第四十六話 『竜の血族』
登場人物紹介
◇アリエラ
主人公。魔王軍四天王最強の怪力と頭脳を持つ紅一点。
『殲滅女帝』の二つ名を持つ。
褐色肌にボブカットの黒髪、猫のような紅い瞳、獅子の耳と尻尾が特徴の獣人。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者としての二つ名は『爆心地のアリエラ』
現在では家族や親戚はいない。
◇ピチカ
蒼い髪と瞳にギザ歯が特徴のアクセサリー付けすぎなギャルっぽいハーピィ。
異世界転生者。チートスキル『楽々御粧し』の使い手。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』の一応リーダー。
一級冒険者。
生みの母は他界、育ての母が二人、姉妹同然の幼馴染が二人いる。父はサメ魚人らしいが詳細不明。
◇レイメイ
魔王直属暗殺部隊『五毒姫』の末妹。
白い長髪と肌に鬼灯のように赤い瞳と愛嬌紅が特徴。
魔王特製の最上級キョンシー(札は丹田に貼っている)。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者としての二つ名は『毒蛇姫レイメイ』
姉妹の契りを交わした姐が四人いる。
◇カメリア
中性的な顔立ちで金髪ポニーテールに緑基調の騎士装束のデュラハン(エルフ)の特級冒険者。享年224歳。
二つ名は『首愛でるカメリア』
自らのスタイルに絶対の自信があり、様々な美女や美少女の顔写真との合成写真を作成するのが趣味。
エルフの国の貴族家出身だが、特殊な立場なのもあって家の者とは疎遠。
◇ウォトゥオス
鉄仮面と黒い拘束衣で全身を包まれ、異様に太長く関節が無いかのように滑らかに動く両腕を持つ。
特級冒険者としての二つ名は『闇篭り』だったが、その正体はなんと『ゲダの指』が一柱『握食のウォトゥオス』だった──……と判明したがアリエラは反応に困っている。
家族は全員他界している。
「バレたからには仕方あるまい!
改めて名乗ってやろう! オレは『ゲダの指』が一柱であり、『指輪付き』の一角で在らせられる『竜血のエルトート』様の眷属である『握食のウォトゥオス』!!」
変装を破られ開き直ったのかウォトゥオスは訊かれてもいない情報を次々に話し始める。
「ヴァンパイアである事を隠すためというよりは軽すぎる口を封じられていたって所かしら……」
バレるだけならまだしも自ら詳細な所属まで語り始める様子にはさすがにアリエラも呆れ、その他の面々も呆気に取られた。
「『大叫竜イベアス』! 『首愛でるカメリア』! そして『爆心地のアリエラ』!
喜べ! キサマらを『導師ゲダ』やエルトート様が御所望だ! オレが連れて行ってやる! この栄誉に身を浴すがいいぞ!」
呆れる周囲を気にする様子も無く、ウォトゥオスは予てより勧誘する機会を窺っていたイベアスとカメリア、そして新たに対象になったアリエラを『ゲダの指』を勧誘した。
その三名の答えはもちろん──
「「「 断 る ッ ! ! ! 」」」
即座に拒絶。
武器を持っている者、あるいは武器無しでも戦える者は全員席を立ち戦闘体勢に入る。
