第六十六話 謁見
登場人物紹介
◇アリエラ
主人公。魔王軍四天王最強の怪力と頭脳を持つ紅一点。
『殲滅女帝』の二つ名を持つ。
褐色肌にボブカットの黒髪、猫のような紅い瞳、獅子の耳と尻尾が特徴の獣人。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者としての二つ名は『爆心地のアリエラ』
現在、女剣闘士服を着用している。
好きな植物はネコジャラシとマタタビ。
◇ピチカ
蒼い髪と瞳にギザ歯が特徴のアクセサリー付けすぎなギャルっぽいハーピィ。
異世界転生者。チートスキル【楽々御粧し】の使い手。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』の一応リーダー。
一級冒険者。
現在、踊り子衣装を着ている。
好きな植物はサクラ。
◇レイメイ
魔王直属暗殺部隊『五毒姫』の末妹。
白い長髪と肌に鬼灯のように赤い瞳と愛嬌紅が特徴。
魔王特製の最上級キョンシー(札は丹田に貼っている)。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者としての二つ名は『毒蛇姫レイメイ』
好きな植物はユリ。
◇イエナガ・クズハ
アリエラの専属メイド。休暇を取って旅に同行中。
艶のある長い黒髪が特徴のキツネとハイエナの混相の獣人(ケモ度高め)。
尻尾を様々な形状に変化させられる。
アリエラを慕っている。
好きな植物はクズ。
◇魔王
中央大陸を統べる『傲慢の魔王』
雄獅子の金仮面を被った天使のような外見。
仮面の口から熱湯が止まらない事がある。
女神の力を取り込んだ影響でよく眠る。
好きな植物はタンポポとヒマワリ。
「り、理念……」
ピチカはさぞ大層な話を聞かされるのだろうと思い身構えた。
「いやそんな大層な話ではないから気楽に聞いていてくれ給え。それと他の者と同様に多少くだけた口調で喋ってくれて構わないよ。なんだか喋り辛そうだし……。
魔王の事はまあ“陛下”でも“魔王様“でも自由に……侮辱の意図が感じられ無ければ何でも良いよ」
「あ、ハ〜イ。じゃあ、あーしは魔王サマって呼ばせてもらいまーす」
魔王は鷹揚に頷くと手招きをして一歩前に出るように促し、ピチカはとりあえず従った。
「魔王はねぇ……健康になりたいのだよ」
「えっ あ、はぁ……健康……?」
ピチカは確かに魔王が体調を崩していると聴いていたし、実際に眠り込んでいる姿は目の当たりにしたが、魔王としての理念というには違和感を覚えた。
「そう。魔王はこの魔王国や魔王軍の事を自分の身体の一部だと考えている」
「あ、メイメイが“魔王陛下の右腕”って言ってるのってそういうコトですか?」
そう言うと、シィシアがピチカの肩に頭を乗せて中指を見せてくる。
「アタシは陛下の中指ッスよォ〜」
「私は親指ですよ親指」
すかさずレイメイも逆側からピチカの肩に頭を乗せて親指を見せてきた。
「(メイメイの妹っぽい部分新鮮だな……)
他のお姉さんと合わせて右腕ってコト?」
シィシアとレイメイに向けた言葉だったが、ピチカに返事をしたのは魔王であった。
「その通り……初めて会って戦った際に魔王の右腕一本分に匹敵する戦闘力があると見込んでね」
魔王は遠い過去の事に想いを馳せながら自らの右腕を摩った。
「はぇ〜……メイメイ強いんだねぇ」
「ピチカさん私の事ナメてませんか……?」
「『五毒姫』が五人揃ったらチョー凄いんッスよォ〜?」
「おっと話が逸れたね。
まあこのように国を一つの生物に例えるのは魔王に限らず為政者にはよくある話だが、魔王の場合は一味違う。
実際に一つの生物だった時代があったのだからね。
ほぼ完全な一つの存在──『混沌の女神ノク・ノト』だった頃と『傲慢の魔王レフィクル』としての個の記憶……二つの記憶があるという点ではきみたち異世界人も魔王に近い視座を持っていると言えるかもしれないね」
