第四十二話 『爆心地のアリエラ』対『黄金のフィアラル』
登場人物紹介
◇アリエラ
主人公。魔王軍四天王最強の怪力と頭脳を持つ紅一点。
『殲滅女帝』の二つ名を持つ。
褐色肌にボブカットの黒髪、猫のような紅い瞳、獅子の耳と尻尾が特徴の獣人。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者としての二つ名は『爆心地のアリエラ』
待ち合わせには時間通りに来るタイプ。
◇ピチカ
蒼い髪と瞳にギザ歯が特徴のアクセサリー付けすぎなギャルっぽいハーピィ。
異世界転生者。チートスキル『楽々御粧し』の使い手。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』の一応リーダー。
一級冒険者。
待ち合わせには時間ギリギリに来がち。
◇レイメイ
魔王直属暗殺部隊『五毒姫』の末妹。
白い長髪と肌に鬼灯のように赤い瞳と愛嬌紅が特徴。
魔王特製の最上級キョンシー(札は丹田に貼っている)。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者としての二つ名は『毒蛇姫レイメイ』
待ち合わせには予定より早く行っておきたいタイプ。
◇フィアラル
金髪金瞳に黄金比の肉体美を持つ巨人の特級冒険者。
二つ名は『黄金のフィアラル』
〈太陽帝〉の触媒たる黄金髑髏を賭けてアリエラと試合をする事に。
待ち合わせには平気で遅刻して来る。
◇
『本日組合連合総本部にお集まりの幸運な皆様! 両闘士の入場です!!』
闘技場ギルド総本部の屋上に建設された、すり鉢状の立派な闘技場には満員の客が押し寄せ、特級冒険者同士の闘いという滅多にお目にかかれない一戦に期待を膨らませている。
『まずは史上最短で特級冒険者に昇格した期待の新星ッ!!
二つ名の通り此処に来るまでに特級案件を二件も爆破してきた──……
『爆心地のアリエラ』だーッ!!』
「「「うぉおオオォ!!」」」
闘技場ギルドの司会の男に紹介され、先にアリエラが背後に三つの黄金髑髏を念動力で浮遊させながら入場して来た。
露出度がそれなりに高い女剣闘士衣装のアリエラに観客の男性陣から歓声が上がる。
『対するは豪傑数多のゴロツキ共を素手で薙ぎ倒し、史上二番目の早さで特級に昇格したこの男ォ!!
二つ名通りの黄金比の肉体には最早嫉妬する気も失せる──……
『黄金のフィアラル』だーッ!!』
「「「キャ────────ッ♡」」」
首飾りを外して完全に上裸になった『黄金のフィアラル』が入場すると、アリエラへの歓声をかき消す程の黄色い声が女性陣から上がった。
「いいかね? あくまでも試合だから決して相手の命を奪うような真似はしないように!」
お互い適度に歓声に応えながらも、冒険者ギルドマスター・『大叫竜イベアス』の元にアリエラとフィアラルが歩み寄り、砂の敷かれた闘技場の中央で睨み合う。
「もちろん。命までは取りませんから心配ありませんことよ。特級冒険者としては再起不能になってしまうかもしれませんけれど……ね?」
アリエラはイベアスに返事はしつつも、フィアラルに挑発的な笑みを向ける。
「ケッ……まあ今回負けても気を落とさずに何度でも再挑戦してくれよな!」
対するフィアラルも自分が勝つ事を前提にアリエラを励まして挑発した。
「全く……初対面で何故こうも喧嘩腰なのか……この闘技場が壊れそうになったら強制終了だからな!!」
念入りに注意をしながらイベアスが専用の大きな出入り口から退出すると、闘技場は二人の放つ魔力がぶつかり合い、ジリジリと音が鳴り大気が震え始める。
そんな二人の闘いの巻き添えを防ぐために客席と闘技場を隔てるドーム状の結界が展開され、すぐさま不可視化して試合開始の準備が整った。
