第八十六話 不思議の国のフュリス
登場人物紹介
◇アリエラ
主人公。魔王軍四天王最強の怪力と頭脳を持つ紅一点。
『殲滅女帝』の二つ名を持つ。
褐色肌にボブカットの黒髪、猫のような紅い瞳、獅子の耳と尻尾が特徴の獣人。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者としての二つ名は『爆心地のアリエラ』
異世界の事はとても文明が進んでいる一方、つまらなそうだと思っている。
◇ピチカ
蒼い髪と瞳にギザ歯が特徴のアクセサリー付けすぎなギャルっぽいハーピィ。
異世界転生者。チートスキル【楽々御粧し】の使い手。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』の一応リーダー。
一級冒険者。
前世の自分の死後、両親がどうなったか少し気になっている。
◇レイメイ
魔王直属暗殺部隊『五毒姫』の末妹。
白い長髪と肌に鬼灯のように赤い瞳と愛嬌紅が特徴。
魔王特製の最上級キョンシー(札は丹田に貼っている)。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者としての二つ名は『毒蛇姫レイメイ』
異世界の文化には結構興味がある方。
◇フュリス
エルタナ聖王国の女騎士。『百合爵家のフュリス』
小柄な金髪碧眼のエルフで緑基調の騎士装束を着ており、ドングリを発射するウーツ鋼製の銃を使う。
仕事の邪魔をした埋め合わせにアリエラたちが手柄を立てさせてやる事になった。
異世界には強力な銃があると聞いて少し興味がある。
◇
「あれですね……『妖精立ち入り禁止区』は……では私とピチカさんが入るのでアリエラさんはフュリスさんのお守りよろしくお願いします」
「よろしくてよ」
「“お守り”とはなんだ!」
「キノコ狩りかぁ〜☆ マツタケとかトリュフあるといいね☆」
一行は樹木の代わりに巨大な茸類が生い茂り胞子をバラ撒く通称『妖精立ち入り禁止区』の見える小高い崖の上に到着した。
──『妖精立ち入り禁止区』──
大小様々な茸類が犇き胞子をバラ撒く危険区域である。
茸類が犇くという事は全方位が天然の〈茸環〉という事であり、妖精が迂闊に入り込んで魔力を発しようものならどんな場所に飛ばされるかが分からないため、妖精がこの区域に入る事は自殺と同義とされている。
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……一行はそんな区域へ薬の材料に使用する希少な茸の採集依頼を受けてやって来たのだが、森妖精であるフュリスを伴うのは当然危険であるため戦力のバランスを考えた結果、アリエラとフュリスは待機となったのであった。
「多少燃やして良いなら話は早いのだけれどね」
「良いワケあるかッ! お前たちも私がいないからって無茶苦茶するんじゃないぞ!」
「分かってますよ。アリエラさんじゃあるまいし……」
「そーだよ☆ んじゃ行って来まーす!」
軽口を叩くとレイメイは飛び立つピチカの脚を掴んで『妖精立ち入り禁止区』へ向かった。
「……なんだかワタクシの扱いが雑になってきているのではなくて?」
「日頃の行いのせいだろ──……んん!?
おい! アリエラ! 何か変だぞ!?」
待機のために仮拠点の設営でも始めようとしたその時──……フュリスとアリエラの周囲を異常に濃い霧が包む。
「フュリス! 魔力で身体を──」
咄嗟にフュリスを保護しようとするアリエラだったが、間に合わず霧に飲まれてしまった。
◇
「ハッ……!? ここは一体……!?
何ですかこのふざけた格好は……!?」
茸採集に向かったハズのレイメイはアリエラたちと同じく異常な濃霧に飲まれ気が付くと、根本にウサギの巣穴が掘られた木の前に立っていた。
──しかも服装が変わっている。
ウサギの耳と尻尾が付いた白いバニーガール衣装に、襞襟のある赤い上着を着用し、手には懐中時計が握られていた。
おまけに丹田あたりには赤いハート模様が付いている。
(魔王陛下の使役下にある私がその辺の茸の胞子で幻覚など見るハズが無い! 攻撃されている!! それも相当強力な術者に! 他の三人は──あれは……フュリスさん……?)
