第七十六話 奉仕活動
登場人物紹介
◇アリエラ
主人公。魔王軍四天王最強の怪力と頭脳を持つ紅一点。
『殲滅女帝』の二つ名を持つ。
褐色肌にボブカットの黒髪、猫のような紅い瞳、獅子の耳と尻尾が特徴の獣人。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者としての二つ名は『爆心地のアリエラ』
自分の二つ名はあまり好きではない。
◇ピチカ
蒼い髪と瞳にギザ歯が特徴のアクセサリー付けすぎなギャルっぽいハーピィ。
異世界転生者。チートスキル【楽々御粧し】の使い手。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』の一応リーダー。
一級冒険者。
荒事にはあまり関わりたくない。
◇レイメイ
魔王直属暗殺部隊『五毒姫』の末妹。
白い長髪と肌に鬼灯のように赤い瞳と愛嬌紅が特徴。
魔王特製の最上級キョンシー(札は丹田に貼っている)。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者としての二つ名は『毒蛇姫レイメイ』
戦闘になる前に事態を治めるのが最善だと思っている。
◇フュリス
エルタナ聖王国の女騎士。『百合爵家のフュリス』
小柄な金髪碧眼のエルフで緑基調の騎士装束を着ており、手作りの銃を使う。
仕事の邪魔をした埋め合わせにアリエラたちが協力して手柄を立てさせてやる事になった。
本格的な戦闘経験はほぼ無い。
◇
「ところで……フュリスさんはなんで銃を使おうと思ったんですか?」
移動中、レイメイはピチカに肩を掴まれて飛んでいるフュリスに質問した。
「……さっきも少し話したが私は魔術の才に乏しく、部下や同僚たちのように何も無い所から植物を生やしたりする事が不得手でな……かと言って体格も小さく接近戦も苦手で強い弓を引けるような筋力も無いから、他所の大陸で流行っている銃の情報をできる限りかき集めて見様見真似で銃を作ってみたんだ。
幸い既存の植物を加工する魔術と風の魔術なら少し得意だったからな……まあ、貴様らにはまるで通用しなかったワケだが……ハァ……」
質問に答えたフュリスは銃撃をあっさりと防がれた事を思い出し、溜め息を吐いて項垂れる。
「うぉあッ……急に力抜かないでよー! あっぶないな〜ヒュ……ファ……フュリスさん……。
……呼びづらいから『リスちゃん』って呼んでいい?」
「……好きにしろ……それだと『百合爵家』の女子の大半は『リスちゃん』になってしまうが……どうせ会う事も無いだろ」
ピチカには“フュ”が発音し辛いらしく、フュリスはピチカからは『リスちゃん』と呼ばれる事になった。
「銃の事に話を戻すけれど、部品に金属は使えないの? 全て植物製ではワタクシやレイメイに効かないのはもちろん、ピチカにだって何十発も当てなくては効果は薄いと思うのだけれど……」
「……何十発も当てないでね?」
「心配しなくてもそんなに撃てないが……金属か……どうしても火を使う都合上、エルタナでは厳しいだろうな……冶金は『椿爵家』の特権だし、いくらコネを使ってもな……」
「『椿爵家』ってカメリアの実家よね?」
「そういやカメリーは金属の剣使ってたよね〜」
アリエラはかつて南東群島の旅に同行していた特級冒険者『首愛でるカメリア』の身の上を思い出した。
「そうか……特級冒険者ならカメリア卿とも面識があるか。……写真撮られたか?」
「ええまあ……一時期同行していたので……。
それより金属加工が難しいなら私に提案が──……おっと……手練れの登場ですかね」
