第四十三話 場外
登場人物紹介
◇アリエラ
主人公。魔王軍四天王最強の怪力と頭脳を持つ紅一点。
『殲滅女帝』の二つ名を持つ。
褐色肌にボブカットの黒髪、猫のような紅い瞳、獅子の耳と尻尾が特徴の獣人。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者としての二つ名は『爆心地のアリエラ』
今回闘技場で闘うために闘技場ギルドにも加入した。
◇ピチカ
蒼い髪と瞳にギザ歯が特徴のアクセサリー付けすぎなギャルっぽいハーピィ。
異世界転生者。チートスキル『楽々御粧し』の使い手。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』の一応リーダー。
一級冒険者。
出場する気は全く無いがノリで闘技場ギルドに加入した。
今回は出番無し。
◇レイメイ
魔王直属暗殺部隊『五毒姫』の末妹。
白い長髪と肌に鬼灯のように赤い瞳と愛嬌紅が特徴。
魔王特製の最上級キョンシー(札は丹田に貼っている)。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者としての二つ名は『毒蛇姫レイメイ』
闘技場ギルド未加入。
今回は出番無し。
◇フィアラル
金髪金瞳に黄金比の肉体美を持つ巨人の特級冒険者。
二つ名は『黄金のフィアラル』
〈太陽帝〉の触媒たる黄金髑髏を賭けてアリエラと試合をする事に。
闘技場ギルドの特級闘士でもある。
「ガァああ゛ッ!!」
「ギェ え え え゛ッ!? ぐゥっ……」
見えない力で引き摺り込まれたフィアラルの鳩尾にアリエラの巨獣化した右拳がめり込む。
通常ならば殴り飛ばされていたであろうフィアラルの身体はアリエラの拳に吸い付いたまま離れず、後ろに跳んで衝撃を和らげる事もできず、フィアラルはなんとか嘔吐を堪えた。
「さすがに頑丈ね……」
「ん゛〜……引力か……自己時間操作に比べると、切り札としちゃあ地味だ……なッ!!」
フィアラルが吸い付く拳を無理矢理引き剥がしながら蹴りを放つ。
「──それはどうかしら」
アリエラは蹴りに対して左手を斜めに下げ、その下げた左手に魔力を集中し、再びフィアラルの身体全体を引き寄せる。
「チッ……! また──……ギェええ゛ッ……!!」
アリエラの左手の引力に引っ張られて想定よりも深く蹴り込み過ぎたフィアラルの丹田に、アリエラの〈麒麟震天脚〉で威力が増した強烈な拳撃が突き刺さった。
「東方武術の使い手なら丹田は効くでしょう?」
「まだまだ軽ぃぜッ! キェええぇえッ!!」
力を込めた一撃が引力で逸らされるのならば、逸らしても逸らし切れない程の連撃を浴びせようと再び〈八面六臂鬼門阿修羅拳〉を繰り出したフィアラルだったが、そう上手く事が運びはしなかった。
時間にして1秒にも満たず、距離にして数cmにも達しない僅かな時間と距離であったが、その僅かなズレによる隙をアリエラに的確に突かれフィアラルの動きは精彩を欠いていく。
しかも攻撃にフィアラルの身体が引き寄せられる事で、全ての打撃が強制的にカウンター状態となり、着実にダメージが蓄積していった。
膝を突く事無く果敢に闘うものの、まるで見えない糸で操られて自ら攻撃に当たりに行っているように見えるフィアラルに客席は俄かに色めき立つ。
魔力による身体能力強化があるとはいえ、倍以上の体格の男を女が接近戦で圧倒する光景は滅多にお目にかかれるものではない。
「(何を盛り上がってやがる観客共ォ! まるでこの俺が格闘で圧倒されてるみてぇによォ!! ふざけやがって!)