『さあ! 準備が整ったので早速ゥ〜……試合開始ィ!!』
「ガァアアアア゛あああああ゛ッ!!!」
「キェエエエエエええええ゛ィッ!!!」
試合の開始宣言と共にアリエラは狂獣化した上で右腕を巨大化させて殴りかかり、フィアラルも甲高い奇声を発しつつ大振りだが目にも止まらぬ速度で拳をぶつけて応戦、衝撃で足場に敷かれた砂が巻き上がる。
「……!(強い……! 狂獣化でのゴリ押しだけでは手に余りそうね……)
……スゥ────ッ……フンッ!!」
一方的に殴り飛ばすつもりが、衝撃でお互いに後退してしまい僅かに驚愕したアリエラだったが、すぐに冷静になり渾身の〈麒麟震天脚〉を発動。
都市を揺るがす程の威力の震脚は想定外だったのか、闘技場の結界は振動を遮断し切れず、客席も僅かながらに揺れ観衆はどよめいた。
そのままアリエラは闘技場を揺るがしながらフィアラルに近付き、魔力を手先に集中させ、東方大陸はウーヴ皇国で『西方公ワン・ソンミン』より伝授された〈白虎金剛手〉を発動。
アリエラが凶器と化した両手を振るう風切り音と、それを防御するフィアラルの腕がぶつかり合い、生身同士とは思えない硬質な衝撃音が客席にまで届いた。
「ウーヴ皇国の五大武術か……よほどの達人に師事したようだな……いいぜ! 俺も東方大陸の武術で相手してやるッ!!
キ ィ エ エ エ゛ エ エ エ エ エ エ エ エ エ エ゛ エ ッ ! ! !」
観客全員が耳を抑える程の大きな奇声をフィアラルが上げるとその美しい顔は醜く歪み、頭と両腕を忙しなく振り回し始め、アリエラに四方八方から襲い掛かる。
「うっ……!?
(狂戦士化!? ──いや違う! むしろ攻撃が正確になっている!!)」
攻守は逆転し、防戦一方となったアリエラがなんとか反撃に移ろうとすれば、フィアラルは僅かな隙を的確に突いて防ぎつつ攻撃を激しく続けた。
「くっ……!」
「キィえ え え゛ ! ! !」
負けじと攻勢を強めるアリエラに呼応するようにフィアラルの動きも激しさを増し、両腕と頭が増えたように見える程の速度に達した。
────────
一方、客席では黄色い歓声を上げていた女性陣はフィアラルの奇怪な闘いぶりを観て小さな悲鳴を上げ、男性陣もアリエラに邪な視線を送るのを止めどよめいていた。
そんな中でも二階から突き出した貴賓席で観戦していた特級冒険者とそのチームメンバーたちは二人の闘いを分析し、酒の肴や賭けの対象にして楽しんでいた。
「すげえ四股踏みだな……!
敬意を込めて『アリエラ関』と呼ばせて貰う事にするぜ」
レイメイの隣の席に座る『超角力士リッキー』は結界を貫通して客席を揺らすアリエラの〈麒麟震天脚〉に感動したようだ。
「アレは四股踏みじゃなくて震脚ですけど……。
──いや、それよりフィアラルさんのアレはまさか……〈八面六臂鬼門阿修羅拳〉……!?」
「ナニソレ?」
「ピチカさん知らないんですか!? 伝説の殺人拳ですよ?」
「あーしそんな殺人拳にくわしそうかなぁ!?」
「グヘヘっ! まあ若いコは知らなくても無理ねえわな。おぃらだって実際に使い手を見るのは初めてだぁよ」
酒を呑むのを一旦中止した『〈五龍仙酔拳〉のヤンロン』は興味深気にフィアラルの闘いぶりを眺めている。
「兄弟が言うには山で突然襲いかかってきたジジイと戦った時に習得したらしい。スモウも強いし、兄弟分として鼻が高いぜェ」
「ほーん……まだ継承者がいたんだなぁ……」
そんな話をしている間にもアリエラはジリジリと追い詰められ続け、気付けばフィアラルが一方的な連撃を叩き込んでいた。
「てかアーちゃん押されてる! ヤバイよ!」
「格闘では少々分が悪いみたいですね……」
────────
「…………認めるわ。“格闘”では貴方が上と……けれど“戦闘”ではワタクシが上よ!
