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第八十五話 異世界ギャップ

登場人物紹介

◇アリエラ

主人公。魔王軍四天王最強の怪力と頭脳を持つ紅一点。

『殲滅女帝』の二つ名を持つ。

褐色肌にボブカットの黒髪、猫のような紅い瞳、獅子の耳と尻尾が特徴の獣人。

冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。

特級冒険者としての二つ名は『爆心地のアリエラ』

どちらかと言えば辛党。


◇ピチカ

蒼い髪と瞳にギザ歯が特徴のアクセサリー付けすぎなギャルっぽいハーピィ。

異世界転生者。チートスキル【楽々御粧し】の使い手。

冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』の一応リーダー。

一級冒険者。

それなりに甘党。


◇レイメイ

魔王直属暗殺部隊『五毒姫』の末妹。

白い長髪と肌に鬼灯のように赤い瞳と愛嬌紅が特徴。

魔王特製の最上級キョンシー(札は丹田に貼っている)。

冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。

特級冒険者としての二つ名は『毒蛇姫レイメイ』

かなりの辛党だが、甘い物も普通に好き。


◇フュリス

エルタナ聖王国の女騎士。『百合爵家のフュリス』

小柄な金髪碧眼のエルフで緑基調の騎士装束を着ており、ドングリを発射するウーツ鋼製の銃を使う。

仕事の邪魔をした埋め合わせにアリエラたちが手柄を立てさせてやる事になった。

ほどほどに甘党。


◇リッキー

ヘラクレスオオカブトの蟲人で特級冒険者兼特級闘士。

基本的にスモウの事しか考えていない。

二つ名は『超角力士リッキー』

大の甘党。


◇フロレス

ギラファノコギリクワガタの蟲人で特級闘士。

リッキーのライバルとして打倒リッキーを目指しているが、現状全敗中。

結構な甘党。



 ◇



「ほォ〜ん……なるほどね。異世界人だったのかァ……どおりで……俺らより源流に近いスモウを知ってるワケだ」


 仕合終了後、一般客は次々に帰り出したが、ずっとツッコミが聞こえていたらしいリッキーは気絶したフロレスを担ぎ上げながらピチカを呼び止め、貴賓席で事情を聴くと納得した。


「いッやぁ〜……そんなくわしいワケではないんですケドぉ……あーしの知ってるヤツと違ったんでビックリしたっていうかぁ……ギャヒヒ」

 まさか聞こえていたとは思わなかったピチカは愛想笑いで誤魔化す。


「異世界人がやりがちな情報漏洩ですね」

「気を付けなさいピチカ」

「『薔薇爵家』の領内では特にな」

「メイメイとアーちゃんには言われたくねぇ〜……(ゴメンゴメン☆)」


 ピチカは本音と建前が逆になった。


「まぁスモウの話がてらアンタらの事も聴かせてくれよ。組合(ギルド)総本部ではあんまり話できなかったしよォ。おいフロレス! 起きろ! スモウについて聴こうぜ!!」

 リッキーはフロレスの頭部の甲殻を叩き無理矢理起こす。


「ハッ!? ……オレは敗けたのか?」

「ああ……俺が勝ったとも言う。それより異世界のスモウについて色々聴こうぜ! いいだろ!? ピチカ関!!」


 リッキーは仕合で折られたままの肩を気にもせず、ピチカに再び詰め寄った。


「その前に治療くらいしなさい。ピチカ、ワタクシの生命十字(アンク)を」

「あ、オッケー」


 見かねたアリエラは生命十字(アンク)を装備すると、魔力を放射してリッキーとフロレスの傷を癒す。


「おお! 助かるぜアリエラ関!」

「ごっつぁんです!」


「あーしもおスモウさんじゃないし、全然くわしくないんですケド……」

「いいからいいから! 色々ツッコんでたって事は素人目に見ても結構違うんだろ?」 

「へえ……それはオレも興味あるな」


 大柄な巨人並の体格に加え立派で鋭利な角と鋏を持つ二人に詰め寄られ、ピチカはたじろぎながらも口を開く。


「えーと、まあツノとか空中戦はまだしもキックまでアリだとスモウってよりかキックボクシングとかじゃない?」

「異世界は蹴り無しなのか!?」

「でもスモウの始祖である『ノミノ・スクネ』は蹴りと踏み付けで勝ったんだろ?」


「そーなの!?」

「ピチカさん異世界人なのに知らないんですか? 私でも知ってますけど……」


 リッキーたちが語っているのは『日本書紀』などに記されている『野見宿禰(のみのすくね)』という豪族の逸話だが、当人も認める通り詳しくないピチカが知る由もない情報である。


