達したルネローザは上を向き、口から噴き出した火で闘技場を覆う植物のドームを直接灼き始めた。


「おッ……おい! 狂ったかルネローザ!!」

 ドーム内だけならまだしも、ドームが直接燃やされるとなれば介入してくるであろう存在を危惧したフュリスは慌てて止めようとするが──……


(バキッ)

  (メキ)

    (メギ)

      ォ オ オ オ オ(バキバキバキバキッ!) ッ ! !」


時既に遅く、小火(ボヤ)では済まされない火力を感知した『古竜王スニクスアルフ』がドームを喰い破り怒号を上げた。


百頭樹竜(ラドン)

亜竜の一種。

堅い樹皮のような鱗が生えた蛇のような亜竜であり、成長に伴って枝分かれする首は成体ともなれば百にも達するとされる。

果樹に寄生して栄養を吸う代わりに、その果樹と世話人を守る習性を持つ。

毒こそ持たないが口から火を吹き、九頭蛇竜(ヒュドラ)と同様、真竜(ドラゴン)を凌駕する事も珍しく無い強大な亜竜である。

とくに金色に近い色の果実を好むため、世界樹の中層に生えているエルの樹の枝に大群が棲んでいる。

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