第九十二話 翠の空
登場人物紹介
◇アリエラ
主人公。魔王軍四天王最強の怪力と頭脳を持つ紅一点。
『殲滅女帝』の二つ名を持つ。
褐色肌にボブカットの黒髪、猫のような紅い瞳、獅子の耳と尻尾が特徴の獣人。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者としての二つ名は『爆心地のアリエラ』
好きなスープはモロヘイヤスープ。
◇ピチカ
蒼い髪と瞳にギザ歯が特徴のアクセサリー付けすぎなギャルっぽいハーピィ。
異世界転生者。チートスキル【楽々御粧し】の使い手。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』の一応リーダー。
一級冒険者。
好きなスープはフカヒレスープ。
◇レイメイ
魔王直属暗殺部隊『五毒姫』の末妹。
白い長髪と肌に鬼灯のように赤い瞳と愛嬌紅が特徴。
魔王特製の最上級キョンシー(札は丹田に貼っている)。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者としての二つ名は『毒蛇姫レイメイ』
好きなスープは激辛蛇白湯。
◇フュリス
エルタナ聖王国の女騎士。『百合爵家のフュリス』
小柄な金髪碧眼のエルフで緑基調の騎士装束を着ており、ドングリを発射するウーツ鋼製の銃を使う。
仕事の邪魔をした埋め合わせにアリエラたちが手柄を立てさせてやる事になった。
好きなスープはポタージュ。
◇
「おぉ〜……! ずっと遠くから見えてたケド、これが世界樹か〜! デッカ〜い☆ 空が見えないや」
──世界樹──
南西大陸の中央に聳え立つ世界一巨大な樹である。
かつて『樹の女神エンニル』が憑代にした聖女の成れの果てであり、取り憑かれた聖女の全身から生えた植物が絡まり融合し、多種多様な花果を実らせている。
その起こりや貴種森妖精の産まれる場所であるという事もあり、エルタナ聖王国では聖地として崇められている。
現在は頂点付近に聖女の集団『星華隊』が鎮座しており、その名の通り夜になると星のような輝きを放っているのだ。
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「フフン……そうだろうそうだろう!」
(なんでフュリスさんが自慢気なんだろうか……)
(この頂上に女神の器──……『星華隊』が……)
度重なる『薔薇の血族』の襲撃により『薔薇爵家』への疑いを強めた一行はエヴレス河を下り、エルタナ聖王国南西部……『椿爵家』の領地に近付いていた。
見上げた先には空を覆い隠すほど巨大な枝葉が広がっており、翠玉のような青葉は僅かに陽光を透過し、翠色の光のカーテンが領内と領外を分けている。
「お前らは『椿爵家』についてカメリア卿から何か聞いているか?」
「罪人の追討や処刑を担う代わりにエルタナの冶金を仕切っているとは聞いているけれど」
「カメリーその辺あんまり話したくなさそうだったね〜」
「そうだな。だが、今重要なのは『椿爵家』は中立で……『薔薇爵家』派閥に属していないという点だな。再入国から即『薔薇爵家』派閥の領地に入らずに済む……」
「間接的に探れるのは大きいですね……」
フュリスは遠方から眺める世界樹と、その木漏れ日の中に文字通り林立する樹木で出来たエルタナ国民の家々を見る。
「疑いが濃厚になったから来てみたものの……仮に『薔薇爵家』の関係者が真祖だったとして、どうするんだ? まさか世界樹の下で戦うのか? アリエラが?」
「問題はそこよね……ワタクシが全力で戦えば大火事は必至だもの。吸血鬼の真祖を相手に周囲を気にしながらとなるとね……『霧の真祖』にまんまとやられたばかりだと言うのに」
「そこはまあ相手の能力次第ですが協力して──……ん? ……何か待ち構えてませんか?」
戦闘になった際の事をざっくり打ち合わせながら世界樹の枝葉の下に向かっていると、枯れ葉のような色合いの服を着ている民衆とは異なり鮮やかな翠基調の騎士服や貴族服を着た集団が整列してアリエラたちを待ち構えていた。