武器を持っていない者は武器の調達ついでにギルド職員の避難誘導をしながら退避を始めた。
「……それならば屍にして持ち帰るとしよう──ギシャア ァ ア あ ぁ ア゛ ッ ! ! !」
返答を聞いたウォトゥオスの口は耳の近くまで裂け鋭い牙を剥き出しにし、身体を膨れ上がらせ全身を覆う黒い拘束衣を引き千切り上裸となった。
「「シャ──────ッ!!」」
そして異様に太くて長く、関節が無いかのようであった両腕は拘束衣から解放されると全体にびっしりと鱗が生え、指同士が融合し瞬く間に刺々しい鱗の蛇竜と化した。
「『竜の血族』? それとも『蛇の血族』かしら」
「『竜血のエルトート』様の眷属だと言っただろうが!」
苛立ちながら両腕の蛇竜を伸ばしてアリエラに攻撃するが、アリエラ本人はもちろんのこと他の遠距離攻撃が得意な特級冒険者から一斉に反撃され、ズタボロになって後退るも並のヴァンパイアとは比べ物にならない肉体再生能力を発揮して再び襲いかかって来る。
「しぶといな……こりゃ輝鋼銀の矢じゃなきゃダメか?」
魔力で形造った大弓を構える『千里穿ちのイルネス』は腰の矢筒に収まった多種多様な矢の中からミスリルの矢を取り出して番え、ウォトゥオスの心臓を狙うが──……。
「フン! 弓使いなんぞ狙いを定められなければ居ないも同然よ!! キサマに用は無いッ!」
ウォトゥオスは本体の脚力と両腕の蛇竜を駆使して会議室中を縦横無尽に跳び回り、遠距離攻撃を撃たせないよう立ち回りをしながら、狙いの三名を中心に蛇竜をけしかける。
「無駄なマネをッ!」
「ふッ──!」
「大人しくしろぉ オ オ オ゛ ッ ! ! !」
──しかし蛇竜の一方はアリエラに爆破され、もう一方の蛇竜をカメリアに斬首され、本体の人型部分は叫ぶイベアスに殴り飛ばされる。
「ぐうッ……! 何故拒む!? 『導師ゲダ』の指に……それも『指輪付き』やその副官の地位を用意しているんだぞ!?」
ウォトゥオスは肉体を高速再生させながら心底理解できないといった表情で他の特級冒険者たちの攻撃を躱しながら説得を続ける。
「ちょいとしつこいんじゃあないですか……ねぇッ!」
執拗に三名を狙いながら逃げ回る様子に苛立った『不死身のヤブキチ』が神器【弐之太刀不知】を鞘走らせ、ウォトゥオスに向かって振り抜いたが、あっさり回避されてしまった。
「チッ……死ぬ事すらできんヤツに用は無いッ!
チートアイテムだけ置いて消え失せろッ!!」
各対象につき一度きりとはいえ絶対切断能力を有する【弐之太刀不知】に思わず大きく飛び退いてしまったウォトゥオスは、腹立ち紛れに両腕の蛇竜をヤブキチに向かわせ、その右腕と左脚に深々と噛み付いた。
「ヤブッ──まあ心配無ぇかあ! グヘヘっ。
〈黄龍『酔倒極躰』〉……!」
ヤンロンは一瞬ヤブキチを一瞬気にかけるが、ヤブキチが不死身である事を思い出し、床に勢いよく身体をぶつけながら反動を利用して加速し転がり、ウォトゥオスの膝に肘打ちを叩き込んで砕いた。
「くッ……! この程度──ッ!」
膝を砕かれよろめきながらもウォトゥオスは噛みついたヤブキチの手脚を食い千切り、ついでに血を啜って回復を図る。
「ぐぁあアあ゛ッ──なァにしやがんでいッ!! こんにゃろうッ!!」