レイメイが連れ三人の安否を探るため周囲に視線を巡らせると、丁度フュリスが駆け寄って来ていた。
「待って〜♪ ウサギさん!」
しかし、いつものような騎士然とした態度を取ろうとする声や口調ではなく、天真爛漫な少女のような声で辿々しい走り方で近付いて来る。
服も騎士服や道中で調達した旅装束ではなく、頭に大きな黒リボンを載せ、可愛らしい空色のエプロンドレスに白黒のボーダーソックスに丸みを帯びた革靴を履いていた。
「……!? フュリスさん? 大丈夫ですか?(頭が)」
明らかにいつもと様子が違うフュリスにレイメイは後退りながら話しかける。
「アハッおしい! フュリスじゃなくて私は『アリス』よ♪
それよりウサギさん! そんなに急いでどこへ行くの? 私も──」
「しっかりしてくださいッ!!」
「う べ ァ ッ !? ……ハッ!? 私は一体……!?」
殺気こそ込められていないものの、レイメイに強めに叩かれたフュリスは赤い手形のついた頬を摩りながら周囲を見回した。
「正気に戻りましたか?」
「あ、ああ……そう言うお前こそ正気なのか? 何だその破廉恥な格好は? 一瞬、裸同然に見えたぞ……」
見回した結果、フュリスは最も異質なバニーガール姿のレイメイを怪訝そうに見る。
「好きで着るワケないでしょこんな服……この服込みで何者かに魔術あるいは神業か何かで攻撃されています」
「なッ……マズいじゃないか!」
「マズいですね……アリエラさんは近くにいましたか?」
「いや……そちらもピチカとは逸れたようだな。
場所はまだしも何故服まで……」
フュリスは数少ない手がかりである自分が着るには少女趣味が過ぎる服を忌々し気に摘む。
「……おそらく特定の物語の中に標的を取り込んで役割を強制して同仕打ちさせる類の術ですね。題材は『不思議の国のアリス』……異世界の童話でしょうね」
「どんな物語なんだ? 待て……私が主役なのか?」
フュリスは自分が先程まで名乗っていた『アリス』という名前がタイトルに含まれている事に気付いた。
「アリスという少女が今の私の役……『時計ウサギ』を追いかけて不思議の国に迷い込んで不条理な冒険をする……といった内容です」
「……最終的にはどうなるんだ?」
「あまり詳しくないですが……夢オチだったハズです」
「夢……では放っておけば解除されるのか?」
「いや……ここは夢の中ではなくある程度現実や認識を改変できる結界の中だと思います。
本来なら範囲内に入った時点でほぼ詰み……半壊は確実の強力な術なんでしょうが、私を巻き込んだのが運の尽きでしたね……アリエラさんとピチカさんも正気に戻して脱出しましょう」
レイメイは不敵な笑みを浮かべながら、変な格好をさせられた怒りを込めて爪を伸ばす。
「よし。ではさっさと物語を進めるか。次はどうなる?」
「アリスはウサギを追って不思議の国に迷い込むので……とりあえずッ行きますよ!」
レイメイは説明しながらフュリスの肩を掴み、木の根本のウサギの巣穴に引き摺り込み、さらにその奥に空いた大穴に飛び込んだ。
「う ぉ あ あ ァ ッ ! ?」
先の展開を教えられていなかったフュリスは突然の浮遊感に悲鳴を上げながら落ちて行った。
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「ふうっ……着きましたね」
「お、落ちるなら先に言えーッ!」
大量の家具や日用雑貨の浮遊する亜空間を落下したレイメイは途中拾った蝙蝠傘を広げて勢いを相殺し、担いだフュリスも着地させた。
「ハァハァ……なんだここは? 屋内? 随分と歪んでいるな……」
「たしかここはアリスがドアを通るために大きくなったり小さくなったりする家ですね」
先を見渡すと部屋の内装は曲がりくねった柱や床材で構成されており、同じく曲がりくねって歪んだ調度品が並んでいる。
レイメイの言う通りそのままの大きさでは通り抜けられないであろう小さなドアも見える。
「小さく……? 私が魔術を不得意なのは知っているだろ? 無理だぞそんな事」
「いや元ネタでは薬や焼き菓子を食べて身体の大きさを変えるハズですが──……止めておきましょう」
先の展開について話していると、二人の背後にいつの間にかテーブルセットが現れ、テーブルの上には“私を飲んで”……と書かれた付箋が付いた小瓶が置かれていた。
「飲まなくていいのか? 話が進まなくては閉じ込められるんじゃないか?」
「術者が毒を入れているかもしれませんし……毒なら私が対処できますが、もしかすると身体の一部だけ小さくなって全身の穴という穴から内臓や脳が飛び出て死ぬかもしれませんよ?」
「お、恐ろしい事を言うなーッ!!」
「……というワケで壁ごとドアを破ってみましょう」
「できるのか? 物語を強制する術なんだろう?」
「そもそも標的が正気を取り戻す事自体が想定外でしょうし、あまり強い強制力は無いかと。
スゥ……──〈蛇咬崩拳〉ッ!!」
言うが早いかレイメイは全身を脱力しながら体重移動をし、その波打つ力の流れを伝えながら両拳を巨大な蛇に見立てて上下に構えて壁に添えると、一瞬にして極限まで力を込めて壁を粉砕した。
「うぉっ……砕けたな」
「ここまでは想定通り……アリエラさんとピチカさんを探しましょう」
レイメイは残ったドアを蹴飛ばしながら外に脱出し、フュリスも続いた。
◇レイメイの魔術耐性
魔王直々に使役されているレイメイ含む『五毒姫』には洗脳や時間操作、その他各種状態変化の類の魔術は基本的に効かない。
効くとすれば魔王にも通用するような強大な魔術を行使できる者の術のみである(女神やチートスキル絡み等)。