「……ちゃんとアナタと和解したと伝わっているのよね?」
「中立の『椿爵家』の騎士に伝えたから派閥への忖度は無い……ハズだが……まあ行ってみよう」
一応それぞれの勝負服に着替え不安を抱えながらも一行は進むが、危惧していたような剣呑な雰囲気は騎士たちには無く……かと言って穏やかでも無い厳粛な空気が漂っている。
フュリスが代表して声をかけようとした時、整列していた騎士団が綺麗に二つに分かれ、後方に控えていた一際身なりの良い壮年のハイエルフの貴族が歩み寄って来た。
「……やっと来たか。心配したぞフュリス。……貴公らにまで態々足労をかけてすまないな。では帰ろうか」
「ち、父上ッ!? 何故こんな遠方に!」
“心配した”と言う割には無表情で平坦な声色でフュリス・周囲の騎士たち・『パリピ☆愚連隊』を順に見遣りながら腰に佩く杖剣の柄頭を撫でつつ、翠の総髪を手櫛で軽く整えるのはフュリスの実父──……
『百合爵家の十二輪目・シルヴィオ』その人である。
「はぇ〜……リスちゃんのパパかぁ〜」
「ちょっ……ピチカさん!」
ピチカは思わずシルヴィオの顔をまじまじと見ながら独り言を呟き、レイメイが慌てて止めようとしたがシルヴィオ本人にしっかりと聞かれてしまっていた。
「“リスちゃん”……? フュリスの渾名かね? 和解したとは聞いていたが、随分打ち解けたようだな」
「あ、侮るような意図は無いのでお気になさらず! なァ!? 親しみを込めての事だよな!?」
「そ、そうそう! です!」
フュリスが慌てて侮辱では無いと釈明しつつ、ピチカとの間に割って入るとシルヴィオはほんの少しだけ眉を顰めて不服そうな顔をする。
「……別に何も怒っていないが? 仮に怒っていたとして、元とはいえ聖女を叱る程の胆力は無い」
「え゛ッ……」
「え? ピチカお前聖女だったのか……?」
初対面で既に素性が知られている事に動揺したピチカは思わず後退り、その反応を見た周囲の騎士たちもザワつき始めた。
「『隙間風のガブリエラ』殿だろう? ……秘密だったか?」
「んぁ……あ〜……あんま言わないでもらえると……助かるっていうか……」
「そうか……配慮が足りなかったな。では皆、あまり口外しないように。フュリスもな」
「それは勿論ですが──……ん?」
返事をするフュリスの声を遮るようにわざとらしく大きく響かせた馬の足音が奥から聞こえ、一同がそちらへ注目すると、世界的に良くも悪くも有名な幻獣を駆るエルフが現れた。
額には螺旋の一本角・二つに分かれた蹄・豊かな白い被毛が特徴的な馬に酷似した幻獣──……一角馬である。
その角は強力な浄化の力を持ち、汚染された河川や病毒に冒された血を清める益獣として有名である一方、非常に獰猛である事でも有名で清らかな乙女にしか懐かないという。
「聖女候補として興味深いお話ですわねェ〜……アテクシも混ぜて下さりませんこと?」
……そんなユニコーンに乗って現れたのは本人の談の通り、『樹の女神エンニル』の聖女として高い適性を持つ証である翠の髪と瞳のエルフの令嬢であった。
──が、他のエルフと大きく異なる特徴として鮮血のような真紅と差し色の黄金の刺繍が入ったドレスを纏い、大量の赤い薔薇が髪を飾っている。
その上、僅かな陽光から身を守るためか深黒の日傘を差していた。
「ん……『ルネローザ』嬢か。二十年振りかな? 息災かね」
「ええ! シルヴィオ卿とへな──ん゛んッ! フュリス卿もお元気そうで」
「「「「…………!」」」」
言いかけて即座に咳払いをしたが、一行は確かにフュリスの事を“へなちょこ”呼ばわりしかけた『ルネローザ』なるエルフの令嬢に対し、いつでも攻撃や退避できるように静かに身構える。
「しばらく見ない間に服の趣味が随分変わったようだ……それとも最近はそういう服が流行りなのかね?」
シルヴィオは自分から世間話を振る割には興味無さげな表情でルネローザの服を見遣った。
「自慢の髪と瞳を際立たせるためのファッションでしてよ!
