第七十四話 脱法市場
登場人物紹介
◇アリエラ
主人公。魔王軍四天王最強の怪力と頭脳を持つ紅一点。
『殲滅女帝』の二つ名を持つ。
褐色肌にボブカットの黒髪、猫のような紅い瞳、獅子の耳と尻尾が特徴の獣人。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者としての二つ名は『爆心地のアリエラ』
海に来るとしっかり泳ぐタイプ。
◇ピチカ
蒼い髪と瞳にギザ歯が特徴のアクセサリー付けすぎなギャルっぽいハーピィ。
異世界転生者。チートスキル【楽々御粧し】の使い手。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』の一応リーダー。
一級冒険者。
海で泳ぐより砂浜で遊ぶ方が好き。
◇レイメイ
魔王直属暗殺部隊『五毒姫』の末妹。
白い長髪と肌に鬼灯のように赤い瞳と愛嬌紅が特徴。
魔王特製の最上級キョンシー(札は丹田に貼っている)。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者としての二つ名は『毒蛇姫レイメイ』
夏の海はあまり好きでは無い。
◇
「ここね!? この辺りに猫妖精ちゃんたちのお店があるのね!?」
赫い旅装束に着替えたアリエラは立派な海漂樹の幹から幹へ、枝から枝へと跳び回りケットシーたちの市場を血眼になって探していた。
「アーちゃん待って〜!」
「落ち着いてくださいアリエラさん! 縛りますよ!?」
同じく旅装束のピチカとレイメイもなんとか追いかけながらマングローブ流域を進む。
「ギャヒィ〜! 速い〜──……おっ?」
幾本かの汽水の河を越えたあたりでピチカの耳にも喧騒のような声が届き、市場があるという話が本当なのだと確信した。
「いらっしゃいミャせ〜♪」「お安くしミャすニャ〜」
「こっちのが安いですニャ〜!」「ギャフベロハギャベバブジョハバァア゛オァオ゛!!!」
河を大通り代わりに小舟で様々な種族の往来する市場では、他の大陸で見かけるよりもやや野生味のある斑模様のあるケットシーたちが並び立つマングローブの上に粗末な足場や小屋を建て、各々の作った商品を並べて時折ケンカをしながらも元気に客を呼び込んでいる。
密林に棲む獣の特性を持つ獣人・派手な色彩の羽毛を持つ鳥人・汽水域なのもあって魚人や蜥蜴人は海水棲と淡水棲の両方の者たちが接客を受けていた。
種族こそ様々だが、ほぼ全員に共通するのは優しげな笑顔を浮かべて接客を受けているという点である。おそらくアリエラの同類が多いのだろう。
「あら〜♡ 全財産を南西の貨幣に換えなきゃ……♡」
「アーちゃんまたスカンピンかあ……」
「お金は自力で稼ぎ直してくださいね……」
ピチカとレイメイは止めても無駄だと判断した。
「ケットシー信用金庫は──……あったわ♡
ピチカ! ワタクシの短艇を!」
「オッケー☆」
アリエラは周囲を見回して目当ての銀行の仮説店舗を見つけ、ピチカの出したボートを着水させて乗り込んだ。
──────────
「ご利用ありがとうございましたニャ〜♪」
銀行という金銭はもちろん個人情報の取り扱いもする施設だけあってか、仮店舗とはいえケットシー信用金庫は他の店よりしっかりとした造りになっていた。
「上手に換金できたのねェ〜♡ よちよちよちよち」
「ニャ、ニャハハ……(うっぜぇ……)」
アリエラは口座の全財産を引き出し、素材である金・銀・銅と大・中・小の大きさで価値の区別をつける円形硬貨の中央大陸貨幣から、色分けは同じく金・銀・銅ではあるが、大きさではなく球形の果実・花・葉っぱの三種の形で価値を見分ける南西貨幣──通称『エル』を大量に手に入れた。
立体的な造りの貨幣を大量に詰め込んだ袋は大きく膨れ上がったが、アリエラは平気で担いで歩く。
「……形状がバラバラで携帯性の悪い貨幣ですね」
「でもカワイイじゃん! アクセにもなりそー☆」
「まあ携帯性についてはワタクシたちにはあまり関係無いでしょう? それよりも早くケットシーちゃんたちと豪遊しましょ♡」
──────────
「リスの串焼きですニャ〜」「新鮮なお魚ですニャ!」
「各種お守り揃ってますニャ〜♪」「武器取り揃えておりますニャ」
大量のエル貨幣の入った袋を担いだ姿を見たケットシーの客引きが群がり、アリエラは恍惚とした表情を浮かべた。
「あら〜♡ とりあえず根こそぎ買うわね♡」
「あ、他のお客さんもいるからそれはご遠慮願いますニャ」
「しっかりしてるゥ〜♡
ピチカ! レイメイ! ここはワタクシが奢るから遠慮なく買い物なさい!!」
「マジ!? やった〜☆」
「……本当に遠慮しませんよ? あ、蛇料理もありますよ! 行きましょう!」
冷静に返されたアリエラはマングローブ林に並ぶ全ての店で常識的な範囲で豪遊する事にした。
アリエラはとりあえず並んでいる軽食を全て買い食いし、工芸品や武器の類いは一切値切らず各種最低一つずつは購入、ピチカが装飾品類やお守りをねだると二つ返事で買ってやった。
この様子を見たケットシーたちはある名前を思い浮かべた。
(この獣人……)(間違い無い……)
(((『赫獅子』だ……!)))
