第五十七話 遭遇
登場人物紹介
◇アリエラ
主人公。魔王軍四天王最強の怪力と頭脳を持つ紅一点。
『殲滅女帝』の二つ名を持つ。
褐色肌にボブカットの黒髪、猫のような紅い瞳、獅子の耳と尻尾が特徴の獣人。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者としての二つ名は『爆心地のアリエラ』
虫料理は別に好きではないが精一杯のもてなしとして出されたものなら残さず食べる。
◇ピチカ
蒼い髪と瞳にギザ歯が特徴のアクセサリー付けすぎなギャルっぽいハーピィ。
異世界転生者。チートスキル【楽々御粧し】の使い手。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』の一応リーダー。
一級冒険者。
虫料理は元々好きではなかったが、前世の記憶が戻ってからは一層苦手になった。
◇レイメイ
魔王直属暗殺部隊『五毒姫』の末妹。
白い長髪と肌に鬼灯のように赤い瞳と愛嬌紅が特徴。
魔王特製の最上級キョンシー(札は丹田に貼っている)。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者としての二つ名は『毒蛇姫レイメイ』
南方大陸では昼間はメジェド神っぽい格好をしている。
虫料理は嫌いではないが、幼虫は苦手。
◇イエナガ・クズハ
アリエラの専属メイド。休暇を取って旅に同行中。
艶のある長い黒髪が特徴のキツネとハイエナの混相の獣人(ケモ度高め)。
尻尾を様々な形状に変化させられる。
アリエラを慕っている。
虫料理は昔イヤという程食べたので現在はあまり食べない。
◇
「うっひょ〜い☆ 速い速い!!」
「〈大河帝〉を使うのは久々だけれど、特に問題は無いようね」
ウラカン村から出立した一行はアリエラが取り戻した〈大河帝〉の力でボートの周りの水流を操り、ほとんど櫂を漕ぐ事も無く驚異的な速度でエリン河を下って『象牙の街』の近くまで南方大陸を北上していた。
南方大陸中央あたりから本流を下って来たエリン河も北部まで来るといくつかの支流に枝分かれし、東西の岸が視界に入る程度の河幅に細くなり──それでも充分大きくはあるが──港町の喧騒が見て取れるようになってきた。
「そろそろ見えてくる頃合いかしら……懐かしいわ」
「? アーちゃん行ったことあるの?」
「二千年前にね……姉上が斃して〈冥府帝〉の触媒になった死霊術師が乗り物にしていた超巨大な象の魔物の牙が河の東西を跨ぐように突き刺さっていて、その上を橋代わりにする旅人や行商人が集まって出来たのがあそこに見える──……
『象牙の街エゴゥズ』よ」
アリエラが水流を操りボートを持ち上げると、高くなった視界には河の東西に架かる木目のような美しい模様が特徴の弓形張の上に、同じ色合いの建物が直接象牙から彫り出されており、一本道の商店街が営まれている。
その超巨大な象牙の刺さっている岸の周囲にも様々な露店が集まり非常に賑わっている。
「デカい……デカすぎない? アーちゃんマジでアレたおしたの?」
「牙だけであの大きさだから苦労したわ……あの街に〈冥府帝〉の髑髏があるとしたら運命的なものを感じる──……これは……!」
遥かな古代の思い出を振り返りながら高波を発生させるのを止めボートを着水させると、着水時に起きた波の影響か一匹の硬骨魚がボートに乗り勢いよく跳ねた。
ボートで旅をすればその程度の事はあるだろうが、その魚は明らかに異質で、鱗が剥がれ瞳は澱み、そして何より──……
「臭いッ!!」
魚の生臭さでは済まされない強烈な腐敗臭を放っていた。
「イエナガさんの情報通り……亡者が湧いているようですね……」
レイメイは顔を顰めながら魚の尾鰭を摘んで河に投げ捨てた。
「そのようで……お掃除致しますねッ」
イエナガは尻尾を手のように変化させ、自分のトランクから布巾を取り出して魚のぬめりが付着した部分を拭き始める。
「一応訊いておくけれど……イエナガが協力したのはアナトだけよね?」
「信じて欲しいと言える立場ではありませんが、誓ってアナト様以外とは組んでおりませんッ」
ハッとなったイエナガはボートの上だというのに勢いよく土下座をした。
「ワタクシが悪かったから揺らさないで頂戴……」
「ハッ……! 申し訳ござ──」
「もういいですからイエナガさん……」
アナトと組んで罠に嵌めた件について話題に出されるとイエナガは再び土下座しようとしたが、レイメイの伸びる腕で羽交締めにされて阻止された。
「今思い返すとあのウラカン村ってちょっと不自然なトコあったよね〜……メイメイの変なカッコに誰もツッコミ入れなかったし……」