──〈暴嵐帝〉ッ!!」
アリエラが背後に浮遊している牙の生えたツチブタ獣人の黄金髑髏を頭に被ると、青紫に変質した魔力が雷を伴う竜巻となりフィアラルの拳撃を弾いた。
「キェえ え゛ え!? ──やるな! だが嵐を起こす程度の事、俺もできるぜぇ!
──〈風葬鷲〉ッ!!」
弾かれたフィアラルは奇声と〈八面六臂鬼門阿修羅拳〉を止めて元の美丈夫に戻り、技名の発声と共に全身に纏う黄金の魔力が旋風と化して〈暴嵐帝〉の嵐と衝突した。
フィアラルの一挙手一投足ごとに黄金の風撃が伴い、舞うような華麗な動きでアリエラの展開する嵐の勢いを弱めて行く。
単純な風力では〈暴嵐帝〉が有利なものの、先程アリエラも認めた通り格闘において有利なフィアラルは自らの起こした旋風でアリエラの優位性を削り、再び格闘戦に持ち込み追い詰め始めた。
「(〈風葬鷲〉……!? 確か魔王陛下が考案中の術の名前のハズ……! 偶然の一致? この男まさか……!)
──〈天導帝〉ッ!!」
聴き覚えのある名前の技を使うフィアラルに対し、アリエラは“殺さない範囲での本気”から“最悪の場合殺しも視野に入れた本気”に切り替え、自らの従弟であるハヤブサ鳥人の黄金髑髏を被り自己時間を加速。
頭上の二つの魔力球の回転速度に比例し、アリエラの動きは視認が困難な程に加速、ほとんどの観客には闘技場の結界内を乱反射する光線のようにしか見えなくなった。
「チィッ……! キィ エ゛ エ エ ! ! !
(自己時間操作か! 小賢しい……! だが時間魔法なんてバカみてぇに魔力消費するだろ! 俺を仕止めるまで保つかな……!?)」
フィアラルは再び奇声を発して〈八面六臂鬼門阿修羅拳〉を使い、外見とは裏腹に極めて冷静に時間加速したアリエラの攻撃に対処──あまつさえカウンターまで試み始め、最初は当たっていたアリエラの攻撃も徐々に胴体や頭への直撃はしなくなっていった。
(時間加速したワタクシの動きに対応するなんてこの男やはり──……!?)
「──見切ったァ!!」
アリエラが確信を抱いたその瞬間、フィアラルの拳が飛びかかっていたアリエラの顔面を完全に捉え、最早回避不能な距離まで迫る。
(くッ……! 止まれッ!)
「キェ エ エ エ──……えェ!?」
致命的な一撃を確信していたフィアラルのみならず、二人の異次元の闘いに圧倒されていた観客たちも奇怪な光景にどよめいた。
何故ならフィアラルの渾身の一撃が当たったというのにも関わらずアリエラには一切の痛痒も与えられなかったから……──ではなく、アリエラの身体が空中でフィアラルに飛びかかる体勢のまま魔力球の回転と共に完全に停止していたからである。
────────
闘技場ギルドの塔の外側に備え付けられた専用のハシゴを上って来た冒険者ギルドマスター・イベアスが特注椅子に着席し、特級冒険者全員が揃った貴賓席で賭けの対象として見ていた特級冒険者たちもアリエラの度重なる魔力の変質や、時間操作魔法という珍しい現象に見入っていた。
「何アレ!?」
「〈天導帝〉の効果で自己時間を完全停止して攻撃を防いだようですね……時間が動かなければダメージを与える事もできませんからね……」
「無敵じゃん!」
「そうでもないですよ……相手の身体能力からすれば動き出した瞬間に全方位どこからでも攻撃し放題でしょうし……」
「あの術って加速以外にも色々できるんだねぇ……リスク付きとはいえ実質絶対防御……ボクが直接斬っても傷一つ付けられないだろうね……」
「アリエラ君が魔術師ギルドに引き抜かれてしまわないだろうか……心配だ……。
ピチカ君ッ! アリエラ君は何か言っていなかったかね!?」
イベアスは戦闘の行く末よりも、アリエラの身の振り方が気がかりのようだ。
「ギャヒッ!? あー……アーちゃんは冒険者ギルドと芸能ギルドが便利だから入ってるだけなんで魔術師ギルドとかは大丈夫かな〜って……」
「そうかそうか……それは安心──」
「鍛冶師ギルドは勧誘する気マンマンじゃろうがのぅ! ワシらがアリエラ嬢の事を伝えておいたからな!」
「アクオグ君ッ! ウストクヴ君ッ! なんて事を!」
「あの腕前は鍛冶師としても活動させにゃ勿体ないぞい!」
「そうだぞマスター……芸能活動はあまりやっていないようだし実質的に冒険者ギルドが独占するのはズルいぞ……!」
「……アリエラさんの所属については後にして試合観戦に集中しませんか? そろそろ動き出す頃じゃないかと……」
レイメイが結界内を指すと、フィアラルが空中で完全に停止しているアリエラの右脇腹目掛けて正拳突きを放つ準備をして力を溜めていた。
───────
(時間停止っつっても魔力は消費し続けるはずだろ?
