第九十一話 『薔薇の真祖』
登場人物紹介
◇アリエラ
主人公。魔王軍四天王最強の怪力と頭脳を持つ紅一点。
『殲滅女帝』の二つ名を持つ。
褐色肌にボブカットの黒髪、猫のような紅い瞳、獅子の耳と尻尾が特徴の獣人。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者としての二つ名は『爆心地のアリエラ』
ケットシーの商人相手には基本ダース単位で買い物する。
◇ピチカ
蒼い髪と瞳にギザ歯が特徴のアクセサリー付けすぎなギャルっぽいハーピィ。
異世界転生者。チートスキル【楽々御粧し】の使い手。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』の一応リーダー。
一級冒険者。
抱き合わせ販売に弱く、いつの間にかダース単位で買い物しがち。
◇レイメイ
魔王直属暗殺部隊『五毒姫』の末妹。
白い長髪と肌に鬼灯のように赤い瞳と愛嬌紅が特徴。
魔王特製の最上級キョンシー(札は丹田に貼っている)。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者としての二つ名は『毒蛇姫レイメイ』
蠱毒の壺をダース単位で管理している。
◇フュリス
エルタナ聖王国の女騎士。『百合爵家のフュリス』
小柄な金髪碧眼のエルフで緑基調の騎士装束を着ており、ドングリを発射するウーツ鋼製の銃を使う。
仕事の邪魔をした埋め合わせにアリエラたちが手柄を立てさせてやる事になった。
ドングリ弾はダース単位で管理している。
◇
「『プリン』ちゃんだけでなく……『ティラミス』ちゃんまで滅されたんですの……!?」
南西大陸某所──……。
仄暗い古城の中でも更に暗い一室で『薔薇の真祖』は戦慄していた。
……ちなみに『プリン』はリッキーとフロレスに討伐された梟熊で、『ティラミス』はアリエラたちに討伐された九頭蛇竜の名前である。
「エルトート御姉様への献上品をよくもォ……! 下等生物共がァ〜……!!」
お気に入りの眷属を滅された事を察知した『薔薇の真祖』は地団駄を踏んだ。
吸血鬼の……それも真祖の怪力によって古城全体が揺れ、床が軋みを上げる。
「お、おやめ下さい……!」「城が……!」
あまりの揺れに側仕えの侍女眷属たちが止めにかかるが──……
「五月蝿ェですわよッ!!」
「あガッ……!」
怒る『薔薇の真祖』の手先から鞭のように伸びたイバラに眷属の頭は弾き飛ばされ、大量の濁った血と肉片がバラ撒かれた。
「チィッ……不潔ですの! さっさと片付けなさいな!! 頭小突いた程度でいちいち死にかけるなッ!」
「は、はいッ……!」「只今ッ……!」
『薔薇の真祖』の怒号に頭を弾き飛ばされた眷属本人も頭を再生させながら慌てて片付けを始める。
「ッハァ〜……憂鬱ですわァ〜……あ! 地下牢の眷属共を向かわせて退治してやりますの!」
「そ、それは……!」「あまりに危険では──……」
「早 く し ろ ッ ! !」
「「はいィッ!!」」
諌めようとした眷属たちだったが、『薔薇の真祖』の怒号に恐れをなして地下牢へ駆け出すのだった。
◇
ヒュドラを討滅してから数週間──……『パリピ☆愚連隊』とフュリスはエヴレス河を下っては遡りを繰り返し、鬱蒼と繁る密林中の特級案件やそれに相当する魔物や魔窟をしらみ潰しにしていた。
「いやぁしかし……随分狩ったな……」
「それな〜」
「自分たちで狩っておいてなんですが、生態系に影響はないんでしょうかね……」
「特級案件になっていたくらいだし今までの方が狂っていたのではなくて? 他の特級連中は何をしているのかしら……」
フュリスは討伐した魔物たちの体内から回収した砕けた魔石が詰まった袋を短艇の真ん中にドカっと投げ置く。
「冒険者も慈善事業じゃないからな……割に合わないんじゃないか?」
「そうね……ワタクシたちは“奉仕活動”の最中だから狩るけれどね」
アリエラはタダ働きさせられている現状を思い出し、櫂を漕ぐ手を少し強める。
「う……それは後で少ないが私が払うと言って──……この音は……!」
“奉仕活動”の件を蒸し返されたフュリスが弁明しようとしたが、大きな不快音に阻まれた。
──識別名『非媒介者』──
元は生半可な防護服ならば貫通する鋭い口吻で獲物の血を吸い、恐ろしい熱病を媒介する蚊であったが、魔物化によって巨大化。
突撃槍のように太くなった口吻での刺突による即死・大幅に上がった吸血能力によるショック死・猛毒と化した唾液による中毒死・刃のようになった翅による斬撃などで熱病を媒介する事無く獲物を殺してしまうようになり、本来とは別の意味で恐ろしい存在と化してしまったのだ。
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「──!」
「──! オッケー!」
アリエラは即座に右手の指をピチカに見えるように広げ、すぐに閉じて鳥の嘴のように閉じる手印をした。
するとピチカは即座に神業【楽々御粧し】を発動してアリエラの頭にオオワシ鳥人の黄金髑髏を装備させる。
まるでアリエラが手印によって早着替えの魔術を行使しているように見えるのでピチカが異世界人である事を誤魔化せる上、声を出せない状況や即座に装備を換装する必要がある状況に備えて事前に練習していた成果が出たのだ(今回はピチカが声を出したが……)。
