第五十三話 ネフェラリエラの死:【神の雷霆】〜古代のメスガキ〜
登場人物紹介
◇アリエラ
主人公。魔王軍四天王最強の怪力と頭脳を持つ紅一点。
『殲滅女帝』の二つ名を持つ。
褐色肌にボブカットの黒髪、猫のような紅い瞳、獅子の耳と尻尾が特徴の獣人。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者としての二つ名は『爆心地のアリエラ』
イチゴと言えばフルーツ盛り。
◇ピチカ
蒼い髪と瞳にギザ歯が特徴のアクセサリー付けすぎなギャルっぽいハーピィ。
異世界転生者。チートスキル【楽々御粧し】の使い手。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』の一応リーダー。
一級冒険者。
イチゴと言えばショートケーキ。
◇レイメイ
魔王直属暗殺部隊『五毒姫』の末妹。
白い長髪と肌に鬼灯のように赤い瞳と愛嬌紅が特徴。
魔王特製の最上級キョンシー(札は丹田に貼っている)。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者としての二つ名は『毒蛇姫レイメイ』
イチゴと言えば砂糖漬け。
◇イエナガ・クズハ
アリエラの専属メイド。休暇を取って旅に同行中。
艶のある長い黒髪が特徴のキツネとハイエナの混相の獣人(ケモ度高め)。
尻尾を様々な形状に変化させられる。
アリエラを慕っている。
イチゴと言えばドライフルーツ。
◇【神の雷霆】
『光の女神イースネス』の側近『至高天使』の一角。
紫の瞳と髪を持ち、手足のケモ度がやや高いトラ獣人の少女。
音波波形のような光輪と稲妻型の六翼が特徴。
可愛らしいが表情や言動は非常に挑発的。
つまり──……
「メ、メスガキ……ッ!」
「ど、どうしたんですかピチカさん急に……」
「ピチカ様、お気持ちはわかりますが言い過ぎでは……」
レイメイとイエナガは突然キツめの罵倒語を呟くピチカに驚いた。
「あ、いや悪口とかじゃなくてそういうジャンルが──……よく考えたらすごい悪口だねコレ……」
「続けていいかしら……?」
「うん! 続けて」
一緒に旅をするようになってから数ヶ月経つが、あまり他人を罵倒しないピチカの「メスガキ」発言にはアリエラも少し驚いたようだ。
気を取り直して再始動した幻影のアリエラと【神の雷霆】が向かい合うと、双方の魔力がぶつかり合い、空間を歪めながら火花を散らした。
『あ〜あ、おとなしくしとけば見逃してあげたのに♡ ミカおぢに敗けたヤツの娘があたしに勝てるワケないじゃ〜ん♡ 頭もよわよわなのかな〜?』
『頭が弱いのはどちらかしら……父上よりも強いからワタクシが女王なのよ?
“女神”とやらがどれほどの存在なのかは知らないけれど、配下がコレでは底が知れるわね』
挑発に挑発を返すと、【神の雷霆】の怒りが一瞬で頂点に達し、全身から紫電を放ちアリエラに喰ってかかる。
女神を貶す発言に他の天使からも剣呑な気配が発せられるが、当の女神イースネスはまるで無反応であるため退き下がった。
『ア ア゛! ? 下等生物が調子乗ってんじゃ──……がッアっ……!?』
自らの放った稲光で視界が覆われた一瞬、【神の雷霆】は不意に発生した引力によって前進し、いつの間にかサイ獣人の黄金髑髏を被ったアリエラに腹を殴り付けられ砂の上を転がり回った。
「おっ! 腹パンキメて理解らせてやったね!」
「ピチカさん……?」
「如何なさったんですか……?」
相変わらず戦闘中でもないのにやたらと口の悪いピチカにレイメイとイエナガはたじろいだが、アリエラは無視して続ける。
『フンッ……!』
幻影が映す過去のアリエラは砂の中を潜行させて近くに呼び寄せていた黄金髑髏たちを背後に浮遊させると、頭に被らず【神の雷霆】目がけて一斉に変則軌道で殺到させてぶつけ始めた。
『ゲホっ……チッ……ウザ・いん・だよッ!!』
飛び交う髑髏に両手脚・尻尾・翼・雷をぶつけて弾き、アリエラの発する引力を利用して特大の紫電を流し込む。
『……〜ッ!!』
いくらアリエラ本人に雷耐性があるとはいえ、神業で強化された雷電を無効化する事は到底できず、全身を僅かに痙攣させて苦悶の表情を浮かべた。
『──! 隙ありッ!!』
隙を見るや否や【神の雷霆】は自らの身体を雷と化し、雷速の蹴りをアリエラの腹にお見舞いする。
『ぐッ──……ガ
ァ
ア゛ッ!!!』
蹴り飛ばされたアリエラは幾つもの砂丘と音の壁を突き破りながらも、空間を歪める程の火炎を放ち【神の雷霆】のいた方向を薙ぎ払ったが──……
『遅すぎ〜♡』
既に【神の雷霆】はアリエラの背後に雷速で回り込んでおり、殴られた腹を摩りながら挑発的な笑みを浮かべていた。
『──ッ! シャアァあア゛ッ!!』
すぐさま振り返りながら獣化し、拳の乱打を繰り出したアリエラだったが、不意打ちでもない攻撃は神業によって増幅された身体能力によって紙一重で躱される。
『ハッ! やっぱ父親の方が強かったんじゃない!?
