第四十九話 『最後の女王ネフェラリエラ』
登場人物紹介
◇アリエラ
主人公。魔王軍四天王最強の怪力と頭脳を持つ紅一点。
『殲滅女帝』の二つ名を持つ。
褐色肌にボブカットの黒髪、猫のような紅い瞳、獅子の耳と尻尾が特徴の獣人。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者としての二つ名は『爆心地のアリエラ』
好きな音は雷鳴と剣戟音。
◇ピチカ
蒼い髪と瞳にギザ歯が特徴のアクセサリー付けすぎなギャルっぽいハーピィ。
異世界転生者。チートスキル【楽々御粧し】の使い手。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』の一応リーダー。
一級冒険者。
好きな音は弦楽器の音。
◇レイメイ
魔王直属暗殺部隊『五毒姫』の末妹。
白い長髪と肌に鬼灯のように赤い瞳と愛嬌紅が特徴。
魔王特製の最上級キョンシー(札は丹田に貼っている)。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者としての二つ名は『毒蛇姫レイメイ』
好きな音は金属音。
◇イエナガ・クズハ
アリエラの専属メイド。休暇を取って旅に同行中。
艶のある長い黒髪が特徴のキツネとハイエナの混相の獣人(ケモ度高め)。
尻尾を様々な形状に変化させられる。
アリエラを慕っているが、何か企んでいる様子。
好きな音は骨を噛み砕く音。
◇
「驚かせてしまって申し訳ございませんッピチカ様。
冗談半分のつもりが、あまりに便利そうな神業だったものでつい前のめりになってしまい……無理に奪おうなどという考えは毛頭ございませんので、何卒赦して頂きたく……」
エリン河沿いの町まで逃げたピチカに追い付くなりイエナガは深々と頭を下げ、突然攻撃体勢に入った件について謝罪した。
「いやぁ……あーしが大ゲサにビビっちゃっただけだから気にしないで! 改めてよろしく! クーちゃん☆」
「はいッ。よろしくお願い致しますピチカ様」
二人が和解したのを見計らい、やや険しい表情のアリエラが二頭のラクダを牽引しながらピチカに歩み寄って来る。
「ピチカ。忘れラクダよ。……今回はイエナガだったから何とも無かったけれど、相手によってはこのラクダが殺されていたかも知れなくてよ。
組合から借りている上に生き物なのよ? 今後は気を付けなさい」
「うぅ……ゴメンなさい……ラクダちゃんもゴメ──」
「ペッ!!」
置いて行かれたラクダはピチカとイエナガに唾を吐きかけた。
「ギャッ! ツバ吐いた!!」「きゃッ! ぁ痛ッ!!」
唾に驚いて飛び退いた拍子にイエナガは転んで尻餅を付いてしまった。
「……ラクダに嫌われてしまったみたいですし駅舎ギルドに返しておきましょうか」
「そうね。これから向かう『ティトゥラエリン王朝遺跡群』周辺の砂漠へは危険過ぎて連れては行けない事だし……」
「あ、じゃあラクダちゃんたちと別れる前に写真撮ろ! クーちゃんも入って入って!」
「え? あ、はあ……」
ピチカは他三名にラクダの前に集まるように促し、写真機と三脚を設置し始める。
「またですか……? カメラ買ってから事あるごとに……」
「せっかく買ったんだから撮らなきゃもったいないじゃん! もうちょい寄って〜……そのへんでストップ!」
「旅の記念に丁度いいじゃない」
「ではワタシはアリエラ様の隣で……」
カメラはパシャリと音を鳴らすと、渋るレイメイと意外にノリノリのアリエラとイエナガ、そして慌てて写角に入り込んで来たピチカ、不機嫌そうなラクダ三頭の写真を吐き出した。