「〈天空女帝〉ッ!」
「──ギギッ……!」
突撃槍のような口吻を突き刺そうと飛んで来た『非媒介者』は斥力の壁によってアリエラの目前で一瞬停止した後、あさっての方向に弾き飛ばされる。
「うわデカ!」
「──〈白毒雲〉ッ!」
空中で体勢を立て直そうとする『非媒介者』にレイメイは容赦無く毒雲を吹きかけた。
「……ギギギッ……!」
しかし、『非媒介者』は視界を遮られる事以外には反応を示さず、難無く毒雲を突き破り、大きく旋回して再びアリエラたち目掛けて飛んで来る。
「メイメイ印の虫コロリが効いてない!?」
「変な名前付けないでください!」
「まさか────……」
「ギギィッ……!」
フュリスが短銃を構えて銀のドングリ弾を撃つと、『非媒介者』の脚の一本に命中、脚は煙を上げて崩れ落ちた。
「……ヴァンパイア化しているわね」
「心臓はどこだ!?」
「背脈管を狙ってください!」
「は……どこなんだソレは!?」
「もう! ──〈屠絲魘縛『羂網』〉ッ!!」
「──……ギッ…………!?」
『非媒介者』は焦れたレイメイの展開した輝鋼銀の糸によって心臓部である背脈管ごと全身を斬り刻まれ、青白い炎に包まれて灰と化しながら落ちて来る。
「ギャッ! 灰が……! あっち行けーッ!」
「ふぅ……ん? おい! アレを見ろ!」
ピチカが風を起こして降り注ぐ灰を散らしていると、上空に何かを見つけたフュリスが指を差す。
指差した先には未だ燃え残っている『非媒介者』の“先端が薔薇のように開いた口吻”があった。
「また『薔薇の血族』ですか……」
「ヒュドラを滅されて怒っているのかしらね」
「狙い打ちにされているのか……?」
「マジで真祖がいたらどーすんの? スグちゃん殿下が手下に欲しいとか言ってたケド……」
「眷属を差し向けて来る性格からして傘下には加わらないでしょうし……心臓だけ引き摺り出して〈葬送帝〉で保管して魔王城に送るか、ゼブブ卿に吸収して貰うかでしょうね」
「王妹殿下はゼブブ卿の事が苦手ですから出来れば心臓だけ送った方が良いかと……」
「最強格のヴァンパイア相手に弱点を攻撃しないというのは厳しそうだな……」
「まぁ〜……できればくらいの気持ちでいーんじゃない? スグちゃん殿下も絶対欲しいとは言ってなかったし」
「面倒そうなのに目を付けられたようね……」
──────────
「『シフォン』ちゃんまで! 糞が〜ッ……!」
一方、南西大陸某所の古城ではまたもや眷属の消滅を察知した『薔薇の真祖』は怒りに震え、全身から巨大なイバラが生え始める。
「つつつッ次の眷属ならきっと!」「そうです! ですから落ち着──ア゛がッ……」
真祖は宥めようとしたメイド眷属の頭をイバラの束で握り潰す事で落ち着きを取り戻し、次なる眷属を向かわせた。
◇
数日後……。
“俊敏な猫のような魔物がいる”という噂を聞いたアリエラたちは、その噂を確かめるべくエヴレスの奥地に足を踏み入れた──。
「どうせ猛獣の類ですよ……」
「きっとジャガーネコやマーゲイよ……! その辺りまでなら守備範囲内だから問題無くてよッ」
「証言者は巨人らしいからな……我々の想像よりも巨大なんじゃないか?」
「ネコって言い切ってないし絶対クソ凶暴なヤツかキモいヤツだと思うな〜……」
魔物だらけの密林で目撃されたという“猫らしき魔物”という噂でアリエラを除く三人は絶対可愛らしい猫ではないであろうと確信していたが、アリエラが一縷の望みに賭けて討伐──もとい、保護に向かうと言って聞かなかったのだ。
「さ〜て……どこにいるのかしら──……人の声がするわ……」
「え? …………いやこれは……!」
意気揚々と密林に進入しようとしたアリエラだったが、その優れた聴覚が人の声らしき音を捉える。
しかし、レイメイも耳を澄ませるとそれを否定した。
「タ す ケテ ェ……」
徐々に近付いて来ているのか、ピチカやフュリスにも聞こえるようになったその“助けを求める女性ような声”は抑揚がおかしく、人間の出している声でない事は明らかであった。
「人面獅蠍か……!」
「随分と目の悪い巨人が証言者だったのね……鳴き声の高さからして雌ね」
── 人面獅蠍──
幻獣の一種であり哺乳類。
獅子の胴体・金属質な牙の生えた人間のような頭・毒針を射出できる蠍のような尻尾を持つ悍ましい幻獣である。
雌の個体は雄よりも一回り大きく強く、背中からは蝙蝠のような翼・脚は竜のように強靭で逞しい。
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「獅子に蠍の尾に……竜のような手足ですか……アリエラさんは親近感を覚えたりしますか? ヘヒヒッ」
「……二度目は無くてよレイメイ。ワタクシが追い立てるから、出会い頭で仕止めてしまいなさい」
軽口を叩くレイメイを睨みながらアリエラは単独で密林に踏み込んで行く。
「あー……怒らせちゃった……やめなよメイメイ」
「口が滑りました」
「お前アリエラの事をどう思って──……おっ、接敵したな」
マンティコアはかなり近くに居たのかアリエラが踏み込んでから大した間も無く茂みから戦闘音が聞こえてきた。
「な、ナマなまナマエはッ、まドレーぬぢゃンッ!?
