第六十話 第二形態
登場人物紹介
◇アリエラ
主人公。魔王軍四天王最強の怪力と頭脳を持つ紅一点。
『殲滅女帝』の二つ名を持つ。
褐色肌にボブカットの黒髪、猫のような紅い瞳、獅子の耳と尻尾が特徴の獣人。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者としての二つ名は『爆心地のアリエラ』
猫の鳴き声の聞き分けが得意。
◇ピチカ
蒼い髪と瞳にギザ歯が特徴のアクセサリー付けすぎなギャルっぽいハーピィ。
異世界転生者。チートスキル【楽々御粧し】の使い手。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』の一応リーダー。
一級冒険者。
高周波音はあまり聞き取れない。
◇レイメイ
魔王直属暗殺部隊『五毒姫』の末妹。
白い長髪と肌に鬼灯のように赤い瞳と愛嬌紅が特徴。
魔王特製の最上級キョンシー(札は丹田に貼っている)。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者としての二つ名は『毒蛇姫レイメイ』
南方大陸では昼間はメジェド神っぽい格好をしている。
本気を出せば数kmの物音を聞き取れる。
◇イエナガ・クズハ
アリエラの専属メイド。休暇を取って旅に同行中。
艶のある長い黒髪が特徴のキツネとハイエナの混相の獣人(ケモ度高め)。
尻尾を様々な形状に変化させられる。
アリエラを慕っている。
耳が大きいので聴力は結構高い。
◇ワン・ソンミン
東方大陸最大国家ウーヴ皇国を牛耳る『ワン五兄弟』の末弟。白虎の獣人。
暗殺されてレイメイ配下のキョンシーとなった。
聴力はかなり高いが、レイメイの隠密を看破できる程ではなかった。
◇『ネフェラリエラの姉』
アリエラの双子の姉の黄金髑髏の残留思念から復活した『ゲダの指』最高幹部『指輪付き』の一角。
『導師ゲダ』との契約である程度行動を制限されている。
アリエラそっくりで髪が長く、頭に常に黄金髑髏を被っている。
アリエラと同程度の聴力はあるが、猫の鳴き声の聞き分けはできない。
◇
「キリが無いですね……」
「オレ様もう飽きちまったよ……」
アリエラと『ネフェラリエラの姉』がアラハス砂漠にて戦う一方で、竜の墓場で擬似生命体たちと戦っていたレイメイたちは早々に三体の擬似生命体を屠ったが、〈冥府帝〉を発動して骨の巨竜と化した擬似生命体を仕止め切れずにいた。
「ギシャアアアアアッ!」
最初は身体を構成する竜骨を景気良く斬り刻み粉砕されていた骨の巨竜であったが、砕いた端から魔力の根が伸び砕けた骨を再び取り込み巨竜は再生、構成する骨が細かくなる度に巨竜の身体は凝縮され小さくなり山ほどあった体躯は砂丘ほどになっていた。
しかし、小さくなる毎に動きは洗練され、密度の上がった身体は強靭になっていく。
“屍を取り込み操る魔術”を使ってくる都合上、キョンシーであるレイメイとソンミンは攻撃した際に飛び出してくる魔力の根を回避しなければならず、ピチカとイエナガには巨竜相手に正面切れるほどの戦闘力は無いため決定力に欠け、戦闘は夜まで続いていた。
「ま〜た再生しやがったァ! ダリぃなもう!!」
「文句言ってないで攻撃しててください! もう少し小さくなったら私がちょっと本気出して仕止めます!」
「──! まさかレイメイ様……第二形態になるおつもりですか!?」
現状のレイメイの単純な攻撃力では到底斃せそうにもない巨竜への“ちょっと本気出す”発言にイエナガはゾッとしながら後退る。
「メイメイ第二形態とかあるの!?」
「……私が魔王軍幹部って事忘れてませんか?