「じゃ、じゃあよ! ガキの頃に熊とスモウ取ってたっていう『キンタロウ』は知ってるか!?」

「それは知ってる──……ケド、さすがにおとぎ話なんじゃないかな?」


「まあガキが熊とスモウってのは盛り過ぎ感はあるが、半竜人(ドラゴニュート)なら有り得ん話でもないんじゃあないか?」

「……? 金太郎ってそーなの?」

「赤龍とヤマンバの間に産まれた豪傑なんだろ? オイなんでオレらの方が詳しいんだよ?」


「桃太郎と浦島太郎ならわかるんだけどな〜」

「ま、あくまでも伝説だしな。

 それより! ピチカ関が生きてた時代のスモウの主流ルールを聴かせてくれよ! とりあえず蹴りはナシなんだよな?」


「う〜ん……武器ナシ・拳骨(グーパン)ナシ・蹴り(キック)ナシ・掴みナシ──……あとフンドシ取れたら負けとか?」

「ナシナシ尽くしじゃねぇか!」

「そんな縛りだらけで興行として成り立つのかしら……?」


 総合格闘技のような多彩さに加え、空中戦まで存在するスモウに慣れている現地住人にはピチカの語るざっくりとしたルールに違和感があるようだった。


「普通に人気だったよ? あ、あと土俵はもっとせまかったかな? でもさ、この世界に合うように改良されたってコトでいいんじゃない?」

「ふーむ……ま、それもそうだな。

 あ、そうだ熊といえば……この前キンタロウの逸話にあやかろうと思って梟熊(オウルベア)の討伐依頼を受けたんだけどよ……」


 ピチカの話すスモウの話が期待していたような内容ではなかったからか、リッキーは話題を変えた。


「ああ……アレか」

「そうそう。冒険者ではねぇけどフロレスも一緒に行ったんだよ。で、識別名付き(ネームド)でも特級案件でもなかった割には妙に凶暴で強くてな、しかも首折っても平然と襲って来たんだよ! なんでだと思う?」


「魔物化……いや吸血鬼(ヴァンパイア)かしら?」

「おっ、正解! 念の為フロレスが首を刎ねたら断面からこう……ビシャーッと薔薇みてえな捕食器と牙が拡がってよ……!」

「思い出すだけでゾワっとするぜ……」


 リッキーは手の平を軽く合わせ指をウネウネと動かして自分たちの目撃したものを再現し、フロレスは恐怖からではなく気色の悪さから身震いした。


「──! 『薔薇の血族』か!?」

「多分な。……ところでアンタは? 『パリピ☆愚連隊』に森妖精(エルフ)がいるとは聞いてねぇが……エルタナの貴族か何かか?」


 当然のように会話に混ざる見慣れないフュリスをリッキーは訝しんだが、色白でなんとなく偉そうなエルフという特徴でフュリスの素性を言い当てた。


「ああ申し遅れたな。私は『百合爵のフュリス』だ。アリエラに仕事の邪魔をされた埋め合わせの奉仕活動の監督として同行している。

 どうやらこの大陸に『薔薇の真祖』が居るかもしれないという情報を掴んでな。良ければもう少し詳しく聴かせてくれまいかっ」


 手柄の気配を察知したフュリスは手早く名乗るとリッキーに更なる情報提供を求める。


「んおぉ……そうだな、場所はもっと北西側で……エルタナ領の近くだったな。あの辺って『薔薇爵家』傘下だよな? 『薔薇の血族』なんだしやっぱ『薔薇爵家』の中に真祖がいるのかねぇ?」

