第六十五話 『玉座の間』
登場人物紹介
◇アリエラ
主人公。魔王軍四天王最強の怪力と頭脳を持つ紅一点。
『殲滅女帝』の二つ名を持つ。
褐色肌にボブカットの黒髪、猫のような紅い瞳、獅子の耳と尻尾が特徴の獣人。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者としての二つ名は『爆心地のアリエラ』
現在、赤いドレスと鍔広帽を着用している。
最近は禁煙の場所が増えてきて辛い。
◇ピチカ
蒼い髪と瞳にギザ歯が特徴のアクセサリー付けすぎなギャルっぽいハーピィ。
異世界転生者。チートスキル【楽々御粧し】の使い手。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』の一応リーダー。
一級冒険者。
現在、鳥打帽に白シャツ、サスペンダー付きハーフパンツというボーイッシュな格好をしている。
タバコは時と場所を弁えていれば特に何とも思わないタイプ。
◇レイメイ
魔王直属暗殺部隊『五毒姫』の末妹。
白い長髪と肌に鬼灯のように赤い瞳と愛嬌紅が特徴。
魔王特製の最上級キョンシー(札は丹田に貼っている)。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者としての二つ名は『毒蛇姫レイメイ』
タバコの煙は臭いが付くので嫌いだが、毒を仕込みやすいのでタバコ自体は好き。
◇イエナガ・クズハ
アリエラの専属メイド。休暇を取って旅に同行中。
艶のある長い黒髪が特徴のキツネとハイエナの混相の獣人(ケモ度高め)。
尻尾を様々な形状に変化させられる。
アリエラを慕っている。
アリエラが煙管を自分で着火してしまうので残念がっている。
◇魔王
中央大陸を統べる『傲慢の魔王』
雄獅子の金仮面を被った天使のような外見。
仮面の口から熱湯が止まらない事がある。
女神の力を取り込んだ影響でよく眠る。
タバコは吸わないし、魔王の前でタバコを吸う者もいない。
◇
「謁見の準備ができましたよ。アリエラさん、ピチカさん、イエナガさん。急いでくださいね」
ピチカがアリエラのメイドたちから避けられながらしばらく待っていると、どこからともなく長袍に着替えたレイメイが現れ、玉座の間に直行する事となった。
「ワタシもですか?」
自分も呼ばれるとは思っていなかったらしく、イエナガはいそいそと服を正しながら着いて来る。
「アリエラさんのお姉さんの事についてお聞きになりたいんだと思いますよ」
「早かったわね。ピチカ! 正装に着替えさせて頂戴」
「んぁ、オッケー☆」
ピチカが【楽々御粧し】でアリエラをドレスから女剣闘士服に着替えさせると、メイドたちは危機感を孕んだ視線を向けて歯噛みした。
「……アリエラさん。ピチカさんに城の案内はしてあげましたか?」
レイメイはアリエラが自分の区画から動いていないであろうという事を察する。
「「「あッ……!」」」
アリエラは勿論、イエナガや案内を受ける側のピチカまで城内を見て回る事を失念していた。
「何してるんですか……いや、何もしてないんでしたね」
「うッ……謁見の道すがら案内すれば良いでしょう?」
「アリエラ様ッ。さすがに陛下をお待ちさせるワケには……」
「じゃあエッケンが終わってからゆっくり案内してよ☆ 怒られる前に早く行こッ!」
そう決まるとピチカは一張羅の蒼い踊り子衣装に一応着替えて駆け出した。
──────────
「右が食堂! 左が修練場よ!」
四人はアリエラの区画まで来る際に通った道を逆走し、『三巨頭』が吊るされた広大な十字路に到着すると、アリエラは左右を指しながら駆け抜ける。
先頭を走るアリエラにぶつかりたくないからか、道行く魔王軍構成員たちの人波は真っ二つに別れて道を開けた……が、再び痩せ細った猫背気味の男が現れアリエラと並走しながら話しかけてきた。
「アリエラ殿ッ! 先程の話なのですが──」
『狼の真祖』オヴォル卿である。
「今は陛下への謁見に向かっているので後でお伺い致しますわ! ごめんあそばせ!」
しかしアリエラは足を止める事なく、走り去る。
「…………チッ」
“陛下への謁見”と言われてはオヴォル卿も引き退るを得ず、アリエラへの並走を止めた。
──────────
エレベーターを上昇させ、亜空間の最上部にある巨大な両扉を開いた先には更に底無しの闇が広がる亜空間に繋がっており、その闇からは白亜の石柱が四本だけ立っている──……『四天王の間』があった。
「まだ一年も経ってないのに懐かしいわ……。
この部屋からワタクシの旅が始まったのよね……」
〈翼獅身〉を発動し飛ぶアリエラは自分の立ち位置である石柱と、そこに置いた冠付きの雌獅子金仮面を見て数ヶ月前を懐かしむ。
(使いにくそうな部屋だな〜……)
と、ピチカは思ったが魔王城の内装にケチをつけると大変な事になりそうなので黙って飛んだ。
石柱を通り過ぎてしばらくすると闇は晴れ、見上げるほどの白亜の両扉が現れ、左右には『双璧』を一回り小さくしたような姿をしている傲慢の大公と虚飾の大公が二体ずつ控えている。