ああ……そちらの御三方に名乗り遅れてましたわね。
アテクシは『薔薇爵家の十五輪目・ルネローザ』と申しますわ。お見知り置きを……」
ルネローザはユニコーンから軽やかに下馬すると、少し歩み寄り膝折礼をする。
「あっ、ピチカでーす……(絶対『薔薇の真祖』じゃん)」
「アリエラですわ(絶対『薔薇の真祖』だわ……)」
「レイメイです……(こんなにあからさまとは……)」
(以前から嫌なヤツではあったが、ヴァンパイアになっていたとはな……!)
チーム『パリピ☆愚連隊』の三人とフュリスは状況や言動からしてルネローザが『薔薇の真祖』であると確信した。
「それでそちらのピチカさんは聖女を務めてらっしゃったとか……アテクシもいずれは聖女となる身ですから、是非お話を聞きたいですわ〜。
他の御二方やフュリス卿も随分ご活躍なさっているとか……武勇伝をお聞かせ願えませんこと?」
呑気な令嬢を装った口調で話すルネローザだが、一行に向ける目は有無を言わせるつもりを感じさせない鋭いものである。
「止したまえルネローザ嬢。ガブ──失礼。ピチカ殿が困っているだろう」
シルヴィオは自らが口を滑らせてピチカが聖女であった事を口外してしまった事もあり、これ以上追求しないように庇うが、ルネローザは退かずに喋り続ける。
「あ〜ら、ごめんあそばせ。……では会話は終わりに致しましょうか?」
「あ、だ、大丈夫です! あーしもおしゃべりしたいかなーッて☆」
敢えて“会話は”と強調する事で戦闘の開始を匂わせるルネローザにピチカが慌てて会話にノった。
「まあ嬉しい! では殿方は一旦解散してて下さいな」
「……何故だね?」
「淑女の秘密のお話ですもの。すぐに終わりますから御心配無く」
「ふむ……では皆、一旦解散。フュリス。あまり時間をかけないように」
シルヴィオはルネローザを言い負かすのが面倒になったのか、提案を受け入れて騎士を引き連れて去って行く。
「……で? ワタクシたちと何の話をしたいのかしら」
周囲から人の気配が失せた事を確認すると、アリエラがルネローザを睨みながら口を開いた。
「もう理解っていると思うけれど、眷属を散々滅してくれたツケを払わせるためにアテクシが直々にブチ殺しに来てやったんですのよォ。
ただ殺すだけじゃあ満足できないからアテクシの領内の処刑場で華々しく散らせて差し上げましてよ?」
正体を隠す必要の無くなったルネローザは顔中に血管を浮き上がらせ、鋭い牙をチラつかせながら威嚇する。
「そんな剥き出しの罠にわざわざハマれと?」
乗るメリットの無い提案をレイメイは当然拒絶してフュリスを後ろに退がらせつつ殺気を放つ。
「断られたらここら一帯の下等生物の血を絞って一気呑みして気分を紛らせるしかないですわァ〜❤︎ アテクシにそんな事させませんわよねェ〜?」
ルネローザは目線を動かして舌舐めずりしてエルタナ国民を人質に取っている事を伝えてくる。
「……! ルネローザ 貴様ァ……! 人質を取るとは……恥を知れ恥を!!」
「へなちょこフュリス……アナタはシルヴィオ卿や騎士団を上手い事言って帰らせておきなさい。もし邪魔立てするようなら連中から殺して差し上げてよ? オ〜ホッホッホッ!」
自らの優位性を再確認したルネローザは高らかにベタな笑い声を上げて勝ち誇るが、それに対してアリエラは不敵な笑みを浮かべた。
「人質云々はともかく……正面から挑んで来る姿勢は気に入ったわ。褒美に『薔薇の真祖』の名に恥じない華麗な最後を遂げさせてあげてよ」
◇ 一角馬
幻獣の一種。哺乳類。
額から生えた螺旋状の一本角・二つに分かれた蹄・豊かな白い被毛が特徴の馬に酷似した生物。
その角は強力な浄化の力を持ち、汚染された河川や病毒に冒された血を清める益獣として有名である一方、非常に獰猛である事でも有名で清らかな乙女にしか懐かないという。
エルタナでは伝統を重んじる『薔薇爵家』傘下の貴族は娘を嫁がせる際には純潔の証明としてユニコーンに乗せて送り出すという風習があるが、外国や『百合爵家』傘下貴族からは概ね気持ち悪がられている。