……スゥ────……ギ ィ゛ エ゛ エ゛ エ゛ エ゛ え゛ ぇ゛ え゛ ぃ゛ ッ ! ! !」
深呼吸をしたフィアラルは筋肉を隆起させると同時に全身を覆っていた黄金の魔力が爆発的に拡がり、アリエラから発生している引力圏から一旦脱出し、闘技場の壁や結界を縦横無尽に跳ね回りつつ両腕を広げて多少引力でずらされようが関係ない大振りの攻撃を繰り出した。
「フフフ……さっきまでと状況が逆転したわね……」
「いつまでそうやって笑ってられるかなァ!?
──〈風葬鷲〉ッ!!」
〈風葬鷲〉とアリエラの引力を利用して威力を増した突撃は直撃せずともアリエラの体力を徐々に奪って行き、黄金の旋風によって不可視だった〈大地帝〉の引力が可視化された事により、フィアラルはズレを修正しながら攻撃を直撃させ始めた。
「ケェーケケケケケッ! もうこの闘技場の風は完全に俺の支配下に入ったッ! 〈暴嵐帝〉を使っても無駄だぜ!!
〈天導帝〉の時間操作はもう見切ったッ!
そしてェ!! この〈大地帝〉の引力にも慣れてきた! とっとと降参した方が恥かかずに済むぜェ〜!?」
黄金の旋風を纏い、壁や結界障壁どころか空気を蹴って変則的な動きで攻めるフィアラルは勝利を確信したのか、はたまた挑発して更なる隙を生み出したいのか自らの優位性を誇示しながら攻勢を強める。
しかし──……
「慣れてきたですって? ……少し早計なのではなくて?
この〈大地帝〉の本領はこれから──……よッ!!!」
そう言いながらアリエラが力強く踏み込むと、黄金の魔力が電流のような性質となり結界内の地面を駆け巡る。
「……!? (電撃!? いや痺れや不随意運動は無──……なんだァ!?)」
黄金の電撃らしきものに接触した次の瞬間、身体が地面に強烈に引き寄せられ、フィアラルは辛うじて膝を折る事無く前屈みになって堪えた。
堪えている間にも地面とフィアラルの間には絶え間無く黄金の電流が流れ続け、徐々に地面から発せられる引力も強力になっていった。
「これでダメ押しよ!!」
隙を見つけたアリエラは懐に潜り込むと、頭部を覆っているサイ獣人の黄金髑髏のツノを前屈みになっているフィアラルの鳩尾に突き刺すべく振り上げる。
「キェエエエ!! 舐めるなよォオ!!」
引力で自由が効かないながらもフィアラルは黄金髑髏のツノを掴み攻撃を防いだ。
常人ならば指一本動かせなくなる引力のかかったフィアラルが更に力を入れて地面を押した事により、闘技場はメキメキと嫌な音を立てて軋み始めた。
「……このままでは保たなさそうね……闘技場ではお互いに本気を出し辛いようだし……続きは外でやりましょう?」
「? 何言っ──……
って
え゛
エ
エ゛!?」
何かを突き破った感覚と破裂音を認識した頃、フィアラルは遥か上空まで飛んでいた。
お互いに闘技場を壊さない範囲での全力で拮抗していた所を突如アリエラが〈大地帝〉の引力を全て解除し、引力に抵抗するために踏ん張っていたフィアラルは引っ張る力が消えた反動とアリエラの突き上げによって超音速で真上に投げ飛ばされたのだ。
◇
「〜♪」「フンフフーン♪」
重力圏と宇宙の境目──……。
ピチカの幼馴染であるペネロペとラナ含む『風の聖女』たちは今日も様々な風を発生させながら踊っていた。
そんな地上の生物は基本的に到達困難な領域だが、本日は珍しく地上からの訪問者が一人──……
「ク
ソ
が
あ
あ
ァ
ア゛ッ!!!」
「なにナニ何!?」
「巨人!?」
アリエラに投げ飛ばされたフィアラルである。
フィアラルはそのまま止まる事無く重力圏を離れ、『風の聖女』たちの視界からも遠ざかり宇宙まで飛んで行った。
ペネロペ・ラナ・それ以外の『風の聖女』たちも、激昂している様子ではあったが稀代の美丈夫であるフィアラルについて話しながら踊りを再開し始める。
「びっくりした〜……なんかヤバそうな人だったけどめっちゃイケメンだったね!」
「マジで!? ちゃんと見とけば──……ギャヒー!? 今度はナニ!?」
今度は地上から宇宙へ向かって駆け上る黄金の雷が『風の聖女』たちの近くで轟き、フィアラルの身体を地上へと引っ張り落とす。
「上等だァ ア ア ア ア ァア゛!! バラバラにしてブチ撒いてやるッ!!!
