第八十二話 場違いな遺物
登場人物紹介
◇アリエラ
主人公。魔王軍四天王最強の怪力と頭脳を持つ紅一点。
『殲滅女帝』の二つ名を持つ。
褐色肌にボブカットの黒髪、猫のような紅い瞳、獅子の耳と尻尾が特徴の獣人。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者としての二つ名は『爆心地のアリエラ』
魔王軍所属者からはほぼ満場一致で猫狂いのヤバいヤツだと認識されている。
◇ピチカ
蒼い髪と瞳にギザ歯が特徴のアクセサリー付けすぎなギャルっぽいハーピィ。
異世界転生者。チートスキル【楽々御粧し】の使い手。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』の一応リーダー。
一級冒険者。
面識の無い魔王軍所属者からはヤバいヤツだと思われている。
◇レイメイ
魔王直属暗殺部隊『五毒姫』の末妹。
白い長髪と肌に鬼灯のように赤い瞳と愛嬌紅が特徴。
魔王特製の最上級キョンシー(札は丹田に貼っている)。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者としての二つ名は『毒蛇姫レイメイ』
魔王軍所属者からは仲良くなると蛇ばっかり食べさせてくるヤバいヤツだと認識されている。
◇フュリス
エルタナ聖王国の女騎士。『百合爵家のフュリス』
小柄な金髪碧眼のエルフで緑基調の騎士装束を着ており、ドングリを発射するウーツ鋼製の銃を使う。
仕事の邪魔をした埋め合わせにアリエラたちが手柄を立てさせてやる事になった。
エルタナ住民や騎士からは自作の銃をよく発砲しているヤバいヤツだと認識されている。
◇
「こッ、これは……ッ!?
間違い無い! 『最後の女王ネフェラリエラ』の作と見て間違い無ァいッ!! 一体何処で見つけたんです!?」
南西大陸南部の名も無き里の中で開催されている自由市に驚愕の声が轟く。
小さな眼鏡を鼻の上に載せた斑点模様の猫妖精は冷やかし半分でぶらついていた自由市で場違いな遺物を発見し、猫口調も忘れ大声を出してしまったのだ。
南方系の血を引いているであろう獅子獣人の女が黄金の石棺を椅子代わりに座り込み店番をしている露店に並べられた雑多な品物のなかでも特に大きなウーツ鋼の浮き彫り。
長方形の枠の中に南方大陸の古代遺跡などでよく見られる平面的で独特な画風の猫が正気を疑う程大量に彫られており、どの角度から見ても必ずどれか一匹の猫と目が合うように作られている。
「……ッ!? そッ、そうかしら? 作風が似ているだけではなくて? あ、あッそれよりこのお魚のブローチなんてどうかしら? ほらカワイイ〜♡」
一方、突然自らの古代の本名を呼ばれたアリエラは動揺し、露骨にレリーフから気を逸そうとした。
「……こういった扱いを好む同族がいる事は知っていますが自分は違うのでやめて貰っていいですか?」
「あッ……ごめんなさい……」
冷静に拒絶されたアリエラは魚のブローチを陳列し直した。
「それより! そのレリーフ!!」
「あ、あぁこれ? これは間違えて置いちゃっただけで売り物ではないのよ。ごめんなさいね〜──ハゥッ……♡」
商品を並べ直すついでにレリーフを奥に片付けようとしたが、ケットシーが小さな肉球で手を押さえてきたためアリエラは嬌声を上げる。
「失礼。自分は『ラシゴル』。考古学者をやっています。
専門分野は『ティトゥラエリン王朝』です。自分の先祖が南方大陸にルーツがありましてね……。
貴女も南方系のようですが、このレリーフは一体何処で手に入れたんです!? 大変な発見ですよこれは!!」
「南方の砂漠の中だけれど(本当はつい先日ワタクシが作った物だけれど……)至剛金ならまだしも、これはウーツ鋼でしょう? そんな高価な物ではないのではないかしら?」
アリエラは嘘を交えつつ、レリーフの作者が自分でないという事をアピールした。
「材質がアダマントなら通常のネフェラリエラの作として……まあ、ちょっとした財産になって終わりでしょうね。
しかしッ! このレリーフはウーツ鋼!
ウーツ鋼が扱われるようになったのは千五百年程前というのが通説ですが、ネフェラリエラがこれを作ったとなると少なくとも二千年以上前にはウーツ鋼の加工技術が存在していたという証拠になるのですッ!!
分かりますか!? このレリーフは『ティトゥラエリン王朝』の謎を解き明かす鍵であり、金属加工の歴史を覆しかねない場違いな遺物なんですよ!
