第五十六話 強襲部隊
登場人物紹介
◇アリエラ
主人公。魔王軍四天王最強の怪力と頭脳を持つ紅一点。
『殲滅女帝』の二つ名を持つ。
褐色肌にボブカットの黒髪、猫のような紅い瞳、獅子の耳と尻尾が特徴の獣人。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者としての二つ名は『爆心地のアリエラ』
風呂は入れる状況なら必ず入る派。
◇ピチカ
蒼い髪と瞳にギザ歯が特徴のアクセサリー付けすぎなギャルっぽいハーピィ。
異世界転生者。チートスキル【楽々御粧し】の使い手。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』の一応リーダー。
一級冒険者。
風呂はかなり好き。
◇レイメイ
魔王直属暗殺部隊『五毒姫』の末妹。
白い長髪と肌に鬼灯のように赤い瞳と愛嬌紅が特徴。
魔王特製の最上級キョンシー(札は丹田に貼っている)。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者としての二つ名は『毒蛇姫レイメイ』
代謝が少ないので風呂に入る必要をあまり感じないが、不潔だと思われたくないので定期的に入る。
◇イエナガ・クズハ
アリエラの専属メイド。休暇を取って旅に同行中。
艶のある長い黒髪が特徴のキツネとハイエナの混相の獣人(ケモ度高め)。
尻尾を様々な形状に変化させられる。
アリエラを慕っている。
アナトと共謀して一行をウラカン村に誘導していた。
幼少期はほとんど風呂に入れなかった反動か、暇さえあれば風呂に入る。
──『蛆蛆公主アナト・ゼブブ』──
魔王軍四天王『蝿蛆元首バアル・ゼブブ』の妹分であり、魔王軍上級戦闘員及び上級諜報員である。
兄のバアルが蝿と蛆の集合体が人格(貴族)を形成した存在であるのに対し、アナトは蛆のみの集合体によって人格(少女)を形成した魔人であり、『蟲の血族』眷属の吸血鬼である。
蝿を操る能力は無いため兄バアルに比べると戦闘における多様性に欠けるものの、兄には無い獰猛さと兄に対する執着心によってその差を補っている。
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「──殲滅する前に訊いておきたいのだけれど、アナトの核にあたる個体の蛆はエゴット村長の脳内に寄生していると思っていいのよね?」
アリエラは魔力で風景を歪めながらも冷静にエゴットの頭を指差してアナトの所在を確認する。
『そうだゾ♡ ……なんでそんな事聞くのォ?♡』
「うっかり殺してしまったら魔王陛下やゼブブ卿に申し訳が立たないもの……ではそのエゴット村長の脳内に寄生している蛆以外の全ての蛆を殲滅したらワタクシの勝ちという事でよろしくて? アナト」
『プフフッ……ナメやがって……♡ 手加減の必要が無くなったのはお互い様だゾ♡
村人のフリしなくてもなくなったんだしッ♡』
「ギャ オ オ オ゛ オ゛ オ ッ ! ! !」
アナトの言葉に合わせてエゴットの筋肉が異常に膨れ上がり、裂けてしまいそうな程に口を開いてアリエラに噛み付いてきた。
「──ぐっ……!」
先程までとは段違いの速さの噛み付きに一瞬反応が遅れたアリエラは上顎の牙を両手で掴み、下顎の牙は足指で摘み、自らの身体を支柱代わりにしてエゴットの口が閉じるのを防いだ。
『お薬の威力ってすごいゾ♡
このまま噛み潰しついでに神業も頂きだ──……ゾ?』
アナトがエゴットの咬合力を限界以上まで引き出してアリエラを噛み潰そうとしたその時、エゴットの頸部から焼け焦げるような音が発生し、その直後爆発して頭部は下顎を身体に残して吹き飛んだ。
アリエラの右眼から照射された真っ赤な熱線によって口腔内を貫かれ、一瞬にしてエゴットは物言わぬ屍となったのだ。
「生かしておく必要が無いと分かればこんなものよ……ちなみにこの連中はどんな犯罪組織なの? こんな蜥蜴人ばかりの組織なんて……種族至上主義団体とかかしら」