当てらんなきゃ無意味──ダぅあ゛ッ!?』
紙一重で躱していたのが災いし、【神の雷霆】はアリエラの発する引力によって引き寄せられ、嫌な音を立てて左頬に拳がめり込んだ。
『アハハハハッ! 取り柄の顔が台無しね!』
『でめ゛え゛ッ!!』
痛々しい痣のできた顔で激昂する【神の雷霆】が紫電を放射するが、アリエラが引き寄せて形成した砂の鎧に阻まれ、そのまま鎧と直結した砂漠に吸収されていった。
『アナタの雷魔術は大したものだけれど……この大砂漠を灼き尽くせるかしらね』
『未開人が……! 感電させるだけが能だとでも思ってんのかよバーッカ!!』
叫ぶ【神の雷霆】から六枚の翼が分離すると、強烈な磁界を発生させて周囲の砂鉄を集め弾丸を形成、翼の先端がアリエラの方を向き危険を直感して身を躱そうとした瞬間には既に左肩を抉られていた。
『──……ッ!? くッ……叔父上ッ!』
肩の激痛と背後から聞こえた爆音から何か飛び道具を使われたと判断したアリエラは、砂中から自らの叔父であるハヤブサ鳥人の黄金髑髏を呼び寄せ、現在で言う〈太陽帝〉を発動して目眩しを図った。
『やっぱ頭よわよわでしょ!? 光の女神信徒が光で目ェ眩むワケ無いじゃん!』
『では暗闇ならどうかしら』
光に効果が無いと見るやアリエラは大きな蛇人の黄金髑髏を被り〈暗澹帝〉を発動、深黒の魔力を放ち周囲を包むと、【神の雷霆】の放つ紫電・稲妻型の六翼・頭上の光輪までもが霧散し闇に融けていく。
『はッ!? なにコレ──光輪まで!?』
『フフ……この中で魔力の放出は意味を成さなくてよッ!』
自らの『至高天使』の証たる魔力が消失し、砂漠に落下し焦る【神の雷霆】の隙をアリエラは容赦無く攻め立てる。
普段は雷魔術に重きを置いて戦う──と言うよりは一方的に蹂躙する事を好む【神の雷霆】は純粋な格闘戦ではアリエラに一歩及ばず、荒々しくも美しい舞を踊るかのような攻撃に翻弄され、時折反撃を試みるもいなされ満身創痍となった。
『ガッ……このッ……うっとーしいんだよッ!!』
攻撃を受けながらも【神の雷霆】は果敢に突撃し、アリエラの被る黄金髑髏を掴んで無理矢理引き剥がした。
すると〈暗澹帝〉は強制解除され、周囲を包む深黒の魔力は消失、【神の雷霆】は紫電の六翼と光輪を取り戻した。
『ワタクシの宝に許可無く触れるだなんて……不遜よ』
アリエラが特に焦るでも無く奪われた黄金髑髏を見つめると、髑髏の眼窩から赫い光と禍々しい瘴気が漏れ出す。
『うッ……!? 痛〜ぁあア゛ッ!』
異変を感じた【神の雷霆】は髑髏を投げ捨てたが一瞬遅く、〈目潰しの呪い〉によって発生した瘴気に曝された両目は充血し、痛みに目を閉じると目尻からは血涙が流れ出し視界を真紅に染めた。
『……目の潰れた相手に攻撃するのは少々気が引けるけれど、アナタが手を抜いていい相手ではないという事は素直に認めて……畳み掛けさせて頂くわ』
アリエラは目を抑えて苦しむ【神の雷霆】の前に歩み出ながら従弟の黄金髑髏を被り〈天導帝〉を発動、頭上に現れた魔力球を回転させて時間を加速させ四方八方から襲いかかる。
『ッ!? なんだよこの速さ!! クソ──……』
視界が利かない中、突然ほぼ同時に叩き込まれる攻撃に対し【神の雷霆】は微弱な電流を周囲に放射し、電流にアリエラが触れた瞬間に反射だけで応戦した。
『◎△$♪¥●%#!!』
『ハァ!? なんだよこの音!?』
時間加速中のアリエラが何か話しかけているようだが、発声が速すぎてそもそも話し声だと認識されていないようだ。
「……この時アーちゃん何て言ってたの?」
「“頭の光輪がお揃いね”とかそんな内容だったと思うわ。
ここから先が中々大変でね……相手の動きに無駄が無くなるわ狂獣化して暴れ出すわで随分手こずらされたわ。 時間を加速させ過ぎて身体だけが約二年分年齢をとってしまったし……」
