第五十二話 ネフェラリエラの死:天軍降臨
登場人物紹介
◇アリエラ
主人公。魔王軍四天王最強の怪力と頭脳を持つ紅一点。
『殲滅女帝』の二つ名を持つ。
褐色肌にボブカットの黒髪、猫のような紅い瞳、獅子の耳と尻尾が特徴の獣人。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者としての二つ名は『爆心地のアリエラ』
年末は猫と過ごしたい。
◇ピチカ
蒼い髪と瞳にギザ歯が特徴のアクセサリー付けすぎなギャルっぽいハーピィ。
異世界転生者。チートスキル【楽々御粧し】の使い手。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』の一応リーダー。
一級冒険者。
年末は踊り子の稼ぎ時なので忙しい。
◇レイメイ
魔王直属暗殺部隊『五毒姫』の末妹。
白い長髪と肌に鬼灯のように赤い瞳と愛嬌紅が特徴。
魔王特製の最上級キョンシー(札は丹田に貼っている)。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者としての二つ名は『毒蛇姫レイメイ』
現在日差しと気温でダウン中。
年末は仕事が無ければ姐たちとゆっくりしたい。
◇イエナガ・クズハ
アリエラの専属メイド。休暇を取って旅に同行中。
艶のある長い黒髪が特徴のキツネとハイエナの混相の獣人(ケモ度高め)。
尻尾を様々な形状に変化させられる。
アリエラを慕っている。
年末はアリエラと過ごしたい。
「え……死んだって……いやまあピラミッドがあるってコトはそっか……」
死んだ理由については訊かずともアリエラがこれから話すのであろう事は分かっているため、ピチカは口を閉じてアリエラが話し出すのを待った。
「……ワタクシが死に至る過程を話すにはまず当時の風習について語る必要があるわね。
『ティトゥラエリン王朝』文化では現代主流の女神信仰ではなく、ワタクシたち王族は太陽の子孫であるという設定の太陽信仰が主流で……ワタクシも当時は信じていたわ」
アリエラはピラミッドの上部に開いた穴から差し込む陽光に目を遣りながら遥か二千年前の自分を憐れむように目を細めた。
「でもこの世界の太陽って女神なんでしょ? 女神の子孫ってコト?」
「そうではなくて……当時の南方大陸で太陽は“ハヤブサの翼の生えた炎の雄獅子”だと考えられていて、その太陽と母なる大蛇──……エリン河が番って産まれたのがワタクシたち『ティトゥラエリン一族』だそうよ。
だから王族は基本的に獅子獣人・ハヤブサ鳥人・蛇人が多数派だったの」
「おぉ〜……神話っぽいね〜」
「信仰対象の子孫であるという設定で民衆の尊敬を集める狙いだったのでしょうね。
その他の自然現象もその雄獅子や大蛇に関連付けられていて……雷鳴は太陽である雄獅子が咆哮した時の音であるとされていたのね」
アリエラがそう言うと幻影は砂漠に集まる『ティトゥラエリン王朝』の民衆を映し出した。
その中でも一段と高い砂丘にはまだ髪が長かった過去のアリエラとその父ネクアバは民衆を見下ろし、堂々と立っている。
『皆の者よく集まった! 今年も始祖たる太陽に我らの声を届けようぞッ!!』
『『『ウォォオオ────────ッ!!!』』』
音頭を取るネクアバに呼応してアリエラや民衆の魔力が高まり、各々の口に電流が溜まり収束していく。
「そこで……年に一度、このように太陽に向かって雷属性の魔術を放って地上のワタクシたちからも声を届ける行事が行われていたのだけれど……」
「へぇ〜サツバツとした行事ばっかりってワケじゃないんだね☆ みんな楽しそう」
「フフフ……アリエラ様なら本当に届いてしまいそうですねッ」
イエナガが冗談を言うと、アリエラはイエナガを優しく指差し話を続ける。
「鋭いわねイエナガ。その通り……この年、ワタクシと父上の放った雷が太陽に当たった──……
いや、当たってしまったのよ」
語りと共に過去のアリエラとネクアバの口から放たれた雷が天高く昇り、燦然と輝く太陽に弾かれ上空に散り散りに広がり強烈な光と音を発した。
民衆も命中させたアリエラとネクアバ本人もまさか本当に当たるとは思っていなかったのか、呆気にとられている。
『お……うォおお!!』『あ、当たった!』
『すげェ!!』『さすが陛下だー!!』
一時静まり返った民衆は状況を理解すると一気に沸き立ちアリエラとネクアバを讃えた。
『フハハハハハ!! 当然だ!』
『父上とワタクシなら不思議な事では──……何の音……ッ!?』
喝采を浴びていい気になっていたアリエラとネクアバの言葉を遮るように大きな落下音が鳴ると、遥か上空を飛び手の平に収まりそうな程小さく見えていた太陽は見る見る内に大きくなり──
『た、太陽が──』
その途方も無い光と熱によって集っていた民衆を蒸発させ、熱風を巻き起こしながら砂漠に落下した。
