第八十七話 不思議の国のフュリス:森編
登場人物紹介
◇アリエラ
主人公。魔王軍四天王最強の怪力と頭脳を持つ紅一点。
『殲滅女帝』の二つ名を持つ。
褐色肌にボブカットの黒髪、猫のような紅い瞳、獅子の耳と尻尾が特徴の獣人。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者としての二つ名は『爆心地のアリエラ』
好きな童話は『長靴をはいた猫』
◇ピチカ
蒼い髪と瞳にギザ歯が特徴のアクセサリー付けすぎなギャルっぽいハーピィ。
異世界転生者。チートスキル【楽々御粧し】の使い手。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』の一応リーダー。
一級冒険者。
好きな童話は『シンデレラ』
◇レイメイ
魔王直属暗殺部隊『五毒姫』の末妹。
白い長髪と肌に鬼灯のように赤い瞳と愛嬌紅が特徴。
魔王特製の最上級キョンシー(札は丹田に貼っている)。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者としての二つ名は『毒蛇姫レイメイ』
好きな童話は『スズの兵隊』
現在、謎の敵の術によって“『時計ウサギ』風バニーガール“姿にされている。
◇フュリス
エルタナ聖王国の女騎士。『百合爵家のフュリス』
小柄な金髪碧眼のエルフで緑基調の騎士装束を着ており、ドングリを発射するウーツ鋼製の銃を使う。
仕事の邪魔をした埋め合わせにアリエラたちが手柄を立てさせてやる事になった。
好きな童話は『ウサギとカメ』
現在、謎の敵の術によって“アリス風の空色のエプロンドレス”姿になっている。
──────────
物語に逆らいアリス役のフュリスが巨大化しなかった結果、家の外が海のようになる事は無く、平坦な道と森が広がっていた。
「この場合……次の展開はどうなるんだ?」
「とりあえず森に入ってみましょうか。うろ覚えですがお茶会か何かに参加する件りがあったハズです」
大幅にイベントを省略しながら森に進入すると、二つの背の低い人影が行く手を遮る。
「やあ! 僕は『ディー』!」
「やあ! 僕は『ダム』!!」
「「僕たち『トゥイードル兄弟』!!」」
レイメイには見覚えのある二人組の鍛冶小人の二人組……一人は特級冒険者『竜斬りアクオグ』。
もう一人はアクンダク島で喧嘩祭りを仕切っていた見なりの良いドワーフ……『鍛治師組合長エスオグ』である。
派手な色合いの蝶ネクタイにサスペンダーの付いたズボンを履いており、似合っていなさ過ぎて不気味な印象を与えている。
「レイメイの知り合いか?」
「ええまあ……特級冒険者と鍛治師組合の組合長の双子の兄弟です。
たしか『不思議の国のアリス』でもこの辺りで不気味な双子に絡まれる流れだったかと……」
「僕が──うべァッ…………!」
「僕が──うべァッ…………!」
レイメイが容赦無くビンタすると、双子の姿は霧散して消えてしまった。
「消えた……!? おいレイメイ! まさか殺したのか!?」
「落ち着いてください。おそらく記憶を元に造りだされたんでしょう。わざわざこんなニセモノを配置するあたり巻き込まれた人はあまりいなさそうですね。先を急ぎましょう」
レイメイとフュリスは近くを通り過ぎるトカゲ役の『ウラカン村の長エゴット』を無視して森へ進入する。
「……今の巨大な蜥蜴人は?」
「既に亡くなっているのでニセモノ確定です。
おや……小さなマザー・フィオーラが──……ニセモノですね」
森の茂みの中にいた小さな花に擬態していたマザー・フィオーラを見つけたレイメイがデコピンで軽く弾くと先程のニセモノ同様、霧散して消えてしまった。
「物語に忠実に動かされていたら蟲に攻撃されていたのか……?」
「アリスが小さくなった状態で入るハズの森だったので、そうなっていたかもしれませんね。