「ああ……この時はまだ『女神の器』にされてないから不老じゃないですもんね……。
──で、結局これ勝ったんですよね? アリエラさんが神業【神の雷霆】を保有してるんですし……」
「レ、レイメイ様そんなご無体な……!」
レイメイは既に結果を知っている上、互いに狂獣化して殴り合うだけの局面に入った戦いに興味が薄れてきたようだった。
「まあ、そうね……この後はお互いに加速しながら攻防を繰り広げて、ワタクシの手刀で背後から首を刎ねて勝ったのだけれど──……」
現在のアリエラがそう言い淀むと、首を刎ねられた【神の雷霆】の尻尾が槍のように真っ直ぐ伸び、過去のアリエラの鳩尾を貫いた。
『くッ……──あッ……ぐっ……ふぅ……』
先端から流される高圧電流に耐えながら何とか尻尾を引き抜いたアリエラは一つ溜息を吐く。
蒐集に加えるべく【神の雷霆】の遺体へ心臓を抜きに近づいたアリエラの視界に『至高天使』たちと『光の女神イースネス』の乗る戦車が再び降臨して来た。
『敗けるとはな……この面汚しがッ』
『まあそう言うな【光掲者】よ。
見事だ女王ネフェラリエラよ。女神はこう仰られて──』
【黙れ。私が直接話す】
『……ハッ!』
またしても女神の言葉を代弁しようとした【神の言葉】を遮り、女神イースネス自身がアリエラを見据えて口を開いた。
【我が雷霆に打ち勝つとは、地上で遊ばせておくには惜しいな……お前、私の麾下に──『お断りよ』
イースネスの言葉は今度はアリエラに遮られた。
【……そうか。なら用はない。帰るぞお前た──『『『『『ハッ!』』』』』
イースネスはあっさりと諦め、食い気味の返事でセリフを遮る天使たちを引き連れて西の空へと飛んで行き姿を消し、すっかり暗くなった砂漠には満身創痍のアリエラと【神の雷霆】の遺体だけが置き去りになった。
「──こうして天使との戦いに勝利したのはいいものの、この後【神の雷霆】を黄金髑髏に加工したのを最後にワタクシの一度目の人生は終わりを迎えたわ」
「ぅえ? ……なにがあったの?」
「ロクに治療せずに加工作業をしたせいで死んでしまったみたい」
「なにやってんですか……」
「ご自愛ください……」
壮絶な戦いからの間の抜けた死因に一同は気の毒に思えばいいのやら、呆れればいいのやら微妙な空気になった。
「今振り返ると〈冥府帝〉で父上の遺体を操るなり、意を決して〈殲滅女帝〉を発動するなり……もっと楽に勝つ事はできたかもしれないけれど、当時のワタクシにはどちらをやる決心も付けられず致命傷を負うハメとなり死亡……後世の歴史によれば新たな王も決まらず『ティトゥラエリン王朝』は瓦解してしまったワケね……」
アリエラは〈霧幻女帝〉の黄金髑髏を外しながら遠い目をした。
平時は常に自信有り気な薄い微笑みを浮かべているアリエラも今はさすがに気分が沈んでいるようだ。
「あ、そ、それでどうやって生き返ったの? あ、魔王サマが魔法使ったとか?」
「その辺りは途切れ途切れに話した事があるけれど、魔王陛下から伺った話をまとめると──……
【全能鍵】を持った盗賊がこのピラミッドに侵入して、ワタクシの遺体に施されていた封印を解除してしまって……その瞬間、『火の女神ルトゥルス』がワタクシの遺体に憑依した衝撃で蘇生したらしいわ。
これが世に言う『第二の太陽事件』……女神への拒絶反応と蘇生直後で前後不覚になっているのもあって大暴れして南方大陸──特に南部の火山地帯は壊滅状態になったそうよ……国どころか大陸を滅ぼしてしまうだなんてね……ハァ……」
石棺の上に溜息を吐きながら座ったアリエラはピラミッドの天井に空いた穴を見上げて肩を落として動きを止めた。
「い、いやでも前も言ったケド勝手に器にしてきた女神が悪いってソレは! あーし『火の女神』ってその前から爆破事件ばっか起こしてたって聞いたコトあるし」