ハァハァ……で!? いくらで譲るんです!?」
「なんだなんだ」「揉め事かぁ?」「いやお宝だってよ」
興奮して捲し立てるラシゴルの剣幕と、その喋っている内容に興味を惹かれた群衆が何事かと集まり始め、アリエラは一気に注目の的となる。
「また問題か?」
「……意外と大人しいですね?」
騒ぎを聞き付けたフュリスとレイメイが呆れながら戻って来たが、ケットシーが間近にいるにも関わらず奇声を上げて撫で回す凶行に至っていない事に少し驚く。
「んん? お連れの方々ですか? この辺りに森妖精の騎士とは珍しい……」
ラシゴルはフュリスの立場を敢えて口に出して集まった群衆を散らしにかかった。
その目論見通り、殆どの群衆はフュリスに何か口煩く言われるのではないかと思い散って行った。
「エルタナ領外の市場をとやかく言うつもりは無いんだがな……」
「……人に聞かれたくない話ならあまり騒がない方が良いと思いますが……ちょっと私たちだけでお話しましょうか?」
ラシゴルの騒いでいた内容を遠くから聞いていたレイメイはこれ以上話が広がらないように人通りの少ない場所にラシゴルを誘導する。
──────────
「この対応……やはりあのレリーフは自分の見立て通りの品物と思って良いんですね?」
人気の無い木造の小屋と小屋の隙間に連れて来られたラシゴルは僅かに恐怖を感じながらも、自分の鑑定が確かなものであるという確信とそれによって学会に齎されるであろう衝撃に期待を膨らませていた。
「ラシゴルさん……でしたっけ? 悪い事は言わないので何も見なかった事にしませんか?」
「あ、レイメイ。一応言っておくけれど、ラシゴルちゃんに危害を加えたらワタクシが赦さなくてよ?」
「元はと言えばアリエラさんが余計な物を作るから──」
「え? 砂漠で拾ったのでは?」
苛立つレイメイが口を滑らせるのをラシゴルは聞き逃さなかった。
「あッ……」
「レイメイ!」
「……アリエラが作者ではマズいのか?」
アリエラの素性を知らないフュリスは何故レリーフの作者を隠すのか分からずレイメイの漏らした情報を補強してしまう。
「そんなバカな……アレは確かに『最後の女王ネフェラリエラ』の作風のハズ……! もう一度あのレリーフをじっくり鑑定させて下さい! 自分の鑑定眼に狂いが──」
ラシゴルは鑑定に間違いがあったのかと思い、背伸びしながらアリエラに詰め寄る。
その時、フュリスの物を含め服や装飾品を買い漁りに行っていたピチカが合流した。
「あ! こんなトコにいたー! ナニしてんの?」
「おやラシゴルも。……揉め事かニャア?」
……ピチカだけではなく、もう一人紳士的な猫口調が聞こえ、どうやら声の主はラシゴルの知り合いであるようであった。
「『アンリ』卿! 卿もちょっと鑑定して頂けませんか!? こちらの方が興味深い品を──」
知り合いが来て安堵したのかラシゴルはアンリなる人物にも鑑定を依頼しようとする。
アンリは立派な襞襟の付いた赤地に金刺繍の貴族服を着たケットシーであったが、通常とは決定的に違う特徴があった。
身の丈程の大鎌を担ぐ身体の首からは可愛らしい猫の顔ではなく黒い靄が溢れており、同じく黒い靄を断面から溢れさせながら宙に浮かぶ羽飾りの付いた帽子を被る頭が喋っている──……
かつて南東群島で行動を共にしたカメリアと同じ首無し妖精という点である。
「カメリーの友達なんだって☆ そっちの三人があーしのツレだよ☆」
「いや〜カメリア卿のご友人に逢えるとはニャア……で、ラシゴル。興味深い品とは?
そちらの──……!?」
挨拶をしようとしたアンリが影の中から一歩踏み出して顔を覗かせたアリエラを見た瞬間、その宙に浮く顔は驚愕に染まり固まった。
「あら〜♡ カメリアが言っていたケットシーデュラハンちゃんね〜♡ 立派なお服着てるのね〜♡
……ん? もしかしてどこかで会った事あるかしら?♡」
いつもの調子で胴体を持ち上げたアリエラはアンリの持ち上げ具合と顔立ちに見覚えがある事に気付く。
「その反応……やはりネフェラリエラ様……!?」
「「「…………!?」」」
「「……?」」
アンリは歴史上の人物としてではなく、目の前のアリエラ自身を“ネフェラリエラ様”と本来の名前で呼び、動揺した『パリピ☆愚連隊』の動きは止まり、状況がよく分からないフュリスとラシゴルは困惑した。
「……もしかして『ロマ』ちゃん?」
「ああ……やはり……ざっくり二千年ぶりですニャア。
お久しゅうございますネフェラリエラ様」
アリエラに『ロマ』と呼ばれたアンリは瞳に確信が宿り、二千年もの時の流れを思い目を細める。
「……確かなんですか? アンリ卿」
「間違い無いニャア。ラシゴル。〈茸環〉の準備をッ。
……ネフェラリエラ様。お連れのお三方も少々──長めにお時間よろしいですかニャア?」
「無限によろしくてよ!♡ いっぱいお話しましょうね〜♡」
「ちょっと待ってください。〈茸環〉って妖精の長距離転移術ですよね? 何処へ連れて行くつもりですか?」
「おっとこれは失礼。先にワガハイの現在の名を名乗らせて頂きましょうか。
ワガハイは『アンリ・ロマネスコ』と申します。
かつてネフェラリエラ様に文字通り可愛がって頂いていた者でございますニャア。
積もりに積もった話もある事ですし……つきましては我らの隠れ里『シレフ王国』へ御招待したい所存ですニャア」
◇〈茸環〉
茸の円環を地面に展開し、長距離を空間転移する妖精の魔術。
特定の配置の茸に妖精の魔力を流す事で、同じ配置の茸の円環へ転移する事ができる。
妖精が作ったものも多いが、単なる自然現象で円環状に茸が生えた場合も多い。