『なッ……まさか本当に始祖たる雄獅子が降臨したというのか!?』
『……本当に始祖ならばたった今民衆を殺戮した事について、納得のいく理由を聴かせて頂かなくてはなりませんわね……!』
落ちてきた太陽が光るのを止め熱風が落ち着くと、光の中から二頭の巨大な白狼が引く戦車に乗った“白い髪と瞳・背中と腰には翼・頭部にも小さな翼・日焼けした肌”が特徴の美しい白いバレエ衣装のようなアーマードレスを身に纏う戦乙女が現れた。
その戦乙女の右手側にはネクアバにも匹敵する立派な鬣をした赫い獅子獣人が、左手側には藍色の髪と瞳が特徴的なオオワシ鳥人の女戦士がそれぞれ手綱を握って白狼を制御しているようだ。
「これが女神?」
「そうよ。 『光の女神イースネス』……西方大陸を支配している女神ね。
でも当時はそんな事知らなかったから困惑したわ……一番伝承に近い見た目の獅子獣人は御者をやっていたし……続きを見せるわね」
すると女神の乗る戦車の周囲に、翼が生え頭上には光輪を浮かべた者たちが数十人降り立った。
翼が生えてはいるものの、その種族は鳥人とは限らず獣人・蛇人・どの種族にも当てはまらない程の巨躯と無数の腕を持つ者など様々であり、全員が揃って白い亜麻服と巻外衣を身に付けている。
その中でも戦車の近くに降り立った者たちは六枚の翼をどこか誇らし気に広げている。
「この翼の生えた連中がいわゆる“天使”……特に六枚の翼が生えているのが──……
女神直属の精鋭神業保有者集団『至高天使』よ。
この時点では全員揃っていたようだけれど、現在までに四名程討ち取られているそうよ」
「あ、わかった! その討ち取った内の一人がアーちゃ──」
「ピチカ様ッ!」
「過度な展開予想は御法度ですよピチカさん……」
イエナガとレイメイに注意されたピチカは口を押さえて聞き手に徹する事にした。
「まあピチカにはもうワタクシの保有するチートスキルについては話しているものね……続けるわね」
幻影が再び動き出し、戦車に乗る『光の女神イースネス』が口を開く。
【今──
『女神よ! 貴女様が直接言葉を授けるなんてとんでもない! 私が代弁させて頂きます!
“今、雷を飛ばしてきたのは貴様らか?”
……と女神が仰せだッ!! ねっ?』
──うん……】
喋りかけた言葉を左手側に座る藍色の天使【神の言葉】が遮り、イースネスは伏目がちに肯定した。
王朝に伝わる姿と異なる太陽の正体にネクアバとアリエラは顔を見合わせて首を傾げた。
『女神……? 始祖たる雄獅子──……右手側の獅子獣人が長ではないのか?』
困惑するネクアバは質問に答える事も忘れて、女神と天使たちに質問を投げかける。
『貴様ァッ! 質問しているのはこちらだぞッ!!
もうよいッ! 状況から見て貴様らが女神を攻撃したのは明らか! その上女神を下に見るとは何事かァッ!!
たった今蒸発させた雑魚共の命だけでこの不敬を贖えると思うなよ!!
この【神の如き者】が直々に天誅を下してくれるッ!
さあいざ参れいッ! 痴れ者がァッ!!』
『……よく分からんが、つまり貴様は始祖たる雄獅子ではない者で……余と──……
この『ネクアバ・ティトゥラエリン』と戦いたいのだな? 良かろう……!』
右手側に座していた赫獅子の獣人が怒声を上げて戦車から飛び降りると、背中から赫い六枚の翼が生え、頭上には赫い魔力が凝縮された光輪が顕現した。
それに応えてネクアバも魔力を滾らせながら前進し手を翳すと、遥か遠く離れた王宮から念動力で特別な飾りの付いた五つの獅子獣人の黄金髑髏を呼び寄せ、自らの周囲に浮遊させた。
周囲には熱風が吹き荒び、女神と他の天使たちは鬱陶しそうに距離を取り、アリエラも父の戦いの妨げにならぬよう跳び退いた。
「……『至高天使』の中でもこの【神の如き者】と【神の言葉】が現在のリーダー格ね」
「ピチカさんも【神の言葉】は知ってるんじゃないですか? 本名の元ネタでしょうし……」
「あー……なんか昔ママから聞いたかも〜。
オオワシの鳥人で水の天使だから、半分魚人のあーしにピッタリだね〜って☆」
「ゼブブ卿からの情報で知ってはいましたが、ピチカ様は本当にあの『風の聖女ガブリエラ』なのですね……!」
「ぅえっ? あーし南東以外でも割と有名?」
「ええ! “史上最速で辞めた聖女”として!」
「ヘヒヒッ……」
「んギャッ……アーちゃん続き見せて!」
「そうね。 父上と【神の如き者】の戦いは長かったから少し要約して見せるわね──……」
アリエラがそう言うと、二人の赫獅子獣人の烈しく戦う姿が途切れ途切れになって映し出され始めた。
かつて自らの兄弟であった五つの黄金髑髏を駆使して砂塵を巻き上げ・大地を砕き・両の眼から光線を放ち・大河を氾濫させ・咆哮を雷と変え……まさに生ける天変地異と化したネクアバだったが──……
『カッ──……』
『フッ……ハハハ! 貴様も中々凄まじかったが、この【神の如き者】を仕止める事能わずッ!
