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第三十六話 下劣な罠

登場人物紹介

◇アリエラ

主人公。魔王軍四天王最強の怪力と頭脳を持つ紅一点。

『殲滅女帝』の二つ名を持つ。

褐色肌にボブカットの黒髪、猫のような紅い瞳、獅子の耳と尻尾が特徴の獣人。

冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。

特級冒険者。

自分が魔王軍である事は隠せていると思っていた。


◇ピチカ

蒼い髪と瞳にギザ歯が特徴のアクセサリー付けすぎなギャルっぽいハーピィ。

異世界転生者。チートスキル『楽々御粧し』の使い手。

冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』の一応リーダー。

一級冒険者。

カメリアにはバレるだろうなと思っていた。


◇レイメイ

魔王直属暗殺部隊『五毒姫』の末妹。

白い長髪と肌に鬼灯のように赤い瞳と愛嬌紅が特徴。

魔王特製の最上級キョンシー(札は丹田に貼っている)。

冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。

特級冒険者。

アリエラがヘマをしても自分のフォローで誤魔化せていると思っていた。


◇カメリア

中性的な顔立ちで金髪ポニーテールに緑基調の騎士装束のデュラハン(エルフ)の特級冒険者。享年224歳。

二つ名は『首愛でるカメリア』

自らのスタイルに絶対の自信があり、様々な美女や美少女の顔写真との合成写真を作成するのが趣味。

幽霊船を撃退したあたりでほぼ気付いていた。


◇ダチュラ

カメリアの愛馬で白い首無し馬。メス。

周囲の会話内容は結構理解している。

最初からカタギじゃないなと思っていた。


「あー……待って待って。別にキミたちが魔王軍だからどうこうしようってワケではないからそんなに警戒しないでおくれよ。

 ダチュラが怖がってるじゃないか〜」

「ヒィ〜ン……」


 『パリピ☆愚連隊』の三人が魔王軍所属であると気付いていたカメリアに対し、アリエラは手にした新月刀(シャムシール)をいつでも振り抜けるよう構え、レイメイは不気味な程に両腕をだらりと下げ気配を消し始めていた。

 ピチカは対応に困り、とりあえず羽根で口元を覆って表情を読まれないように、且つ口を開かない事にした。


「……具体的にアリエラさんのどの言動でそう思ったんですか?」

「ちょっと……何故ワタクシのせいだと決め付けているのかしら」


「まあ確かに結構早い段階でアリエラくんは『殲滅女帝』なんだろうなって思ってたけど……」

「ほらぁ!」

「そんな……!」


「──でもそれが確信に変わったのはレイメイくんの存在が大きいかな」

「なっ……!?」

「レイメイも何かやらかしたようね」


「わ、私が一体何の手がかりを……?」

 レイメイは魔王直属の暗殺部隊である自分が正体を見破られるような無様を晒している事に身体を震わせながら理由をカメリアに尋ねる。


「レイメイくんは……“幽霊屋敷で偶然『ゲダの指』構成員を協力して討伐した流れでチーム入りした”って聞いてるけど、それにしてはアリエラくんの事をもっと前から知っている風な接し方だったから魔王軍関係者なんだろうな……って。

 二人は冒険者登録するより前の情報がほとんど無かったってのも大きいかな。

 ボクの推理によるとアリエラくんが勝手に旅を始めて、レイメイくんが遅れてお供として派遣されて来たって感じかな? ……ピチカくんは偶然気が合ってチームを組んだ流れで魔王軍入りしたのかな?」


 カメリアはよほど自信があるのか、朗々と自らの推理を語った。


「まあそんな感じですね……私は別に派遣されたワケではないですけど……」

「おや……ちょっとハズれたか〜……」 

「間違ってくれているのだからわざわざ訂正しないの。

 ──それで……? カメリアはワタクシたちが魔王軍だとしたらどうしたいの?」


 魔王軍だと分かったところで敵意があるという風でもないカメリアに対し、アリエラとレイメイは構えを解いた。


「? どうこうしようってワケじゃないってば。

 魔王軍の構成員は冒険者に登録できないなんて決まりは無いからね。

 一般人に手を出すつもりも無さそうだし……ただボクの推理が当たってるのか気になってね?

 特級魔窟(ダンジョン)で特級案件任務だからね。気がかりは少しでも無くしておきたくってさ……ボクは推理の正否がわかったし、キミたちは素性隠しに気を遣わなくてもよくなったろう?

 ……変なタイミングで推理を披露しちゃって悪かったね。とにかくボクは魔王軍がどうとか気にして無いから早いとこ『幻獣騎士自由連合』の三人と三頭を見つけてあげようじゃないか」


