第九十四話 デスマッチ開幕
登場人物紹介
◇アリエラ
主人公。魔王軍四天王最強の怪力と頭脳を持つ紅一点。
『殲滅女帝』の二つ名を持つ。
褐色肌にボブカットの黒髪、猫のような紅い瞳、獅子の耳と尻尾が特徴の獣人。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者としての二つ名は『爆心地のアリエラ』
18歳で成人した。
◇ピチカ
蒼い髪と瞳にギザ歯が特徴のアクセサリー付けすぎなギャルっぽい女面鷲ハーピィ。
異世界転生者。チートスキル【楽々御粧し】の使い手。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』の一応リーダー。
一級冒険者。
地域や国によっては成人扱いされる年齢。
◇レイメイ
魔王直属暗殺部隊『五毒姫』の末妹。
白い長髪と肌に鬼灯のように赤い瞳と愛嬌紅が特徴。
魔王特製の最上級キョンシー(札は丹田に貼っている)。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者としての二つ名は『毒蛇姫レイメイ』
見た目は殆どの地域で未成年扱いされるくらい。
◇フュリス
エルタナ聖王国の女騎士。『百合爵家のフュリス』
小柄な金髪碧眼のエルフで緑基調の騎士装束を着ており、ドングリを発射するウーツ鋼製の銃を使う。
仕事の邪魔をした埋め合わせにアリエラたちが手柄を立てさせてやる事になった。
成人済み。
◇ルネローザ
『薔薇爵家』の貴種森妖精ハイエルフの令嬢。
翠の髪と瞳に真っ赤なドレスと薔薇の髪飾りで着飾っている。
その正体は吸血鬼『薔薇の真祖』にして『ゲダの指』幹部『指輪付きエンゲージド』であり『竜血のエルトート』の眷属でもある。
残虐な性格でお嬢様言葉に汚い言葉遣いが混ざる。
あと数十年で成人する年齢だった。
◇
「おい。火。──…………ッスゥ〜……フゥ……そちらもどうぞ? 五月蝿ェのは帰ってくださったようですわよ?」
『薔薇爵家』領内に到着後、シルヴィオ他『百合爵家』の騎士たちが帰ったと見るや馬車を降りたルネローザはガラスパイプに灰色の粉末を詰め、メイド眷属に着火器で炙らせ煙を吹かせる。
「あらそう? では改めて──……アナタ何を吸っているの?」
便乗して再び煙管を自分で召喚したかのように装って喫煙しようとしたアリエラだったが、“ガラスパイプで粉末を炙る”という行為の上、甘ったるい不快な煙を吸っては吐き出すルネローザに怪訝な目を向けた。
「ピチカさん。あまり吸わないようにしてください」
「うわ……魔薬じゃん! もうカンベンしてよ〜……アーちゃん!」
「ん──ええ……」
嫌な煙の正体を察した三人はアリエラが【楽々御粧し】を発動した風を装ってガスマスクを装着した。
「オホホホッ! 大袈裟ですわァ〜!
禁竜丹の副流煙に毒素なんてありませんことよ?」
悪びれもせずにルネローザが煙を吹かし続けると、それを見つけたフュリスが慌てて駆け寄って来る。
「おいッ!! な、なな何をやってるんだルネローザ!!」
不慮の火気ではなく明らかに世界樹の下では禁制品のライターを使って喫煙しているルネローザにフュリスは食ってかかるが、メイド眷属二人に阻まれた。
「馬車に乗ってる道中、この御三方の観光案内してやってたんですのよ。
──せっかくならアレも見せてあげなきゃ……と思ったから呼び寄せて差し上げたんですわァ!」
「リ、リスちゃん! ナニが──……」
明らかに悪意のある言動を取るルネローザに不安を覚えたピチカが何が来るか察している様子のフュリスに尋ねようと矢先、世界樹の枝葉に覆われた上空が騒めき、僅かに透過していた陽光を遮る巨大な影が迫って来る。
「ヴ ル゛ ル゛ ル゛…………!」
低い唸り声を出しながら枝葉を掻き分けて来たソレは、翠玉のような鱗に全身を覆われ、側頭部から大樹の枝のような角が生えた途方も無く巨大な真竜であった。
上空から姿を現したため、辛うじて竜だと認識できたが、もし地上に横たわっている状態であったなら竜ではなく山や岩壁であると認識していた事だろう。
「でッッッ……か……!」
「あれは……! まさか『古竜王』ですか?」
「話には聞いていたけれど……こんなに大きいのね」
この世界で生まれ育った者ならば一度は耳にする有名な竜の出現に呆気にとられる『パリピ☆愚連隊』の三人は恐怖よりも感心が勝ったのか、のんびりと巨大な竜を眺めた。
「そう。『古竜王スニクスアルフ』ですわ。
もっと怖気るかと思いましたのに……」
「おいルネローザッ!! 早く火を消せッ!」
「「お下がりを……」」
睨み付ける竜を見ても呑気に煙を吹かすルネローザにフュリスは食ってかかろうとするが、二人のメイド眷属に阻まれる。
「ハァ〜ッ……五月蝿ェですわね〜……おい口開けろ」
大声を出すフュリスを鬱陶しがったルネローザはメイドの一人の頭を掴み口を開けさせた。
「ハッ……うッ! んグっ……」
ガラスパイプで燻る禁竜丹の粒子を灰皿代わりに放り込まれたメイドは一瞬呻いたが、我慢して嚥下する。
「うわッ……!」
「悪趣味ね……」
「ハーイ! 無事消火できましたわよ〜!」
ルネローザはドン引きする一行に構わず、火が消えた事を上空の竜にアピールした。
「ヴ ル゛ ル゛ ル゛…………」
それを確認した竜は唸りながらも大人しく世界樹の枝葉の中へ戻って行く。
「……見応えあったでしょう?