さて……たしか森でイモムシに会うハズですが……フュリスさんはイモムシ役にされそうな知り合いはいますか?」
「いや特には思い浮かばないが……筋書きに逆らった影響で消えたんじゃ──」
フュリスが今までの傾向から予測を述べようとした時、茂みから飛び出して来た小さな影がその予測を遮る。
「ここにいますゾ〜❤︎
特級冒険者『魔法少女❤︎付け火のベル』参上ですゾ❤︎」
薄桃色のロリータファッションを着こなす髑髏模様の翅の翅妖精の少女『付け火のベル』(に化けた四天王バアル・ゼブブ)が現れた。
「ゼブ──……ベルさんじゃないですか! その様子だと正気のようですね」
「おぉ! 他にも正気を保っている者がいたか! あ、私はフュリスという者だ」
銃を奪われ味方もレイメイだけで心細くなっていたフュリスは新たな特級冒険者の参戦に喜んだ。
「こちら特級冒険者の『付け火のベル』さんです(ゼブブ卿だという事は伏せておこう……)」
「つ、“付け火”!? 大丈夫なのか!?」
「魔法少女ですゾ❤︎ いざとなったらこの結界を燃やしますゾ❤︎」
物騒な二つ名に一歩退がるフュリスを意に介さず、ベルはレイメイに目配せをする。
『レイメイ殿。そちらの方は保護対象ですかな?』
(──脳内に直接……! はいそうです。他に巻き込まれた人はいましたか?)
念話を繋いできたベルに思考で返事をしたレイメイはフュリスに悟られないように現況を確認し合った。
『森の前半部分にはニセモノばかり配置されていましたな……アリエラ殿とピチカ殿は更に物語の後半に配置されているのでしょうな……』
「(さすがゼブブ卿……術の性質をもう見抜いているとは)
とにかく森の奥でお茶会に参加して見ましょう。ピチカさんは居る気がしますし……行きますよフュリスさん」
「あ、ああ……アリエラと同士討ちさせられてないと良いが」
「アリス以外の登場人物同士はあまり敵対していなかったとは思いますが……(アリエラさんがあの役ではないと良いんですが……)」
「戦闘しているような音は聞こえなかったから大丈夫だと思いますゾ❤︎」
粗方の登場人物の消えた森を進む一行だったが、今まで感知できていなかった気配が周囲をウロついている事に気付く。
「何かいますね……術者が介入してきたんでしょうか」
「タイミングからして『チェシャ猫』だと思いますゾ❤︎ 心当たりのある知り合いは?❤︎」
「猫か……最近猫妖精たちに会ったから……アンリ卿あたりか?」
配役のあたりを付けていると、それに応えるように暗がりから声がする。
「そう……オイラはチェシャ猫……ただの猫じゃあないニャ」
予測通りケットシー首無し妖精のアンリが浮遊する頭をボールのように手で宙に放りながら現れた。
貴族服ではなく、縞模様の道化師衣装に身を包んでいる。
「一応……本物かどうか確かめておくか?」
「ニセモノだったとしても危害を加えた事をアリエラさんに知られると厄介そうですし……チェシャ猫は後にも出番があったような……」
「じゃあ無視……いやっ、お茶会とやらの開催地だけ教えて欲しいですゾ❤︎」
ベルが道を尋ねると、木の幹に今までは存在していなかった矢印の案内板が現れ、チェシャ猫役のアンリはその案内板を尻尾で指し示した。
「『イカれ帽子屋』のお茶会はあっちだニャー。『三月ウサギ』もいるよ。
どっちもイカれてるケド……ね! ニャホホホホ……」
チェシャ猫役のアンリは眼と口の輪郭を残して闇に溶けるように姿を消し、数瞬遅れて眼と口も闇に溶けていなくなってしまった。
──────────
「なんでもない日おめでとう☆」
「なんでもない日おめでとさんッス★」
案内板に従って道なりに進むと、紅茶の香りと共に陶器をぶつけ合う音と、かしましい声が聞こえてくる。
「やっぱりピチカさんが──シィシア姐さんまで!?」
レイメイが背の低い塀の上から覗き込むと、歪んだ藁葺き屋根の家の庭先で紅茶をこぼしながら飲んでいるピチカと『五毒姫・中指のシィシア』がいた。
