第六話 実質追放
登場人物紹介
◇アリエラ
主人公。魔王軍四天王最強の怪力と頭脳を持つ紅一点。
褐色肌に短めの黒髪に猫のような紅い瞳の獅子獣人。
猫が好き(マイルドな表現)
他の動物は益獣なら適切な距離感で可愛がる。
◇ピチカ
蒼い髪と瞳にギザ歯が特徴のアクセサリー付けすぎなギャルっぽいハーピィ。
異世界転生者。チートスキル【楽々御粧し】の使い手。
犬も猫も好き。
冒険者組合イクネト支部長バフルは自らの務めるギルドで新しく登録された冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』について頭を悩ませていた。
「愚連隊か……言い得て妙だな。
僅か数日で問題ばかり起こしおってからに……」
特にアリエラ三級冒険者がひどい。
アリエラはやって来てから僅か数日で侮辱的な言動をとった者や、「アリエラが猫を食べていた」等の噂話をしていた十数人の冒険者を半殺しにしている。
これらはまだ相手に非がある分マシなのだが、建造物の破壊や街に棲みついていた猫妖精たちへの執拗な付き纏い行為とそれに伴う奇声や奇行(これが猫を食べたという噂の元だと思われる)は目に余る。
その他にも同じチームに所属している女面鷲のピチカ共々、露出過多な服装や見ているだけで眩暈を起こしそうな派手な服装で街をうろつき風紀を乱しているという苦情もいくつか届いている。
そして確たる証拠が無いため指摘できないが、数日前に起こった『イアシエス山再誕事件』で山の頂を消し飛ばし森林部を焼き払ったのがアリエラではないかとバフルは睨んでいる。
だが非常に暴力的な反面、内容に対して報酬の安い依頼も次々とこなし、街の近郊に出没する魔物をほぼ狩り尽くしてしまう等の功績も多く異例の早さで三級冒険者に昇級している。
元二級冒険者の魔術師であるバフルの見立てでは三級冒険者で伸び悩むような実力ではないだろうと確信している。
イクネト支部には管理している魔窟も現状は存在せず、“冒険者”というよりは“便利屋”といった内容の依頼がほとんどであるため二級以上の冒険者は持て余すし、追放処分にする材料も無いし正直怖いのでさっさと別の支部に行ってほしいというのがバフルの本音だ。
「うーむ……そうだ! アレが丁度いいな。
おーい! 誰かちょっと頼まれてくれんか〜!」
何か思いついたバフルは大声でギルド職員を呼び出した。
◇
「呼び出しに応じて参上致しましたわ」
「失礼しまーす☆」
ギルド職員に呼び出しを受けたアリエラとピチカは冒険者ギルドの支部長の執務室に来ていた。
アリエラはゆとりのある赤布のワンピースを三級冒険者の証である黄色のベルトで留めており、ピチカは相変わらず付けすぎの髪飾りに様々な色の布をツギハギにした奇怪な服を身に纏っており眼に眩しい。
窓を背にした執務机に積まれた書類の山の中から高い鷲鼻と切り揃えられた髭が特徴の支部長バフルが顔を出した。
「おお! 来てくれたか。
まあ掛けてくれ……アリエラくん、ピチカくん。
君たち『パリピ☆愚連隊』に任務があるんだ」
二人はバフルに促されるままに執務机に対して垂直に配置されている長机に備えられたソファに腰掛けた。
「……任務? 依頼ではなくて?」
「そう任務だ。
依頼と違いよほどの体調不良や任務内容が信仰している宗教の教義に反するものでない限りは受ける義務がある。
もちろん半強制である分ギルドから支度金は出すよ……それで任務は隊商の護衛なんだが問題ないかね?」
「護衛は得意分野だから問題ありませんことよ」
「あーしもオッケーでーす☆」
「うむ! いい返事だ。
では詳細はこの書類で確認してくれたまえ」
そう言うとバフルは念動力で書類を二人の前まで飛ばした。
「んー……? この任務明日からじゃーん!! 急すぎない?」
「確かに……隊商の護衛なら緊急性のある任務とは思えませんけれど……何故ワタクシ達に?」
二人の懐疑的な視線を受けたバフルは目を泳がせながら歯切れ悪く答えた。
「いやほら……アレだよ……君たちここ数日で頭角を現してきただろう?