レイメイがカメリアの話題を流してある提案をしようとした瞬間、跳び移ろうとしていた巨大樹の幹に行手を遮るように矢が突き刺さった。
「──……狼藉もここまでだ! フュリス卿を解放して縛につけ! ……さもなくば斬るッ! 総員抜剣ッ!!」
刺さった矢を目印に十数名程のエルフの騎士たちが周囲を囲むように空間転移で現れ、隊長らしき騎士の号令に合わせて全員が金属製の長剣を鞘から抜き構える。
「噂をすれば……というヤツね。金属製の武器という事は『椿爵家』の刺客ね? 随分早く救助が来たじゃない……アナタ自身が思うよりは家から大事にされているのではなくて?」
「役立たずとはいえ攫われっぱなしでは我が家の沽券に関わるからな……ここは私が話をつけるから合わせてくれ」
フュリスはピチカの脚から降りて巨大樹の枝に着地し、刺客の隊長と対面した。
「さあ! フュリス卿こちらへ!」
『椿爵家』の隊長はアリエラたちに切先を向けて警戒しつつにじり寄り、フュリスに手を差し伸べる。
「あー……『椿爵家』の方々かな? 救助には大変感謝するが、此奴らとは不幸なすれ違いがあって……その……つい先刻和解したので救助は不要となったのだ! というワケでここは退いて──……」
しどろもどろに経緯を説明するフュリスに『椿爵家』の刺客たちは怪訝な顔をした。
「フュリス卿……脅されていますな?」
「え!? いやいやそんな……なあ!? 和解したし仲良くなったよな!? ……アリエラちょっとこっちへ……頭を出してくれ」
「? なあに?」
アリエラは自分たちへの容疑を晴らすためなので素直に指示に従い、身を少し屈めて頭をフュリスの方に差し出す。
「フンッ!」
すると差し出されたアリエラの頭をフュリスは叩き始めた。
「フュリス卿!? なにを──……」
「ほら! 脅迫されているならこんな事ができるワケがないでしょう!?」
「…………ッ」
気安い仲である事をアピールするためアリエラの頭を勢いよく叩くフュリスに『椿爵家』の刺客はたじろぎ、ピチカとレイメイは顳顬に青筋を立てて耐えるアリエラから半歩距離を取った。
「わ、わかった、わかったから止されよフュリス卿」
刺客もアリエラがどんな人物が聞いているのか、慌ててフュリスの暴挙を止める。
「……というワケで和解済みなので追跡は必要なくなりましたが──……勘違いとはいえ取り締まりの妨害をしたのは事実なので、南西大陸にいる間は此奴らを私が監督しながら奉仕活動をさせるという約定を交わした次第でありますッ!!」
フュリスは敬礼しながら早口で今後の行動指針を示し、『椿爵家』の騎士たちから距離を取った。
「うーむ……そういう事ならば上には我々から伝えておくが……イルネス殿! こちらへ!」
怪訝そうではあるが一応納得した『椿爵家』の騎士は最初に矢が飛んで来た方向に向けて声をかける。
「なんだもう終わったのか〜!?」
すると上空から軽装に様々な種類の矢が収まった矢筒を身に付けたタカ鳥人──特級冒険者『千里穿ちのイルネス』が現れ、近くの枝に着地した。
「アラ、お久しぶりね。ワタクシが作ってあげた矢の調子はどう?」
「おう、すげぇいい具合だぜぇ! そう言うアンタらはまた色々とやらかしちまってるようだな……」
輝鋼銀の矢の出来にご満悦のイルネスだったが、すぐにアリエラたちの現状を思い出し遠い目をする。
「もう和解したから問題無くてよ。それよりギルドにこの事伝えておいて頂けるかしら。ワタクシたち奉仕活動に従事する事になったみたいだから……」
アリエラは“雇う“という話を勝手に“奉仕活動“に変えたフュリスを睨みつつ、イルネスに軽く事情説明をした。
「奉仕ィ? そりゃ別にいーけどよ……あんま問題起こすなよ?
