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第六十二話 魔王国

登場人物紹介

◇アリエラ

主人公。魔王軍四天王最強の怪力と頭脳を持つ紅一点。

『殲滅女帝』の二つ名を持つ。

褐色肌にボブカットの黒髪、猫のような紅い瞳、獅子の耳と尻尾が特徴の獣人。

冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。

特級冒険者としての二つ名は『爆心地のアリエラ』

アリエラという名は“神の獅子”を意味する。


◇ピチカ

蒼い髪と瞳にギザ歯が特徴のアクセサリー付けすぎなギャルっぽいハーピィ。

異世界転生者。チートスキル【楽々御粧し】の使い手。

冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』の一応リーダー。

一級冒険者。

ピチカという名は鳥っぽいから自分で付けた偽名。


◇レイメイ

魔王直属暗殺部隊『五毒姫』の末妹。

白い長髪と肌に鬼灯のように赤い瞳と愛嬌紅が特徴。

魔王特製の最上級キョンシー(札は丹田に貼っている)。

冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。

特級冒険者としての二つ名は『毒蛇姫レイメイ』

レイメイという名は“蕾のような美しさ”を意味する。


◇イエナガ・クズハ

アリエラの専属メイド。休暇を取って旅に同行中。

艶のある長い黒髪が特徴のキツネとハイエナの混相の獣人(ケモ度高め)。

尻尾を様々な形状に変化させられる。

アリエラを慕っている。

クズハという名は“葛のように何処でも逞しく生きられるように”と付けられた。



 ◇


 

 ──中央大陸──

 かつては『水の女神レヴィール』の支配下にあり、人間中心の小国家が乱立し戦乱の絶えない大陸であったが、約二十年前に勃興した『ノク・ノト魔王国』が圧倒的な武力で諸国を併呑し、現状では世界唯一の大陸統一国家として君臨している。

 真円に近い形の大陸の中心に聳え立つ魔王城から大陸中に血管のように張り巡らされた蒸気パイプ・上下水道・鉄道路線が各種産業の発展を支え、今最も勢いのある先進国である。

────────────────────


 一行は南方大陸を脱し、中央大陸南部の『第四十三都サブナク市』に到着した。

 近年縫製技術の進歩により高品質の衣服が安価で大量に手に入るようになったため、老若男女種族を問わずほとんどの者が仕立ての良い薄手の紳士服やドレスを着ており、皆忙しそうではあるが疲れ果てたような雰囲気は無く前向きである。



 北西大陸を除けば最も機械が発達し、他大陸とは一線を画す清潔な街並みを誇るため初めて訪れるピチカは大層驚くだろうとアリエラたちは思っていたのだが──……


おぉーッ(パシャリ)☆ レトロ感あってエモーい☆(パシャリ)


ピチカは大した驚きも見せずに配管の張り巡らされた街並みを写真機(カメラ)で撮影していた。


「いや懐古的(レトロ)てピチカさん……」

「あ、ゴメ……スチームパンク的な? そこら中プシュプシュ鳴っててカッコいいね☆

 それにみんな服オシャレだよね! ヴィクトリア調ってヤツ?」

「まあ異世界はもっと文明が進んでいるそうだし……あまり驚くような事でもないのかしらね」

「ワタシが初めて来た時は開いた口が塞がりませんでしたが……」


 アリエラとレイメイは人波に溶け込むために赤と白のドレスに鍔広帽を被り、イエナガは相変わらずメイド服のままである。


 一方ピチカはドレスが性に合わないのか、清潔な白シャツにサスペンダー付きのハーフパンツを身に付け、頭には鳥打帽(ハンチングキャップ)という少年然とした格好をしているが、髪には相変わらず大量の髪飾り(歯車のようなデザインの物が多い)を付けている。


 しかし、いくら一行が目立たぬように努めても中央大陸では基本見かけない女面鷲(ハーピィ)のピチカは目立ち、同時に連れ合いのアリエラとレイメイも注目を集め、さらにどう見ても侍女(メイド)のイエナガまで同行しているため、道行く人々は失礼にならない程度に一行を横目で見ながら通り過ぎていく。


