第九十三話 未来予想図地獄絵図
登場人物紹介
◇アリエラ
主人公。魔王軍四天王最強の怪力と頭脳を持つ紅一点。
『殲滅女帝』の二つ名を持つ。
褐色肌にボブカットの黒髪、猫のような紅い瞳、獅子の耳と尻尾が特徴の獣人。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者としての二つ名は『爆心地のアリエラ』
好きな馬は八脚馬。
◇ピチカ
蒼い髪と瞳にギザ歯が特徴のアクセサリー付けすぎなギャルっぽい女面鷲。
異世界転生者。チートスキル【楽々御粧し】の使い手。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』の一応リーダー。
一級冒険者。
好きな馬は天馬。
◇レイメイ
魔王直属暗殺部隊『五毒姫』の末妹。
白い長髪と肌に鬼灯のように赤い瞳と愛嬌紅が特徴。
魔王特製の最上級キョンシー(札は丹田に貼っている)。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者としての二つ名は『毒蛇姫レイメイ』
好きな馬は白馬。
◇フュリス
エルタナ聖王国の女騎士。『百合爵家のフュリス』
小柄な金髪碧眼のエルフで緑基調の騎士装束を着ており、ドングリを発射するウーツ鋼製の銃を使う。
仕事の邪魔をした埋め合わせにアリエラたちが手柄を立てさせてやる事になった。
好きな馬は軍馬(乗った事は無い)。
◇ルネローザ
『薔薇爵家』の貴種森妖精の令嬢。
翠の髪と瞳に真っ赤なドレスと薔薇の髪飾りで着飾っている。
その正体は吸血鬼『薔薇の真祖』にして『ゲダの指』幹部『指輪付き』であり『竜血のエルトート』の眷属でもある。
残虐な性格でお嬢様言葉に汚い言葉遣いが混ざる。
愛馬は一角馬。
◇シルヴィオ
『百合爵家』現当主でフュリスの父親。
翠の瞳と総髪で壮年の貴種森妖精。
ほぼ常に無表情。
好きな馬は競走馬。
◇
エルタナ民衆を人質に取られた一行はルネローザに従い、『薔薇爵家』の領地へ向かう馬車へと同乗していた。
チーム『パリピ☆愚連隊』の三人はルネローザと同じ馬車に、フュリスは先に自領へ帰らせるために父シルヴィオと同じ馬車に乗っている。
「……改めて名乗りましょうか?
アテクシは『薔薇の真祖』にして偉大なる『竜の血族』の眷属ッ! エルトート御姉様の!!
あとついでに『ゲダの指』幹部『指輪付き』──……
『凌爛のルネローザ』ですわァ〜❤︎」
ルネローザは前後に向かい合う形で三人ずつ座れる座席に眷属のメイド二人を侍らせ、左手薬指に黄金の指輪をはめながら高らかに名乗り上げる。
「ああそう……アリエラよ。どうせ『導師ゲダ』や姉上擬き伝いにワタクシたちの所属は把握しているのでしょう?」
「レイメイです」
「ピチカでーす……」
アリエラとレイメイは素っ気無い自己紹介を返し、ピチカもあまり言葉を交わしたくないので最低限名乗るだけに留めて口を閉じた。
「んもォ〜……つれないですわね〜……到着するまで黙りこくって睨めっこなんて退屈でしょ? お喋りしましょ?
たしかエルタナに入ってからこっち、へなちょこフュリスに付きっきりで観光できなかったんでしょう? 冥土の土産にアテクシが観光案内して差し上げましてよ」
反応が薄い三人に焦れたルネローザは両脇のメイドに馬車のカーテンを開けさせ、周囲の風景を見させる。
エルタナの騎士や貴族の使用する魔術によって森の樹々は意思があるかのように馬車や騎馬を避け、一行は繁った森の中をほぼ一直線に駆けていた。
「わぁ……トンネルみたいになってる……」
「〈大森林の抜け道〉ですね……魔術師ギルドでは結構な高等魔術扱いですが、さすがは森妖精といったところですか」
アリエラの両脇に座るピチカとレイメイは次々と馬車を避ける樹々を物珍しそうに眺める。
「そうですわね! エルフにかかれば児戯同然ですわ!