あ、そうだ最近この大陸でやたらと吸血鬼が出るから気ィつけろよな。まあアンタらなら特に問題無いとは思うが……」
「どの血族かしら」
「さあ……オレが遭遇した奴らは低級すぎてよく分かんなかった。でもアレじゃねぇかな『竜血のエルトート』とかいうヤツ。
アンタ確か他の『指輪付き』にも狙われてんだろ?」
「ええ。死んだ双子の姉……のようなモノが『指輪付き』として南方大陸で襲撃して来たわ。見た目はワタクシにそっくりだけれど髪が長いから見分けはつくと思うわ」
姉について話すアリエラをレイメイは一瞬止めようとしたが、容姿の似ている姉が起こした問題をアリエラの仕業にされるよりは情報を共有した方がマシだと判断し、アリエラの語るままに任せた。
「は!? マジかよ……じゃあ南方の特級案件の魔物が何体か行方不明になってんのってもしかして──……」
「ワタクシと姉上擬きの戦いに巻き込まれて死んだのではないかしら……何体か魔物を巻き込んだ覚えはあるけれど……依頼を受けたワケでもないから報酬は結構よ。
それではワタクシたちはしばらくフュリス……卿と一緒に行動するからエルタナ聖王国と冒険者ギルドの上層部に確と伝えておいて頂戴ね」
「ハイよ。いや〜ドンパチにならなくて良かったぜェ〜……特級二人も相手なんて命がいくら有っても足んねぇよ……リッキーは一緒に来てくんねぇし、カメリアが居りゃあ押しつけてたんだがな……騎士らの親戚だろ?」
「親戚というか……先代当主ですな……『椿爵家』は距離を置かれてしまっていますが……」
「ふーん……そんじゃ帰るか。じゃ重ね重ね言うがあんま問題起こすなよー」
イルネスは樹の幹に刺さった矢を抜き、魔力で形成した弓に番えて放つと、空間転移を発動して『椿爵家』の騎士たちと共に姿を消した。
「ふぅ……意外とアッサリ引き下がったわね」
「『百合爵家』の力ですかね……」
「早めに解決できてよかったね☆」
「ああ! それで何か提案があると言っ──……お、おい、何故担ぎ上げるんだ!?」
アリエラはフュリスの言葉を遮り、やや乱暴に担ぎ上げる。
「……それでレイメイの提案とは?」
質問を無視するアリエラはフュリスのしようとしていた質問をレイメイに投げかけた。
「あー……ここから南──エルタナ領を抜けて大陸の南東端あたりに“ウーツの木”の群生地があったハズなので行ってみませんか?
普通の金属加工が難しいなら“ウーツ鋼”で銃の部品を作るのはどうでしょう」
「なるほど……たしかにウーツ鋼ならうってつけの素材ね。
それに……そのあたりには『ソーニャ』がいたハズよね? 楽しみだわ……」
レイメイの提案したその場所に覚えがあるアリエラの顔が気色悪く綻ぶ。
「……魔王軍のヒト?」
「ええまあ……工作員です」
「お、おいこの大陸に何人潜り込んでいるんだ貴様ら!? あと早く下ろせ!」
担がれたフュリスが暴れるが、アリエラは微動だにせず無視して会話を続ける。
「そういえばソーニャってピチカに似ている部分もあるからきっとすぐ打ち解けられると思うわ」
「へー! 楽しみ〜☆ 早く会いに行こーよ!」
「ですね……ところでアリエラさん。その担いだフュリスさんをどうするつもりですか?」
暴れ続ける様が目障りなのかレイメイがフュリスの処遇について尋ねた。
「才に乏しいながらも工夫して頑張っていた所をワタクシが邪魔して自信を喪失させてしまったのだから、この先気持ち良く旅を続けるためにもある程度は協力はするけれど、最初の約束を勝手に捻じ曲げて“奉仕活動“をさせられる事への腹いせに……今から少し怖い目に遭ってもらうわ」
答えるアリエラは担いだフュリスに目を向けながら不敵な笑みを浮かべる。
「こッ、怖い目だと!?
一体何を──わ゛────ッ!!」
言葉の意味を訊くより早くフュリスは全力で枝から枝へ跳んで移動するアリエラの速度に悲鳴を上げたのであった。
◇『椿爵家』
エルタナ聖王国の貴族家系の一つ。
他の国で言うと伯爵に相当する地位。
処刑や犯罪者の掃討などの汚れ仕事を引き受ける代わりにエルタナ国内の冶金を執り仕切る特権を持っている。
カメリアが出奔してからはしばらくは当主不在であったが、現在はカメリアの弟にあたる貴種森妖精が当主を務めている。