キゃああアあ゛アッ!」
何か喋りながら戦っていたマンティコアはアリエラに手痛い反撃を喰らわされたようで、爆発音の後にピチカたちのいる方向へ走って来る。
「レイメイ! ヴァンパイア化しているわ!」
その後方から追い込みをかけるアリエラの注意の声も聞こえて来た。
「またですか──〈屠絲魘縛『羂網』〉ッ!!」
その声に従ってレイメイはミスリル糸を周囲の樹々に張り巡らせて待ち構える。
「きャあああア゛ ッ ! !!
た す け て ェ エ エ エ ! ! !」
ミスリル糸に接触して顔に網目状の火傷を負ったマンティコアは竜のような後脚で立ち上がりながら鳴き声を上げた。
人間基準で言えば整っているのがかえって不気味な顔は、口が耳近くまで裂けており、牙の付いた薔薇のような捕食器が展開して威嚇している。
しかし──……
「隙だらけだっ!」
立ち上がってしまった事で心臓を狙い易くなり、フュリスは瞬時に狙いを定めると銀のドングリ弾を発射。
「かッ……! あア゛ッ……!」
弾は見事に心臓に命中、マンティコアは悪あがきに尻尾の毒針を射出したが──……
「うりゃッ!」
ピチカの羽ばたきによって発生した突風によって毒針はあらぬ方向へ飛ばされる。
悪あがきにも失敗したマンティコアは胸部に穿たれた弾痕から煙を上げながら仰向けに倒れた。
「あガがッ…………“へなちょこフュリス”……!」
青白い炎に包まれながらマンティコアの発する言葉に一行は固まる。
「今、フュリスさんの名前を……」
「……リスちゃんの知り合いのマンティコアだった?」
「なワケがあるか……何だ“知り合いのマンティコア“って……しかし──」
「このマンティコアの主人である『薔薇の真祖』がフュリスの事を知っているのではなくて? あだ名で呼ぶ程度には……」
茂みの中から戻って来たアリエラがフュリスの内心に浮かんだ考えを言い当てる。
「……『へなちょこフュリス』というのは私と同年代か少し下の世代のエルタナ貴族の間で使われている陰口だ」
「『薔薇爵家』の貴族に該当者はいますか?」
「……何人かいるな」
「ではジャングル探索は切り上げてエルタナ領内に戻りましょうか。半分冗談のつもりだったんですが、一気にきな臭くなって来ましたね……」
燃え尽きて灰の山になるマンティコアを見届けながら一行はエルタナ聖王国南西部『薔薇爵家』領を目指すのだった。
──────────
「『マドレーヌ』ちゃんがッ! へなちょこフュリスの分際でェ〜……!!」
一方『薔薇の真祖』は更に怒りを煮え滾らせていた。
「ひッ……つ、次の刺客を」
「も う い い ッ ! ! アテクシが直接殺るッ!!
領内に近付き次第連中を招待なさい! 本命の計画のついでにブチ殺して差し上げましてよ〜! オォーホッホッホッホッ!!!」
また眷属の頭を潰した『薔薇の真祖』のベタな笑い声が古城に谺した。
◇ 人面獅蠍
幻獣の一種であり哺乳類。
獅子の胴体・金属質な牙の生えた人間のような頭・毒針を射出できる蠍のような尻尾を持つ悍ましい幻獣である。
雌の個体は雄よりも一回り大きく強く、背中からは蝙蝠のような翼・脚は竜のように強靭で逞しい。
顔の構造が似ているので人語を真似た鳴き声を出して人間や亜人を誘き寄せる習性を持つが、その鳴き声は言語翻訳魔術〈不遜の塔〉によってしっかりと翻訳されているため、“実は言葉を理解しているのではないか?”……とも言われているが真相は謎である。