爆裂したエゴットの身体から余裕綽々といった様子で地面に降り立ったアリエラは、吹き飛んだエゴットの頭部に潜在するアナトに尋ねる。
『くそッ……リザードマンは『ゲダの指』の二次団体とかで『竜血のエルトート』の指示を受けて“禁竜丹”とか言う魔薬を作ってた掛け値無しのクズ共だゾ♡
他の種族の連中も詳細は省くけど、そこそこの強さだけが取り柄のカスだゾ♡
──……今呼び集めたフル装備軍団と同じ♡』
アナトが会話に付き合って襲撃に使った身体たちの話をしている隙に、周囲には今までの襲撃者とは一線を画す装備を着込んだいかにも「特殊部隊です」……とでも言いたげな数十人が現れた。
その集団は大柄の巨人・小人のような大きさの者・アリエラと同程度の体格の者など様々な種族で構成されていたが、背中からは髑髏模様の翅が生えており、腕が四本以上はあり太く鋭い尻尾があった。
全身をそれぞれの体格に合わせた鞣し竜皮のスーツと黄金の金属──至剛金で包み、頭部には蝿を思わせる赤い複眼のようなレンズの付いたガスマスクを装備し、手にした武器は漁村にあってもおかしく無い日用品に擬態させたような物ではなく武器として作り込まれたアダマント製の刃物や銃器である。
ずっと河底に潜んでいたのか全身から水が滴っており、銃器使いは念入り水気を払っている。
『さっきまでの連中と一緒にしない方がいいゾ♡
この『蟲の血族』の精鋭……『蝿蛆強襲部隊』を──……アッ……アッ……!』
自慢げに最大戦力の手駒を展開したアナトであったが、獣の唸り声を上げながら巨大化するアリエラを見てその余裕は消え去った。
「ゴル゛ロ゛ロ゛ロ゛ロ゛ロ゛ォッ!!!」
たじろいでいる間にもアリエラはどんどん巨大化し、エゴットの倍──約18m程の大きさになり、完全に雌獅子のものとなった顔面と赫く変色した髪を振り乱しながら周囲の『蝿蛆強襲部隊』たちに襲いかかった。
戦闘用ではないアリエラの衣服はボロ切れと化したが、アリエラの全身は黄金の毛皮で覆われたため、アリエラ本人含め誰も気にしなかった。
『──ッ! かかれッ!!』
慌てて号令するアナトの念波を受信した『蝿蛆強襲部隊』たちは一斉に武器と改造された身体能力を駆使してアリエラに躍りかかる。
「ジャアァあァアッ!!」
──しかし……アリエラとの体格差は余りにも大きく、アダマントの武器はアリエラの身体を傷付ける事や既にある傷を抉る事は出来ても、アリエラの命を脅かす事は出来ない。
「……!」「ガッ……!」
巨獣化したアリエラの一挙手一投足ごとに強襲部隊はあらぬ方向に身体を折り曲げられ、ヴァンパイアの修復能力を活用して即座に復帰すれどもまた折り曲げられを繰り返す。
「しぶとい──……!? これは……!」
なかなか斃せない強襲部隊に焦れたアリエラが再生不能になる程の威力で攻撃しようと大きく構えた瞬間、何体かの強襲部隊員が少し距離を取りながらアリエラに向けて大筒を構え発射した。
発射されたソレは砲弾の類では無く、対アリエラ用に特別大きく作られた黄金の──アダマントの網であった。
『新開発のアダマント製ワイヤーネットだゾ♡ さすがに簡単には脱出できないゾ♡
みんな! 心臓抉り出してやるんだゾッ♡』
全身に絡みつく網に動きを大きく制限されたアリエラに強襲部隊が再び攻撃をしかける。
さすがのアリエラもこれには堪らず身を丸めて防御に徹さざるを得ないように見えた──……少なくともアナトと強襲部隊員たちには。
「──“血濡れし産衣”…………!」
アリエラがボソッと詠唱を呟くと、強襲部隊の攻撃はアリエラの毛皮に食い止められた。
『(この詠唱は〈殲滅女帝〉の……!)止めさせろッ!!』
詠唱によって変化したのは不気味な軋みを上げるアリエラの身体のみであったが、アナトと強襲部隊員たちは自分たちの身体に見えない圧力がかかっているように感じた。
「──“飛翔する死“……!」
強襲部隊の攻撃をものともしないアリエラの二節目の詠唱でアリエラの手脚は熱した金属のように赫くなり、その熱は絡まるアダマントの網にも伝播する。
(まさかそんな事できるハズは──……)
「ガァああァア゛ッ!!」