少しでも動き始めた瞬間胴体ブチ抜いて俺の勝ちだ……!)
アリエラだけでなくフィアラルも停止し、闘技場は静寂に包まれた。
「「「「「………………!」」」」」
そう長い時間ではなかったが、倍以上もある体格差の事もあり、「二人が次に動き出した瞬間惨劇が起きるのではないか」という緊張感から観客たちは永遠にも思える長い体感時間を固唾を飲んで見守った。
そしてフィアラルの拳に込められた黄金の魔力が臨界点に達しようとしたその時、アリエラの頭上の二つの魔力球が僅かに回転を再開──
「(……──今ッ!!)キェえ゛いッ!!!」
その瞬間を見逃さず、完璧なタイミングで放たれた正拳突きはアリエラの右脇腹にめり込み、容赦なく闘技場の壁にアリエラの身体を叩き付けた。
常人ならば確実に死んでいるであろう衝撃が結界越しにも伝わり、客席からは小さな悲鳴が上がる。
「ガッ……はッ……!(来るとはわかっていたけれどここまでとは……!!)」
この衝撃で右肋骨の殆どと、いくつかの内臓を潰されたアリエラは口の端から血反吐を流しつつ、なんとか立ち上がる。
(あれはマズいな……! 致命傷!! フィアラル君の勝利で試合終了──……ムッ!?)
「ふぅ〜……ワタクシがここまで追い込まれるとはね……」
イベアスが試合終了宣言をしようとした立ち上がって息を吸ったその時、頭上の魔力球が逆回転しアリエラの身体の損傷が修復されていく。吐き出された血も口の中へと逆流して行った。
「(時間逆行まで出来るのか……!)アリエラ君ッ!! まだやれそうかねッ!!?」
「まだも何も本番はこれからでしてよマスター・イベアス
(『黄金のフィアラル』の正体がワタクシの推測通りなら……この術は初見のハズ……!)」
不敵な笑みを浮かべながらイベアスに返事をするアリエラは〈天導帝〉の触媒たる黄金髑髏を外し、背後に浮遊させていた三つの髑髏の内最も大きなサイ獣人の髑髏に頭をすっぽりと収めると、その眼窩に赫い光が灯る。
(このドクロは初めて見るな……)
フィアラルは何が来ても対応できるように半身で構えて両手を前に出し防御姿勢をとった。
「──〈大地帝〉……!」
「うおぉッ!?」
アリエラの魔力が自らと同じ黄金に変質すると、フィアラルの身体は本人の意志とは無関係にアリエラの方へと引っ張り込まれた。
◇〈八面六臂鬼門阿修羅拳〉
東方大陸中原に伝わる伝説の殺人拳。
頭と両腕を激しく動作させ、ほぼ全方位を視界に入れながら攻撃する事で一対一はもちろんのこと多人数戦にも対応した拳法である。
しかし、習得には優れた体格と才能を要するために先細りして行き、時代と共に難易度を落とした別流派に派生して行った。
『五毒姫』の内『食指のスーシャン』と『親指のレイメイ』の使う拳法の源流となった拳法の一つ。