「よーし……キレイに撮れ……あ、ちょっと目ェ閉じて……まあセーフかな。
よッし! じゃあラクダちゃんたちをギルドに返して……砂漠はどーする? 飛ぶ?」
「そうね……太陽が真上を通る時間帯になるとレイメイが耐えられないかもしれないし……現代は陽光に含まれる魔力で魔物化した動植物が跋扈しているそうだから早く現地に行って日除けを設営しなくてはね……」
「ワタシもお手伝いさせて頂きますッ」
「気遣ってくれるのは結構ですが、私を凡百の僵尸と一緒にしないで下さいよ?」
◇
出発当初は南東群島を旅していた時と同様、一行はレイメイの〈白毒雲〉に全員で乗って行く予定だったが少し事情が変わり、各々が別の飛行手段を使って『ティトゥラエリン王朝遺跡群』の在る赫い砂漠に向かっていた。
「メイメイ大丈夫そう〜?」
「ゔ〜……!」
ピチカは後続二名を引き離し過ぎないように加減しつつ、その大きめの鳥脚で布に包まったレイメイを掴んで羽ばたいていた。
レイメイが体調を崩してしまい〈白毒雲〉を維持できなくなってしまい、自力で飛ばざるを得なくなってしまったのだ。
「思っていたよりも早くノビてしまったわね……陽光が辛いなら変な意地を張らないでワタクシの石棺の中に入ってなさい」
両手足を獣化し背中から魔力で形成した翼を生やす魔術〈翼獅身〉を発動して飛行するアリエラは、レイメイに心配半分・呆れ半分で声をかける。
「ゔーッ!」
「メイメイが“ゔー”しか言わなくなっちゃった……」
「ピチカ様ッ……」
レイメイの声色と包まった布の動きでおそらくアリエラの提案を拒否しているであろうと察したイエナガは、主人の厚意を突っぱねたレイメイに少し苛立ちながらピチカに近付き耳打ちをする。
ちなみにイエナガは尻尾を二本に分裂させ、プロペラのように高速回転させて飛行していた。
尻尾を使う都合上、臀部を上に突き出す少し間抜けにも見える格好でトランクを持ち姿勢を安定させている。
「んぁっ……なになに?(ソ◯ックの友達みたい……)」
和解こそしたものの、まだ少し怖いのか、ピチカはそっとイエナガに近寄った。
「このままレイメイ様が本格的に体調を崩されては魔王陛下も困ってしまいますし、何か問題が起きた際ピチカ様の対応が遅れてしまう可能性が有りますので、せめて移動中は石棺に入って頂くよう何卒リーダー命令をッ」
「たしかに……メイメイ聞いてた?」
「ゔー……」
観念したようなレイメイの唸り声で同意したと見做し、一旦地上に降りた一行はレイメイをアリエラの黄金石棺に放り込んだ。
再び石棺をピチカの神業【楽々御粧し】の亜空間に収納しようとしたが、何度やっても収納される事は無かった。
試しにレイメイを石棺から出してみたところ、石棺はすんなりと亜空間に収納され、“【楽々御粧し】の亜空間に自我を持つ者は収納できない”……という仕様が判明した。
◇
「ねえクーちゃん……答えたくなかったら無視してくれていーんだけどさぁ……」
「なんでしょうかピチカ様」
話題が途切れた頃、ピチカはイエナガに恐る恐る質問を始めた。
「クーちゃんってもしかして極東出身だったりする? 名前のカンジからして……」
「ああ……確かにあまり耳慣れない響きの名前でしょうね。
ワタシ自身は南方生まれですが曽祖父が極東生まれだったそうです。
真偽は定かではありませんが、あと一歩で極東列島を統一しかけたキツネ獣人の大領主だったとかなんとか……部下に謀反を起こされ失脚して南方に流れ着き曽祖母と結ばれたと聞いております」
「へぇ〜ひいおじいちゃんがかぁ(ノブナガ的な?)
