第八十四話 超スモウ大切り株場所決勝
登場人物紹介
◇アリエラ
主人公。魔王軍四天王最強の怪力と頭脳を持つ紅一点。
『殲滅女帝』の二つ名を持つ。
褐色肌にボブカットの黒髪、猫のような紅い瞳、獅子の耳と尻尾が特徴の獣人。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者としての二つ名は『爆心地のアリエラ』
闘技仕合の観戦をしていると自分も参加したくなる。
◇ピチカ
蒼い髪と瞳にギザ歯が特徴のアクセサリー付けすぎなギャルっぽいハーピィ。
異世界転生者。チートスキル【楽々御粧し】の使い手。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』の一応リーダー。
一級冒険者。
闘技仕合では強弱より魅せ技を多用する闘士を応援する。
◇レイメイ
魔王直属暗殺部隊『五毒姫』の末妹。
白い長髪と肌に鬼灯のように赤い瞳と愛嬌紅が特徴。
魔王特製の最上級キョンシー(札は丹田に貼っている)。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者としての二つ名は『毒蛇姫レイメイ』
闘技仕合は自分ならどう隙を突くか考えながら観る。
◇フュリス
エルタナ聖王国の女騎士。『百合爵家のフュリス』
小柄な金髪碧眼のエルフで緑基調の騎士装束を着ており、ドングリを発射するウーツ鋼製の銃を使う。
仕事の邪魔をした埋め合わせにアリエラたちが手柄を立てさせてやる事になった。
闘技仕合は銃が効きそうかどうか考察しながら観る。
◇
──南西大陸南部、かつて世界樹の次に立派な大樹であったとされる切り株の周囲に建設された摺り鉢状の闘技場は本日も盛況に包まれていた。
闘士も観客も主に蟲人が占める闘技場内は、ぶつかり合う闘士と犇めき合う観客の歓声や甲殻のぶつかり合う硬質な音が鳴り止まない。
『さあ〜! お次は本日の主催闘技ォ!!
『リッキー』対『フロレス』!!!
特級闘士の特別闘技でございます!! 土俵の用意を行いますので少々ご歓談を〜♪』
司会を務めるトンボの蟲人の女が飛び回りながら魔道具の拡声器で喧伝すると、整備員の蟲人たちが切り株に上がり、淵にせっせと土嚢を並べて準備を進め始める。
その闘技場の南側に設えられた貴賓席にアリエラたち一行は外から飛んで入場した。
「ギリセーフ☆ 間に合ったー!」
「期限が短くて焦りましたね……」
「強行軍だったな……」
「アンリちゃんたちの贈り物を無駄にせず済んで良かったわ……」
『シレフ王国』を去る間際に渡された箱の中には手の込んだ焼き菓子の他、この闘技場の特別優待チケットが同封されていたが、期限ギリギリのチケットであったため大急ぎで飛んで来たのだ。
『おーっと貴賓席のお客さんが重役出勤です! さすが優待客と言ったところか──!?』
司会がアリエラたちに気付き囃し立てると会場は笑いに包まれる。
「ゲ……客イジりするタイプか〜……」
「早く始めて頂戴」
急いで来た一行がゲンナリしながら着席する様子を見た司会は苦笑いをして闘技の進行を始める。
『タハハ……これは失礼。お〜っとたった今、両闘士入場の準備が整ったようです! 皆さん歓声と共にお迎え下さい!!