今のが『古竜戦争』の生き残り──……原初の異世界転生者に与えられた神獣ですわ。
何万年も経った現在も世界樹になってしまった主人に必死こいて寄り添い守っているんですわ。竜ってイイですわよね〜! アテクシもエルトート御姉様とああなりたいモンですわァ〜!!」
話しているうちに興奮したルネローザは両手を広げて日傘を振り回して踊り出した。
「世界樹って異世界転生者だったんだ〜……(他の異世界人みんな死んでるな……)」
「その割に他の異世界人を迫害するのね……」
知りもしなかった世界樹の来歴を語られたピチカとアリエラはそれぞれ違う理由で呆れながら改めて上空の枝葉を見つめる。
「まあ、すぐに異世界人だと分かるような振る舞いをする手合いは基本ロクな事をしないからな……始祖が異世界人だろうが忌避感が強いんだろう。特に外国との関わりが薄い『薔薇爵家』派閥の連中はな……」
竜が退いて落ち着きを取り戻したフュリスは距離を取りながらルネローザを睨み付けた。
「ちょっとやめてくださる? アテクシは別に迫害なんてしていなくってよ? 厄介そうならスキルにしろアイテムにしろ奪ってしまえば良いのだし、むしろ歓迎したいくらい──……あら! 失礼。没入ってきましたワァ〜ッ!!」
素気無く返すルネローザは突如血管を浮き上がらせ鋭い牙を剥き出しにすると、その瞳は禁竜丹の副作用で真紅に染まり、瞳孔は竜のような縦長になっていく。
「その魔薬……東方大陸にバラ撒いているようね。以前過剰摂取者に襲われた事があるわ」
アリエラはかつてシィシアにけしかけられたウシ獣人のタイランの末路を思い出した。
「ええまあ……エルトート御姉様の眷属への入り口として色んな場所でね──……よろしければアナタ方も如何?
素質がありそうなら今までの事は水に流して──」
「──いいからさっさと処刑場とやらに案内なさい」
アリエラは“これ以上話す事は無い”と口調で示し、軽く顎をしゃくって先に進むようルネローザに促す。
「ギィッ……まあッ、さっさとブチ殺したいのはアテクシも同感ですわ。
『コロネ』ちゃ〜ん❤︎ おいでなさ〜い❤︎」
「ブルルルッ……」
一瞬、歯軋りをして怒気を放つルネローザであったが、アリエラの言う事も尤もであると納得すると一角馬を呼び寄せて騎乗した。
「では参りましょうか。道中、街でもご覧になって? アテクシが乗っ取ってから近代化を進めているんですのよ?」
ルネローザの言う通り、目的地の道中の街並みは成長させた樹木をくり抜いて家屋にしたようなものではなく、木材の柱や梁と石材の壁や陶器の屋根瓦で出来た二階建ての家々が並んでいる。
「……」「……」
「…………」「……」
一行の様子を建物の中から窺うかルネローザに跪く街の住人のエルフたちは皆暗い赤色の服を着ており、血色が悪く小声で話す口の端からは鋭い牙がチラついていた。
「エルトート貴様まさか……!」
「住人はもう手遅れですね……」
見える限りの住人は完全に吸血鬼化しており、少なくとも『薔薇爵家』領内はルネローザに掌握されている事が確定的となった。
「さすがに幼児と老人は眷属にしてませんわよ? 役に立ちゃしませんもの……あ、でも今人質として役に立ちましたわねェ! オ〜ホッホッホッ!!」
(いくらアリエラさんがヴァンパイア相手には有利だとはいえ……この状況はマズい──……ん? この気配は……!)
何か打開策はないかと周囲に耳を澄ませたレイメイは僅かな異音を察知した。
◇
「こちらが自慢のアテクシの城ですわァ〜!