あーしも前世は極東的な場所に──あ! 砂漠が真っ赤になってきたよ!」
ピチカが流れで前世について話しかけたその時、視界に映る砂の山脈が徐々に赫いものへと変わっていった。
「目的地が近くてよ。
強い陽光に曝され続けた砂漠は赫く変色するのよね」
レイメイを収納した黄金石棺の鎖を掴んで飛ぶアリエラは、眼下に広がる赫い砂漠を懐かしむように眺めつつ、速度を上げる。
「砂鉄がサビちゃうんだよね〜」
「ワタシが幼い頃は古代の戦士の血が染み込んでいると教えられました」
「『光の女神イースネス』が討滅されればこの光景も無くなるのかしらね……」
「……? なんで今『光の女神』?」
「もしや……ピチカ様はご存知ありませんか?」
「異世界がどうだったかは知らないけれど……この世界で“太陽”と呼ばれているのは聖女に憑依した『光の女神』が発光しながら上空を飛んでいるものよ」
「えぇ!? でっかい火の玉じゃないの!?」
「異世界ではそうなの? 『ティトゥラエリン王朝』文明と発想が近いのね……」
「……じゃあ月は? 太陽の反射で光ってるワケじゃないカンジ?」
「月は『氷の女神リリモス』が聖女に憑依して輝きながら眠っている巨大な氷の球体よ。満月の時は地上から見て真正面で眠っているそうよ」
「はぇ〜……めっちゃファンタジー……──おっ?
ねえアレってピラミッドじゃない!?」
「そうね。そろそろ到着だわ」
「ワタシは久々にこの辺りまで来ました……懐かしゅうございます」
太陽と月についての話をしながら高速飛行を続けていると、赫い砂の地平線の先から黄金の反射光が見えた。
一行はその反射光を目指して飛び続け、エリン河東側沿いの赫砂の海に堂々と建立された黄金の四角錐──……
『最後の女王ネフェラリエラ』の霊廟とされるピラミッドの前に着陸した。
ピラミッドの出入り口の左右には巨大な石柱がたっており、その上には誇張的な作風の“翼の生えた獅子”の黄金像が鎮座している。
ピチカが遠目で見た時は反射光でよく見えず気付かなかったが、ピラミッドの頂点部分は内側から何かが爆発でもしたのか塗装の黄金が融けて歪んだ花弁のように広がった状態で固まり、内部の玄室には直接陽光が差している。
「なんかテッペンの方が壊れちゃってるね〜」
「あそこが『第二の太陽事件』最初の爆心地よ」
「……ん? でもこのピラミッドって昔の女王様のお墓なんでしょ? んで『第二の太陽事件』はアーちゃんが無理矢理女神に取り憑かれたヤツで……ドユコト?」
「正確には墓や霊廟ではなく蘇生魔法の儀式装置なのだけれどね……まあうまく機能しなかったのだから実質的には墓と同じよね。
……ワタクシはピチカの本名を聞いているけれど……ピチカにはワタクシの本名をまだ教えていなかったわね」
それまでピチカと並んでいたアリエラは数歩踏み出し、ピラミッドを背に神妙な面持ちで振り返る。
「アーちゃんって偽名だったの!?」
「偽名というか『アリエラ』は本名の省略形ね」
「ピチカ様ッ。アリエラ様の名乗りですよッ! ご静聴をッ!」
イエナガに窘められたピチカが翼腕で自らの口を塞ぐと、アリエラは咳払いをして話を続ける。
「ンン゛っ……ワタクシの身の上話をするとなると南方大陸の歴史をかなり遡る必要があるわ。
まずはざっくり約二千年前──……」
(そんなに!?)
いくらなんでも遡り過ぎだろうと思ったが、ピチカは思うだけに留め静聴した。
「『ティトゥラエリン王朝』に燦然と産まれ落ちたのがこのワタクシ『アリエラ』こと──……
『ネフェラリエラ・ティトゥラエリン』よ」
◇『氷の女神リリモス』
北方大陸を支配する女神。
銀の髪と瞳、雪のように真っ白な肌をしているとされる。
信仰しても大した恩恵を与えないため、信徒はあまりいない。
現在は聖女に憑依して月で惰眠を貪っている。
稀に寝ボケて地上に落下して来るらしい。
聖獣は熊と兎。