東コーナー! 『超角力士リッキー』!!!』
司会の呼び掛けと共に観客たちは甲殻を打ち鳴らしながら歓声を上げ、闘技場東側からヘラクレスオオカブトの蟲人にして特級冒険者でもある『超角力士リッキー』が紅白の注連縄が鮮やかな化粧回しを装備した状態で入場した。
以前冒険者組合総本部で会った際は少し言葉を交わした程度で帰ってしまったので、他の特級冒険者たちと比べ交流は薄いが、一応は知り合いであるのでアリエラたちは貴賓席から少し身を乗り出した。
「……ん? おぉ! アリエラ関ご一行じゃねぇか!! わざわざ観に来てくれたのか!?」
するとアリエラに気が付いたリッキーは一足で貴賓席に跳び移る。
「たまたまチケットを貰ってね……力士扱いやめて下さる?」
「まあカタい事言うなって! 兄弟とはあの後はぐれちまってな……代わりに皆スモウの凄さをその眼に灼き付けてってくれよな!! それで──」
『リッキーさーん! 戻って下さ〜い!』
「おっとスマンスマン! じゃあなッ!」
司会に呼び戻されたリッキーは勢いよく跳び、音も無く土俵に降り立った。
『はい! 次いきますよー!
西コーナー! 『無双鋏角フロレス』!!!』
気を取り直して呼び掛ける司会の声に合わせて現れた蟲人はリッキーと同じく極端に蟲率の高い断尾済みの大柄な巨人並の体格の甲虫系であり、口の両端からは左右非対称の立派な鋏が伸びている──……
ギラファノコギリクワガタの蟲人『フロレス』と呼ばれる男であった。
リッキーと同様の鮮やかで派手な出立ちのフロレスも歓声と共に迎えられたが、当の本人は気にする様子も無く荒い足取りで土俵の中央に歩み寄り、鋏を開閉させて威嚇しながら詰め寄る。
「おいリッキー……! このオレを差し置いて兄弟ってどういう事だ!? あ゛ァ!?」
「どういう事も何も……兄弟が兄弟に相応しいから兄弟と呼んでるだけだぜ!」
「兄弟兄弟うるせー!!」
「オメェが兄弟について聞くから……まあ今日は兄弟いねぇけど、貴賓席には兄弟に勝ったアリエラ関がいるからな……恥ずかしくない取組にしようぜェ!!!」
リッキーはフロレスの剣幕を軽く受け流すと、柏手を打って空気を炸裂させて場の空気を締め、土俵の東端にゆっくりと歩き出した。
「なにィ……!? どうなってんだ一体……」
「世の中強ぇヤツらがまだまだいるって事さ。つまり俺らのスモウ力もまだまだ伸びる余地があるってワケだな。“高み”で待っててやるから焦らず登って来いよ〜?」
「今日引き摺り落としてるぜ……!」
煽りながら東端へ去るリッキーを見送ったフロレスは西端へ足早に歩いてしゃがみ、取組開始の準備を整える。
『タハハ……フロレスさんの激重感情──もとい、リッキーさんへのライバル心は相変わらずのようです!
今回の試合は両者合意によるスモウマッチ! 足の裏以外が足場に着くか土俵の外へ着地した瞬間、即敗北です! 競技の性質上、一瞬で決着が付く事もよくあるので皆さんお見逃しなく!!』
「「スゥ────……フンッ!!!」」
司会が軽くルール説明を行うと、両雄共に片脚を天高く持ち上げて力強く四股を踏んだ。
「おぉ〜っ☆ スモウって生で観るの初だな〜☆」
「異世界から伝わった格闘技なのよね……」
「まあ多少はこちらの世界流に改良されているでしょうからピチカさんの知っているスモウとは別物かもしれませんが」
「──……お、始まるぞ」
両雄共に一頻り四股を踏み終えると再びしゃがみ込み、前傾に構えると両脚に力を溜める。
『いきますよー……はっけよォ〜い……のこった!!』
「フンハッ!!」
「ぜぇいッ!!」
開始宣言と同時にリッキーと土俵中央に突進し、自慢の角を刺しに向かい、フロレスは鋏でその角を挟んで食い止めた。
『のっけから必殺技炸裂〜!