『赫獅子』──……とは商売を営むケットシーの間で囁かれる異様に金払いの良い怪人物の渾名である。
赤布を身に纏う褐色肌の獅子獣人の女で、一切値切る事無く、ぼったくりに近い値段を吹っかけられようが笑みを絶やす事は無い不気味な人物とされる。
その正体は言うまでもなくアリエラである。
「こちら良い品取り揃えてますニャ〜♪」「こっちで買ってくださいニャ〜」
「これ美味しいですニャ!」「がんばって作りましたニャ〜」
最初は伝説の金ヅルが現れたと、アリエラに擦り寄り様々な物を売り付けようとするケットシーたちであったが──……
「うんうん♡ 全部頂くわ♡」
「ニャ……」
値段を碌に確認もせずに買い漁るアリエラにある者は良心が咎め、ある者は何か試されているのではないかと不安に駆られ、アリエラの所持金が底を突きかける頃には他の客と然程変わらぬ対応をとるようになった。
◇
しばらくボートを漕ぎ、店から店へ渡り歩いて一通り不要必要関係無く何か買った一行は、レイメイの提案でマングローブ林の中でも一番大きな足場を構える蛇料理屋で本格的に腹を満たす事にした。
「──しかし、大丈夫なんですかね? 料理するのに普通に火を使ってますが……エルタナでは森の中で火を使うのに厳しい制限があるハズでは……」
「あーね。なんかビーチでエラそうなエルフのヒトが怒ってたよね〜“森の近くで火ィ使うなー!”って」
「確かに心配ね。ケットシーちゃんたちが叱られたりでもしたら──……」
各々、蛇の串焼き・香辛焼き・輪切りにした大蛇のスープ等を堪能していたが、全ての料理に火が通っているのを見てレイメイは訝しむ。
その会話を耳にした給仕のケットシーが料理を卓に運びながらレイメイの疑問に答える。
「それなら心配ご無用ですニャア。ここは汽水域。つまりニャーたちの解釈では森ではなく海なんですニャア♪
だからエルタナの掟には触れてないから合法! 合法ですニャア! お料理お持ちしましたニャア♪」
「あらかしこいのね〜♡♡♡ 腰抜けそう……♡」
「合法なら平気かぁ☆ いただきま〜す!」
「(合法というか脱法では……?)──あっ、その串は私のですからね!」
完全には納得していなかったレイメイだが、蛇料理が運ばれて来るとあまり気にせず舌鼓を打った。
──────────
「さて……非常に有意義な時間だったわね。
また来るからねェェェェェェェェェェん♡♡♡」
「ニ゛ャーッ!?」
蛇料理を平らげるとアリエラは給仕のケットシーを抱きしめて退店を惜しんだ。
「お、お客さん、過度なお触りは止めてくださいニャー!」
「……ハッ! ごめんなさい理性が……ん? “過度な”という事は適度になら触っても──……!?」
アリエラが再度ケットシーを撫で回そうとした瞬間、喧ましい警笛の音が言葉を遮り、マングローブ林の奥から大蛇のように波打ちながら伸びる木の枝に乗りやって来た騎士服の上にローブを羽織った者たちが店の足場に降り立つ。
「全 員 動 く な ー ッ ! !