アリエラが赤熱化した両手で網を掴んで思い切り広げると、熱せられた網は融解して拘束具の体を成さなくなった。
『そんなッ……!』
「誰がアダマントの加工法を伝授したのか忘れてしまったのかしら!?」
不完全とはいえ詠唱によって強化されたアリエラの攻撃は、強襲部隊員の身体を防具ごと紙切れのように引き裂き・灼き焦がし・踏み砕き・握り潰し・粉微塵にしていく。
頼みの綱であったアダマント製の武具も通用しない以上、アナトの勝利は現実的なものでは無くなった。
◇
「……それで? なぜアナトはワタクシに攻撃を?」
『え? そりゃアリエラさんがサボってるから……♡』
強襲部隊を殲滅し終えたアリエラは倒壊したウラカン村の家の残骸を漁って身体を隠せる物がないか探しながらエゴットの頭に寄生しているアナトに問いかける。
「そういう意味ではなくて……ワタクシよりマスクド・ヴィゾフニルの方がアナトとの相性は良いでしょう?」
『あ〜……ヴィゾさんの所には今頃『アバドン』くんが向かってると思うゾ♡ ついでにジークさんの所には『マザー・フィオーラ』が行ってるゾ♡
あたしたち『蟲の血族』で四天王の地位を独占しよう! って話になってェ〜……♡ くじ引きで誰と戦うか決める事になってあたしがアリエラさんと戦う事になったんだゾ♡ 貧乏くじ引いちゃったゾ♡』
「それは残念だったわね……さてワタクシの連れはどこ? いい加減ちゃんと服を着たいのだけれど……」
アリエラはウラカン村の家に壁代わりにかけられていた布や水草を巻いて服代わりにして身体を隠していた。
『もうすぐ来るから待ってほしいゾ♡
あッ……──今アバドンくんとマザーも負けちゃったみたいだゾ……』
「四天王は盤石ね」
血族同士の念波によって眷属仲間の敗北を感知したアナトは落胆したような声を出した。
『そうだ♡ 連れて来るまで蛆で作ったドレスでも──』
「遠慮させて頂くわ」
『残念♡ ……って言ってる内にお連れが到着だゾ♡』
「……イエナガには事情を説明して貰わなくてはね」
アナトの言葉に釣られて周囲を見回したアリエラは上空から強襲部隊と同じような格好をした『蟲の眷属』に先導されて飛んで来るピチカ・レイメイ・イエナガが見えた。
「アーちゃ〜ん!! 大丈夫〜!? 血まみれじゃん! 服どしたの……?」
「結構危なかったんじゃないですか?」
「……………………」
普通に心配するピチカと、特に心配する様子も無いレイメイ、そしてバツが悪そうに俯きトランクの持ち手を強く握り締めたイエナガが地面に降り立った。
『ご協力感謝だゾ♡ 特にクズハちゃん♡』
「まずはその件よね……イエナガ。アナトに脅迫でもされたの?」
直属の部下が進んで裏切ったとは思いたくはないアリエラはアナトの方を睨みながらイエナガに事情を尋ねる。
「……いいえッ。アナト様がアリエラ様に勝負をお挑みになると聞きつけ、ワタシ自ら誘導役に立候補しましたッ!」
意を決したイエナガはアリエラの眼を見ながら釈明する事なく言い切った。
「……何かワタクシに不満でもあって?」
(職務放棄してるからでしょ……)
レイメイは思うところがあったが、二人の会話に口を挟まない事にした。
「不満などッ……ワタシはアリエラ様が四天王だからお慕いしているのではなく、アリエラ様だからお慕いしているのですッ! 仮にアナト様に負けていたとしても変わり無くお仕え致しますッ!!
……アリエラ様が旅に出られた理由は表向き“自分探し”だとは伺っていますが、専属侍女たるこのワタシは誤魔化せませんよッ!!
この旅は“暇潰し”の趣がかなり強いとワタシは睨んでいますッ。……違いますかッ?」
「さすがイエナガ……鋭いわね」
(皆そう思ってると思いますけど……?)
(隠してたんだ……?)
レイメイとピチカは口を挟みたくなったが、アリエラとイエナガは真剣に話しているようなので黙った。
「……暇を持て余されるならばとワタシが魔王陛下に直接お尋ねしたところ、四天王職を辞任された後もアリエラ様には別の幹部の席を用意して下さると仰られていましたッ!