〈風葬鷲〉ッ! 〈八面六臂鬼門阿修羅拳〉ッ!!
ギィ え エ ぇ エ゛ い イ ィ ッヤ゛ぁア ア ア゛ !!!」
投げ飛ばされた事に怒り狂ったフィアラルは目を血走らせ歯茎を剥き出しにし、黄金の暴風を纏い手足と頭を引っ切り無しに躍動させながら地上に戻って行った。
「ペネロペ趣味悪っ……」
「さっきまではホントにイケメンだったんだって!」
◇
「戻って来たわね──……アナタの場外負けという事でよろしくて?」
闘技場から離れ、草原と岩場しかない広大な無人島群に移動したアリエラは〈大地帝〉の引力で宇宙から引っ張り戻したフィアラルが黄金の嵐と化して落下して来る様を目視すると、引力を解除して迎え討つ体勢を整える。
「よろしくねェよ!! カブトムシのケンカじゃねぇんだぞ!? キぇエッ!!!」
怒り狂ったフィアラルは闘技場で放っていれば観客の巻き添えは免れなかったであろう勢いの黄金の風を纏った手足を振り回し、あっという間に周囲の地面や岩場が削られ地形が変化していく。
「冗談よ。さっきも言ったけれど……お互い闘技場では本気を出せないでしょう?
──“糧の山嶺”…………」
詠唱開始と共にアリエラから発せられる引力が一層強まり、フィアラルの削り飛ばした土砂や岩石がアリエラの全身を繭のように包んだ。
「(触媒付きの詠唱……! マジで殺りにきたか! そうでなくちゃな!!)
ケーッケケケケケ! 自分で動き封じてどうしよってんだ!?」
危機感と高揚感を抱いたフィアラルはアリエラを挑発しつつ岩石の繭を攻撃するが、削った端から新たな土砂や岩石が吸い寄せられ、なかなか本体まで辿り着けない。
「──“肥沃の地平”…………」
詠唱が二節目に入ると、岩石の繭に歪な手足のようなものが形成され、大雑把な叩きつけでフィアラルを攻撃し始めた。
「ケッ……! 引力が無けりゃこんなモン捌くのなんてワケねぇってのによォ……!」
手足を形成しながらも、しっかり引き寄せてくる不恰好な石人形に悪態をつきながら攻防を繰り広げる。
「──“飢えの亀裂、火の退き口”…………」
僅かにフィアラルの攻撃が上回っていたが、三節目の詠唱によって更に強まる引力によって次々と足場がアリエラに吸収されて行き、かと言って跳躍すれば踏ん張りが効かずに引き寄せられてしまうため、フィアラルはその場で防御に徹する事を余儀なくされた。
「スゥ──……〈絶招・混天曼陀羅〉……!」
進退窮まったフィアラルが両の手掌から氣を乱放射しながら円の軌道を描く──空手で言うところの“回し受け”……この円の動きを〈八面六臂鬼門阿修羅拳〉の超高速で行い、アリエラの引力場を乱して足場を確保しつつ石人形の直接攻撃も捌き切った。
「(この段階に入った〈大地帝〉の引力に抗うなんて……! フフ……どこまで耐えられるかしらね)
──“嘲る葬列”…………」
四節目の詠唱で人形を形成していた岩石・土砂・海水までもが圧縮され、歪な二足歩行だった石人形の肢体はしなやかに洗練されていき、胸部の双丘・やや太い尻尾・サイのような頭部など内部のアリエラをそのまま約十倍ほど巨大化させたような美しい漆黒の石像となった。
「(そろそろ厳しくなってきたな……心臓が弱点である事に賭けて大技でブチ抜くしかねぇな!)