「ああ〜……そのイスって『混沌の女神』の……」
ピチカは入室してから気になっていた禍々しい玉座の意匠の由来に察しがついた。
「そう。この玉座は『混沌の女神ノク・ノト』がその身を引き裂き、その脳髄と心臓から魔王が産まれた瞬間を再現した物だよ。初心を忘れないようにね……。
魔王が『傲慢の魔王』だからかよく勘違いされるんだが、女神に匹敵しようだとか、超越しようだとかは考えていない。ただちょっと世界制覇して国家間での戦争を根絶したいのだよ。
魔王国の平和は魔王の健康に直結するからね。
──というわけでピチカ。きみも協力してくれるかな?」
魔王は天を仰ぐような仕草を取ると突然正面に向き直り、ピチカに目線を遣った。
「ちょっとスケールがデカすぎでよくわかんないですケドぉ……戦争がなくなるのはいいと思います!」
ピチカは“ちょっと”と言うには目標が大き過ぎる気もしたが、女面鷲としても前世の世界情勢の事を考えても戦争には良い感情は抱いていないので、その点では魔王に賛同した。
「では……一般戦闘員ではなく『風の女神』に関する重要参考人として何か魔王軍に要求したい事はあるかな? 出来る範囲で希望に添いたいと思っているんだが……」
問い掛けと共に魔王の左右に侍る『双璧』やピチカを挟み込むレイメイとシィシアから圧力が発せられた気がしたが、当の魔王からは威圧するような気配は感じられなかったためピチカは条件を申し出る。
「じゃあ……『風の女神』とやり合う時はあーしの幼なじみに聖女辞めて逃げるように説得するチャンスが欲しいな〜って……二人ともそんな熱心な信徒じゃないからすぐ説得できると思うんで!」
姉妹同然の幼馴染二人の命が懸かっているとなればピチカも少し威圧された程度では臆さず言い切った。
「よろしい。幼馴染二人だけと言わず『風の聖女』の過半数くらいは説得してくれると有難いな。『風の女神』討滅の際は先遣を一任しよう。
女面鷲も異世界人も魔王軍に加入するのは初の事だ。喜ばしいね。
──そうだ、異世界人といえば……きみは“へぇ〜アンタが王様?”とか言わないのかね? 定番なんだろう? あるあるネタが好きでね……」
魔王は話の締めに異世界人あるあるを展開した。
「いや〜あーしはちょっとそういうキャラじゃないっていうか〜……怒られそうだし。
あ! でも汽車に遅れそうになって後ろのトコに飛び乗るヤツはやりました!」
ピチカは本音を小声で濁しつつ、つい最近実践したあるあるを披露した。
「ハッハッハ……! ここ数日は汽車で旅したんだったね……どうだった?」
「アーちゃんと旅するようになってからはイチバン平和でした! どこも爆発しなかったし!」
ピチカはここ数日爆発音を聞いていなかった事を思い出し、ホッとしたような物足りないような感覚になっていた。
「ヘヒヒッ……」「ヒャヒャヒャッ!」
「プフフフ……」『よく一緒に旅してられるな……』
「ちょ、ちょっとピチカ……?」
アリエラは魔王に自らの失態を報告されて狼狽えているようだ。
「ハハッ……アリエラ。ほどほどにね……」
「ハッ……!」
バツが悪そうにアリエラが返事をすると、魔王は視線をピチカからアリエラに移し、本題に入る。
「さて次はアリエラの旅の話を聴かせてくれ給え。
バアルから大まかに聴いた客観的な話ではなくて……アリエラが何をどう感じたかも混えてね」
「畏まりましたわ陛下。──ピチカ。〈霧幻女帝〉を」
すぐに落ち着きを取り戻したアリエラは一礼して了解の意を示すと、ピチカに合図を出し瞬間装着した黄金髑髏で魔力を藍色の霧状に変質させて幻影を展開し始める。
「あーしが初めてアーちゃんに会った日が二日目だったんだっけ?」
「正確には中央大陸を出てから二日目ね。
一日目は所持金をほとんど使い果たしてしまった上に野盗に襲撃されて散々でしたわ……」
アリエラの幻影は妖鬼の野盗を派手に蹴散らす様子を映し出した。
「一日で使い果たしたのですか!?
