第五十話 アリエラの過去:誕生〜少女期
登場人物紹介
◇アリエラ
主人公。魔王軍四天王最強の怪力と頭脳を持つ紅一点。
『殲滅女帝』の二つ名を持つ。
褐色肌にボブカットの黒髪、猫のような紅い瞳、獅子の耳と尻尾が特徴の獣人。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者としての二つ名は『爆心地のアリエラ』
好きな麺料理はラム肉のトマトパスタ。
◇ピチカ
蒼い髪と瞳にギザ歯が特徴のアクセサリー付けすぎなギャルっぽいハーピィ。
異世界転生者。チートスキル【楽々御粧し】の使い手。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』の一応リーダー。
一級冒険者。
好きな麺料理はラーメン。
◇レイメイ
魔王直属暗殺部隊『五毒姫』の末妹。
白い長髪と肌に鬼灯のように赤い瞳と愛嬌紅が特徴。
魔王特製の最上級キョンシー(札は丹田に貼っている)。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者としての二つ名は『毒蛇姫レイメイ』
現在日差しと気温でダウン中。
好きな麺料理は刀削麺。
◇イエナガ・クズハ
アリエラの専属メイド。休暇を取って旅に同行中。
艶のある長い黒髪が特徴のキツネとハイエナの混相の獣人(ケモ度高め)。
尻尾を様々な形状に変化させられる。
アリエラを慕っている。
好きな麺料理はボロネーゼパスタ。
◇
「……もう入って来て大丈夫よ。一応壁にはあまり触れないように気を付けて頂戴ね」
先行してピラミッドの頂点に開いた爆発痕から内部に入ったアリエラは一応罠の有無を確認すると、ピチカとイエナガを呼び寄せた。
「失礼致しますッ」
「おジャマしまーす……」
イエナガは直属の主の私的な領域に踏み込むため畏って礼をしながら入り、ピチカは前世の記憶もあってか呪われはしないかと恐々としながらピラミッド内部に進入した。
「ではテントでも張って日除けしましょうか」
「ワタシもお手伝い致しますッ」
「ゔ〜……?」
アリエラが黄金石棺を開けると布に包まったレイメイが呻り声を出したが、アリエラは一旦無視して部屋の隅の陰になっている場所にテントを張り出した。
「日陰はちょっと涼しいね〜。内側も金ピカだぁ……」
ピチカが部屋の中を見回すと、壁・床・柱には黄金で覆われた浮き彫りが施され、その殆どは“様々な魔物・魔人・亜人の戦士と戦う獣人の女戦士“が描かれている。
頂点に近い部分のレリーフは融けてしまっていて何を描いているのか不明だが、見える範囲ではオオカミ・ネコ・牙の生えたツチブタなどアリエラの蒐集している黄金髑髏と一致する特徴の獣人が描かれている。
見回している間にテントの設営が終わり中にレイメイを寝かせると、アリエラは石棺の中から現在所持している全ての黄金髑髏を念動力で引き出し、石棺の蓋の上にズラリと並べた。
ピチカとイエナガはアリエラが投げ渡したクッションに座り、ピチカは寛ぎながら、イエナガは正座して話を聞く体勢に入る。
「──さて……ではワタクシについて語るのに言葉だけでは伝わり辛いでしょうから映像付きで語りましょうか。
──〈霧幻女帝〉……!」
黄金髑髏の中でも頭頂部に円盤と二頭の雌獅子の飾りがついた獅子獣人のものを被ったアリエラが術名を唱えると、魔力は藍色の霧状に変質し、徐々に人型を形成し始める。