「……目立ってしまっていますね」

「そうね。早く謁見しに行きましょうか」

「移動方法は如何致しましょう? 飛びますか?」

「あ! あーしSL乗ってみたい! 魔王国の名物でしょ?」


 ピチカの案が採用され、一行は魔王城の南部城下都市『ヴァッサゴ市』に向かって蒸気機関車に乗る事になった。



 ◇



「待ってー☆!」


 ヴァッサゴ市行き蒸気列車が汽笛を轟かせた時、ピチカは駅のホームをわざわざ走り、進み出した列車を追いかけていた。


「何やってるんですかピチカさん!」

「ギャヒィー! ……いよッと! フゥ〜☆

 いや〜列車に乗り遅れそうになってこの後ろのトコに飛び乗るヤツやってみたくてさ〜☆」


 列車の最後部の展望デッキの手摺りに飛び乗ったピチカは遠ざかって行く駅を眺めた。


「まあ気持ちはわかりますけど……アリエラさんとイエナガさんはもう席に着いてますよ」

「ゴメンゴメン☆ お〜……個室になってんだね! (ハ◯ー・ポッターみた〜い☆)」


 やや狭い通路を歩いて行くと、磨りガラス付きのドアで仕切られた個室席の窓際にアリエラが、その隣にイエナガが着席していた。


「遅くてよピチカ。まあ乗り遅れたところでピチカなら飛んだ方が速いでしょうけど……」

「それはそーだけど速けりゃイイってモンでもないっしょ☆ 特別感大事!」


 そう言いながらピチカはアリエラと向かいの窓際席に座り、興味深気に外に広がる景色を眺める。

 ヴィクトリア調とスチームパンクの混ざった都市部を抜けると、長閑な雰囲気の農村や野生動物の駆け回る原野など豊かな自然も見る事ができた。


「“レトロ”……と表現したという事は異世界では蒸気機関は廃れていたんですか?」

「あーしが生まれた頃にはもうとっくに電車とか新幹線に替わってたんじゃないかな? 詳しくないケド。

 まーカッコいいけど環境問題とかあるからね〜……」


 ピチカが異世界の蒸気機関事情について少ない知識で話していると、聴いていた他三名は首を傾げる。


「環境問題……? 蒸気機関でですか?」

「んぇ……? だって石炭とか燃やすからガスとか出るじゃん?」

「ああそういう事……現在の中央大陸の蒸気機関は魔王陛下の魔力から発生した蒸気を利用した物だから、その辺りは心配無くてよ」

「ワタシが幼い頃はまだ石炭も使用されていたようですけれど……最近は燃料を使う物は見かけないですね」


「へぇーめっちゃエコじゃん!

 ……魔王サマってボイラーみたいなカンジなの? あーし実際見たコトなくってさぁ……どんなヒト──あッちがう、御方? なの……?」


 今現在謁見に向かっている魔王の事が話題に上がったのを機にピチカは魔王軍幹部であるアリエラやレイメイの不興を買わないように魔王について尋ねた。


「そんなに恐れなくても大丈夫よピチカ。陛下はとても寛大な御方だから……」

「そうですよ。勝負を挑んで負けた『五毒姫(私たち)』やアリエラさんを幹部として従えてるくらいですし……」

「ワタシのような一侍女(メイド)の意見にも耳を傾けて下さる御方ですしねッ」


「な〜んだそれなら安心──……」

 意外にも軽いノリの返事に安堵の言葉を紡ぐピチカだったが、アリエラがそれを遮るように言葉を続ける。


「いや……寛大と言うよりは……御自身が最も優れた存在だという絶対の自信があるから他者にいちいち腹を立てないと言うべきかしらね」

「そうですね……陛下は怒らなくても『双璧』なんかは気が短いので失礼の無いよう気をつけてくださいねピチカさん」


「ギャヒィ……『双璧』って……前にダンジョンでアーちゃんが倒したレベチの悪魔と同格なんだっけ?」

 ピチカは以前『ティルイルの昇天宮』に居た色欲の(ラスト)副王(ヴァイスロイ)の姿を思い出した。


「さすがにアレと一緒にするのは可哀想よ。ワタクシより弱いのは確かだけれど」

「陛下や王妹殿下に代わって口煩く言う役ですからね……挨拶はキチンとしてくださいよピチカさん」

「理不尽に叱ったりはなさりませんからそんなに身構えなくても大丈夫ですよッピチカ様」


「う〜……キンチョーしてきた……」



 ◇



「さすがに魔王国内は平和ね……」

「何事も無く旅をできたのなんていつぶりでしょうね……」

「それな〜」

「そんなに頻繁に問題が起きていたのですか……?」


 一行は数日に渡り列車を乗り継ぎながら北上し、いくつか都市部を通過して魔王城南部の『第三都ヴァッサゴ市』に到着した。


 城下都市だけあって他の都市より建物や住人の服装は絢爛豪華である。

 東方大陸で見かけた物より機能も意匠も洗練された蒸気自動車や立派な馬の引く馬車が走っており、既に夜中になっていたが大通りは十全に配備された街灯が夜闇を煌々と照らしているため、夜目の利かない種族であっても安心して歩く事ができるようだ。


「……なんかネズミ推しの町なんだね……?」

 初めてヴァッサゴ市を訪れたピチカが周囲を見回すと、車道と歩道を仕切る柵・壁の模様・家屋の屋根など至る所に鼠を模った飾りが施されている。


「そりゃこのヴァッサゴ市は『御三家』の一角である『鼠の血族』の真祖『エッタル卿』の領地ですからね」

「ま〜た知らない魔王軍幹部が増えた……」

「『御三家』は別に魔王軍幹部ではなくて、ゼブブ卿を除いた魔王国の公爵の総称よ。

 …………(ザワザワザワ……)噂をすればお出ましのようね」


 そう言うアリエラが地面に視線を落とすと、何処からともなく現れた鼠の大群が集い一塊となった。


「ギャヒィー!?」

「落ち着きなさい。失礼よピチカ」


 アリエラが怯えるピチカの肩を軽く叩いて落ち着かせる間にも集い続ける鼠の大群はやがて融合し、直立する一体の巨大な鼠──身長約3m程の太った鼠人(ラットマン)の姿を形成した。