広大でしょう!? 処刑場は中庭を改装って追加したんですのよ!
さァ! お入んなさいましな」
しばらく歩き続けると左右対象の白亜の城門が現れ、ルネローザとユニコーンは怪力で難なく巨大な城門を開け放つ。
「先祖代々より受け継ぐ城だろうによくもまあそんな無茶苦茶を……!」
フュリスがまた食ってかかろうとするが、ルネローザは全く相手にする気が無いらしく、ユニコーンを走らせて中庭へ先行してしまった。
城門の先には、広いとはいえ中庭に無理矢理建てたので闘技場組合の物と比べるとささやかな大きさではあるが、それでも個人で持つには充分に立派な組石の円形闘技場が建っている。
「コッソリ作ったから少々粗末ですけどォ……まァ充分ですわよね? ささッ、早く始めましょう!!」
一行が闘技場の中へ入ると、数千人から一万人は収容できるであろう客席にはルネローザと同じく真っ赤なドレスを着たエルフの令嬢たち約百名弱が疎らに着席していた。
「キャーッ!!」「ルネローザ様ーッ!!」
「どんな風に処刑なさるのかしら?」「楽しみね……」
歓声を上げて迎える者・少し離れた席の隣人と話す者など反応は様々だが、客席のエルフ令嬢たちは皆一様に血色が悪く真っ赤な瞳をしており、口の端からは牙が覗いているヴァンパイアである。
「じゃあまずは『爆心地のアリエラ』──……いえ、『殲滅女帝』と呼んだ方が良いのかしら? アナタから血祭りにして差し上げますわァ〜!!
他のオマケ共はテキトーに客席に指咥えて座っててくださいな❤︎ シッシッ!」
ルネローザは戦う相手にアリエラを指名した後、他三名を手で追い払うような仕草をした。
「よろしくてよ」
「何もよろしくないんですが……」
「ね。でもアーちゃんだし一対一ならイケるんじゃない?」
「しかし、まだ眷属にされていない民を人質に取られている以上──」
「へなちょこフュリスったら……人聞きの悪い事を言わないでくださる?
人質の役目は闘技場まで大人しく連れて来させる事よ? 後は武器なんて野蛮な物は使わず、互いの身体能力と魔力で正々堂々処刑闘技ですわッ!」
親指で首を掻き切るジェスチャーを披露したルネローザは闘技場の奥側に向かうとユニコーンから降り、手招きをしてアリエラを挑発する。
「あそこまでされて受けて立たないワケにはいかないでしょう? 皆下がっていて頂戴」
「……魔力はどうするんです? ちょっとした火でも古竜王に察知されますよ? さすがに身体能力だけで勝てる相手ではないでしょう」
まだ勝負内容に納得いかない様子で食い下がるレイメイにルネローザは鬱陶しそうに溜息を吐き──
「ッハァ〜……ごちゃごちゃ五月蝿ェですわね。ならこれで如何かしら?」
──軽く足踏みをして魔力を地面に流すと、闘技場の周囲をドーム状に急成長した植物が覆い、闘技場は外界と隔離された。
「(王妹殿下の〈妖樹界〉に近い結界魔術か……)
まあこれなら多少爆発しても問題無いですかね」
「んじゃ……アーちゃんがんばって!」
「アリエラ! 手加減するなよ!!」
一応納得した三人はヴァンパイアエルフたちと離れて客席に座り、中央砂場では剣闘士衣装のアリエラとルネローザが向かい合う。
「では早速──……」
「──! これはッ……!」
開口と共にルネローザは身体から無数のイバラを展開してリングロープのように囲んだ。
「アテクシのイバラは鋼鉄にも勝る超強度ッ!
そのイバラに囲まれたこの場はまさに有刺鉄線デスマッチですわァ〜!! イバラはアテクシの身体の一部なので卑怯でもなんでもありませんことよ! オォ〜ホッホッホッホッホッホッ──……なんですの? その表情は……」
一方的に有利な状況を作り高笑いするルネローザに対し、アリエラは拍子抜けしたような表情を浮かべ、鼻で笑う。
「フッ……いえね、意外とヌルいなと思って……ねッ!!」
「あガ ガ ガ ガッ!?」
アリエラは乱暴にイバラを掴むと赫い電流を思い切り流し込み、イバラと直結しているルネローザは感電によって激しく痙攣した。
「では“有刺鉄線・高圧電流・爆破デスマッチ”を始めましょうか……」
「…………〜ッ!!」
◇『古竜戦争』
数万年前、女神たちが初めて召喚・転生させた九名の異世界人たちと彼あるいは彼女らに与えた神獣『古竜王』によって勃発した覇権争いの通称。
最終的にほぼ全員が相討ちで死に絶えたが、『古竜王』の死骸によって育まれた生命が現代まで連綿と受け継がれている。