「おっ、初めて見るドクロだ」
「これはワタクシの腹違いの妹よ。
幻影術が得意だったから、ワタクシも幻影を使って過去について語っていくわ」
「アーちゃんメッチャ身内殺ってない……?」
自分が知っている範囲内でもアリエラが母・叔父・従弟・腹違いの妹を蒐集に加えているのを知っているピチカは、繊細な話題かもしれないという事は承知の上で切り込んだ。
「戦闘民族の王族なんてそんなものよ。
──あくまでも記憶を元に語るから、ワタクシの主観が多分に含まれているという点と、古代文明の話だから現代の基準では相当に野蛮な事をしているだろうけれど……あまり驚かないで頂戴ね?」
「んぁ、オッケーオッケー」
身内を手にかけた事に関しては古代の話と割り切っているのか、アリエラは意外にも軽い返答だけして昔語りの諸注意をしてから語り始める。
「今から約二千年前の夏至──……
父王『ネクアバ・ティトゥラエリン』の長子にして双子の王族として姉上と共に生を享けたのがこのワタクシ……
『ネフェラリエラ・ティトゥラエリン』よ」
アリエラの語りと共に霧状の魔力が二人の獅子獣人の赤子を形作り、背後には向こう傷と立派な赫い鬣が特徴的な獅子獣人の巨漢が映し出された。
「へー! アーちゃん双子だったんだー! そっくりー☆ お姉ちゃんはなんて名前なの?」
「姉上の名前も『ネフェラリエラ』よ。
当時、双子として産まれた王族は一人分の肉体に収まらない程の力を持った存在が分裂して産まれたと考えられていて……同一人物扱いされていたのよ。
ワタクシ含め、“双子だった王族”の遺体を保管していたのが『ティトゥラエリン王朝遺跡群』の十二の大ピラミッドというワケね……粗方盗人に荒らされてしまったようだけれど……」
「“双子だった王族”という事はもしや……」
「鋭いわねイエナガ。王族に産まれた双子は成人を迎える日に兄弟姉妹と殺し合い、勝った方が真なる王として君臨する……という伝統があったのよ。
ワタクシが今ここにいるのは姉上に勝利した結果というワケね。その辺りは時系列順に語りましょうか」
アリエラが空を手で掻き回すように動かすと、魔力は小さな人型と無数の小さな影を形成し始める。
「幼い頃のワタクシは沢山の猫ちゃんや猫妖精と仲睦まじく暮らしていたわ……」
魔力の霧は群がる猫やケットシーと、それらを優しく抱擁する幼いアリエラを映し出した。
ボブカットにしている現在とは異なり、アリエラと姉の艶やかな黒髪は腰に届こうかという程に長く、存在感を放っている。
「フフ……微笑ましい光景ですね……あ、ピチカ様ッ写真を撮っておいて下さいませんかッ!?」
「えっ、あ、うんオッケー……。(これは主観の部分っぽいな……)
アーちゃん昔は髪伸ばしてたんだねー☆」
ピチカは幻影が映す幼少期のアリエラと、現在のアリエラが猫と接する際の惨状を比べて思うところがあったが、思うだけに留め髪型の違いについて言及した。
「王族の子女としての嗜みよね……今となっては短い方が楽で気に入っているけれどね。切る事になった経緯はまた後で話すわ。
──姉上はワタクシと双子だというのに猫嫌いという度し難い異常者だったけれど、戦士や魔術師としての才能はワタクシを凌駕していたわ。劣等感に苛まれたものよ……。
……そんなワタクシたち姉妹の人生が大きく変わり出したのは12歳頃からね……。
ワタクシの初の蒐集に加わったのが……この二つ──……