じゃあピチカさん、私の呪符を剥がして下さい」
巨竜の相手を一時ソンミンに任せて退がったレイメイは長袍の裾を捲り、ピチカに下腹部に貼られた呪符を見せた。
「エッッッッッ……それはがしていーの!?」
「そりゃ基本はダメですが、事態が事態ですからね……『五毒姫』を除く魔王軍所属者にしか剥がせないので今剥がせるのはピチカさんだけなんです! 早く剥がして下さい! さぁ!」
下腹部を露出しながら迫るレイメイにピチカは目を逸らしながら翼腕を伸ばす。
「わかったわかった! いくよ〜……? せい……!」
「ヘヒヒッどうも……それじゃあ巻き込まれないようにイエナガさんと街の近くまで避難してて下さい。
ヘヒッそれからッヘヒヒッ…………事が済んだらまた呪符を……ヘヒャッおそらく【楽々御粧し】で貼り直せると思うのでお願いシャ──────────ッ!!!」
呪符を剥がされた途端に笑いが堪え切れなくなった様子のレイメイの腕は際限なく伸び続けて地面に蜷局を作り、胴から分離した頭部はいつものように技名を叫ぶ事無く白い大蛇に変化し口内から白い毒雲を漏らしながら宙を舞い始める。
「ピチカ様ッ! 行きましょうッ!」
「うぉ……オッケー!」
ピチカはイエナガの肩を脚で掴み、一目散に背後に迫る毒雲から逃げるように飛び去った。
「シャァアアア゛ッ!!」
絶えず毒雲を吐きながら巨大化を続けるレイメイ(蛇)の身体を覆う鱗は金属質な光沢を帯び、頭からは鹿のような枝分かれした角が生え、蛇龍とでも呼ぶべき姿に変化していった。
「ギシャアァア゛ッ!!」
レイメイ(蛇龍)の吐く毒雲から降り注ぐ鋼の飛礫は骨の巨竜の身体を撃ち付け、レイメイ(首無し)の際限無く伸びる両手足は蛇のように巨竜に襲い掛かり、その爪から分泌される猛毒で骨と魔力の根を侵して巨竜の脚を崩壊させていく。
「うおぉッなんだこりゃ!? ……ってレイメイ……様だよな!? こんな変身できるなら最初ッからやれよ!!」
「軽々しく使える力なワケないでしょッ!
喋るヒマがあったら竜の脚を〈鵺雷鳴掌〉で破壊してくださいッ!! シャ────────ッ!」
「んな技ねーよ! ただの劈掛掌だろーがよォ!!」
降り注ぐ鋼の飛礫を片手で難なく捌きながらもレイメイが本気を出していなかった事に対して抗議するソンミンだったが、己の意思とは無関係に威嚇するレイメイ(蛇龍)の指示に従って巨竜の前脚を雷鳴のような衝撃音の轟く劈掛掌──〈鵺雷鳴掌〉にて粉砕した。
「へヒャッじゃあ丸呑みにするのでその調子で後ろ脚も破壊して退避してくださいねッ!
──〈真・呑龍の蛇〉ッ!!」
まだ軌道に残るソンミンに構う事無く巨竜に襲い掛かるレイメイ(蛇龍)は真っ赤な口腔を曝け出し、周囲の砂ごと巨竜をずるりと呑み込んだ。
「危ねッ! 気ィ付けろやァ!」
「ギシャア……ア……ァ……」
「んグッ……んッ……ペッ!」
文句を言うソンミンに構わずレイメイ(蛇龍)は巨竜を呑み込んで膨れた身体を擡げてくねらせ、体内で強力な胃酸を分泌し巨竜とその核たる擬似生命体を溶解させて元のスリムな体型に戻ると、口から胃酸に塗れ紅玉の飾りが溶けたゾウ獣人の黄金髑髏を吐き出した。
「うっへぇ……」
「まだ触らないようにしてくださいね」
「頼まれたって触んねぇよ! 汚ねぇな……」
「……少し自我を残し過ぎましたかね? ソンミンさん」
「グハハっ……冗談だよ冗談! キレんなって」
「全く……アリエラさんの方に加勢を──……これは……!」
アリエラの飛ばされたアラハス砂漠の方向を見ると、レイメイ(蛇龍)の感覚器官は地平線の彼方から途方も無い熱源と閃光、そして爆発音と大地の震えを感知した。
「アリエラさんも第二形態に入っている……!」
◇
「がァアあぁあッ──カハッ……!」
『ネフェラリエラの姉』は第二形態に入ったアリエラに応戦すべく狂獣化して赫く染まった長髪を振り乱し、巨大化した肢体を振るって殴打し雷撃を伴う咆哮を繰り出し左眼から熱線を放つも、それらの攻撃は質も手数も倍以上の反撃となって返って来る。
それもそのはず、自ら胸に神器【全能鍵】にて孔を穿ち、潜在能力を解放し魔人化したアリエラは──……
「ゴルル゛ル゛ル゛……」「がるルァアア゛ア゛ッ!」
雌獅子と化した頭は二つに分裂し、四本に増えた腕は赤熱の竜鱗に覆われ、背には七色の翼を広げ尻尾は禍々しい蠍のように変異していた。
『ティルイルの昇天宮』で語っていた“理想の相手”の姿に酷似した異形の魔人となったアリエラは反撃だけではなく自ら攻め込む事も始め、体格・獰猛性・魔力量など戦闘に於いて重要な素質全てで『ネフェラリエラの姉』を上回り圧倒した。
「ククッ……フハハハハッ! 惜しむらくはオマエが女である事だな! 男でもう少し鬣があれば番ってやるのも吝かではない暴力と風貌よ!!」
もう勝てないと半ば悟りながらも『ネフェラリエラの姉』は嬉々として髪を振り乱してアリエラに躍り掛かる。
──しかし、二つに増えたアリエラの口から発せられた言葉に『ネフェラリエラの姉』の動きと思考は一瞬停止した。
「弱イ弱イ弱イ……!」「コンナノ……姉上ジャナイ!」
二つの口から怒りとも嘆きとも取れる譫言を垂れ流しつつ猛攻を続けるアリエラは、『ネフェラリエラの姉』を仕止めるというよりはどこか遠くへ飛ばして視界の外に追い出そうとするように殴り飛ばす。
「(“弱い”……!? このワタシが弱者として殺されようとしているのか!?)
