第八十一話 スグフィクルの正体
登場人物紹介
◇アリエラ
主人公。魔王軍四天王最強の怪力と頭脳を持つ紅一点。
『殲滅女帝』の二つ名を持つ。
褐色肌にボブカットの黒髪、猫のような紅い瞳、獅子の耳と尻尾が特徴の獣人。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者としての二つ名は『爆心地のアリエラ』
触媒を用いればかなりの高出力で樹属性の魔術を操れる。
◇ピチカ
蒼い髪と瞳にギザ歯が特徴のアクセサリー付けすぎなギャルっぽいハーピィ。
異世界転生者。チートスキル【楽々御粧し】の使い手。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』の一応リーダー。
一級冒険者。
現在、〈生命の実〉で捕らえらている。
風属性と水属性の次に樹属性魔術が得意。
◇レイメイ
魔王直属暗殺部隊『五毒姫』の末妹。
白い長髪と肌に鬼灯のように赤い瞳と愛嬌紅が特徴。
魔王特製の最上級キョンシー(札は丹田に貼っている)。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者としての二つ名は『毒蛇姫レイメイ』
植物を育てるのは苦手だが、枯らすのは大得意。
◇フュリス
エルタナ聖王国の女騎士。『百合爵家のフュリス』
小柄な金髪碧眼のエルフで緑基調の騎士装束を着ており、ドングリを発射するウーツ鋼製の銃を使う。
仕事の邪魔をした埋め合わせにアリエラたちが手柄を立てさせてやる事になった。
一から植物を生やすのは苦手だが、既存の植物を魔力で加工するのは得意。
◇スグフィクル
アリエラたちの仕える魔王の妹分にして元『虚飾の魔王』
樹で形作られた“着飾る巨大なクジャク鳥人の千手観音“のような姿をしており、多数のチートアイテムを所持している。
一人称は“アタクシ様”で笑い方は“しゃなりしゃなり”
アリエラに四天王入れ替えの決闘を申し込み、ピチカを自分の専属に勧誘している。
女神を除けば世界最強クラスの樹属性魔術の使い手。
「ほほほ翻意などッそッそそそそんなワケあろうハズが御座いません! 殿下ァ! 私めにはそのようなつもりは毛頭──」
『しゃなりしゃなり……慌てすぎよぉコッコアシュフィー。動揺させる為に難癖を──』
「──殿下も殿下でしてよ!! 即座に否定しなかったという事は魔王の座に返り咲く魂胆でもあるのでしょう!?」「“反逆等準備罪”ですわねッ! ゼブブ卿を呼んでお二人を拘束しなければなりませんわッ!!」
落ち着くよう促すスグフィクルの言葉を遮り、アリエラはそれらしい罪状名を挙げバアル・ゼブブの名前まで出して揺さ振りをかける。
『はァー!? ちょっと過剰反応よ! ゼブブ卿を呼ぶのはやめなさい!!』
「そそッ、そうですぞアリエラ殿ォ! 殿下は私の創造主であるからして敬意が溢れてしまった次第で──」
魔王への反逆という最も恐ろしい容疑をかけられた二人は動揺し、アリエラへの釈明に必死になるがあまり攻撃の手を緩めてしまった。
「(今ね!)──“緋色の亜麻布”」「──“血濡れし産衣”」
その隙にアリエラは右頭で〈太陽帝〉を左頭で〈殲滅女帝〉の詠唱を開始。
二つの術の効果が重なり合い、〈妖樹界〉内の水分は蒸発し、スグフィクルが手に持つ〈犠牲の薔薇〉の花弁が数枚散った。
『あ──! ハッタリね! 小賢しい……!』
「……ッ! よくも私の忠誠を利用したなこのクソ女がァア゛ッ!!」
怒り狂ったコッコアシュフィーは再び魔力を放射し周囲の植物とスグフィクルの術を強化しアリエラへ殺到させるが──……
「──“繋がる絞縄”」「──“飛翔する死”」
二節目の詠唱によって跳ね上がった〈炎獄界〉と〈太陽帝〉の熱によって、アリエラに到達する前に樹槍は炭クズと化してしまう。
「ハァッ、ハァ……おのれ──ぐギャあァア!!」
そこでコッコアシュフィーは限界を迎え、全身が炎上するとその場から消失し、入れ替わりに現れた呼び鈴は燃え尽きた。
『コッコアシュフィー! くッ……よくも!