「いくらなんでも単純過ぎやしねぇか? オレが『薔薇の真祖』ならもっと薔薇と関係無い場所に潜伏するがなァ……」


 フロレスはフュリスと同様『薔薇爵家』を疑う事には難色を示すが、アリエラはそうでもないようであった。


「どうかしら? 魔王国所属の真祖たちはそれぞれの血族の特色を全面に推し出しているし……真祖とはそういうモノなのでないかしら」

「現状、他の候補も思い浮かびませんしね」

「政治的な話をすれば『薔薇爵家』の地位を落とす事も──……」

「リスちゃんやめな〜? 政治がどうとかさ〜」


 ピチカは自分によく分からずあまり興味も無い話題になりそうだったので無理矢理打ち切り、リッキーたちもそれに同調する。


「そうだぜ! やめろやめろ! 冒険者に政治の話なんてよ! それより、貴賓客の特典の時間にしようぜ!」

「そうだな。特典(こっち)の勝負では未だにオレが無敗だからな! 期待しててくれよな!!」


「特典って?」

 勝負とは言うものの闘技仕合のような緊迫感は感じられないリッキーとフロレスに一行は首を傾げた。


「俺たちが作ったチャンコ鍋食べ比べ勝負の審査員になる権利だ!」

「魔物やらヴァンパイアやらと戦うなら体力つけねぇといけねぇし丁度良いだろ? 仕合前に煮込んでたから食べ頃だぜ! 持って来るからそのまま待っててくれな!」


 リッキーとフロレスは貴賓客特典の説明をすると、貴賓席から飛び立ち鍋を取りに向かった。


「へー! チャンコ鍋だって! 楽しみ〜☆ 和食的なの食べるの前世(ひさし)ぶりだな〜☆」 

「強い肉体を作るための料理か……私に必要な要素だな」 

「そうね……しっかりと食べておきなさ──……(フワ……)ん?」


 運ばれて来るチャンコ鍋を楽しみにしていると、アリエラの嗅覚は濃密な()()()()を捉えた。


「待たせたな!」

「さあたんとお上がりよ!」


 甘い香りを漂わせるリッキーとフロレスがそれぞれ運ぶ大きな土鍋を貴賓席に設置されていた円卓にドカっと置く。


「うをッ……」

「これは……」

 

 チャンコ鍋の具材には共通して鳥獣の肉団子・葉物野菜・飾り切りされた根菜・茸類などが入っており、リッキーの鍋はフロレスの鍋に比べ少し具材の切り方が荒々しい。

 

 これだけならば普通のチャンコ鍋だが、ピチカの知る鍋と決定的に違うのは()()()()()()()()()()()()()という点である。


 特にリッキーの鍋からは溢れるほど大量に蜂蜜がかけられている。


「美味そうだろ!?」

「冷めねえうちに食べな!」


「「「「…………ッ!」」」」

 明らかに自分たちの味覚には合わなさそうな料理ではあったが、あまりに自信満々に提供された鍋を残すのは気が引け、一行は覚悟を決めた。


「い、いただきま〜す……(ぱくっ)かフッ(甘っ……(あ゛っま゛)い! 蜂蜜の味しかしない!)」


 リッキーの鍋を口にしたピチカは喉が灼けるような感覚に襲われた。

 アリエラとレイメイは意外に平然と食べているが、フュリスは息も絶え絶えになっている。


「蟲人の味覚じゃなきゃリッキーの鍋は甘過ぎてキツいだろ? 次はオレの鍋だ」

 ピチカとフュリスの表情を見てフロレスは勝利を確信しながら鍋を選り分けた。


「ギャヒィ〜……(ぱくっ)……あ、おいしい!」

「うぐゥ〜……本当か? ……(ぱくっ)おお!?」

「なるほど……汁の塩味と具材の旨味が蜂蜜の甘味と調和しているワケですね」

「今度アンリちゃんたちにも作ってあげようかしら……」


 無言か呻き声と共に食べられていたリッキーの鍋とは違い、フロレスの鍋を食べるとは全員が饒舌になる。


「バ、バカな……俺の鍋は汁にも砂糖をたっぷりと使ってるのに……!」

「それがダメなんじゃねぇの……? ただでさえ蜂蜜かけ過ぎなんだからよ」


「い、いや慣れれば俺のチャンコの方が病み付きになるんだよ! オラッみんなもう一杯食えッ!!」

 負けを認めようとしないリッキーは空になった各々の器に蜂蜜塗れの具材を選り分けた。


「ギャヒィ〜……!」

「うぐゥ〜……!」


 結局チャンコ鍋食べ比べ勝負は全会一致でフロレスの勝ちとなったが、鍋を完食させられたピチカとフュリスは胸焼けで眠れぬ夜を過ごす事となったのであった。

半竜人(ドラゴニュート)

竜と人間の間に産まれる混血種族。

竜人とは似て非なる存在であり、人間と変わらない見た目の者からほぼ完全に竜の姿となる者まで姿の差異が激しい……とされるが非常に珍しい存在なので過去数名程しか実在が確認されておらず、その数名が変わり者であった可能性が否定できない。


梟熊(オウルベア)

幻獣の一種。哺乳類。

(ミミズク)の頭を持つ熊の幻獣。

熊の頑強な肉体と梟の鋭敏な知覚能力を兼ね備え、知能が高く獰猛な難敵である。

鷲獅子(グリフォン)同様、卵生哺乳類であり、近年まで鳥類と見做す学派も存在していた。

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