第七十三話 エルタナ聖王国
登場人物紹介
◇アリエラ
主人公。魔王軍四天王最強の怪力と頭脳を持つ紅一点。
『殲滅女帝』の二つ名を持つ。
褐色肌にボブカットの黒髪、猫のような紅い瞳、獅子の耳と尻尾が特徴の獣人。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者としての二つ名は『爆心地のアリエラ』
三種の指笛を吹ける。
◇ピチカ
蒼い髪と瞳にギザ歯が特徴のアクセサリー付けすぎなギャルっぽいハーピィ。
異世界転生者。チートスキル【楽々御粧し】の使い手。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』の一応リーダー。
一級冒険者。
指笛どころか口笛も上手く吹けない。
◇レイメイ
魔王直属暗殺部隊『五毒姫』の末妹。
白い長髪と肌に鬼灯のように赤い瞳と愛嬌紅が特徴。
魔王特製の最上級キョンシー(札は丹田に貼っている)。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者としての二つ名は『毒蛇姫レイメイ』
七種類もの指笛を吹きこなす事ができる。
◇
アリエラたち『パリピ☆愚連隊』を乗せて高速移動させていた〈虹の九十九折〉は、中央大陸を超えて海を通り過ぎ緑に覆われた陸地が見えた頃になると勢いを落とし、虹色に輝く蛇の姿に戻りながら三人を振り落とした。
「ギャッ!? も〜急に落とさないでよー!」
全員飛行手段があるので大事には至らないが、突然落とされた事にピチカは虹色の蛇に向かって抗議する。
「シャ────…………!」
対する虹色の蛇はピチカを威嚇すると、風景に溶け込むように姿を消して魔王の元へ空間転移で戻って行った。
「あ〜あ……怒らせちゃいましたね『ユルルングル』様を……」
「え゛!? なんかヤバいの!?」
「ユルルングル様は魔王陛下のペットであり一部でもあるけれど、陛下の意のままに動くだけで知能は普通の蛇並だから次に会う頃には忘れてるでしょうし平気よ。
……それより早く南西大陸に上陸しましょ。楽しみね……フフッ……」
ここまで一行を運んで来た魔王のペット『ユルルングル』の話題もそこそこにアリエラは気が逸った様子で上陸を急かす。
「……? 王妹殿下が待ち伏せしているというのに随分余裕ですねアリエラさん」
「殿下? ああ……そういえばそうだったわね……待ち伏せするにしても殿下の性格からして不意打ちはしないでしょうし大丈夫よ」
「そーいやちょくちょく話題にはなってたケドさ、その殿下ってどんなヒト──……お方なの?」
ピチカは王妹の名前すら知らない事を思い出しアリエラとレイメイに質問する。
「そうね……殿下はピチカも知っての通り元『虚飾の魔王』で御名前は『スグフィクル』様よ。
元とはいえ『虚飾の魔王』……見栄っ張りな面のある方だからきっと正面から挑んで来ると思うわ。
外見は……“着飾るクジャク鳥人を模した大きな樹の怪物”といったところかしら」
アリエラのやや失礼な王妹の評価にレイメイは慌てて周囲を見回す。
「ちょっとアリエラさん……! 御本人に聞かれたらマズいですよ……!」
「……訂正するわ。殿下はとても荘厳な御姿よ」
「怒らせたらヤバいカンジ……?」
二人につられて声を潜めながらもピチカは王妹の話を促した。
「怒らせたらというか……拗ねると面倒な方ですかね」
「レイメイ。失礼よ」
(魔王サマに比べるとナメられてるカンジかな……)
一行は待ち構えているであろう王妹『スグフィクル』の話をしながら南西大陸に降り立つのであった。
◇
──南西大陸──
『樹の女神エンニル』が支配する地表の九割以上が森林に覆われた緑の大陸である。
中央に聳える大樹……『世界樹』の麓と大陸北部は独自の貴族社会を構成する森妖精主体の『エルタナ聖王国』が統治しており、海を挟んだ隣国である魔王国とは表立っては敵対していないものの、女神信仰を国教としている事もあり決して仲が良いとは言えず緊張状態が続いている。
『エルタナ聖王国』の領外には国と呼ぶ程の集団は現代では存在しておらず、その他の妖精・蟲人・樹上棲の獣人・茸人などが里を構成して細々と暮らしている。
現状戦争などは起きていないが、森の中は魔物化した生物が跋扈しており、『エルタナ聖王国』の住民や一部の妖精以外は容赦なく食物連鎖の中へ組み込まれる過酷な大陸なのである。
────────────────
アリエラたち三人は『エルタナ聖王国』北東に位置する『百合爵家傘下・棗爵家領』の海辺の砂浜に降り立った。
浜辺には粗末な小舟や桟橋があり、小麦色の肌をした妖精たちが漁に勤しんでいた。
俗に闇妖精と呼ばれる者たちである。
世界樹の麓で暮らせない下層民、或いは追放された森妖精やその子孫にあたる者たちであり、ダークなどと呼ばれてはいるが通常のエルフより余程陽光の下で暮らす事を強いられているのだ。
上陸早々そんな追放者たちであるダークエルフたちと接触したアリエラたちは──……
「B・B・Q!
B・B・Q!!
B・B・Q!!!」
「「「 イ ェ 〜 イ ! ! !」」」
水着に着替えてダークエルフたちとバーベキューをしていた。
名前の印象とは逆にダークエルフたちは明るく、特に警戒するような事もなく他所の大陸からの訪問者である一行に興味を示して話しかけ、特にピチカと意気投合して食材を持ち寄り肉や海鮮物を串焼きにして楽しんだ。
「いぇ〜い! お肉の提供ありがとうございま〜す!