四天王を辞めないにしても追加で仕事を与える事の検討もして下さると仰せでしたので何卒ッ……一時的にではなく正式に魔王城にお戻り下さいッアリエラ様!!」
血を吐くような声で懇願するイエナガは泥が付くのも構わずその場に土下座した。
「頭を上げなさいイエナガ。せっかくの綺麗な髪が汚れてしまうわよ。貴女なりにワタクシの事を思っての事なのはわかったから……。
けれどね……この旅を通じて得たものは暇潰し以外にも沢山あったわ。ピチカが魔王軍に参加したり、叔父上の黄金髑髏を取り戻したり……これはワタクシの勘なのだけれど、旅を続けていればもっと沢山の収穫が見込めると思うのよね。
だから貴女には旅に出ている間、来たワタクシの部屋や私物の管理を信頼して任せたいの。他の誰でも無い貴女にね。
今回の〈大河帝〉の髑髏はニセモノだったけれど、いずれは本物を──」
アリエラがこれまでの旅を振り返りつつ、この先も旅を続ける正当性について話を繋げようとすると、イエナガはハッとしてトランクを開いて中を漁り始めた。
「アリエラ様ッ! 本物の〈大河帝〉はこちらに……!」
トランクからは黄金で覆われ、紅玉で飾られたワニのリザードマンの髑髏が現れ、イエナガはアリエラに跪いて髑髏を差し出した。
『あ!? ちょっとクズハちゃん!! 次は本物をエサに釣ろうと思ってたのに!』
「申し訳ございませんアナト様ッ! これ以上アリエラ様を欺く事はワタシには出来ませんッ!!」
「本物もちゃんとあったのね……! どこにあったの!?」
「実はアナト様が河底で発見されて……呪いが発動しないようにワタシが預かっておりました……」
「そう……なかなか見つからないワケだわ……」
アリエラは約二千年振りに再開した蒐集品を愛おしそうに撫でた。
『ちぇっ……♡ 作戦練り直しだゾ♡
あ、そうだ♡ 今回のお詫びと新入りのピチカちゃんとの親睦会を兼ねてとっておきの“蛆料理フルコース”を──』
「アリエラ様! 実は北の『象牙の街』周辺で最近亡者がよく見かけられるそうです! もしや〈冥府帝〉の呪いが発動しているのでは!?」
「そうね!! 悪いけれどアナト! というワケだから急ぐわ! レイメイ! ピチカ! 行くわよッ!」
「はいッ!!」
とんでもないフルコースを振る舞われそうになるのを防ぐため、アリエラは傷の治療もせずに走り出し、ウラカン村を後にした。
レイメイもいつに無く元気な返事をして追従、勢いに圧倒されたピチカは取り残された。
『残念♡ あ、ピチカちゃん!♡ お近づきの印にソレあげるゾ♡』
遅れたピチカを見逃さなかったアナトは一体だけ残っていた強襲部隊員に指示を出して、ピチカにある物を渡させた。
「え、ありがとー! これなに?」
『蛆で作ったネックレスだゾ♡』
「ギャッ……! じゃ、じゃあね! あーしも行かなきゃ!」
『大事にしてねー♡』
反射的に蛆ネックレスを亜空間にしまったピチカは急いでアリエラたちを追い、深夜だというのに一行はウラカン村から旅立つのであった。
◇
『アナト嬢とやり合って満身創痍だな……!』
エリン河から数kmは離れた山岳の頂に長大な狙撃銃を構え、スコープ越しにアリエラを見つめる者がいた。
全身を黒光りする武骨な装甲に覆われ、右眼にあたる部分には赤いカメラアイが妖しく光っている。
『四天王の座はゼブブ卿麾下ッ!『蝶の血族』が眷属である『マキア』様が頂くッ!
この戦術拡張機『バロール』の力を見せてやろう!
そのキレイな顔をフッ飛ばしてや──……る……?』
アリエラを狙う魔王軍上級戦闘員『マキア』が引き鉄に指をかけ弾丸を放とうとしたその瞬間、黄金の剣閃が首を横切り、頭が地面に落下した。
「……悪いがアリエラはワタシの獲物だ。死ね」
マキアの背後には『ゲダの指』最高幹部『指輪付き』の一角であり、アリエラを付け狙う何者かが立っていた。
『(気付けなかった……!? この私が!?)
貴様ァ! 魔力データは録ったからな! 憶えてろよ!』
マキアが捨てゼリフを吐くと装甲の背中部分が突如展開し、数十cm程の黒い球体が蒸気と共に上空に射出され、その場には抜け殻となった黒い装甲と狙撃銃だけが残された。
「…………今のが本体か! 逃した……まあいい……南方大陸にいる内にアリエラに接触せねばな……急ぐか」
『指輪付き』の女は山岳を下り、アリエラを追うのであった。
◇マキア
魔王軍上級戦闘員及び先進開発局員。女。
四天王バアル・ゼブブの『蝶の血族』としての眷属であり、元の種族は翅妖精。
ほぼ常に何らかの機械の操縦席にいるため、魔王軍所属者でも直接姿を見た事がある者は少ない。
言動が小物っぽい。




