第四十八話 専属侍女
登場人物紹介
◇アリエラ
主人公。魔王軍四天王最強の怪力と頭脳を持つ紅一点。
『殲滅女帝』の二つ名を持つ。
褐色肌にボブカットの黒髪、猫のような紅い瞳、獅子の耳と尻尾が特徴の獣人。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者としての二つ名は『爆心地のアリエラ』
大抵の魚人より泳ぎが速い。
◇ピチカ
蒼い髪と瞳にギザ歯が特徴のアクセサリー付けすぎなギャルっぽいハーピィ。
異世界転生者。チートスキル【楽々御粧し】の使い手。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』の一応リーダー。
一級冒険者。
泳ぎにはかなりの自信がある。
◇レイメイ
魔王直属暗殺部隊『五毒姫』の末妹。
白い長髪と肌に鬼灯のように赤い瞳と愛嬌紅が特徴。
魔王特製の最上級キョンシー(札は丹田に貼っている)。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者としての二つ名は『毒蛇姫レイメイ』
泳ぐのは得意だが、濡れるのは嫌。
◇
──南方大陸──
かつては『火の女神ルトゥルス』の支配領域であったが、約15年前に起きた“史上最悪の女神被害”とも言われる『第二の太陽事件』の際、魔王含む魔王軍の精鋭に女神が討ち取られた事により支配者不在となった大陸である。
そもそも砂漠の多い土地ではあったが『第二の太陽事件』で大陸北部に存在した森林部は約九割が焼失し、南部の火山帯に暮らしていた炎巨人たちは絶滅してしまい、現在では僅かな生き残りや他の大陸を追われた犯罪者などが多く暮らしている。
討伐する者が少なくなったため、大陸中央部から南部の砂漠には大型の魔物が跋扈し、特級冒険者でも迂闊に足を踏み入れる事は出来ない魔鏡と化している。
女神討伐後は魔王軍が統治を開始する予定であったが、中央大陸の『水の女神』の後に期間を空けず『火の女神』の魂を立て続けに取り込んだ魔王が体調を崩して寝込んでしまったため、魔王軍は征覇済みの中央大陸の治安維持に注力し始め放置されているのが現状となっている。
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……そんな焦熱の南方大陸の北東部の砂浜に冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』は上陸した。
「イェ────────イ☆ あーしらの勝ちーッ!」
「フフ……まあレイメイも健闘した方ね」
海上を全速力で飛んだピチカと、ピチカに縄で引かれながら波に乗って来たアリエラが一足先に到着し、少し遅れて〈白毒雲〉に乗ったレイメイも到着した。
「くっ……! 姐さまたちさえいれば……!」
「負け惜しみフゥ────ッ☆」
「……!」
ピチカの煽りが余程気に食わなかったのか、レイメイはしばらく口を開かなくなった。
◇
数日後──……一行はアリエラの先導で浜から南西に進み、『ティトゥラエリン王朝遺跡群』と呼ばれる遺跡を目指していた。
──『ティトゥラエリン王朝』──
南方大陸中央から北部の海へ流れる世界最長の大河『エリン河』周辺に現在から約五千年前に興り、三千年に渡って栄華を誇ったとされる亜人中心の太陽信仰文明である。
歴代の中でも特に強大な王の霊廟と考えられる十二の巨大な金字塔が太陽の軌道に沿って南方大陸を横断するように建立されており、当時の影響力の大きさを物語っている。
しかし、南方大陸をほぼ征覇した王朝は歴代の王の中でも最強と謳われる『最後の女王ネフェラリエラ』が“天空そのものと戦い勝利した”……という神話のような伝説を最後に急激に衰退し、数多の国や集落に別れていったとされる。
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強烈な陽射しと熱対策にそれぞれ赤・青・白のだぶついた服に着替えて頭には軽くターバンを巻き、駅舎組合から借りたラクダに乗り幾つもの砂丘を超えた。
ピチカは最初の方はラクダの揺れに悪戦苦闘していたが、数日も乗れば慣れたようで喋りながら進む余裕ができていた。
「メイメイごめんってば〜……キゲン直してよ〜……ヘビ獲ってきてあげるからさ〜」
「……南方にいる間は毎食蛇料理ですからね」
「ギャヒィ〜……」
「ワタクシは別に構わないけれど……。
! そろそろ街が見えて──ん……?」
遺跡に行く準備のためエリン河近くの街に向かっている最中、アリエラの視界に街からこちらへ歩いて来る人影が映る。
大きなトランクを持った人影はアリエラの姿を確認すると早足になり、最終的には全力で──時折コケながら──走って来た。
「『イエナガ』じゃない。こんな所で何をしているのかしら。留守を任せる置き手紙を書いておいたハズなのだけれど……」
その人物……イエナガを見たアリエラは怪訝な表情を浮かべる。
「ハァ……ハァ……アリエラ様! お待ちしておりました。お久しぶりでございます」
駆け寄って来た人物……イエナガは長い艶やかな黒髪がある事を除けば獣率の高い獣人であり、尖った獣耳と口鼻部に豊かな毛量の尻尾というシルエットを見ればキツネ獣人のようだが、その体毛は黄褐色に黒い斑模様というハイエナの特徴を持つ混相の獣人であった。
砂漠だというのに裾の長いメイド服を着込んでいるため異物感が強く非常に目立っている。
コケた際にメイド服に付着した砂を払うと、アリエラの乗っているラクダに近付き、膝折礼をして挨拶をした。
「そうね……で? 何故ここにいるのかしら」
「……ワタシも魔王陛下に少しお暇を頂きました。
南方大陸を旅なさるなら少しはお役に立てる自負がごさいます! 是非お供を」
明らかに不快感を示すアリエラに対し、イエナガは一瞬引き下がりそうになりながらも毅然とした態度で同行を申し出た。
「ねえメイメイ……魔王軍のヒト?」
「軍じゃなくて魔王城の使用人でアリエラさんの専属です」
「へー……アーちゃんって本当にエラい立場のヒトなんだ──」
「レイメイ様もお久しぶりでございます」
「……どうも」
ピチカがアリエラについて今更な感想を述べようとすると、イエナガがレイメイの方に目を向け再びカーテシーをしながら挨拶をする。アリエラにしたものと比べるとやや淡白な挨拶にレイメイもラクダに乗ったまま会釈をして答えた。
最後にピチカに目を向けたイエナガは三度目のカーテシーをして挨拶をする。
「……新しく魔王軍にご加入なさったピチカ様ですね?