……一般人なら一年は生活に困らない額は有ったハズですが……まあ〜自分探しの旅(笑)ですから……浪費家という自分が見つかってよろしかったですなアリエラ殿ォ」
コッコアシュフィーは皮肉を飛ばしたが、アリエラは目を逸らして話を続ける。
「ゴホンッ……翌日ピチカに舞で敗北を喫し、組合に加入して行動を共にする事となりましたわ」
アリエラは宙を舞うピチカを脚色気味に幻影で再現して見せた。
「ほう……アリエラが敗けを認めるとはね……まあ元『風の聖女』という経歴を考えれば舞で遅れをとっても不思議な話ではないか……」
魔王はアリエラの話を聴いて再びピチカに視線を移した。
「いや別に勝負してたワケじゃ……」
「少なくともワタクシはそのつもりだったのよ。
──それで冒険者としての初仕事で猫妖精のギャレットちゃんとその家族を保護いたしまして! お腹の毛が──」
ケットシーの話になり俄かに興奮し出したアリエラを魔王が制する。
「あー……ケットシーの話は後で聞こうかな。
それで冒険者としての──……『爆心地のアリエラ』だったかな? 首尾はどうだね?」
「はッ! 『栄誉の壁画』という魔窟の記録を総ナメにして史上最速で特級になりましたわ」
アリエラは史上最速を強調して自慢げに胸を張った。
「私は三番目だそうです……」
「メイメイも早かったよね〜」
「レイメイと言えば……ワン・ソンミンを手駒に加えたんだって? よくやってくれたね」
「……! 有難き御言葉……恐悦至極に存じます。
ワン・ソンミンにも是非御目通りを──……」
魔王から褒められて顔を綻ばせたレイメイが呪符を放ると、炸裂した白煙の中からワン・ソンミンが現れた。
「ゲホッ……またかよ……! なあこの煙どうにか──……何すんだよチクショウ!」
白煙に咽せるソンミンはレイメイの伸ばした手に頭を掴まれ無理矢理頭を下げさせられた。
「魔王陛下の御前ですよ。弁えてください。ホラご挨拶を……」
「何ィ〜? へぇ……アンタが魔王サマかい……」
レイメイに抑えられているので直視は出来ていないものの、ソンミンはギラついた目付きで牙を見せた。
「フフッ……ハッハッハ……! 聴いたかね?
“へぇ……アンタが魔王サマかい……”ときたか! 面を上げさせ給えレイメイ。しっかり眼を見たい」
「へッ! 話が理解るじゃねぇか魔王サマは──……よ……ォ……ッ……!!」
威勢よく顔を上げたソンミンだったが、光り輝く魔王を直視した瞬間口をゆっくりと閉じて立ち尽くしてしまった。
「理解っているともワン・ソンミン。
……きみも理解ってくれたみたいだね。働き次第で褒美を出そうじゃないか。
生前の罪業は……レイメイの毒で苦しんだそうだし、一旦清算したとしておこうか」
「チッ……」
魔王が鷹揚に手を振って下がるように促すと、ソンミンは苦々し気に舌打ちをしながら一歩退がった──瞬間、レイメイが投げた呪符が触れる。
「もう帰っていいですよソンミンさん」
「あ!? 待てコラッ──」
ソンミンは抗議虚しく白煙と共に西都イーシンに強制送還された。
「レイメイ……もう少し優しくしてやりなさい。協力者なんだから」
「あのくらいの扱いが丁度良いかと……」
レイメイは頭を下げながらも意志は曲げず一歩退がり、話題を次に移すようアリエラに目配せする。
「次に……特級冒険者『不死身のヤブキチ』と関わりを持ちましたわ。
『闇の女神』の現在の器『クチナワ・カガチヨ』の縁者だそうで……以前から推定されていた通り極東列島ヤト國で受肉しているようですわ。
魔王軍への勧誘は保留にされてしまいましたけれど、討滅の際には協力してくれると約束を交わしましたわ」
「……その『闇の女神』の器はレイメイにそっくりなんだって?」
「はい。髪と瞳が黒くて舌先が割れてはいるそうですが、それ以外は瓜二つらしいです」
「そうかね……ま、何にせよ協力してくれるなら『不死身のヤブキチ』の動向は把握しておいた方が良いね。
次……シィシアはアリエラに挑んだついでにワン・イェンジューを捕捉か。よくやったね」
「はいッス! アリエラさんにはロケットパンチでやられちったんスけど、ワン・イェンジューは捕まえたッス! 妊娠してたんで殺すのは見送ったッス!