「そうですね……村長の体格と家の大きさが釣り合ってなかったですし、突貫工事の形跡が散見されましたね」
「それに何より……漁村なのに猫ちゃんがいなかったわッ!」
「そこはまあ……猫を巻き込む戦い方したらアリエラさんが本気で怒るでしょうし……」
「それはそう」
「そこに関してはアナト様と最初から意見が一致しておりましたッ」
「賢明な判断ね……ワタクシに戦いを挑むという愚行に目を瞑ればの話だけれど。
さて、そろそろ着くけれど東西で二手に別れて探しましょうか。夕方頃に象牙の上で合流しましょ」
◇
二手に別れて〈冥府帝〉の黄金髑髏を探す事にした一行の内、ピチカとイエナガは象牙の先端が突き刺さる西岸の街から捜索兼買い物を開始していた。
イエナガは最初アリエラと行動したがっていたが、イエナガではアリエラのブレーキ役たり得ないとレイメイが意見したため、親睦を深める意味も込めてピチカと行動する事となったのだ。
「クーちゃんってさ、アーちゃんのどういうトコを尊敬してるの?」
乱立する色鮮やかな露店の数々を覗いて冷やかしながら、ピチカは今まであまり訊いてこなかったイエナガとアリエラの関係について尋ねる。
「長く語ろうと思えば幾らでも語れますが、敢えて簡潔に申しますと……圧倒的な強さですねッ」
「あー……ね! わかるわかるー☆
(想像よりずっとシンプルだったな……)」
『象牙の街』というだけあって、象牙細工の土産物・象を模った芸術品など象にちなんだ様々な品が並ぶが、流石に至剛金で覆われた獣人の髑髏らしき物を売る店は少し探した程度では見つからない。
そもそもこの街の誰かが黄金髑髏を所持していたとしても、店頭に並んでいるとは限らないので逐一店の者に交渉をせねばならず黄金髑髏捜索は困難を極め、昼過ぎになっても黄金髑髏あるいはアンデッドが湧いている原因となる呪物の手がかりは得られなかった。
「う〜ん……西側には無いのかな〜……」
「ピチカ様ッ、少し早いですが、象牙の上の本通り商店街を探してみませんか? あちらの方が高級商品を扱う店が多いようですし……」
「そだね! アクセとかも探そ☆」
「──道中……ワタシとアリエラ様についてやはり語り足りなかったので少し語ってもよろしいですかッ?」
「えっ、あぁうん! 聴かせて聴かせて☆」
「では……まずワタシの幼少期ですねッ。
物心もついていなかったので詳しくはありませんが、二十年ほど昔は『イエナガ一族』と言えば南方大陸有数の豪商として名を馳せたそうですが、豪腕で鳴らした曽祖父が亡くなってからは一族は滑落の一途を辿りワタシの幼少期は非常に貧しく父母と共に物乞いや盗人紛いの暮らしをしておりました……」
ピチカの同意を得るやイエナガはつらつらと自らの過去を語り始める。
「あーしもそんなカンジだったなぁ〜……女面鷲だからそんな問題でもなかったし元から貧乏だったケド……」
「……ワタシの家族はある程度裕福な生活に慣れていたからか貧乏生活にどんどん衰弱して行き、当時のワタシには状況を打開する術も無く、何をするにも鬱屈とした幼少期を過ごしました──……。
そんな折、ワタシが7歳の夏の頃ピチカ様もご存知の『第二の太陽事件』が発生しました」
「踏んだり蹴ったりじゃん……」
「そう思われるのが普通でしょうね……被災者もいるのであまり大きな声では言えませんが、ワタシの眼にはあの地平線が次々と爆ぜる光景はとても美しく荘厳に映りましたッ。
鬱屈とした日常に終止符を打ってくれるのではないかと期待していたのです。
……結局、魔王軍によって女神は討たれ、ワタシと家族含む被災者たちは魔王国に受け入れられ、住処や教育までも与えて頂き18歳になると魔王軍に志願しました」
「それでアーちゃんの部下になったんだ?」
「いえッ……最初はゼブブ卿の部下として配属されまして……アナト様とはその時からのお付き合いですッ。
軍に所属はしたものの、ワタシには幹部はもちろん上級戦闘員に昇格する程の才は無く、伸び悩んでいた頃アリエラ様に御指導頂いた縁で──見た目が好みだったし──戦闘員は辞めまして直属のメイドにして頂いたのですッ!」
興奮したイエナガは何か呟きながらアリエラ直属となった経緯を語った。
(結局見た目が好きなのが一番の理由っぽいな……)
……とは思ったが、ピチカは口に出さず静聴しながら歩いた。
「直属となってからしばらく……ワタシが南方大陸出身である事を知ったアリエラ様に『第二の太陽事件』の真相を打ち明けて頂いてからは一層……アリエラ様の破滅的な力に魅了され──ハッ……!