火気の無許可使用及び店舗の無許可営業の現行犯で拘束する! 引っ捕えろーッ!」
降り立った森妖精の騎士たちの先頭に立つ小柄な女騎士──『百合爵家のフュリス』が大声で拘束を宣言すると、ケットシーや客たち(ピチカ含む)は一斉に逃げ出した。
「「「「ハッ! 〈束縛する蔓!〉」」」」
フュリスが指示を出すと、取り巻きの騎士たちは魔術で服の袖から伸びてきた植物の蔓をケットシーたちに目掛けて鞭のように振るった──振るってしまった。
「──……なんて事ッするのッ!!」
「──かッ……あ゛っ……!?」
ケットシーに危害を加える寸前で蔓を掴んで止めたアリエラは拳とエルフ騎士の鳩尾を赫い電流で繋ぎ、次の瞬間にはエルフ騎士の鳩尾には拳が深々とめり込ませ戦闘不能にした。
「!? 許可するッ! 放てッ!!」
「「「は、ハッ! 〈早贄の矢〉!!」」」
見えない速度で部下を倒されたという事だけは瞬時に理解したフュリスは素早く残る三名の部下に指示を出し、部下たちは両袖から魔術で生やした木を編んで弓と矢を形成し、アリエラに向けて一斉に放つ。
「フンッ──……ッ!?」
アリエラが飛んで来る矢を最低限の動きで難なく躱してすぐさま反撃しようとした瞬間、背後から勢いよく鋭い木の枝が伸びて来た。
川向かいのマングローブ林に刺さった木の矢が急速に根を張って成長し、アリエラ目掛けて伸びて来たのだ。
「その〈早贄の矢〉は標的を串刺しにするまで成長し続ける! 止めて欲しいなら大人しく投降するんだな!」
自らは術を発動していないのに我が物顔のフュリスの言う通り、木の枝はアリエラが軌道から逸れれば曲がって成長し、半ばで殴り折られても断面から新たなに鋭い枝を生やして追尾を続ける。
「なるほど……(魔王陛下の〈黄昏齎す宿生樹〉や王妹殿下の〈至高の木星〉を劣化させたような術ね)」
初見ではあるが、全く得体の知れない術というワケでも無さそうだと判断したアリエラは襲撃して来るであろう王妹の予行演習として──もちろんケットシーや他の客を巻き込まないためでもあるが──、敢えて火や雷は使わずに体捌きのみで〈早贄の矢〉の枝を凌ぎ、エルフ騎士たちの相手をし始めた。
しかし──……
「うッ……!?」「かッ……ヒュー……」「ゼー……ゼー……」
「お、お前たちどうしたッ!?」
エルフ騎士たちは突然喘鳴を出して蹲り、制御できなくなった〈早贄の矢〉の枝はアリエラへの追尾を止めた。
「レイメイ。邪魔しないで頂戴。せっかく練習していたのに……」
「この程度じゃ練習になりませんよ……余計な小競り合いはしないでください」
アリエラの文句を一蹴しながらレイメイはエルフ騎士たちの脇腹に刺さった毒針を回収した。
「毒か……!? いつの間に!」
「あ、時間経過で解毒されるやつなのでご心配無く。
……提案なんですが、お互い何も見なかった事にしませんか? 暴力で勝てない事は分かって貰えたと思いますけど、エルタナ聖王国と事を構えようってワケではないので……」
レイメイが指示を出すだけで自分では戦わないフュリスの事を内心見下しながら提案すると、フュリスは身体を戦慄かせながら激昂、ローブの内側から素早く“短い筒が付いた手の平に収まる程の大きさの木の実”を二つ取り出す。
「ふざけるなッ!!」
フュリスは筒をアリエラとレイメイに向けると、両手の木の実を力強く握った。
(握り筒!?)(これは──)
大自然と妖精の南西大陸に似つかわしく無い銃声がマングローブ林に響いた。
◇〈黄昏齎す宿生樹〉
魔王が開発した魔術の一つ。
〈戦ぎ穿ち〉を対光属性に特化させた術であり、『光の女神イースネス』討滅の際に活躍が期待されている。
王妹スグフィクルも習得している。