……(ザワザワ)お久しぶりでございまチュ、アリエラ殿にレイメイ殿ぉ。

 我が領地(りょうチュ)へようこそおいで下さいましたなぁ……ゲッヘッヘッヘッ」

 

 短い手で揉み手をしながら現れた『エッタル卿』は頭に小さな冠を載せ背には仕立ての良い真っ赤な外套(マント)を羽織り、毛並みは艶やかであるにも関わらず、立ち居振る舞いのせいか何処か小汚い印象を受ける。


「……どうも」

「わざわざ出向いて下さるなんて光栄ですわエッタル卿。ワタクシたちに何かご用でも?」


 バアル・ゼブブと違い魔王軍の同僚というワケでもないからか、アリエラは少し余所余所しい態度でエッタル卿に用向きを尋ねる。


「おぉ! そうなのでチュ! アリエラ殿ぉ!

 魔王城からお迎えが来られるそうなので急いで広場までお越し下されぇい! 遅れてしまうとマズいですぞぉ?

 ではワガハイは人払いを任されているのでこれにて……ゲッヘッヘッ……(ザワザワザワザワ)


 用件を伝え終えるとエッタル卿の巨体は再び鼠の大群にバラけて都市中に散って行く。


「あらそうですの? ありがとうございますわエッタル卿。皆急ぎましょ」

「そうですね。ではさようならエッタル卿」

「ありがとうございますッ」

「あ、ありがとうございま〜す……」


 一行はがエッタル卿に軽く挨拶をし鼠が全て去るのを見届けると、足早にヴァッサゴ市中央付近の広場に向かった。



 ◇



「……まだ迎えは来ていないようね」 

「広場指定という事は迎えは『オディール』さんですかね……苦手なんですよねあのヒト……」

「ま、まあそう仰らずに……あ、ワタシは石畳を外しておきますねッ」


 去り際の言葉通りエッタル卿が人払いを済ませているのか広場周辺には人の気配は無く、静寂に包まれている。

 そのためイエナガは人目を気にする事なく、変化させた尻尾を使って石畳の一部を外して迎えが来る準備を始めた。


「……どんなヒトなの?」

「あら知らない? 『一番槍のオディール』という魔王軍幹部で──……(ヒュンッ ザグッ)来るわ」


 ピチカの質問にアリエラが答えようとした瞬間、石畳が外されて剥き出しになった地面に黒光りする百合の紋章を模った槍が突き刺さった。


──……(ブォンッ……)お迎えに上がりましたよぉ……ふふッ」

 

 すると瞬時に槍の刺さった位置の近くに“黒い髪と瞳・背中と腰には黒翼・頭部にも小さな黒翼・磁器のような白い肌”が特徴の美しい黒いバレエ衣装のようなアーマードレスを身に纏う戦乙女──

……という『光の女神イースネス』の色を反転させたような外見の少女『一番槍のオディール』が現れた。


「悪いわね、オディール。わざわざ迎えに来て貰って」

「いいえ……私が来たくて来たワケではないのでお気になさらず……それより皆さん頭が高いですよぉ?」


 オディールはアリエラの礼を適当にあしらい、手を翳して姿勢を低くするように促す。


「私たちがあなたに頭を下げる義理は──……(シュウウゥ……)……!」

 レイメイがオディールの発言に反発して口を開いた瞬間、オディールの背後に突如湯気に包まれた幾つかの巨大な影が現れた。


「「「──……(バッ)!」」」

 その湯気の発生源を察すると同時に、アリエラ・レイメイ・イエナガは跪く。


「うぇっ? ア、アーちゃん?」

 突然跪く三人……特にアリエラに驚き、反応が遅れてしまったピチカに対してアリエラは──


「ピチカ」


……と名前を呼ぶだけであったが、それは言外に“一緒に跪きなさい”と言っているのだとピチカは理解し即座に跪いた。


 魔王国内でアリエラが跪くような人物と言えばピチカが思い付く範囲ではたったの一人──……


『傲慢の魔王』である。

◇エッタル卿

『ノク・ノト魔王国』のバアル・ゼブブ卿を除く公爵『御三家』の一角にして吸血鬼『鼠の血族』真祖の鼠人。

ゼブブ卿と共に魔王国中の下水施設の管理を任されている他、魔王軍構成員の希望者を吸血鬼化させる仕事も請け負っている。

かつては他の血族と中央大陸の覇権を巡り争っていたが、バアル・ゼブブに『蟲の血族』と『蝶の血族』真祖が抹殺されるのを目の当たりにし、真っ先に降伏した。

言葉の所々に“チュ“が混ざるのはキャラ付けであり普通に喋れる。

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