千切り取られたヤブキチの手脚の付け根からは血の代わりに黒い粘液が溢れ出し、その粘液は瞬く間にヤブキチの手脚と同程度の長さと太さの黒蛇に変化し、千切れた手脚の代わりを務め始めた。
一方でヤブキチの血を啜ったウォトゥオスは──
「うッ……!? なんだこの血は!? マズ過ぎる……!」
不死の呪いに穢されたヤブキチの血を啜った影響で両腕の蛇竜が苦しみ始め、肉体再生能力も格段に鈍り動きが止まってしまった。
「勝手に血ィ飲んどいてなんでいその言い草は!」
憤慨したヤブキチは右腕の黒蛇を伸ばし、床に落とした【弐之太刀不知】を拾うとウォトゥオス目掛けて渾身の力で振り下ろした。
「はッ!? ──……んなァッ!?」
力の源である心臓を守るため咄嗟に小さく左に跳んだウォトゥオスは縦に真っ二つにはされなかったものの、右半身の殆どを切り落とされて尻もちをつき、傷口からはヤブキチの血で汚染された黒ずんだ血がドロリと流れ落ちた。
「今だッ! 死ねオラァッ!!」
完全に動きが止まった瞬間を見逃さずイルネスはミスリルの矢を放ち、ウォトゥオスの心臓を穿った。
「あ゛ッ……クソォッ──「〈屠絲魘縛〉ッ!!」──うわぁあああ!!」
「カッ……ギシャ────……」
致命傷を負い悪あがきをしようとしたウォトゥオスの左腕の蛇竜が暴れ出しかけた瞬間、蛇竜はレイメイが巻き付けたミスリル糸によってバラバラに切り刻まれ、青白い炎に包まれ灰の山と化した。
「──制限装置20%解除! 発射ッ!!」
「ギギッ……!」
残る右腕の蛇竜は『異端のアンジェラ』の杭打機に大穴を穿たれ、本体から切り離されている事もありそのまま床に横たわり沈黙した。
「あ……あ……『導師ゲダ』よ! どうかお出で下さい!!」
心臓と両腕の蛇竜を破壊され、己の逃れられない死を悟ったウォトゥオスの黒く濁った血溜まりが床に根を張るかのように不自然に広がり、その場に居合わせた全員が不穏な何かを感じた。
しかし──……
「──レイメイは物陰に隠れていなさい!
〈太陽帝〉!!」
いつの間にか頭頂部に短艇の飾りの付いたハヤブサ鳥人の黄金髑髏を被ったアリエラが術名を唱えると、髑髏の眼窩に赫い光が灯りアリエラの魔力は純白の閃光と化し、ウォトゥオスと血溜まりに照射された。
「ギャアァア゛アッ!」
照らされたウォトゥオス青白い炎を上げて朽ちていき、何かを発動しようとしていた血溜まりも蒸発した。
「東方や南東を旅する中で何度か『竜の血族』絡みらしき敵に出くわしたのだけれど……『竜血のエルトート』とやらが関わっていたの?」
放置するには危険だが、口の軽いウォトゥオスに期待してアリエラは最後の尋問を始める。
「そうとも゛! エル゛……トート様はッ強き眷属を゛欲しておら゛れる゛ッ……アガガッ……イベアスとカメリアを゛勧誘出来なかったの゛は残念だが、『爆心地のアリエラ』! キサマ゛はあの御方の獲物だ……! もう逃げ……られ──……」
そこまで言うとウォトゥオスは完全に燃え尽き、灰の山となってしまった。
「“あの御方”……? 妙な言い回しね……結局肝心な部分は訊けなかったわ……」
「『導師ゲダ』でもエルトート様とやらでもなく、“あの御方”呼びって事は別の『指輪付き』に狙われてんのか?