「あ〜♡ 遅いゾ♡」
扉と悪魔を見上げていたピチカが正面を向くと、扉の前には人影が二つあり、その内一人が手を振っている。
黒く艶のある髪を二つ括りにし、フリルやリボンの付いた薄桃色の服に黒のスカートやブーツを身に付け、背からは髑髏模様の蝶の翅と黒い甲殻に覆われた尻尾が生えた赤い瞳の蝶の蟲人らしき少女が口元を隠すガスマスク越しに話しかけてきた。
どこか特級冒険者『付け火のベル』──つまりバアル・ゼブブの分身に似た容姿と口調でピチカはこの姿を見るのは初めてだが、初対面ではない事に気付いた。
「……もしかしてアナトてゃ?」
「そうだゾ〜♡ (“てゃ”……?)」
「へぇ〜! 地雷系ガスマスクかぁ〜……カワイイ〜♡」
「……今回はそういう方向性の見た目にしたのね。ワタクシとの戦いについての報告?」
「うん♡ 口から蛆が漏れたら陛下に失礼だからガスマスクで塞いでるんだぞ♡」
「ギャッ……あ、あー……そっちのヒトは……はじめましてですよね? よろしくおねがいしま〜す」
アナトへの悲鳴を呑み込んでピチカが挨拶すると、もう一人も軽く手を上げて挨拶を返した。
『ああ、私はゼブブ卿麾下『蝶の血族』が眷属であるマキア様だ! よろしくな新入り!』
蟲人とはまた違う装甲に覆われた起伏のある──おそらく女性を模した──義体は各部から駆動音と赤い光を漏らしながら歩み寄りピチカの肩を軽く叩く。
「……マキアは何の用で呼ばれているの?」
『は!? 私の『バロール』の首を背後から刎ねただろうが! 魔力データは録ってあるんだぞ! 戦いになってなかったとでも言いたいのか!? バカにしやがって〜!!』
マキアは南方大陸での事を思い出し、義体に地団駄を踏ませた。
「……? ああ……それはおそらく“姉上擬き”の仕業ね。まだ情報共有されていないのね」
『なんだそれは?』
「『導師ゲダ』の術で復元されたアリエラさんの双子のお姉さん──……『指輪付き・ネフェラリエラの姉』の事ですよ。情報は数日前には送ったハズですが……」
レイメイが説明してやると、マキアの義体は首を傾げた後アナトを見る。
『……アナト嬢は何か聴きましたか?』
「ちょっと前に聴いたゾ♡」
「アノ……ソロソロ中ヘ……魔王陛下ガ……オ待チデス」
扉の前で喋り込んでいると、門番の悪魔たちが申し訳なさそうに身を屈めて話し掛けてくる。
「これは失礼。陛下ッ! 失礼致しますわッ!」
「ギャッ……まぶしいッ!」
アリエラが扉を押し開けると、一行は荘厳な曙光に照らされ、玉座について知らなかったピチカは眩しさのあまり翼腕で顔を隠した。
足を踏み入れた『玉座の間』は屋内だというのに風が吹き、その風に流されて絶えず形を変える雲が通り過ぎて行き、足場らしい足場も無いのに何故か空中を歩ける不可思議な空間であった。
「おっと、すまないね……光量を少し落とそうか」
驚くピチカの声に反応して『玉座の間』最奥で輝いていた擬似太陽と化していた魔王が光の中から姿を現す。
雄獅子の金仮面の口から溢れる湯が止まり、純白の長衣を着込んだ事によって神々しさの増した魔王だったが、ピチカは魔王自身よりも座っている玉座に驚いた。
魔王は苦悶の表情を浮かべ真っ二つに引き裂かれた巨大な女性の胸像から溢れた血飛沫とも、噴出する火柱ともつかない赤黒い謎のオブジェに腰掛け、左右には『双璧』を侍らせている。
「召喚に応じ参上致しました。魔王陛下に於かれましては御機嫌麗しゅう」
その椅子と呼んで良いのか怪しい禍々しい物体と、神々しい魔王の前に一行は跪き、アリエラが代表として挨拶をした。
「あーうん。楽にし給え。堅苦しいのは抜きにしようじゃないか」
魔王は指先をクイと上げて一行に立ち上がるように促す。
「「『「「ハッ!」」』」」「あ、ハッ!」
「ん〜……だからそう畏まるなと……」
素早く立ち上がる一同と遅れて立ち上がるピチカを見て魔王は頬杖を突く。
「そう仰られるなら……」
呆れる魔王を見てアリエラは直立不動の姿勢を崩して腕を組んだ。
「うん。では……ああそうだシィシアも呼んでおかなくては」
魔王が指を鳴らすと、赤い煙が虚空から炸裂する。
「──……『中指のシィシア』参上ッス!
おー、もう皆さんお揃いッスかァ〜?」
煙の中から一切畏まる様子のないシィシアが現れた。
『朱帝會』の構成員のフリをしている最中だったのか朱色のダブルスーツを着ている。
「よし……ではアリエラの旅の進捗について聴く前に新入りのピチカには色々と話しておこうか。
この魔王──……
『傲慢の魔王レフィクル』の理念や目的について……」
◇『四天王の間』
魔王城の『玉座の間』の前にある底無しの闇から白亜の石柱が四本だけ立っている使い勝手の悪い部屋。
普段は四天王の会議室として使われている。
侵入者が『四天王の間』まで攻め込んで来た際には四天王それぞれに合わせた戦場に変化する魔法がかけてあるが、一度も変化した事は無い。