まあピチカちゃんがイェンジューをボコってたのを捕まえただけなんスけど……あ、そうだイェンジューもここに呼んだ方がいいッスか? 悪阻は治ってきたみたいッスけど……」
シィシアは自分の敗けについてはあっさり流し、呪符を見せながら本来の任務に関する話を始めた。
「うーん……母体に障ると良くないし、また今度にしようかな。……他に変わった事は?」
「あ、そうそう暴れ過ぎて『饕餮宮』って料理屋のガオ・パウシャオって大猪鬼の店主にアリエラさんが四天王だってバレてたんスけど、事情を話したら魔王軍に興味あるみたいで次にウーヴ皇国皇都で開かれる宴遊会が終わったら移住したいそうッス! よろしいッスか?」
「ほう……! 歓迎しようじゃないか。
……それよりアリエラはもう少し正体を隠すのに気を遣いなさい」
「面目次第もごさいませんわ……」
「ヒャヒャヒャッ!」
「シィシアも街中で毒を使うのは頂けないな」
「あ゛ッ……面目無いッス……」
叱られるシィシアを見て少し溜飲を下げたアリエラは南東郡島の旅に話を移す。
「フンッ……それからギルド総本部に向かう道中『首愛でるカメリア』と行動したのですけれど、まあ……レイメイ共々バレてしまいましたわ」
アリエラは幻影で様々な場所を爆破する様子を見せ、大幅に話を端折った。
「おいおい……」
「待ってください。私がアリエラさんと同じくらいヘマをしたみたいな表現は止めてくださいよ」
「カメリアにバレた件に関してはワタクシと大差無いと思うけれどね……ちなみに勧誘は保留にされましたけれど、二つ名通りの変態なので『五毒姫』が誘えば首を縦に振ると思われますわ」
「『首愛でるカメリア』は魔王も聞いた事があるよ……他の首無し妖精との交渉もしたいし、仲間になってくれると嬉しいねぇ」
「……魔王国だからというよりは国に仕えるのに抵抗があるようでしたが……」
「変態はちょっと嫌ッスねぇ〜……」
「そうかね……まあ不確定の事は後にしようか。
他の四天王も冒険者になったわけだが……アリエラはマスクド・ヴィゾフニル──……フィアラルと手合わせしたんだって? どうだった? 中々ハンサムだったろう?」
「個人的にはあまり好みでは……新しく覚えた武術や開発中の技ばかり使ってきたので以前手合わせした時よりは楽に勝てましたわ……それでフィアラルが回収していた〈太陽帝〉の黄金髑髏を取り戻したのですが──ハァ……」
アリエラはつい最近の南方大陸の出来事を幻影に映し出し、溜息を吐いた。
「例の『ネフェラリエラの姉』──……きみの双子の姉か……〈殲滅女帝〉が『ゲダの指』の手中にあるとはね……」
「はッ……その姉上擬きに〈太陽帝〉の黄金髑髏を奪われてしまい──……他にも少なくとも〈深淵帝〉と〈暗澹帝〉と〈冥府帝〉は連中の手に落ちていますわ……。
けれどなんとか〈天空女帝〉は取り戻しましたわ」
アリエラは『ネフェラリエラの姉』──魔王軍側はまだ知らない事だが現在は『ネフェル』と名乗っている──を第二形態になって殴り飛ばした時の姿と、〈天空女帝〉の黄金髑髏の幻影を出した。
「〈太陽帝〉を奪われたのは痛いが、〈天空女帝〉を回収できたのは良いね……相殺する関係にある〈大地帝〉も実質強化されたようなものというわけだ」
「あ♡ 〈大河帝〉はあたしが見つけたゾ♡ 褒めて陛下♡」
自分に関する話を飛ばされたアナトは挙手して存在と功績をアピールした。
「おっと、順番が前後したね……よく見つけてくれたねアナト。アリエラとの戦闘はどうだった?」
「襲撃者の正体がバレてからは歯が立たなかったゾ……でも至剛金武器はアリエラさん以外になら──……と思ってたけどアリエラさんのお姉ちゃんが『ゲダの指』側についてるって事は、連中にもアダマントの加工法が漏れてるだろうからヤバいゾ♡」
アナトの発言にアリエラとピチカはハッとする。
「確かに……!」
「アダマントでなんかあったら魔王軍のせいにされちゃうかもってコト!?」
「今更気付いたんですか……?」
「近々声明を出してアダマント製品を回収しなくてはね……さて、次はマキアか」
魔王が視線を向けると、マキアは義体に敬礼の姿勢を取らせ、報告を始める。
『はい! 私はアナト嬢の後で戦術拡張機『バロール』にて四天王アリエラを狙撃に向かったところ、背後から何者かにバロールの頸部を切断されました! 状況と魔力の残滓からして『ネフェラリエラの姉』による攻撃であったと推測されます! 以上!』
マキアは端的に南方大陸での活動を報告すると、再び義体を敬礼させた。
「え……それだけ?」
「えッ? つ、次はがんばります!」
「そうかね……では随分と端折ったが、報告は以上かな? 何か変わった事はなかったかね?