森の緑は味方ですもの。……とは言え、ずぅ〜ッと緑で飽き飽きですのよねェ……血でもブチ撒ければ見栄えが良くなるかしら?」
突然物騒な事を言うルネローザに二人は顔を顰めて窓から顔を離した。
「ゲ……」
「台無しですよもう……」
「アナタ方は来たばっかりで物珍しいのでしょうけれどもアテクシはただの森なんか二百年近く見てるんですもの。
あ、次の通過地点は見応えありましてよ? 窓の外をご覧になって?」
馬車が魔術で森の中に無理矢理作られた道を抜けると、背の高い樹は概ね伐採された開墾地が広がっており、畑には等間隔で大きな葉っぱと紫色の花が咲いている。
その花をと縄で繋がれた長い暗緑色の体毛の大型犬──犬妖精が勢いよく駆け出すと、耕された土から人型の太い根が引き抜かれた。
「狂鳴根畑でしてよォ〜! 他の大陸ではこれ程の規模で栽培できないから珍しいでしょう?
抜いた時の悲鳴を普通の生物が聞くと発狂したり死んでしまうそうですけれど、妖精なら少し気分が悪くなる程度で済みますから……ま、平和なものですわ」
自慢気に始まったルネローザの観光案内だったが、牧歌的な農作業の様子を見て段々とつまらなさそうな声色に変わっていく。
「良いじゃないですか。領民が無事なら……」
レイメイはエルタナ国民が安全に農作業をできている現状に不満がある様子見せるルネローザを咎めるように睨んだ。
「死なれたら能率が下がりますし? アテクシも領民に死なれたら困りますけれど、たまには人間に収穫させて何人狂い死ぬか賭けるのなんて面白いと思いませんこと?」
「もォ〜……そんなんばっか……」
「『百合爵家』にも見せているという事は合法的な畑なんでしょう? そんな虐殺めいた賭博行為をエルタナが見逃すワケ無いのではなくて?」
「何が合法かは君主が──エルタナで言えば聖王が決めるものでしてよ? 現聖王をブチ殺すなり眷属にするなりすれば簡単ですわ」
「な……」
「ワタクシたちの想像より派手に何かやらかすつもりのようね……」
平然と口に出された現聖王への反逆に身を固くする一行に構わずルネローザは観光案内を続ける。
「さァ〜て上をご覧になって? この辺の上空は『エルの樹』の枝が輝いていますのよ! 正に“金の成る木”! 贅沢ですわァ〜!」
まともな観光案内に従ってピチカとレイメイが窓の外を見上げると、枝葉の深緑の中に金・銀・銅の金属質な光が星のように煌めいていた。
「おぉ〜☆ あのお金ってマジで木になってるんだ……!」
「造幣費用がかからないのは良いですね……ほら、アリエラさんが使い込んだエル貨幣ですよ」
「余計な事言わないの」
「あらあら意外とお楽しみでしたのねェ。
でも銀の枝葉は吸血鬼的にはちょっとね……銀の部分は剪定して代わりに人間を逆さ吊りにしてまとめて斬首して血のシャワーでも降らせましょうか」
「ハァ……全く──……」
再三の苦言を聞く入れないルネローザに呆れたアリエラは体重を少しピチカの方へ傾けると煙草を吸うような動作で二本指を立て、即座に且つバレないように反応したピチカが【楽々御粧し】を発動させてアリエラの指に煙管を装備させる。
「──! それが報告にあった早着替えの魔術ですわね?」
真祖としての優れた動体視力を以ってしても捉えられない速度の装備換装を目の当たりにしたルネローザは僅かに警戒しながらも、興味深そうにアリエラの煙管を見遣った。
「ええまあ……退屈だから一服よろしいかしら?」
「ちょッ……アーちゃん……!」
「エルタナ領内で吸っていいワケ無いでしょ……しまってください」
「……忘れていたわ」
エルタナ領内での“火気の使用制限”の法をすっかり忘れていたアリエラは、レイメイに注意されなければうっかり火を付けるところだった煙管をピチカの視界に入るように下げて【楽々御粧し】でしまわせる。
「──…………オホホッ、へなちょこフュリスがシルヴィオ卿を追い払ったら好きなだけ吸ってくださって構いませんことよ?
最後の一服ですものねェ……ちゃんと追い払ってくれていると良いのですけれど」
アリエラの態度に一瞬血管を浮き上がらせたルネローザは直ぐに冷静さを取り戻し、真っ赤な薔薇飾りの付いた派手な扇子で怒りに歪む口元を隠した。
◇
「…………」
(まさか直接迎えに来て下さるとは……父上の考えはよく分からんな……いやそれより、早く帰って頂かねば……!)