二人とも三級冒険者にもなった事だし、これから任務を言い渡される機会も増えるだろうから早めに慣れた方がいいと思ってね……。
まあ……それでその……なんだ……隊商の目的地の町にも冒険者ギルドの支部があるんだが……そちらの支部長に君たちの事を連絡しておくから、向こうでよろしくやってくれ」
話している相手が山の頂を消し飛ばせる怪物であるとほぼ確信しているバフルは冷や汗をかきながら頭を下げた。
「つまり……ワタクシ達にこの街から出て行ってほしいという事でよろしくて?」
「実質追放……ってコト!?」
「いやいやいやいや!! そんな人聞きの悪い!!
この島にはダンジョンも無いし、君たちには少々窮屈かなと思ってね!! 私の見立てでは君たちはもっと上の階級が相応しいと判断して──」
バフルは激しく頭を左右に振り否定しながらも、机の上に置いていた愛用の杖に無意識のうちに手を伸ばしかけた。
「その杖を手に取ったらワタクシも反撃させて頂きますけれどよろしくて?」
アリエラはバフルに赫い魔力で強化し獣率を僅かに上昇させた鋭い爪をチラつかせた。
「……ッ!! ……いやわざとではないんだ……争う気はない。
勘違いさせるような事をしてすまなかった……」
バフルが謝罪するとアリエラは魔力と爪を収めて柔和な笑みを見せた。
「……そんなに怖がらなくてもこの街に定住するつもりはそもそもなかったから心配なくてよ支部長さん。
ピチカもそうでしょう?」
「うん! いろんなとこ見て周りたいからお金もらって移動できるのありがた〜いってカンジ☆」
「そ、そうかね……では今日は任務に備えてしっかり英気を養っておいてくれ。
新天地での君たちの活躍を楽しみにしているよ」
不安が晴れたからか、すっかり冷や汗が引き爽やかな笑みを見せながらバフルは念動力で支度金の入った袋を渡し、ドアを開いて二人に退室を促した。
「ご期待に添えるよう尽力致しますわ。
行きましょピチカ。買い物しなくちゃ」
「失礼しまーす! 人のお金で買い物サイコー☆」
「ふう……行ってくれたか……」
思っていたよりはアリエラに話が通じた事に安堵したバフルは書類との格闘を再開した。
◇
翌朝早く、『パリピ☆愚連隊』は任務の為にイクネト島南端の港から護衛対象の帆船で東方大陸へ向けて出航した。
一人旅をしていた時は空を飛んで移動していたピチカは初めて船に乗るという事もあって水兵服を身に纏い、髪飾りも錨や魚など船と海に関連したデザインの物を大量に付けてはしゃいでいたのだが……。
「帆船ってあんまスピード出ないんだね〜」
ピチカは荒れた大海原の冒険のようなものを想像していたのだがほとんど波が立たず船員も荒くれ者どころか礼儀正しい者たちが多く現状平和な船旅だった。
「ハーピィの飛行速度と比べたら可哀想よ。
でも確かにあまり風が吹かないし、海賊も魔物も出ないしでこの子も退屈しちゃうわね……」
アリエラは悩ましげに頭に乗せている鋭い牙が生え紅玉で飾られたツチブタ獣人の黄金頭蓋骨を撫でた。
「……前から気になってたんだけどアーちゃんがたまに被ってるその金ピカドクロってなんなの? 超クオリティ高いよね〜本物の骨みたい」
「みたいも何も……本物の頭蓋骨よ?」
「え゛ッ!? それマジ……?」
「マジよ。ワタクシの一族相伝の魔術でね……自ら斃して心臓を食べた相手の頭蓋骨を被る事で魔力の性質を変えられるの。
金色なのは至剛金で塗装してるからよ。
この頭蓋骨は元は盗賊でね……ワタクシが被ると魔力が赫色から青紫に変化して嵐を操れるようになるの」
「……死霊術ってコト? それにアダマントって今はもう魔王軍しか加工できないって聞いたことあるんだけど……」
「そりゃあワタクシがアダマントの加工法を魔王軍に伝授した魔王軍四天王『殲滅女帝アリエラ』ですもの……言ってなかったかしら……?」
「言ってないよ!? マジ殲滅女帝!? 『四天王最強の怪力と頭脳を持つ紅一点』でおなじみの!! …………頭脳???」
「何が疑問なのかしら……まあいいわ……これで貴女が転生者であると明かした分とおあいこね。
それで……魔王軍四天王とは怖くて旅ができないかしら?」
「んーん! 別に! むしろ頼もしいよ☆
あーし魔王軍に恨みとか特にないし?」
「そう……ではピチカ 二人で突風を起こしてさっさと船を東方大陸に到着させましょ。
──〈暴嵐帝〉ッ!!」
そう言うと術を発動し魔力を変質させたアリエラとピチカは帆の後ろに飛び上がり両手から凄まじい突風を放った。
「よっしゃぁああ! えいえーい!!!」
「良い速度が出てるじゃない……! ではワタクシはもっと速度を出して見せるわ!」
二人が競い合うように加速させた結果、帆船は殺人的な速度で大海原を滑り、帆が突風を受ける角度によっては時折宙に浮きながらほぼ一直線に進んで行った。
船員たちは船から落ちないように近くの物にしがみつくのに必死で文句も碌に言えない状態となった。
そんな中で隊商専属護衛の一人がある事に気付いた。
(あの獅子獣人の女……イクネト島で踊り子やってた時と魔力の質が変わってやがる……! ありえるのか!?