かわりにエビとかガンガン焼いちゃってよ〜♪」
仲良くなった内では一番の長老だと言う顎髭のあるダークエルフの男は人間で例えると、二十代後半程……おおよそ二百数十歳から三百歳というエルフ基準ではまだ若者と呼べる年齢で、通常は長老と呼ばれるような年齢ではないが、この付近はそれだけ若年層が多く暮らしているのだろうとアリエラは推察した。
「エルタナってもっと排他的な国かと思っていたのだけれど、意外と親しみやすそうで安心したわ」
「あ〜……お国柄はそうだけど、まァどの国にも変わり者はいるもんでしょ〜♪ だからオレらも堅苦しい世界樹の麓から脱落して気ままにお魚獲って暮らしてるってワケ♪」
ダークエルフの長老はあっけらかんと言ってのけ、身に付けた派手な彩色のシャツに肉汁をこぼしながら串に齧った。
「意外ではありましたが、友好的で良かったですね。
……ところで長老さん。虫除け用の服や道具って近くで売ってますかね?」
「おー、虫除けというか買い物ならこっからちょっと南に行った海漂樹林に──」
「コラお前ら────ッ!! 森の近くで火を使うなって言ってるだろー!!!」
長老が快くレイメイの問いに答えようとしたその時、森の中から女性の怒鳴り声が響いた。
「あ、『フュリス』卿。お疲れ様でーす♪」
いつもの事なのか驚いた様子も無く長老は軽く返事をする。
「お前らのせいで疲れてるんだよッ!」
怒鳴りつけながらズンズンと歩み寄るのは、翠基調の騎士服にローブを羽織る金髪碧眼のエルフの女騎士──……
『百合爵家のフュリス』であった。
似たような格好をした取り巻きの四人のエルフの騎士よりも小柄なフュリスは早足で長老に詰め寄る。
「いやいや十分離れてますって! フュリス卿も食べます?」
「賄賂なんぞ受け取らないぞッ! もっと波打ち際で焼け!
……ところで見慣れない顔がいるな?」
長老への叱責もそこそこに、フュリスはアリエラやピチカに目を向けた。レイメイは怒鳴り声が聞こえる直前に姿を隠していたので見つかっていないようだ。
「……ワタクシは特級冒険者のアリエラと申しますわ。エルタナにも組合はあるハズですから入国に問題はありませんことよ」
アリエラは一礼しながらも、これ以上フュリスの小言に取り合う気は無い事を示して串を食べ出した。
「特級……!? 二つ名は?」
「…………『爆心地』」
「えッ……まぁ、確かに冒険者の入国は合法だから私からこれ以上は何も言わないが……あまり問題は起こさないように……他の者も火の始末はきちんとするんだぞッ! 撤収ッ!!」
不吉な二つ名にフュリスの顔は引き攣るが、現状法的に問題を起こしていないアリエラには何もできないと判断し、取り巻きを連れて森の中へ戻って行く。
「高圧的ね……」
「まァ『百合爵家』の騎士サマですから」
「百合爵……他の国で言う公爵あたりの認識で良いのかしら」
「次の聖王陛下の座を『薔薇爵家』と争ってるらしいから、まあかな〜りエラめじゃないスかね? 知らんけど(笑)」
「王位を争うような家柄の騎士がこんな場所まで来ている──……あ、失礼。他意は無くてよ」
「ハハハッ! いや実際なんも無いから! フュリス卿も変わり者っちゃ変わり者だし──おっと……。
……そういや『パリピ☆愚連隊』の皆さんは何目当てでエルタナに?」
フュリスの事を喋りかけた長老は陰口になりかねないと判断したのか途中で話を切り替え、アリエラたちの目的について尋ねる。
「ワタクシは……自分探しの旅ついでに各地の猫ちゃんや猫妖精ちゃんたちと親睦を深めたいの……それで南西大陸にはケットシーちゃんたちの国があるって噂を聴いた事があるから個人的には楽しみにしていたのよねッ!
……というワケで長老さん。何かご存知なくて?」
アリエラは興奮しながら長老にケットシーの情報を訊き出そうと一歩一歩詰め寄った。
「うぉ……そ、それなら丁度さっき教えようとしてたマングローブ林の中にケットシーの市場があるんスけどぉ……割と違法気味の商売やってんで自己責任になっちゃうんだけど……」
ケットシーたちに会わせるのはマズい気がしてきた長老はアリエラが市場に興味を無くすように誘導してみたが──……
「ケットシーちゃんの市場……♡
ピチカ! レイメイ! 次の行き先が決まったわ!」
アリエラにはまるで通用せず、足速に南のマングローブ林へ向かう支度を始めてしまった。
(あちゃ〜……スマン! ケットシーたち!)
明らかにやばそうなアリエラを引き留めるのに失敗し、心の中で謝る長老であった。
「……なるほど。マングローブ林か……よし、私たちも向かうぞッ」
……そのやり取りを、帰ったフリをして森の中に潜んでいたフュリスの長い耳がしっかりと捉えていた。
◇ 闇妖精
世界樹の麓から離脱・追放されたエルフの俗称。
立場が違うだけで生物的にはエルフとの差は無い。
陽光の下で暮らすので日焼けしている者が多く、祖父母や両親が日焼けしていると、子供は産まれつき褐色肌になる事がある。
エルフの貴族社会から解放されたからなのか、名前の印象とは裏腹に明るい者が多い。