──〈戦ぎ穿ち〉ッ!!』
まんまとハッタリに乗ってしまい側近を撃破されたスグフィクルは腹立ち紛れに神器【樹形の槍】に高密度の魔力を纏わせて詠唱中のアリエラに投擲する。
しかし──……
「──“身喰らう獅子”…………!」
先んじて発動していた〈炎獄界〉に〈太陽帝〉の詠唱三節目の熱に加わり、【樹形の槍】は瞬く間に炭化。
切先が届く前に崩れ落ち、アリエラに有効打を与えた事にはならず、〈炎獄界〉は〈妖樹界〉を侵掠していく。
「──“四天を束ねよ“」
〈殲滅女帝〉の詠唱三節目に合わせて高まるアリエラの基礎能力と共に超高熱領域は更に広がり、今や結界の半分以上を占めスグフィクルの〈犠牲の薔薇〉は見る見る散華する。
『ぐゥッ……生意気なァ!
(〈戦ぎ穿ち〉を付与した【樹形の槍】で貫けない……!? しかも未だに槍の進化が完結しない……! お兄様や女神以外でありえるの……!?)』
スグフィクルは強気な態度を崩さず攻撃は続けるが、神器による攻撃すら無効化される程の熱に通用するような威力は出せず、アリエラに殺到させた植物は全て灰──……どころか蒸発してしまう。
「──“其は烈日の申し子”
──〈太陽帝〉……!」
『ぐギィッ……こっここ、この程度でェ……!!』
完全詠唱に至った術の閃光が〈妖樹界〉内部を染め上げると、スグフィクルの身体は崩壊を始め、その飾り羽根にくっ付いているピチカとマザー・フィオーラを保護している〈生命の実〉は軋みを上げる。
「殿下……そろそろ降参なさってくださりませんこと? 〈生命の実〉も限界が近いでしょう? このままではピチカとマザー・フィオーラを灼き殺してしまいましてよ」
詠唱が完了し自由になったアリエラの右頭はスグフィクルを優しい口調で諭す。
『アタクシ様の術を見縊るつもり……!?
この程度──……』
「これ以上悪あがきなさるのなら、同胞を危険に曝したと見做して……本当に反逆者として消えて頂きますけれど……御覚悟はよろしくて? 殿下」
「──“曙光曳く指”……!」
アリエラは抵抗しようとするスグフィクルに最終警告をすると、〈殲滅女帝〉の詠唱を継続して熱量を更に上昇させる。
最早結界の優劣は完全にアリエラ側に軍配が上がり、〈妖樹界〉は〈炎獄界〉に塗り替えられた。
『おッ、おのれェ…………!』
ただでさえ八方塞がりとなったスグフィクルの身体の無数あった腕までも次々に崩れ落ち、地面に落ちた神器が蒸発していく。
「ああ……もう……殿下を殺めて魔王陛下からの心象を悪くしたく無いので失礼を承知で引っ張り出させて頂きますわ……ねッ!!」
脅しても退かない様子を見て焦れたアリエラは飛び上がり、炎上するスグフィクルの胸の中心に腕を深々と突き立てた。
『……〜ッ! や、やめ──……』
僅かに身を捩る必死の抵抗も虚しく、アリエラはスグフィクルの胸から人間一人が収まりそうな大きさの黒い涙滴形の種子を引っ張り出す。
特別熱に強い植物なのかアリエラに直接握られて焦げはするものの種子は蒸発せずに耐えている。
しかし──……
「至剛金を握り潰すワタクシの掌中に入って耐えられるとお思いで? 詰みでしてよッ殿下」
『うぅうう〜……!!』