〜……ッ!! 嘗めるなよ──」
「──〈天導帝〉ッ!」
アリエラの右頭がハヤブサ鳥人の黄金髑髏を被り眼窩に赫い光を灯すと、『ネフェラリエラの姉』の言葉を遮りながら自己時間の加速を開始した。
「チィッ! (叔父上だけでなくその倅も蒐集に加えていたか! 厄介な……!)」
ただでさえ敗北を半ば確信する程押されていた上、時間加速まで行使された『ネフェラリエラの姉』は巨大化させた身を丸めて防御に徹する。
「──〈太陽帝〉ッ!!」
「なッ……!?」
……が、その防御を嘲笑うかのようにアリエラは左頭に自らの叔父であるハヤブサ鳥人の黄金髑髏を被り、〈天導帝〉と〈太陽帝〉を同時に発動。
閃光と時間操作──……単体でも回避困難な術の二重発動によって『ネフェラリエラの姉』の超人的な動体視力でも反応すら出来ない神速の連撃を放つ発光体と化した魔人アリエラによって、アラハス砂漠の砂丘は灼け付き弾け飛び、真紅の砂嵐が吹き荒ぶ灼熱地獄となった。
(このワタシを弱者扱いするだけの事はあるというワケだ……! 妹が魔王とやらの軍門に降って得た力がこれほどとは……!!
素晴らし──がッ……!?」
一際眩い閃光を感じた次の瞬間『ネフェラリエラの姉』は腹部に強い衝撃を受け、自らの意志とは無関係に空を飛んでいた。
◇
「……ガハァッ!!」
偶然かアリエラが狙って殴り飛ばしたのか……『ネフェラリエラの姉』は『竜の墓場』跡地に叩き付けられ、その場に夥しい量の血を吐く。
その右手には本人も無意識のうちに掴んでいた〈太陽帝〉の触媒たる黄金髑髏があった。
「……やはりアリエラさん優勢のようですね。トドメは私たちで刺しましょうか。これは五対五の戦いなんですから卑怯だなんて思わないでくださいよ?」
「グハハハッ! オレ様が殺ってやるよ!」
「くッ……キサマら……!」
丁度その場に居たレイメイ(蛇龍)とソンミンが殺気を飛ばしながら近寄るも、『ネフェラリエラの姉』には反撃する余力は残っておらず、血溜まりの中で膝を突いて死を待つ他無くなったかと思われたその時──
「────そこまでにして頂けるかな?」
『ネフェラリエラの姉』の吐いた血溜まりが泡立つと無数の干からびた左腕が湧き出し、その手の平に付いた口が開き殺気を放つソンミンを牽制した。
「うぇ気持ち悪ィ! なんだこりゃあよッ!」
驚きながらもソンミンは迷い無く爪を振り抜いて斬撃を飛ばし、血溜まりから湧き出た無数の左腕を斬り刻んだが、肝心の『ネフェラリエラの姉』への攻撃は防がれてしまう。
「あ痛たたた……指輪の契約魔術が破棄されていたから来てみればこの仕打ち……」
切り刻まれた左腕は愚痴りながらも難なく再生して『ネフェラリエラの姉』の防御を続ける。
(“無数の左腕”に……この口振り……まさか──)
レイメイ(蛇龍)が正体を察すると共に血溜まりから湧き出した左腕は自己紹介を始めた。
「あァまずは名乗ろうか……。
僕は『ゲダの指』が首魁『導師ゲダ』という者だ」
◇〈冥府帝〉
アリエラの一族相伝の術の一つ。
魔力を黒混じりの濁った緑色に変質させる。
植物の根のように伸ばした魔力に触れた屍を亡者に変え操る魔術を行使できるようになる。
触媒となる黄金髑髏は約二千年前に南方大陸で最強の死霊術師と謳われたゾウ獣人であったが、『ネフェラリエラの姉』に敗死し蒐集に加えられた時点で歴史からその名を抹消されている。
不当所持されると〈亡者の呪い〉が発動し、周囲の屍を無作為に亡者化させる。