カハアァ──……〈絶招・風火穿天脚〉ッ!!」
覚悟を決めたフィアラルは〈大地帝〉の引力に乗って跳躍し、渾身の蹴りを放った。
絶招(奥義)などと言うにはあまりにも単純な攻撃──……だがしかし、伝説の殺人拳〈八面六臂鬼門阿修羅拳〉の超人的な動きを可能にする超人的な脚による渾身の蹴りである。
弱いワケが無い。
常軌を逸した高密度のアリエラの石像の胸部をフィアラルの飛び蹴りが穿ち抜き、狙い通りに内部に収まっていた石の繭を石像の外に蹴り出す事に成功した。
(この段階の装甲を貫いた……! でも──)
「俺の! 勝ちだァ──……あン?」
勝利を確信したフィアラルが石の繭を殴り壊すと……その中は空洞であった。
「──“其は万象の捕縛者”
──〈大地帝〉!!」
詠唱を完了すると、石像の腰辺りから突き出たアリエラの右手から黄金の魔力球が射出され、背を見せていたフィアラルに直撃した。
「しまっ──……ギ……ェえ エ え゛……!?」
咄嗟に振り返り反撃しようとしたフィアラルであったが、付与されたアリエラの魔力の発する引力によって強制的に身体を丸め込まれてしまい、身動き一つ取れなくなった。
「そのままのアナタでは脱出不可能よ。
死んでしまう前に降参するか……全力を出して頂戴。そのために場所を移したのだから」
言いながらアリエラはフィアラルと一体化した魔力球を上空に浮遊させると、足場として残す地面を除く周囲の無人島や海水が引き寄せられ、球体状にフィアラルの周囲を覆い始める。
更にアリエラが右手で握りつぶすような動作を取ると、周囲数kmの無人島や海水を圧縮した球体は直径数十mにまで収縮し、蒸気を纏う小さな灼熱の天体と化した。
……当然このような事をされた場合大抵の生物は原型を留める事なく死んでしまうが、フィアラルは天体の中心で生きていた。
(あの口振り……もうバレてるな……ならもう隠したってしょうがねぇな!!)
覚悟を決めたフィアラルは敢えて引力に身を任せて限界まで身体を丸め、それに合わせて一瞬にも満たぬ内に精神を集中させ魔力を全身に巡らせる。
(──来る!)
アリエラは天体の中心に捉えていたフィアラルの気配が凪いだ事を感知した。
「──〈頂の雄鶏〉ッ!!」
その術の名を叫ぶと共にフィアラルは全身のバネを躍動させ、天体を形成する引力などまるで無いものかのように勢いよく背筋を伸ばし手足を広げる。
同時に魔力を全身から放射すると天体は内側から弾け飛び、フィアラルの体内に付与されていた魔力球は強制排出された。
(やはりアナタだったのね……『マスクド・ヴィゾフニル』……! 素顔を見るのは初めてだわ)
「キェ────エエェエィッ!!!」
フィアラル改め、“魔王軍最強の格闘士にして四天王の一角”──……
『格闘覇王マスクド・ヴィゾフニル』が飛び散る岩石を足場に飛び回り、アリエラに襲いかかって来た。
◇〈大地帝〉
アリエラの一族相伝魔術の一つ。
魔力を黄金の電流のように変質させて引力を操作できるようになる。
触媒となるサイ獣人の黄金髑髏は、アリエラの一族と敵対していた一族の長であった。