〈冶金帝〉と〈享楽女帝〉の黄金髑髏よ」
アリエラが名前を呼ぶと、ウシ獣人とネコ獣人の黄金髑髏がピチカとイエナガの前まで浮遊して来た。
同時に幻影は体格の良く獣率の高い牛獣人と、アリエラの肌を色白にして獅子の部分を黒猫に変えたようなネコ獣人の美女の姿を映し出した。
「……ネコ獣人の方はアーちゃんのママだっけ? アーちゃんそっくりー☆」
「御母堂様もお美しゅうございますッ」
「──この二人が不倫関係にあったのね」
「「あっ…………」」
「ウシ獣人の方は母上と不倫の上、結託して王族秘伝の至剛金加工法を盗もうとしたからワタクシが処刑したわ。母上も最後は狂獣化までして凄い戦いぶりだったわ……」
「「あ、あ……」」
ピチカとイエナガは言葉を失った。
「こうして鉱物加工の〈冶金帝〉と
重力軽減の力を持つ〈享楽女帝〉が蒐集に加わったというワケね。
術名は魔王陛下が付けて下さったものだけれど……」
「……それからどったの?」
「翌年、王族の遺体管理を任せていたこの〈葬送帝〉が求婚してきたから蒐集に加えたわ」
オオカミ獣人の黄金髑髏が浮遊して来ると、幻影は無数の影の手を掻い潜りオオカミ獣人の青年の首を刎ねる幼いアリエラを映す。
「身の程を思い知らせてやりましたねッ」
「アーちゃんモテるゥ〜☆ ……てかプロポーズ早くない?」
「王族なんてそんなものよ。
──ところでワタクシの術の名前は異世界の神話が由来だと陛下が仰っていたのだけれど、ピチカは知ってる?」
術名を次々に言って魔王との会話を思い出したアリエラは一旦話を止め、ピチカに質問を投げかけた。
「あーし神話はくわしくないけどアヌビスは聞いたコトあるよー。たしか裁判する神サマだったかな……」
「裁判……? そんな立場ではなかったけれどね……どんな意図で命名なさったのかしら」
「陛下がお目覚めになる頻度が少し増えてきましたし、今度直接お聞きになっては如何でしょうか。
──それよりアリエラ様、お話の続きを何卒ッ」
魔王は“死者の魂を裁く神”としてではなく、“ミイラ作りの神”要素から〈葬送帝〉と名付けたのだが、その事を知る者はこの場に居ないため謎は謎のままとなった。
イエナガの催促で再びアリエラは幻影を展開し、トビ鳥人の黄金髑髏と生前の姿を映し出した。
「14になるとワタクシたち姉妹の魔術の師範だったこの〈豊穣女帝〉が“最終試験”と称して決闘を申し込んできたから、蒐集に加えたわ。
植物を操る魔術が得意で──この旅の中ではピチカと初めて会う前日に使ったわ。あれから彼此数ヶ月になるのね……」
アリエラは旅に出て数日目に妖鬼の野盗を山の頂ごと消した事を懐かしむように振り返った。
「師匠を超えるのが最後の修行的なアレね」
「まさしくソレよ。
……15になり叔父上の趣味の川下りの護衛と運河の見回りをやらされるようになってからは姉上と一緒に盗賊と小競り合いを繰り広げていたわ。
嵐を操る〈暴嵐帝〉はワタクシが激闘の末に仕止め、魔力を吸い取る暗黒領域を生成する〈暗澹帝〉を姉上が仕止めたのだけれど──……」
アリエラが言い淀むと、幻影は“黒い鱗の巨大な蛇人の肉を引き千切って痛め付けるアリエラの姉”を映し出した。
『 ギャ ア あ゛ アァ あ ッ! ! ! 』
『さっきまでの威勢はどうした!? いいセンいっているのは魔術だけか!? 王族に弓引いてっタダで死ねるなどとはキサマも思ってはいないだろう!?
