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第七十七話 『伐採部隊』のソーニャ

登場人物紹介

◇アリエラ

主人公。魔王軍四天王最強の怪力と頭脳を持つ紅一点。

『殲滅女帝』の二つ名を持つ。

褐色肌にボブカットの黒髪、猫のような紅い瞳、獅子の耳と尻尾が特徴の獣人。

冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。

特級冒険者としての二つ名は『爆心地のアリエラ』

魚人顔負けの速度で泳げる。


◇ピチカ

蒼い髪と瞳にギザ歯が特徴のアクセサリー付けすぎなギャルっぽいハーピィ。

異世界転生者。チートスキル【楽々御粧し】の使い手。

冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』の一応リーダー。

一級冒険者。

泳ぐ時は水中で羽ばたくように泳ぐ。


◇レイメイ

魔王直属暗殺部隊『五毒姫』の末妹。

白い長髪と肌に鬼灯のように赤い瞳と愛嬌紅が特徴。

魔王特製の最上級キョンシー(札は丹田に貼っている)。

冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。

特級冒険者としての二つ名は『毒蛇姫レイメイ』

全く音を立てずに泳ぐ事ができる。


◇フュリス

エルタナ聖王国の女騎士。『百合爵家のフュリス』

小柄な金髪碧眼のエルフで緑基調の騎士装束を着ており、手作りの銃を使う。

仕事の邪魔をした埋め合わせにアリエラたちが手柄を立てさせてやる事になった。

まともに泳いだ事が無い(カナヅチ)。



 ◇



 ──ウーツの樹──

 灼熱の荒地に生える金属のような質感の植物であり、樹液を現地で採れた砂や灰と混ぜ、坩堝(るつぼ)にて精錬する事で美しい木目模様の鋼“ウーツ鋼”を製造できる不思議な樹である。

 とはいえウーツの樹は並の金属を優に上回る強靭さを誇るため、加工には手練れの木樵(きこり)が必須なのだ。

────────────────


フンフフ〜ン♪(ギュイィイイイッ!!)

ニャッ!(ギィッ)」「ニャッ!(ギィ!)


 そんなウーツの樹が群生する南西大陸の南東端に位置する荒地に、大量の可愛らしい当て布(アップリケ)の付いた作業着(オーバーオール)を着て、鼻唄混じりに鎖鋸(チェーンソー)や両手鋸を挽き騒音を奏でる者たちがいた。

 魔王軍上級工作員『ソーニャ』とその部下の猫妖精(ケットシー)たち……通称『伐採部隊』である。


「ニャハハハ! よーし、もう充分回収したナ! 今回の遠征はおしまイ!

 魔王城(ウチ)に帰る前にマングローブ市場に寄ってくかナ〜!」


 そり返ったネコ耳と尻尾そしてサメのようなギザ歯が特徴の獣人ソーニャは、火花を上げる刃がウーツの樹の幹を半ばまで切り流れ落ちる黒い樹液を漏斗で坩堝に流し込み回収すると、語尾が跳ね上がる独特の口調で部下たちに作業終了の号令を出した。


 その時、荒地と森林部の境目で見張りをしていたケットシーたちがひどく慌てた四足走行で駆けてくる。


「大変だーッ! ()()が向かって来てるーッ!」

「しかも走ってる!!」


 魔王軍所属のケットシーの言う“ヤツ”──当然アリエラの事である。


「んニャッ!? ヤツはお前らとは接触禁止のハズだロ!? 仮拠点(アジト)に隠れろーッ! アタシが時間を稼グッ!」

 ソーニャは部下のケットシーたちを避難させてチェーンソーの発動機(エンジン)をかけ、アリエラを迎え撃つ準備をした。



 しばらくすると、意気揚々とアリエラが駆けつけた。


「久しぶりね! ソーニャ! 他のメンバーは何処!?」

「えェ〜ト……アイツらなら先に魔王城(ウチ)に帰らせちゃったヨ?」 


 ソーニャが部下をアリエラから守るための嘘を吐いた瞬間、アリエラが豹変する。


「は? ……(ガッ)国外からケットシーちゃんたちだけで?」

痛い痛い痛イ!!(メキメキメキ……) ウソウソ! アジトにいますっテ!!」

  

 アリエラに頭を握られたソーニャはあっさりと部下の居場所を吐いた。


「やっぱり? まだ匂いが鮮明に残っているものね……♡」

 ソーニャの頭から手を離したアリエラは痕跡を辿ってケットシーたちを探し始める。


「え、ちょっト! アリエラさん陛下から接触禁止令出されてンでショ!? 命令違反ダ!!」

接触禁止令(それ)は魔王城内での話よ。そしてここは魔王城ではないの。みんな出てらっしゃ〜い♡」

 

 ソーニャを言い負かしたアリエラはケットシーたちの捜索を再開し、ソーニャに背を向けて歩き出した。


「(ア、アタシがアイツら守護(まも)らなきゃ……!)