アンタも大変──……ってオレのミスリル矢が融けちまってるじゃねぇか!!」
ウォトゥオスの最後の言葉に引っかかるものを感じながらイルネスが矢を回収しに近付くと、アリエラの〈太陽帝〉が放った光熱によって融解したミスリル矢だった物が灰の山から姿を現した。
「あちゃー……こりゃあもう機能せんなァ……」
アクオグがまだ高熱のミスリルの塊を平然とつまんで鑑定し、首を横に振る。
「おいマジかよ! 高価かったんだぞコレ! 弁償してもらうからな!!」
お気に入りの矢を破損させられ憤慨したイルネスがアリエラに詰め寄り始めた。
「う……新しいのを無償で造ってあげるからそれで勘弁して頂戴……」
この後アリエラは鍛治師組合に加入、アクオグとウストクヴにも協力を要請し、イルネスに新たなミスリル矢を造ってやる事となった。
こだわりにこだわった結果、魔術で作業工程を短縮して尚、矢の完成には三日かかった。
◇
矢が完成した更に翌日、南方大陸に向かう事に決めた『パリピ☆愚連隊』はギルド総本部の出入り口にカメリアとダチュラと共に集まっていた。
「カメリー本当にいっしょに来ないの〜……?」
冒険者ギルド総本部の上部出入り口の淵に立つ『パリピ☆愚連隊』の三人と少し距離を取るカメリアとダチュラをピチカは寂しげに見つめた。
「まあ部外者のボクがいたら話しにくい事もあるだろうしねぇ……それにマスター・イベアスがせっかく増えた特級冒険者が一人減ってしまって落ち込んでるから最古参のボクが励ましてあげなきゃね。
なかなか楽しい旅だったよ。機会があったらまた一緒に冒険しようじゃないか。
なんたってボクたちには寿命の概念が無いからね……死ななきゃチャンスはまた来るさ」
「んぇ? 寿命……? 何の話?」
「あれ? 知らない? 一度でも『女神の器』になったら老化しなくなるんだよ。
ピチカくんってあんまり信仰心厚く無さそうだから、てっきりそれ目当てで聖女やってたのかと……」
「知らない! ……じゃあアーちゃんも?」
「そうですね。普通に生きていればアリエラさんの年齢は──「 レ イ メ イ ? 」──……」
アリエラに阻まれレイメイは口を閉ざした。
「ンフフっ……そしてレイメイくんは多分……キョンシーあたりかな? 吸血とかしていたし寿命の概念からは縁遠そうだね」
「…………」
アリエラからの威圧が止んでもレイメイは口を閉ざし続けた。
「んまぁ……長生きできるならいいかぁ!
あ、そうだ! カメリー見て見て! あーしもカメラ買ったんだ☆ しかもその場ですぐに現像できるヤツなんだよ☆」
自分の不老化については前向きにとらえたピチカは寿命の話を切り上げ、【楽々御粧し】を使いやや縦長でショッキングピンクのカメラを取り出して見せた。
「おぉ〜……! 一枚撮って見せておくれよ!」
「いいよー☆ まずはカメリーとダチュラから撮るね!」
ピチカの構えたカメラからパシャリと軽い音がすると、カメラの下部からツヤのある黒い紙がゆっくりと排出された。
「……? 真っ黒じゃない」
「ちょっと時間がかかるんだよ〜待つ時間がオツなもんなんじゃん?」
「北西大陸の横流し品ですか?」
「横流しって……輸入品だよ輸入品!
セルフタイマー機能も付いてるんだよ☆
カメリーが最初にも撮ってくれたけど今度はカメリーとダチュラの身体も入れてみんなで撮ろうよ!」
ピチカは三脚にカメラを設置して、全員に一ヶ所に集まるように促した。
「いいね。おいでダチュラ」
「ブルルルッ……」
「じゃあセットするよー! 10秒ね!」
「ピチカ ちゃんと目を開けて写って頂戴ね?」
「一枚しか撮りませんからね」
「わかってるって! はいポーズ☆」
この時撮った写真のピチカは目を閉じない事を意識し過ぎて異様に目を見開いていた。
「ンフフっ……では良き旅を」
「ヒィ〜ヒヒヒヒヒヒン!!」
微笑むカメリアと嘶くダチュラに見送られ、一行は南方大陸に向かって旅立つのであった。
◇カメリア
中性的な顔立ちで金髪ポニーテールに緑基調の騎士装束の首無し妖精(エルフ)の特級冒険者。
本名『椿爵家の二輪目・カメリア』享年224。
二つ名は『首愛でるカメリア』
自らのスタイルに絶対の自信があり、様々な美女や美少女の顔写真との合成写真を作成するのが趣味。
世界樹に咲いた椿の花から生まれた貴種森妖精であったが、戦場に出た際何者かに愛馬のダチュラごと斬首されデュラハンとなった。
その後は元々家の者とは折り合いが良くなかったため、ダチュラを連れて出奔し、冒険者ギルド創設に関わっている。