もう少し頑張れば蒐集に加えてやるぞ!?』
「ギャヒィっ……」「うッ……」
ピチカとイエナガは凄惨な光景に思わず目を逸らした。
「この辺りから姉上の残虐性が顕著になっていったわ……ワタクシも思うところはあったけれど、実力で劣っていた当時は強く意見もできず歯痒い時期だった……この〈暗澹帝〉の黄金髑髏は未だ取り戻せていないわ……。
──とは言っても16になるとそんな事を気にしている場合でもなくなってしまったのね」
「……! 一体何が起きたのです!?」
(クーちゃんリアクションいいなぁ……)
「次々と敵対部族が攻めて来たのよ……全員斃したけれどね。
黄金髑髏を回収済みのものだと〈大地帝〉ね。引力攻撃は手強かったけれど、〈享楽女帝〉の能力で中和してなんとか攻略できたわ──……」
幻影はネコ獣人の黄金髑髏を被ったアリエラが、屈強なサイ獣人の腹部を巨獣化させた腕で殴り付ける瞬間を映し出す。
「──他には姉上が屠った斥力使いの〈天空女帝〉
擬似生命創造魔法使いの〈深淵帝〉
当時の南方大陸最強の死霊術師と名高かった〈冥府帝〉が襲撃を仕掛けて領民にも大きな被害が出たわ。
この三つの黄金髑髏も回収できていないわ……」
『ィイ゛ャあ ア ァ ア゛!!』
『グボッ……ごボボっ……』
『うわァああああアッ!!』
幻影はオウギワシ鳥人の女戦士・大きな蛙人・ゾウ獣人の魔術師のがアリエラの姉によって惨たらしく殺戮されている光景を映し出した。
「ヒィ……!」
「ギャッ……もうグロシーンはいいから!」
「あらそう……? では次……ワタクシたちが17になると表立って敵対する勢力は南方大陸から粗方いなくなったけれど、暗殺者が増えたわね。
中々の手練れ揃いだったのだけれど、中でも武器に即死魔法を付与する〈安息女帝〉に寝込みを襲われた時は危うく殺されるところだったわ。
これも未回収……危険だからなるべく早く回収したいものね」
黒い魔力を宿す短刀を持ったハイエナ獣人の女暗殺者の攻撃を大きく回避しながら格闘するアリエラの幻影は、最終的には両手を掴み首を噛みちぎって暗殺者を撃破した。
「即死魔法ですか……恐ろしいですね……」
「カスっただけで即死ってコト? やば……」
「実際にワタクシは掠らせもせず勝ったからわからないけれど、魔王陛下や女神のような実力が離れすぎた相手には効かないんじゃないかしら。
──さて……いよいよ次は18、成人の儀の時の話ね」
『『『うおォオ──ッ!!』』』
すると、今まではアリエラや黄金髑髏となった人物のみを映していた幻影は、アリエラたち姉妹の周囲に立派な闘技場と客席に犇き歓声を上げる大勢の獣人や鳥人を鮮明に映し出した。
二階にある貴賓席ではアリエラの父ネクアバや兄弟・親戚らしき豪華な装飾を身に纏った獅子獣人やハヤブサ鳥人たちが静観している。
「うぉ……VRみたーい……」
「まるで過去に飛んでしまったかのような臨場感……! 流石ですアリエラ様ッ!」
「フフ……褒めたって何も出なくてよ。
……先に話した通り、双子として産まれた王族は成人すると共に殺し合い、勝った方が真なる王として君臨する定め……ワタクシたち姉妹も例外ではなかったのね。
今のワタクシからは想像できないでしょうけど、この時のワタクシは闘技場に出る前から自分の敗北を直感していたわ……」
「アリエラ様が戦う前から負ける事を考えるだなんてそんなバカな……!」
「でもアーちゃんが勝ったんでしょ?」
「結果を見ればそうね……でも姉上との勝負の事を思い返すとつい“もしあの時に戻れたら……”なんて考えてしまうものよ……」
◇ネクアバ・ティトゥラエリン
『ティトゥラエリン王朝』の王にしてアリエラの父。
現在は当然ながら故人。遺体は『ネフェラリエラ』の大ピラミッド近くの墓所に安置されている。
王座に着くまでに五人の兄弟を屠り、蒐集に加えている。
歴代の獅子獣人の王の中でも特に立派な赫い鬣を持つ王として考古学者の間でも有名。