アリエラたちがルネローザとヒリついた会話をする一方、フュリスとその父シルヴィオは同乗した馬車の中で二人きり沈黙していた。
口数が少ない上、表情が鉄仮面のように動かないが余所見をするでもなく自身を見つめてくる父シルヴィオをどうにか先に帰らせなければならないフュリスが一体どう説得すれば良いものかと思案している内に馬車は『薔薇爵家』領内に差し掛かっていた。
そんな中、シルヴィオは物憂げな表情──と本人は思っているが側から見ると全くの無表情である──で軽く頬杖をついて愛娘の事を考える。
(他の子たちは私に似たが、この子は母親似だからと私は知らず知らずのうちに過保護になっていたようだな……騎士になると言うから安全な閑職に回しておいたら特級冒険者に攫われたと聞いた時は肝を冷やしたが……まさかその特級冒険者を連れて国外や密林へ銃で魔物狩りに出るとは……この子──……いやフュリスはもう200歳を超えた大人で騎士だ。
体躯や魔力にはあまり恵まれなかったが、過度な心配はフュリスの覚悟や矜持を踏みにじるに等しいな……帰ってから改めてフュリスの実力を測って相応しい部隊に編入させるとするか……?
『星華隊』なんぞに引き抜かれる心配はしなくても良いだろうが……曲がりなりにも特級冒険者と挙げた功績があれば危険な任務に従事する精鋭部隊や王宮の警邏隊に推す声が上がってしまうかもしれないな──……)
シルヴィオが根回しに思いを巡らせていると、意を決したフュリスが声をかける。
「──父上。お話よろしいでしょうか?」
「……何だ?」
「迎えに来て下さったのは嬉しいのですが、もう少しエルタナ国内でも『パリピ☆愚連隊』の監督役としての仕事があるので……その父上や護衛の騎士の方々には先に帰って頂きたいのですが……」
最初は毅然とした態度で喋り始めたフュリスだったが、相槌も打たず無表情で見つめ続けてくるシルヴィオに気圧され徐々に語気が弱っていった。
「それなら別に我々も同行すれば良いだろう」
迎えに来たら“先に帰ってほしい”と言われたシルヴィオは内心傷付いたが、表情や声にはまるでその影響が出ないため、冷徹に論破しようとしているようにしか見えずフュリスは更に気圧される。
「……ッ。その……アイツらは私の個人的な……ゆぅ……友人だとも思っているので、最後にエルタナの名所でも案内してやろうかと思っていまして……」
とにかくシルヴィオを帰らせなければという一心でフュリスは普段なら絶対言わないであろう事を照れ臭そうに目を逸らしながら言った。
「“友人”……か」
才に乏しい故に周囲から浮いていた娘の“友人”という言葉にシルヴィオは目頭を熱くしたが、やはり表情には一切出ないため、短い返答でせせら笑っているようにも見える。
「ち、父上──」
「──わかった。しっかり監督役をやり遂げてから帰って来なさい」
依然としてシルヴィオの表情は変わらないが、この返答にはいつもより若干暖かみがあるとフュリスは感じた。
──────────
「貴公ら。先に帰っておいてくれ。私は戻る」
フュリスたちと『薔薇爵家』領で別れたシルヴィオは姿が見えなくなる程度距離を置くと馬車を止めさせ、護衛の騎士たちに帰宅命令を出した。
「し、しかしシルヴィオ卿……こう言ってはなんですが……御一人では危険なのでは?」
対立派閥の『薔薇爵家』領内に護衛無しで戻る事に騎士たちは不安そうな表情を見せる。
「直接手を出すほどの阿呆──……もとい、勇敢な者は居ないだろう。それに……私に森の中で敵う者が居るとでも?」
「い、いえッ! 失礼致しましたッ! 総員撤収!」
シルヴィオとしては少し冗談を言ったつもりであったが、騎士たちは詰問されているように感じたのか慌てて帰って行った。
「……さて、行くか」
「「「「「…………」」」」」
そうして娘が友人とどう接するのか隠れてシルヴィオが見物に向かった後、“人ならざるナニか”たちが『薔薇爵家』領を取り囲み始めた。
◇ 犬妖精
長い暗緑色の体毛が特徴的な大型犬の妖精。
寿命は犬の約十倍ほど。
特に大きな個体は牛ほどの体格に成長する事もある。
猫妖精と対のような名前だが、文明を築くほどの知能は無い。
妖精には懐くが、人間や亜人には懐かない。
◇ 狂鳴根
人間のような形の根が特徴の植物。
通常は大きな葉と紫色の花のみを地表に晒しており、根の部分が引き抜かれると金切り声を上げる。
この声を聞くと発狂し最悪の場合死に至る。
媚薬・不妊治療・鎮痛剤などに珍重される他、魔薬の原料にもなる。
◇エルの樹
“ウーツの樹”の亜種で枝葉や果実が金・銀・銅のようになる特殊な植物。
南西大陸の通貨である『エル』が成るためエルの樹と呼ばれる。
エルタナの元首である聖王の管理下に置かれており、無断で収穫・伐採する事は当然重罪である。