フーッ……フー……見事だネクアバよ……!』
満身創痍になるまで【神の如き者】を追い詰めはしたものの、今一歩のところで力尽き、灼け焦げた砂漠の真ん中で大の字に倒れ息絶えた。
本来なら陽の落ちるはずの時間になった砂漠に、決着を察知したアリエラとイースネスと天使たちが駆けつける。
『父上ッ!! ……ッ! 見事な戦いぶりでしたわ』
既に事切れているのを理解したアリエラは、ネクアバの瞼を閉じさせ、天使たちに視線を遣った。
『さて小娘よ……貴様もこの【神の如き者】が相手をしてやろうか?』
『手負いに相手が務まる程この女王「ネフェラリエラ・ティトゥラエリン」の名は安くなくてよ。 見事な戦いぶりに免じて今の無礼は赦してあげる。
貴方と同格以上の戦士との決闘を所望するわ』
手負いとはいえ『至高天使』の中でも上位の戦士の誘いを素気無く突っ撥ね、万全の天使との決闘を要求するアリエラに虚を衝かれた天使たちだったが、意味を理解すると一斉沸き立ち──
『ではこの【光掲者】が』『いやこの【分岐者】が……!』
『間を取ってこの【契約者】が!』『俺、喰ウ……!』
白狼の獣人・人型の大樹のような姿の者・無数の腕が生えた見上げる程の巨躯の者・魔人化した巨人牛などが『至高天使』の中からは決闘相手として立候補した。
そこで現在のアリエラは一旦幻影を止め、白狼獣人と大樹のような者を指差した。
「この真っ先に名乗り上げた二名の天使は現在では魔王陛下と王妹殿下に命と神業を奪われているわ。 ……そうよね? レイメイ」
「ええ。 まあ私が生まれるよりも前の話なので実際に見聞きしたわけでは無いんですが……」
「へー魔王サマもチート持ちなんだ」
ピチカはまだ見ぬ魔王に興味を惹かれ、幻影の天使たちへの注目がやや薄れた。
「……話が逸れたわね。
こうして当時の世界では最高峰の強さと美しさを兼ね備えたワタクシには多くの天使たちが決闘相手として殺到してきたのだけれど──……」
(また主観部分が……!)
「結局この立候補者たちの中からではなくて、後方にいた天使と戦う事にしたの。 あんな事を言われたからにはね……」
過去のアリエラとの決闘を熱望する天使たちがいる一方で、満身創痍の【神の如き者】を介抱する天使や、単純にアリエラとの決闘に興味の無い天使は後方に下がっていた。
後方の天使たちは激闘を制した【神の如き者】を讃える者が殆どだったが、その中でも異質な可愛らしいが意地の悪そうな声が聞こえてくる。
『ミカおぢ だっさ(笑) ボロボロじゃん♡
神業無しじゃヤバかったんじゃない? ざっこ♡』
『黙れ【神の雷霆】ッ!!』
発言したのは雷マークのような六枚の翼が生えた『至高天使』の一角であるトラ獣人の少女【神の雷霆】だった。
紫の髪と瞳、可愛らしいが挑発的な性格が滲み出る顔にトラの耳と尻尾、殆どトラそのものの獣率の高い手足が特徴的である。
その頭上に頂く紫の光輪は喋り声に合わせて音声波形のように脈動している。
その侮辱的な言葉を聞いた過去のアリエラの表情が険しくなった。
そもそも決闘の末とはいえ父を殺され心中穏やかではなかった上、その決闘の勝者を貶す発言をした【神の雷霆】に過去のアリエラは鋭い視線を向けた。
『残念……【神の雷霆】で決まりか』
その様子を見た他の決闘立候補者の『至高天使』たちはアリエラの心中を察して引き下がった。
『んん〜? ナニ? あたしが戦んなきゃいけないの? えぇ〜……? もう見逃してよくないですかぁ? ねぇ〜? 女神サマァ〜……弱い者いぢめ反対♡』
【い──
『女神は“いやお前が戦え”と仰せだッ! ね?』
──うん……】
やはり言葉を遮られた女神イースネスが肯定すると、【神の雷霆】は気怠そうにアリエラの前に進み出た。
『じゃあ……戦ろっか? 楽しめなさそうだけど♡』
『それはそうでしょうね。 今からアナタ死ぬんですもの……!』
◇【神の如き者】
俗に“天使系”と称される神業の一種。
火属性魔術の性能を大幅に強化する。
『光の女神』と『火の女神』の合作。
最初にこのスキルを与えられた異世界人を斃した者から斃した者へ受け継がれている。
現在の保有者の赫獅子獣人は本来の名を捨てスキル名が名前代わりとなっており、実はアリエラの遠い先祖であるが本人もアリエラもその事は知らない。