だが魔力性質の変化に加えてこのイカれた出力……『イアシエス山再誕事件』はコイツなら単独で起こせてもおかしくは──……)
「ギジャアアア゛ ア゛ ア゛!!!」
その時突如として海面を突き破り現れた巨大な魚の魔物が船目掛けて飛び上がり、醜悪な乱杭歯を甲板に突き立てようとしたが──……
「ギジャアアァア゛ア゛──「邪魔よッ!」──ア゛ア゛ア゛ァアアア゛ア゛ッッ!?」
アリエラが帆に風を送る片手間で手から放った竜巻に全身を捻じられ、竜巻に付随した雷に全身を貫かれ爆散した。
すると魚の体液で染まった海が不自然な渦を巻き、その中心から約二十メートルもの巨体を誇る腐敗した魚人のような者が現れアリエラに向けて怒号を飛ばしたが──……
「貴様ぁあああ!! よくも我が眷属を手にかけたなァ!!
我を『ゲダの指』が一柱『潰帝の──「鬱陶しいッ!!」──かフッ、グビゅッ……」
アリエラの振るった両手の指先から発生した魔風の刃によって胴体を賽の目状に切り刻まれ、自らの眷属同様に雷によって残った部位も弾け飛んだ。
(俺は何も見ちゃいないし気付いてもいない……それでいいじゃねぇか……)
真相にほぼ辿り着いた護衛の男だったが、バラしてしまった時自分がどうなるかは容易に想像出来たのでこの事は墓まで持っていくと心に決めた。
「ピチカ! これ以上邪魔が入る前に速度上げるわよ!!」
「了解! えいえいっ☆……ってかさっきのでっかいの『ゲダの指』って言ってなかった!? 瞬殺しちゃった! アーちゃんやっぱヤベーわ……!」
こうして冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』と巨大な魚の魔物、そしてカルト死霊術師団『ゲダの指』構成員という三つの危機を乗り越えて船は東方大陸に辿り着いたのであった。
『パリピ☆愚連隊』は温厚だった船員たちにこれでもかという程こっ酷く叱られ、護衛予定だった町への同行も断られてしまい任務は失敗となった……。
◇至剛金
希少金属の一種。
一見すると黄金のようだが、黄金とは異なり『破壊不可能』と謳われる程の常軌を逸した強度を持つ。
加工法が失伝していたが、アリエラが魔王軍に伝授した事で現代にアダマント加工業が蘇った。
◇『ゲダの指』
『導師ゲダ』を崇めるカルト死霊術師団。
アンデッド種族の構成員が多い。
足抜けした構成員は例外なく抹殺されているため情報が少ないが『指輪付き』と呼ばれる幹部が存在する事、導師ゲダは無数の左腕を持つ事などが知られている。
◇魔物
生物の魔力が暴走し、突然変異した存在。
体内に魔力の結石……通称『魔石』が発生し、魔石を破壊・摘出されない限りはほぼ不老不死である。
魔物化後に獲得した能力は子孫には遺伝せず、同じ姿や能力を持つ魔物が同時に複数現れた場合、魔法で産み出すか分裂したものである事が多い。