アリエラの強化された握力に抗える強度は無く、種子が形を変え始めた頃、スグフィクルは敗北を認めたのであった。
◇
「お、おい! 煙が出てるしなんか異常に暑いぞ!? 本当に大丈夫なのか!?」
「大丈夫ですよ……多分」
決着が付いてからしばらく、避難していたフュリスはレイメイの伸びた腕にしがみ付いて戻って来たが、単に“火を使った”では済まされない黒煙と熱に慄く。
結界を展開しておいたおかげでアリエラとスグフィクルが戦った場所は綺麗な円形の焦げ跡ができていた。
「“多分”って……おーい! 無事なのかー!?」
着地した樹の上からフュリスが声を掛けると、下方から返事が返って来る。
「こっちよ!」
「アーちゃんが勝ったよ〜☆」
第二形態を解除したアリエラと〈生命の実〉から解放され自由になったマザー・フィオーラ、そしてピチカが地上から声をかけて来た。
「おお……勝てたんですね」
「殿下が慢心していなければ結果は逆になっていたでしょうけれどね……」
「で、その殿下とやらは? あの巨体が見当たらないが……まさか殺したのか?」
フュリスは見上げる程の荘厳な巨体であったスグフィクルの姿を探して周囲を見回すが、どこにもそれらしき巨体は見当たらなかった。
「まさか。殿下ならここにいらっしゃるわ」
アリエラは自分の足下に転がる灼け焦げた大きな種子を指差す。
「これが……!?」
「ちょっとフュリスさん。口の利き方には気をつけてくださいね。機嫌を損ねると面倒なんですから」
「ちょっとレイメイ。聞かれたら面倒よ」
「皆様、殿下の御前ですよ」
「アーちゃんも今の聞かれたらマズいんじゃ──」
『──……聞こえてるわよ』
口々に出る失礼な物言いをマザー・フィオーラとピチカが止めようとしたその時、一行の頭の中に種子の内部に籠るスグフィクルの念話が響いた。
「あッ……殿下。お久しぶりです……」
「あら。ずっと黙っているから気絶しているのかと……では殿下…………御尊顔を拝見させて頂き……ますわねッ」
それを聴くや否やアリエラは種子に十指をめり込ませ無理矢理に外殻を引き裂き始める。
『な゛────────ッ!?
やめなさい! やめなさいったら!」
抵抗すべく魔術を発動させようとするが、それより早くアリエラに種子を引き裂かれ、念話ではなくスグフィクルの肉声が響いた。
「ななな何やってるんですかアリエラさん!!」
「そうです無礼ですわアリエラ様!」
この暴挙には当然レイメイとマザー・フィオーラが止めに入るが一歩遅く、種子からスグフィクルの本体が転がり出る。
「へぇ……直接お会いするのは初めてですけれど……随分と可愛らしい御姿ですこと」
「うゔ〜……ッ!」
露わになったスグフィクル本体の人型の部分は顔立ちの整った灰色の髪と瞳の少女であった。
アリエラとの戦闘時に纏っていた派手な外装とは真逆の地味な白シャツを身に付けている。
そして何より特徴的なのは手脚が鳥類のそれになっている点である。
しかし、手脚が鳥類とは言ってもピチカのように猛禽のものでは無く、翼腕は鰭翼になっており、鳥脚の指と指の間には皮膜が張って水掻きになっていた。
端的に言うと、スグフィクル本体はペンギンの擬人化のような姿の少女だった。
◇
「やだやだやだやだ!!