『イカれ帽子屋』役のピチカは頭に小さなトップハットを付け、極彩色でモザイク調の上着や蝶ネクタイを着ている。
「ピチカは……普段と大差無いな……もう一人はレイメイの知り合いか?」
「ええまあ……私の同類なので確実にニセモノです。
(本物でも悪ノリしてお茶会してそうではありますが……)」
レイメイは真っ赤なバニースーツを着てお茶会をしているシィシアを不快そうに睨んだ。
「じゃあ早速洗脳を解きに行きましょうゾ❤︎」
「そうですね」
ピチカの生存を確認した三人は塀を乗り越えてズカズカと庭に侵入し、お茶会をするピチカとシィシアに近づく。
「なんでもない日──あっ! ダメダメ! 勝手に入ってきちゃ! 席が──うべァ!?」
「招待されてもないのに──うべァ…………!」
お茶会への勝手な参加を咎めようとするピチカとシィシアにレイメイは問答無用でビンタを喰らわせ、三月ウサギ役のシィシアは霧散して消滅した。
「そうでチュよ……とっても失礼で──うべァ…………!」
ついでにティーポットから突然現れた『眠りネズミ』役の『魔王国公爵エッタル卿』も容赦無くビンタされ霧散した。
「ハッ……!? あーしは一体……!?」
「正気に戻りましたか? ピチカさん」
「うぅ……なんかほっぺ痛──ってエッッッッッ!?
ナニそのバニーコス!? 淫紋逆バニー!?」
「……もう一発欲しいですか?」
「ギャッ……正気だから! 大丈夫!
(肌と布の色が同じだから一瞬裸に見えた……)」
「洗脳とは別に正気ではなさそうだな……」
洗脳が解けた事を確認したフュリスとベルも近付くが、ピチカは状況が呑み込めず周囲を見回す。
「リスちゃんは……アリスコス? それにゼブ──……“ベルたそ”まで?」
「ああ。私たちはそのアリス? とやらの物語を演じさせられる術に取り込まれているらしい……つまり攻撃されている」
「あと見つかっていないのはアリエラ女史だけですゾ❤︎(ベル……“たそ”……?)」
フュリスの端的な説明を受けたピチカの脳裏にイヤな予感が奔った。
「アーちゃんはさ……『ハートの女王』なんじゃない?」
「やはり……ピチカさんもそう思いますか?」
「その説が濃厚ですゾ❤︎」
「その役がアリエラだと何かマズいのか……?」
唯一アリスの物語を全く知らないフュリスだったが、他三人の反応から良くない雰囲気を察する。
「フュリスさんを怖がらせると思って言わずにいましたが……たしかアリスを処刑しようとする登場人物です」
「なッ……!? そんな物騒な童話なのか!?」
「こう言っちゃなんだケド、アーちゃんにピッタリっていうか……」
「十中八九アリエラ女史ですゾ❤︎
つまりこの術の主な標的はフュリス女史かアリエラ女史という事だと思いますゾ❤︎」
「……実際に処刑されるのか? アリスは」
「そこは最初に言った通り処刑される前に逃げ出して……夢オチです」
「あーしも細かいトコは覚えてないな〜アリスって」
「しかし攻撃である以上は夢オチとはいかず、処刑される……という術だと思いますゾ❤︎」
「し、しかし! ビンタ程度で正気に戻せるんだろ!?」
「それはそうですが問題は……」
「苛烈な人物を演じているアリエラ女史に……❤︎」
「ビンタ食らわせなきゃってトコだよね……」
「…………ッ!!」
どこか楽観的になり始めていたフュリスであったが、四天王筆頭が敵対者側にまわっている可能性が非常に高い事を理解すると滝のような冷や汗を流した。
◇『付け火のベル』
可愛らしい髑髏模様の翅が特徴の翅妖精の少女の特級冒険者。
大抵の依頼を燃やして解決したため『付け火』の二つ名を与えられた。
その正体は魔王軍四天王『蝿蛆元首バアル・ゼブブ』の分身である。
性格や喋り方は妹分であるアナトを参考にしている。
正体を知る魔王軍関係者からは正直キツいなと思われている。