ピチカ様ッ。今ワタシがした話はどうか内密にお願いしますッ」
「いーけど……アーちゃんに知られたくないの?」
「アリエラ様は『第二の太陽事件』をかなり気にしていらっしゃる御様子ですので、ワタシの個人的な趣向で気分を害されてほしくないのですッ。
……ところでピチカ様ッ。旅の道中のアリエラは何か爆破なさっていませんでしたかッ? 是非お聞かせくださいッ!」
身の上話が終わるとイエナガは旅に出てからは最も長く行動を共にしているピチカにアリエラの話をせがんだ。
「そりゃもう色々と──あ! もう着いたよクーちゃん! ドクロ探ししてからね!」
「おやッ……もうそんなに歩いていたのですね……では探しましょうか。早く見つかると良いですねッ」
いつの間にか到着していた巨大な象牙のアーチへピチカが走って行くと、まだ話し足りなそうなイエナガも続き黄金髑髏捜索を開始した。
◇
〈冥府帝〉の黄金髑髏はすぐに見つかった。
しかし──……
「これじゃあお金が足りませんニャア。ウチは値引き交渉には応じませんニャア」
巨大な象牙のアーチの上──……エゴゥズ本通商店街には『第二の太陽事件』発生時にも決して立ち退かなかった頑固な豪商たちが店を構えており、ピチカとイエナガの目に留まった骨董品店を営む恰幅の良い猫妖精も例外ではなかった。
「せっかく見つけたのにィ〜……! クーちゃん! なんか金目の者持ってない!?」
「言い回しが賊のようになってらっしゃいますよ?
ピチカ様こそ何か高価な物品を蒐集なさっているのでは──」
「物々交換も基本お断りですニャア」
「イ゛────ッ!!」
「ピチカ様落ち着いて下さいッ!
店主さんッ。連れを探して来るのでそれまでその黄金髑髏を確保しておいて──……なにやら騒がしいですね……?」
苛立つピチカを宥めながらアリエラたちと合流しようとしたイエナガの耳に、商店街の喧騒とは別種のざわめきが聞こえてくる。
──奇妙な女が現れたのだ。
黒真珠のような色の髪に艶のある褐色の肌、猫のような縦に割れた瞳孔の真紅の瞳に通った鼻筋……これだけならたまに見かける。
丸みを帯びた獣耳に先端に黒い房のある尻尾という、『第二の太陽事件』以降は滅多にお目にかかれない獅子獣人の特徴……これも珍しくはあるが全く見かけないという程ではない。
ではその獣人の女が黄金と赤布の女剣闘士衣装を着込み、腰には二振りの黄金斧剣を佩き、頭には獅子獣人の黄金髑髏──鬣飾りが無いのでおそらく女性のもの──を被っているからか。
これもまた否。街の近辺には闘技場も存在しているため、戦士然とした格好の者も珍しくはない。
上記の特徴だけならばアリエラが来たというだけなのだが──……
アリエラと決定的に違う部分は髪が腰に届こうかという程長く、左手薬指には黄金の指輪を付けており、黒いローブに身を包んだ四人組を荷物持ちとして引き連れているという点である。
そしてこの引き連れている四人組というのが注目されている原因であり──……全身をローブで隠していても分かる程、常人離れした体型をした四人……四体と言った方が正確かもしれない雰囲気を放っている。
「フーッ……フーッ……」「……」
「ブシュ〜……」「ムゥ……」
異様に横幅がある者・異様に縦に長い者・腕が八本はある者・頭が異様に大きくふらつく者の四体は、先頭の“アリエラに似た女”と同様に「行く手を阻めば殺す。荷物に触っても殺す」とでも言いたげな気配を纏って店々を一瞥しながら歩いて行く。
「この辺りに無ければ河底を探すしか──……ん?」
近付いて来るアリエラに似た女の呟きを聞いてピチカとイエナガは更に驚いた。声までもがそっくりだったのだ。
(わぁ〜マジでそっくり……アーちゃんが急に髪伸ばしたワケじゃないよね……?)