 うウッ……うぉおおおオッ!!(ギュイィイイイッ!)

 隙を見せたと判断したソーニャは意を決してチェーンソーをアリエラの脳天目掛けて振り下ろすが──……


……(パシッ)ワタクシに挑むなら相応の覚悟はしているのでしょうね?」

 アリエラは難なくチェーンソーを指先でつまんで止めて見せた。

 

「ちょっとアリエラさん! やめてくださいよ!」

「もうケンカになってんの!?」

「血の気の多い奴らだな……」


 ソーニャが半殺しにされる覚悟を決めかけたその時、レイメイを先頭にアリエラを追いかけて来た一行が割って入った。


「あッレイメイ様ァ! 助けテ!」

 上司にあたるレイメイの助太刀に希望を見出したソーニャは半泣きでチェーンソーを放り出して駆け寄る。


「ここまで拒絶されるとさすがに傷つくのだけれど……」

「多分アリエラさんが悪いと思いますよ……」

「あーしもそう思う……」



 ◇



「……──な〜んだウーツ鋼が目当だったのカァ。いっぱい採れたから銃の部品作るくらいの量なら余裕だゾ!

 ……でもサァ……いいノ? 銃なんか渡しちゃってサァ……エルタナの騎士でしょソイツ」


 一行が事情や経緯を説明してやるとソーニャはその過程でアリエラの予想通りピチカと容易く打ち解け、ウーツ鋼の融通を快諾したが、明らかに魔王軍ではないフュリスを警戒しているようだ。


「ワタクシたちの活動について口を噤む代わりにちょっと手柄を立てさせてやる事になったのよ。今のままでは論外の弱さだから仕方なくね……もちろん悪用しないように躾けるから心配無くてよ」

「誰が悪用など──……ふんッ……」


 アリエラの言葉に反論しようとしたフュリスだったが、疲れた様子を見せて黙ってしまった。


「なんかやつれてル? ご飯食べさせて貰ってないノ?」

「リスちゃんてばあーしたちが獲った肉とか全然食べてくれなくてさー……“ソーにゃん”からもなんか言ったげてよ〜」

「ここまで来る数日間で非常用の携帯食料しか口にしてないですからね……碌に眠れてもいないようですし」

「思っていたより箱入り娘だったようなのよね……」


「なッ……誰が箱入り──うぅッ……!」

 魔王軍組に好き勝手言われたフュリスは空腹に睡眠不足が祟ったか立ちくらみを起こした。


「なんで肉食べないノ?」

「……手柄や武器に加えて食事までコイツらの世話になっていたら『百合爵家』の名折れだろう! 自分で獲った物しか食べん!」


 フュリスの意見を聞いたソーニャは呆れたような表情を見せた。


「あのサァ……キツい言い方かも知ンないケドやる気無いならやめたラ?」

「なんだと!? やる気が無くて国外にまで来るワケないだろう!!」


「“やる気有りますアピール”の為に国外まで来ンのは大したモンだけどサァ〜……病気とからならしょうがないケド、自分から体調崩しにいってンのは論外でショ。体調管理だって仕事の内だロ〜?

 しょうもないプライド守ろうとするヒマがあったら自力で食糧調達できるようになるまで鍛えて貰ったりすれバ? できないからやつれてンでショ?」


「……ッ」

「職務放棄してるアリエラさんと違って説得力が有りますね」

「何故ワタクシに矛先が向いたのかしら……」

「ま、まあまあ……でもソーにゃんの言う通りさ、ただ手柄もらうんじゃなくて実際リスちゃんが強くなった方が良くない?」


 ソーニャの厳しい指摘にぐうの音も出なくなったフュリスは決心のついた表情でアリエラたち三人に向き直り──


「確かにそうだな……(バッ)改めて頼む! 私を騎士として充分に働けるよう鍛えてくれ!