おっ、では聴かせてくれるかな? ピチカ」
魔王の質問にピチカが恐る恐る翼腕を挙げた。
「は〜い、あの……『三巨頭』見て思い出したんですケド、新しい王種妖巨人が生まれてましてェ〜……あーしが斬った傷が決め手になりました!」
「名前はロア・ムト・ロゾ。
トロールの地位向上を目的としているようでしたから、その辺りを条件に出せば魔王軍に引き込む事も充分可能かと思われますわ陛下」
そういえば報告していなかった事を思い出したアリエラはピチカの情報を補足した。
「ほう……! 良いね。他には──……レイメイ」
「はい。ピチカさん『護宝剣セフィルグ』を出してください」
「……? ああ! あの剣ね! ホイッ☆」
ピチカが【楽々御粧し】を発動すると、レイメイの手に豪奢な剣が出現した。
「アリエラさんが他二名の特級冒険者と鍛えた魔剣です。陛下に献上したく……」
レイメイは玉座の前に歩み出て跪くと、両手で剣を持ち上げて魔王に捧げた。
「ちょ、ちょっとレイメ「──陛下に献上する事に何か問題でも?」
まだ『護宝剣セフィルグ』に未練のあるアリエラがレイメイを引き止めようとしたが、レイメイは有無を言わせない口調で遮った。
「へぇ……見事な造りだが──魔剣ならジークに渡してやりなさい。魔王では宝の持ち腐れだろう。……それで良いかな? アリエラ」
「……ッ。そうですわね。ジークならその子を上手く使ってくれるでしょうし……」
「ではそのように……」
口惜しそうではあるが、納得したアリエラは引き退がり姿勢を正した。
「他には──……おっとぉ……また眠くなってきたな……ノイル、コッコアシュフィー。後は任せた。
シィシアはウーヴ皇国に戻って引き続き任務を」
「了解ッス! レイちゃんバイバーイ──……」
金仮面から突如熱湯が溢れ出し足場をすり抜けて遥か下方に流れ落ち、シィシアをウーヴ皇国に送還すると頬杖を突いたまま魔王は動かなくなってしまった。
「おやすみなさいませ陛下」
「イエナガさん。手伝って頂けますかな?
他の方々はもう下がって頂いて結構ですぞ」
「あッ畏まりましたッ!」
「ではワタクシたちはこれにて失礼させて頂きますわ」
『双璧』に従ってイエナガは尻尾は枝分かれさせながら手伝いに向かい、他の面々は一礼して玉座の間から退出したのだった。
◇
「どうだった? 魔王陛下は」
「なんかこう……意外とフツーってカンジ?
……あッ! いい意味でね? 親近感ある的な!?」
退出早々ピチカは慌てて言い訳を始めた。
「あれだけの魔力を持ちながらそう感じさせるのが陛下の恐ろしいところ──……ピチカ。【全能鍵】と……〈大地帝〉と〈天空女帝〉を」
「ぅえっ? オッケー……どしたの?」
アリエラは魔王についての語りを突然止め、目の前にある『四天王の間』の方向を睨み武装した。
背後に二つの黄金髑髏を浮遊させながら『四天王の間』に入り、白亜の石柱が立っている場所まで辿り着くと、石柱の──それもアリエラの足場として使用されている石柱の上に猫背気味の男が立っていた。
『御三家』にして『狼の血族』が真祖、オヴォル卿である。
「謁見は終わったようですなアリエラ殿。
では早速、吾輩の話を聞き入れて下さいますかな?」
「……その前に石柱に立つの止めて下さいませんこと? ワタクシの場所でしてよ」
丁寧な口調ではあるが挑発的な意図を感じる喋り方のオヴォル卿に対し、アリエラも敬語は使うが怒気を隠さず注意した。
「そこは問題ありますまい。この場所は今宵を以って吾輩の場所になるのですからなァッ!」
そう言うオヴォル卿の肉体は見る見る内に灰色の体毛に覆われた人狼と化した。
「なるほど……ワタクシに挑戦したいのですわね。
……公爵たるオヴォル卿にこんな事を言うのは気が引けるのですけれど敢えて言わせて頂きますわ。
──“身の程知らずがッ!!”」
アリエラの【全能鍵】が人狼化したオヴォル卿の腹目掛けて横一閃に振り抜かれた。
◇ガオ・パウシャオ
ウーヴ皇国南都イマニムに店を構える料理屋『饕餮宮』の店主で大猪鬼。
妻が三人いる。
幼少期は貧しく家族を飢えで亡くしており、少しでも満腹でない様子を見ると無理矢理料理を食べさせようとしてくる。
実は『栄誉の壁画』発見当時に描かれていたオークの戦士の子孫だが、本人は全く知らない。