〈串刺しぶちかまし〉と〈首刎ねぶちかまし〉のぶつかり合いだ〜!!』
名前からして殺す気全開の技のぶつけ合いに会場は沸き立ち、ピチカは戦慄した。
「ね、ねぇ! 殺しアリなの!?」
「え……異世界ではナシなんですか?」
「違いを比べるのは後になさい。動くわよ」
アリエラが軽く顎をしゃくって仕合を見るよう促すと、角と鋏で組み合ったまま乱打戦が始まる。
「フンフンフンフンッ!!」
「ぬゥオオオオオオオ!!」
蟲人特有の瞬発力に優れた筋肉により、最短かつ最速の張り手が機関銃のように連射されるも、互いの張り手を止め合うだけで膠着状態に陥る。
『両雄猛ラッーッシュ! しかしイマイチ決め手にかけるかー!?』
「フン……ではこれでどうだ!?」
焦れたフロレスは右脚を強く踏み込み、リッキーの角を挟んだまま回転を加える。
「──! (折られる!)チィッ!」
リッキーも即座に反応して回転し、挟まれた角を折られる事を回避したのも束の間──
「遅いッ!」
一瞬早く着地したフロレスは回転の勢いが死なない内に鋏を開きリッキーを貴賓席側に投げ飛ばした。
「うおッ……抜かったぜ!」
「行くぞッ!」
リッキーは投げられた勢いに乗って翅を展開して宙を舞い、フロレスも土俵を蹴って飛び上がり追撃を開始した。
『あーッと! 皆さん上空をご覧ください! 空中戦に突入だー! 』
「そんなんアリなの!?」
「そりゃ……飛べるなら飛ぶんじゃないですか?」
(マスクド・ヴィゾフニルが一定の敬意を払っているだけの事はあるようね……)
「全身を覆う甲殻にこの高速移動……銃で相手するなら……」
フュリスが自分ならどう戦うかシュミレートしながら観戦している内にも双方超脚力で空を蹴り、変則起動で攻撃し合う。
張り手の打ち合いの合間にリッキーは上下に開く角で、フロレスは左右に開く鋏を素早く閉じて互いの手を切断にかかるが、突き出す速度と同様に引く速度も速い手を捕らえられず角と鋏は空を切った。
『バッチバチの空中戦は伯仲互角の膠着状態ッ!
興行的にはそろそろ動き欲しいかな〜って……』
「口出しするんじゃねぇ!!
……だが空中戦に飽きたってのはァ──……」
フロレスは右脚を持ち上げると鋏で挟み込み、張り手に耐えながら力を溜め──
「同感だッ!!」
鋏を開くと解放された脚は音の壁を突き破りながら振り下ろされ、リッキーを土俵に無理矢理着地させた。
“踵落とし”である。
「えっ──」
ピチカはまたしても異を唱えたくなったが、そんな暇も無く仕合は進む。
「ぐッ……!(左肩がイッたか……!)」
「脳天潰し損ねたか! だがこれで記念すべき一勝目だ──」
(隙だらけだぜフロレス……)
勝ちを確信し鋏を全開にしながらリッキーに突進した次の瞬間、フロレスの視界は黒光りする甲殻に塞がれた。
「な──グッ!?」
「脚使えるのはお前だけじゃねぇんだぜ?」
待ち構える形で持ち上げられたリッキーの足の裏に顔面が激突し、思い切り蹴り抜かれたフロレスは土俵際まで転がり回りながら気絶した。
『フロントハイキック一閃────ッ!!
西コーナー・フロレスダウンにより──……というか気絶してますね。
勝者! 東コーナー!! リッキー!!!』
「「「オ ォ オ オ オ ! ! !」」」
不利を跳ね返し勝利をもぎ取ったリッキーに惜しみ無い歓声が送られ、アリエラたちも関心したように拍手を送った。
そんな中──
「さすがに蹴りはナシじゃない!?」
ピチカは自分の知っている相撲との違いに大いに困惑していた。
◇『超角力士リッキー』
巨人並みの体格を持つヘラクレスオオカブトの蟲人の男。
本名は『リチャード』。27歳。
特級冒険者であり特級闘士でもある。
スモウこそが最強の格闘技であると信じており、日々修行を積んでいる。
自分とスモウで引き分けた『黄金のフィアラル』を兄弟分扱いし敬遠されているが、本人は逸れただけだと思っている。