「そ、そうですよアリエラ様! アリエラ様が器で無ければもっと被害が出ていた可能性すらありましたッ!」
今までに無い落ち込みようを見て焦ったピチカとイエナガが必死にアリエラを励ますと──……
「それもそうね!」
アリエラはすぐに立ち直った。
「えっ、お、おう立ち直ってよかった……」
想定を遥かに上回る早さで立ち直ったアリエラにピチカは安堵と戸惑いを覚えた。
「……私は相性が悪くて『火の女神』討伐には同行しなかったんですが、この時アリエラさんが髪を切ったんですよね」
「そうね。自分で髪を切って器としての適合率を下げる事で女神を身体から追い出したの。
この時、暴れるワタクシを止めるために後の四天王となるゼブブ卿とジークが陛下によって創り出されたのだけれど……二人のプライバシーに関わる話だからワタクシから詳しく話すのは差し控えさせて頂くわ。
その後、ワタクシの身体を追い出された女神は南部の火山帯そのものに憑依して継戦したそうだけれど、陛下とマスクド・ヴィゾフニルを筆頭にした魔王軍の精鋭によって討伐されたそうよ」
この辺りの話はアリエラの記憶が無いのか、幻影を展開する事も無く語りだけで済まされた。
「へぇ〜……ん? じゃあ四天王のあの二人ってあーしより年下なんだ……。
そんでアーちゃんはこの事件きっかけで魔王軍に入ったの?」
「そう……陛下から勧誘を受けてね。
それで陛下と一騎打ちをしてワタクシが負けたから軍門に下ったという流れよ」
「この件でいまだにアリエラさんの事嫌ってる魔王軍構成員は結構居ますよ……」
「ワタシは尊敬申し上げておりますよッ」
◇
アリエラの昔語りが済み、レイメイの体調の不安と今から活動するには少し遅い時間帯になっていたため、一行はピラミッド内部で一夜を明かす事になった。
「さて、明日からは何処へ向かって何をしようかしらね?」
「南方の観光名所ってどこだっけ?」
「ピラミッド以外なら『象牙の街』とか『竜の墓場』あたりが有名ですかね……」
「ハイッ」
ハッキリとした目的地が無くなった『パリピ☆愚連隊』の三人が行きたい場所について話していると、イエナガが徐に挙手し目線で発言許可を求めた。
「何か案があるの? イエナガ」
「はいッ。 アリエラ様の叔父上様は川下りを嗜んでらしたとお話しして下さいましたよね?」
「そうね。姉上や他の弟妹とよく付き合わされたわ」
「その叔父上様の黄金髑髏を取り戻された事ですし、エリン河を下って中央大陸に向かうのは如何でしょうかッ!
陛下がお目覚めになる頻度が増えた事ですし、ピチカ様も一度陛下や魔王軍幹部の方々にご挨拶なさるのがよろしいかと……」
イエナガは理由も添えてつらつらと自分の案を推した。
「いいねー☆ クーちゃんナイスアイディア!
魔王サマかぁ……キンチョーしてきた……」
「そうですね。ピチカさんもそうですが、アリエラさんも一度陛下に旅の途中成果の報告に行くべきですね」
「確かに……改めて陛下に直接旅の許可を頂きに行きましょうか」
特に反対する理由も無いため、全会一致でエリン河下りと中央大陸行きが決定した。
(よしッ誘導成功……)
イエナガが内心ほくそ笑んでいる事には誰も気が付いていなかった。
◇『至高天使』
『光の女神イースネス』の配下であるチートスキル保有者の中でも特に高い能力を持つ精鋭部隊。定員十名。
【神の雷霆】はアリエラにより撃破。
【光掲者】と【分岐者】は魔王と王妹が撃破。
【契約者】は所在不明となっており、誰かに撃破されたと推定されている。
現在では、
獅子獣人で火属性の【神の如き者】
オオワシ鳥人で水属性の【神の言葉】
魚人で風属性の【神の霊薬】
魔人化した巨人牛で地属性の【神の煌輝】
蛇人で闇属性の【神の呪毒】
ウサギ獣人で氷属性の【神の命令】
が所属している。