アタクシ様が“四天王最強の怪力と頭脳を持つ紅一点”になるのー! アリエラずるしたもん! ホントならアタクシ様の勝ちだったんだからー!!!」
「“ずる”……? 聞き捨てなりませんわね……“駆け引き”と言ってくださいませんこと?」
本体を露わにされたスグフィクルは地べたを転がり回り両手のフリッパーを振り回して駄々をこねるが、アリエラは毅然とした態度で反論した──
「ずるしたー!!」
……が、スグフィクルは聞く耳を持たず暴れ続ける。
「……本当に『虚飾の魔王』なのか?」
「あの状態の殿下でも常人が迂闊に触れると手足が飛ぶ威力があるんで気をつけてくださいね」
「ギャヒィ……しっかり魔王してる〜……」
レイメイはピチカとフュリスが近付かないように手で制した。
「ハァ……ピチカ。ちょっと殿下に服や装飾品を貸して上げてくれる? そうしたら少しは機嫌を直して下さると思うから……」
「本人を目の前にそんな事言うなーッ!!」
「ギャヒヒ……それじゃお着替えさせていただきまーす☆」
駄々をこねる姿と自分と同じく鳥類の手脚を持つスグフィクルに親近感が湧いて緊張が解けてきたピチカは軽く請け負い神業【楽々御粧し】を発動する。
スグフィクルの長い灰髪は二つ括りにされて大量のフルーツの髪飾りや小さなぬいぐるみが付けられ、上半身はピンクのヒョウ柄ファーコートに原色の塗料をぶち撒けたような柄のランニングシャツ、下半身は蛍光グリーンのキュロットスカートを履き虹色のボーダーソックスが装備された。
ピチカと同じく鳥脚であるため、靴は履かずに左右三本の爪が様々な色に塗られている。
「普通の服で良かったのだけれど……」
「えー? でもあーしのセンスいいって言ってくれたしこーゆーの好きかなーって☆」
「まあ殿下なら嫌いではないでしょうが……」
「いつ着る想定の服なんだあれは?」
「へへ……」
他からの反応はイマイチだったが、当のスグフィクルは気に入ったのか顔を綻ばせていた。
「ほーら! スグちゃん殿下も気に入ってる!」
「ちょッ、ピチカさん! 不敬ですよ!」
「殿下って付けてるから良いよ……へへ……」
「だってさ☆ (でも全然“しゃなりしゃなり”って言わなくなったな……)」
「……殿下が良いならそれで良いですが……それで魔王城にはもう帰られるんですよね? もちろん」
「アリエラがずるしたから嫌!!」
「陛下にもその言い訳が通用するか試してみては如何ですか殿下?」
「ゔ〜……ッ! でもせっかく出かけたんだから何かお土産欲しい! 『薔薇の血族』真祖の配下欲しい!」
再び駄々をこねるスグフィクルの言葉に全員の動きが止まった。
「『薔薇の血族』……? しかも真祖がこの大陸に居るんですの?」
「知らないけど何体か『薔薇の血族』の吸血鬼が居たから多分真祖も居ると思うわ」
「薔薇というと……エルタナの大貴族にも居ましたよね?」
「『薔薇爵家』の事か? さすがにその関連付けは安直じゃないか?」
話の流れでフュリスが注目されると、スグフィクルは首を傾げてフュリスの周囲をうろつき、幼児のような口調を止めて質問する。
「──ところでアナタは誰なの? 魔王軍ではないわよねぇ?」
「え、あ〜……私はエルタナの騎士で『百合爵家のフュリス』と申します。お目に掛かれて光栄です殿下(しかしすごい服装だな……)」
さすがに他国の王族相手に高圧的に出るような事は無く、フュリスは本音を隠しながら挨拶した。
「ちょっと色々ありまして手柄を立てる手伝いをしながら鍛えていますの」
「ふぅ〜ん……弓矢じゃなくて銃を使うのね?」
「ええ! 弾にはこのドングリを使うんです! ご覧になりますか!?」
新しい自分の武器を自慢したくて仕方ないのかフュリスはドングリを魔力で浮遊させて狙撃銃を構えて見せる。
「自慢したいだけなのは分かってますけど、殿下の前で武器構えないでくださいねフュリスさん」
「あッ……そうだな。失礼致しました殿下。敵意は無いので何卒お赦しを……!」
「別に気にしてないから良いのよぉ? ……でもアリエラたちと同行するなら、これからヴァンパイア討伐にも参加するのよね? ただのドングリが弾じゃ厳しいんじゃない?」
「それは……そうなのですが、まあ補助くらいは可能かと……」
「でもアナタ単独でも討伐できた方が良いでしょう?