ワタシはアリエラ様専属の『イエナガ・クズハ』と申します。以後お見知り置きを……」
「あっ……よっと……あーしピチカです☆ よろしくお願いしま──」
“アリエラ様専属”の部分をやや強調気味に自己紹介をするイエナガに対し、ピチカはラクダから降りて挨拶を返そうとするとイエナガは更に距離を詰め、喰い気味に話を続ける。
「ワタシの事はアリエラ様と同じように気さくに『クーちゃん』とでもお呼び下さい。敬語も不要です。
同じアリエラ様専属の同志として仲良く致しましょうね?」
「うおぉ……よろしくねクーちゃん。
てかあーしってアーちゃん専属なの?」
「ゼブブ卿がワタクシ直属の見習いとして登録しておくと言っていたから、形式上はそうなるのかしらね…………それでイエナガはワタクシたちに着いて来たいのね?」
「はいッ是非に」
「まあ正式に休暇を取っているのなら文句は無いわ。
トランクはピチカに預けてワタクシの後ろに乗りなさい」
「? なぜピチカ様に……あッ……例の神業でごさいますね?」
「そーだよ! あーしの【楽々御粧し】でアーちゃんのカンオケとかも出し入れできるようになったから、大きめの荷物は基本あーしが運ぶよ〜☆」
「素晴らしいスキルですね……実は今回押しかけてきたのはアリエラ様に同行させて頂きたいといのもあるのですが、ピチカ様に相談したい事がありまして……よろしいでしょうか?」
イエナガはトランクをピチカに預けず、地面に置いて中を漁り始めると“真紅の液体”が入った小瓶を取り出した。
「相談……? あーしに?」
初対面である自分に何を相談するのかとピチカは首を傾げる。
「その神業が宿った心臓をワタシに譲って頂きたいのです。
こちらに万能血薬がございますので治療は問題ございません。痛みの無いよう努めますので動かないで頂けると幸いです」
イエナガはピチカの胸を指差しながら、取り出した小瓶をチラつかせた。
ピチカの心臓を今すぐにでも抉り出したいのか尻尾の先が伸びて枝分かれし、大きな手のように変異を始める。
「ギャヒィーッ!? むりムリ無理!!!」
突然の攻撃体勢に怯えたピチカはラクダを置いて街のある方向に飛び去ってしまった。
「ちょっ……ピチカさん!」
「待ちなさいピチカ!
イエナガ! ピチカのラクダに乗って着いてらっしゃい!」
あっという間に豆粒のような大きさに見える距離まで飛んで行ったピチカをアリエラとレイメイは急いで追いかけ、イエナガもいそいそとトランクをラクダに積んで追いかける。
「あっ……はい!
(怯えさせてしまった……!
マズイな……関係を修復せねば……“本命の作戦”のためにも上手く誘導しなければ……)」
三人共に先行したため、ほくそ笑むイエナガの顔は誰も見ていなかった。
◇『火の女神ルトゥルス』
かつて南方大陸を支配していた女神。
赫い瞳と髪、真っ黒な肌をしていたとされる。
“世界の浄化”と称して幾度か器に受肉しては爆発事件を起こしていた。
そのため現代にも残る数少ない信徒はテロリスト扱いされている。
最後はアリエラの身体に無理矢理受肉しようとして失敗。隙を突かれて魔王に討ち取られ、魂を取り込まれた。
聖獣は獅子と牛。
◇万能血薬
錬金術の奥義とも言える錬成物の一つ。
血のように見える真紅の液体でほとんど全ての傷病を癒し、不老長寿を齎すと言われている。
中央・北西・北東大陸で極少量が錬成されている。