 チーム『パリピ☆愚連隊』よ!!」


「ンニャハハハハッ!!! なンだそのチーム名!」

 

頭を下げた事で生まれた真面目でいい感じの雰囲気はソーニャの爆笑で霧散した。



 ◇



 ──数日後……。


「呼吸を止めて……今です(パァンッ)

 観測手(スポッター)を務めるレイメイの合図と共に、木目模様の銃身から空気の炸裂する音が早朝の荒地に響き、弾丸のように研ぎ澄まされたドングリが回転しながら射出されウーツの樹に掛けられた的を貫いた。


「あ、当たったぞ! 褒めろ!!」

「動く的に当てられたら褒めてあげますよ」


 アリエラとソーニャたちが作った銃は全部で三挺。

 一見すると燧発式(フリントロック)短銃(ピストル)が二挺に狙撃銃(スナイパーライフル)が一挺である。

 

 通常、金属が使われる部品には鋳造されたウーツ鋼が使われ、木製の握り手(グリップ)部分には共通で『百合爵家のフュリス』の持ち物である事を示すため百合の彫刻が施されており──アリエラは猫を彫ろうとしたが却下された──、本来なら火打石が付いている撃鉄(ハンマー)部分にはフュリスの魔力を増幅させて銃身内に空気を送るための小さな蒼い魔石がはまっている。


「おぉ〜☆ リスちゃんサマになってるじゃん☆」

「うんうン! 木材譲ってやった甲斐があるってモンだよな〜ピチカ!」


 ピチカは数日で更に仲が良くなったソーニャと自らの服や装飾品を神業(チートスキル)楽々御粧し(ドレスアッパー)】で目まぐるしく換装しながらフュリスの周囲を跳ね回った。


「……やたらと荷物が少ないと思っていたら、まさか神業(チートスキル)保有者だとはな……私は気にしないが、『薔薇爵家』派閥の領地に入る時は気をつけろよ。難癖つけて捕らえてくるかもしれない……ぞっ!(パァンッ)

 フュリスはピチカに警告をしながら魔術で見えない弾帯(リンクベルト)に収まっているかのように整列して浮かぶドングリ弾を一つ装填し、再び的を貫いた。


「試射は問題ナシ……次は実戦ね。早速森に入って“奉仕活動”とやらに興じましょうか?」

 ケットシーたちに逃げられて戻ってきたアリエラは無償で協力させられる事を思い出し、嫌味混じりに西の地平線に広がる森を指差した。


「そうだな……魔物退治や狩りに使えなければ意味が無いからな……行くか!

 ソーニャ。世話になったな。ありがとう。……エルタナ領内の木は切るなよ! じゃあなッ!!」 


 フュリスは照れ隠し半分に、慣れない銃の重みに振り回されながら走り去って行く。


「まだ弱いんだから単独行動は止しなさい」

「今からその調子じゃバテますよフュリスさん」

「リスちゃんまって〜! あ、ソーにゃんまたね☆」


「ンニャハハ……そンじゃアタシらも帰るワ!

 アリエラさン! 国際問題起こすなヨ! 

 レイメイ様! ……は心配無いナ。

 ピチカ! アリエラさんに嫌気差したらウチのチームに来いよナ〜! 歓迎するゾ〜!」


 帰り支度をしながら駆け出す一行をソーニャは大きく手を振ってを見送った。



「いや〜アーちゃんの言った通りソーにゃんとはすぐ仲良くなれたね☆」

「でしょう? なんだか似ている気がしていたのよね。二人ともサメ魚人の混相だし……」

「実は生き別れの姉妹だったりするんじゃないですか?」


「まっさか〜! そんなできすぎた話あるワケないじゃ〜ん」


 ソーニャがピチカの異母姉であると判明するのは少し未来の話である。

◇ソーニャ

魔王軍上級工作員『伐採部隊』隊長。女。18歳。北西大陸出身。

ネコ獣人の母とサメ魚人の父の間に生まれた混相の獣人。

昔は水中で呼吸ができたので魚人の父と海中で暮らしていたが、思春期頃から息が続かなくなってしまったので地上で暮らすようになり林業に就いた。

紆余曲折あり好条件で雇ってくれる魔王軍に部下のケットシーたちと共に参入。

アリエラの事は割と苦手。

実はピチカの異母姉であるが、お互いにその事は知らない。

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