今アタクシ様は機嫌が良いから良い物をあげるわ」
そう言うとスグフィクルは魔力を地面に照射し、小さな苗木を生やした。
苗木にはフュリスが弾丸にしているドングリと同程度の大きさの“銀色のドングリ“が成っている。
「これは……!?」
「銀とドングリの性質を併せ持つ金属植物よ。これならヴァンパイアの再生を阻害できるから急所を撃ち抜けば斃せるハズよ。
魔力を込めて植えればまた苗木を生やせるから一つはドングリを残しておきなさい。
あ、でも『薔薇の血族』真祖はアタクシ様の配下にするから心臓は撃たないようにして頂戴ね?」
「お、おお……ありがとうございますッ! 善処致しますッ! (なんて都合の良い物を……これが悪魔たちの王たる力か……)」
フュリスはあまりにも自分に都合の良い贈り物に戸惑い戦慄しながらも、深々と勢いよく頭を下げて礼を言った。
「よかったわねフュリス。……それで殿下はもうお帰りになられるのですわよね?」
「なんでそんなすぐに帰らせようとするのォ!?」
「(そりゃそうでしょ……)魔王陛下が御心配なさっていましたよ殿下」
いつまでも帰ろうとしないスグフィクルに辟易としたレイメイだったが、顔には出さずに魔王の名を出して説得する。
「お兄──陛下が!? ふへへ……じゃあ帰る!」
「(ブラコンで助かった……)それがよろしいかと。では一応帰りの護衛は私が務めるので一時離脱という事で──」
レイメイは王妹をこれ以上一人で行動させるワケにもいかないと判断し、護衛に名乗りを上げようとした時、しばらく黙っていたマザー・フィオーラが歩み出る。
「僭越ながら護衛は私にお任せ下さい。殿下の御身は私と分身たちが命懸けで御守り致しますので。
さあ皆おいでなさい……殿下の玉体に傷一つ付けてはなりませんよッ」
「ギチギチ……」「ギチャチャッ……」
「ギギギ……」「ギギィー……」
マザー・フィオーラが呼びかけると、周囲の茂みからワラワラと巨大なカマキリたちが顎を軋ませながら現れた。
「「「ひ ィ イ イ ! ?」」」
悍ましい光景にスグフィクル・ピチカ・フュリスは思わず悲鳴を上げる。
「ワッ、ワタクシ様ッひとりッ一人で帰れる!!」
スグフィクルはこの後の展開を予測して必死に断ったが──……
「無茶をなさらないで下さい殿下。アリエラ様との戦いでお疲れでしょう? さあ皆、殿下をお運びして?」
マザー・フィオーラは聞く耳を持たず分身をスグフィクルに殺到させ、胴上げのようにして運ぶ。
「い゛や゛──────ッ!!」
「ウフフ……殿下はいつまでも幼子のようで母性が刺激されますわァ……。
殿下を魔王城へお送りしたら再びこの大陸に戻って来るのでまた近い内にお会いしましょうね? ではッ」
マザー・フィオーラは軽く別れの挨拶を済ませると、バッタのように跳躍してスグフィクルを運ぶ分身たちを追い去って行った。
「……嵐のようだったな」
「それな〜……」
「さすがに疲れたわ……」
「……でしょうね。
では当初の予定通り近場の里に寄ってフュリスさんの身支度をして、観光しながらフュリスさんのコネを使って『薔薇爵家』に探りを入れましょうか」
「コネって……あまり期待するなよ? そもそも薔薇で貴族だからってヴァンパイアと決め付けるのはな……」
「もし本当に貴族にヴァンパイアが紛れていて、それを討伐できれば明確に手柄ですよ?」
「そうね。森で魔物退治よりは大きな功績になるでしょうね」
「──! よしッ! ヴァンパイア狩りだッ!」
「リスちゃんゲンキンだな〜……」
こうして立て続けに挑戦して来た二名を退けたアリエラと一行は南西大陸の旅を続行するのであった。
◇『虚飾の魔王スグフィクル』
身を引き裂いた『混沌の女神』の血肉から顕現した九柱の魔王の一角。別名『樹の魔王』
一般には“天衝く巨躯に無数の腕、武芸百般に熟達した絢爛たるクジャク鳥人“の姿をしているとされる。
……が、その姿は外装であり、武芸に関しては自らの権能やチートアイテムによるものである。
本体は“灰色の髪と瞳をしたハーピィの鷲部分をペンギンに変えたような少女”の姿をしている。
魔王同士の争いが発生した際、真っ先に『傲慢の魔王レフィクル』と組み、魔王の証たる金仮面と魂の一部を渡す見返りにレフィクルの妹分となり『強欲の魔王』の魂の一部を分け与えられている。