(二重身影──いや! それにしては再現度が低い……アリエラ様と似てはいるが、似せようという気概がまるで感じられないッ!
それにあの指輪は──……!)
イエナガはここまでアリエラに似ていながらアリエラのニセモノではない人物に一人心当たりがあったが、左手薬指に付いた黄金の指輪を見て当たっていて欲しくはない推測が頭をよぎった。
「おお! あるではないかッ! おい店主、そのゾウ獣人の黄金髑髏を寄越せッ!!」
アリエラに似た女はケットシーの店主に横柄な態度で詰め寄る。
「お金を先に頂きますニャア」
ケットシーの店主は臆する事なく、ピチカたちと同様にまずは金を請求した。
「チッ……! 出せ」
「……」
アリエラに似た女は背後の異様に背の高い者に短く命じて硬貨が大量に詰まった皮袋を店のカウンターに置かせた。
(似てるのは見た目だけ──なんかこのヒトどっかで見た気が……)
ケットシーへの態度を見てピチカもアリエラとは完全に別人であるという事は理解したが、つい最近見かけたような既視感を覚えた。
「確かに頂戴致しましたニャア。ありがとうございますニャア♪
おーい! お客様に品物をお渡しするニャア!」
皮袋の中身を検めた店主は猫撫で声で礼を言い、ゾウ獣人の黄金髑髏を運ぶために店員を呼び出す。
「ちょ、ちょっと待って! あーしらもそのドクロ欲しいんですケド!?」
「そうですよッ! 先に交渉していたのはワタシたちでしょうッ!?」
あっという間に黄金髑髏を掻っ攫われたピチカとイエナガは慌てて店主とアリエラに似た女を引き留める。
「あ? なんだキサマら……競り合おうと言うのか?」
「当店は即決でお支払いして下さるお客様を優先しておりますニャア」
「良い心がけだな。ではさっさと──……ん? キサマ女面鷲か?」
抗議を無視しようとしたアリエラに似た女はピチカの姿をよく見ると突然興味深そうに話かけてきた。
「そうですケド……?」
「ほう……現代の個体は随分と小さくなったのだな……。
キサマあれか? ふざけた名前の冒険者チームに所属しているヤツか?」
「『パリピ☆愚連隊』ね!! 一応リーダーですケド!?
ねぇクーちゃんこのヒトさっきからなんか失礼じゃない!?」
「え、ええ……あのピチカ様ッここは一旦退いた方が……」
他者を見下したような態度に憤慨するピチカと嫌な予感がして宥めようとするイエナガを見て、アリエラに似た女は少し頬を緩めながら背後の不気味な者たちを呼び寄せて自分の荷物を漁り始めた。
「横入りしてすまんな。あの黄金髑髏は譲れんが、代わりにコレをオマエたちの連れに渡しておいてくれ」
アリエラによく似た女は“左右に二匹の猫の飾り、そして頂点に七宝の翼を広げたハヤブサの飾りが輝く太陽円盤”をピチカに差し出した。
「これは……!」「んん!? これって……」
「心当たりがあるか? 元はワタシの頭に乗っている黄金髑髏の飾りだったんだが、邪魔だから取ったのだ。
ではワタシは先にこの街から北東にある『竜の墓場』で待っている……とオマエたちの連れに伝えておいてくれ。おい行くぞ」
アリエラに似た女は一方的に用件を伝えると、不気味な者たちを引き連れ踵を返して去って行こうとする。
「あ、あのッ! お名前を伺ってもよろしいでしょうかッ。
ワタシはイエナガ・クズハと申しますッ。ほらッピチカ様もッ!」
「え、あ、うん! あーしはピチカです!
おねーさんは!? あーしらにだけ自己紹介させて帰っちゃうカンジ!?」
ピチカはイエナガの考えを察して敢えて挑発してアリエラに似た女を引き留めた。
「名前か──……
今は『ネフェラリエラの姉』と名乗っている」
◇二重身影
特定個人と瓜二つの人物が現れる現象の総称。
単なるそっくりさん・生き別れの家族・幻覚・変身魔術によるなりすまし等様々な原因が存在する。
知的生物になり代わる生態の幻獣や精霊が存在するのではないかという説もあるが、確たる証拠は無い。
そもそも存在していないのか、存在しているが誰にもバレていないだけなのか……。