「そう……ですね。

 じゃあ私が先頭になって索敵と罠の有無を確認しながら進むので皆さんも警戒して続いてください」

「うん。ボクはちょっと内部について知ってるから、その都度説明するね」

「…………あーしもう喋ってもいーい?」


「誰も黙れだなんて言って無いのだけれど……会話の通り、カメリアには隠す必要が無くなったから、気兼ねなく行きましょ。

 ワタクシの石棺(サルコファガス)も邪魔だから【楽々御粧し(ドレスアッパー)】で収納しておいて頂戴」

「え゛? カンオケはオシャレ道具かな……」

「大丈夫大丈夫! ほらボクとダチュラは棺桶引き摺ってる状態でもサマになってるだろう?」


 その後なんとか「棺桶はギリギリオシャレ道具」であるとピチカに認識させ、荷物の大幅な圧縮に成功した一行は初の特級ダンジョンに足を踏み入れた。



 ◇



「──この『ティルイルの昇天宮』は典型的な塔型の人造ダンジョンで……『魔王ティルイル』の仕掛けた罠や改造された幻獣や悪魔がウヨウヨいる恐ろしい場所だよ。

 一気に全階層の説明しても混乱するだろうから、一つ一つ丁寧に攻略して行こうね」


 階段を上ると、そこには背の低い草木が生い茂る見晴らしの良い平原が広がっていた。


…………(トントン)動物の気配は無いですが……すごい数の落とし穴と地雷が仕掛けられてますね」

 先頭のレイメイが周囲を見回しつつ、軽く足踏みをして地面に仕掛けられた罠を看破する。


「早速見破るとはレイメイくん頼もしいね。

 ここは第一階層『罠平原』……名前の通り大量の罠が仕掛けられてるけど……上の階層に比べるとヌルい罠しかないし悪魔も出ないからまだ楽な方だね」

「えっ!? 地雷がヌルい罠扱いなの!?

 あっ、でもこのメンツなら飛べば楽勝か……」


 前世の知識もあり地雷が大した事ない罠のような扱いに驚くピチカだったが、全員が空中を移動する手段を持っている事を思い出し納得した。


「飛ぶにしても低空飛行でね。

 上の方には不可視化した機雷がたくさん浮かんでいるからね」

「ギャヒィ……」

「……地上を確実に進みましょうか──ん? 既に空いている落とし穴が……」


 レイメイが頭をほんの僅かに蛇に変化させ、地面と地面に仕掛けられた地雷や落とし穴の温度差や隠密としての勘を頼りに安全な道筋を探っていると、ぽっかりと大穴の空いた部分を発見した。


「何か液体が溜まっているわね……」

「先行した捜索対象たちが引っかかったんですかね……でも這い上がった痕跡は無いですし落ちはしなかったみたいですね」


 穴の中にはカモフラージュ用に穴の上に被せてあったであろう布や草が、底に溜まった謎のピンク色の液体に浮いている。


「ざっと見回した感じ服の残骸も無いみたいだし罠平原は無事に突破したみたいだね。

 それに落とし穴が空きっぱなしという事は『幻獣騎士自由連合』はまだ全滅してないって事でもあるね。

 このダンジョンは侵入者が全員いなくなるまで罠や悪魔の再配置が行われないハズだから」


「朗報ね」

「ですね。それにしてもこの溜まった液体……薬液ですかね? 見たことない種類ですが……」


 レイメイは毒や薬物を扱う者として未知の薬液らしきものに興味を惹かれて穴の中を覗き込んだ。


「レイメイくん気をつけてね。それ……

 『服 だ け 溶 か す 薬』だから」


「 は ? ? ? 」

「いや、だから『服だけ溶かす薬』だよ。正確には肌を隠せる装備品全般を溶かせるから──」

「ちょっとカメリア。真面目にやって頂戴」


「ボクは真面目だよ!?

 ……他にも周囲に仕掛けられてる地雷や機雷は『服だけ破壊する爆弾』だけど砂煙を巻き上げるくらいの衝撃はあるから気をつけてね!」

「つまりここって……()()()()()()ダンジョン……ってコト!?」


 “旧魔王の造ったダンジョン”……と聞いて身構えていた『パリピ☆愚連隊』の三人は一気に身体から力が抜けていくのを感じた。


「魔王ティルイルって確か……」

「そう。『()()の魔王ティルイル』だよ」

「あ、あーしエロフィギュアみたいな魔王像見た事あるよ。()()()()()()のある所によく飾ってあるよね……」


「なんて下劣な……致死性の罠が無いのなら、三人で一斉に〈麒麟震天脚(きりんしんてんきゃく)〉を使って地面に仕掛けられた罠を一掃してしまいましょう?

 最近鍛錬もしてなかったことだし……」

「たしかに最近〈麒麟震天脚(キリシン)〉やってなかったね〜。んじゃやろっか☆

 揺れるからカメリーとダチュラはちょっと浮いててね〜」


「了解。おいでダチュラ」

 カメリアはダチュラを呼び寄せて騎乗すると空中の機雷に引っかからないギリギリまで浮遊して待機する。


「じゃあいくよ〜……せーのッ!」

 一応はチームリーダーのピチカが掛け声を出して音頭を取ると、三人同時に右脚を上げ──


「「「ふ  ん  ッ  !(ズンッ!!!) ! !」」」 

力強く振り下ろすと地面に埋まっていた地雷が一斉に爆発、凄まじい量と勢いの砂煙が舞い上がり空中浮遊していた機雷も誘爆し、その衝撃で隠されていた落とし穴も全て露わになり第一階層『罠平原』は侵入者撃退能力を喪失したのであった。



「おぉ〜……これで罠を気にせず第二階層に進めるね。行こうか」

 罠を一掃した程度では驚きもしなくなったカメリアは薄めのリアクションをしながら第二階層へ一行を先導した。



 ◇



「さて、お次は第二階層『罠迷宮』だよ。

 さっきの階層と違って肉体に害の及ぶものや閉じ込められるような罠もあるから気をつけてね」


 カメリアの先導で『罠平原』を抜けた先にある階段を上ると、そこは“人工的なダンジョン”と言われるとまず想像するような石壁や石畳に覆われた迷宮であった。


「危険な罠もあるなら壁を破壊して進むのは止した方が良さそうね……」

「そうだね。壁や床には罠のスイッチが隠されているから無闇な破壊行為は──いやそれよりも壁を壊して進もうとすると『壁尻』の罠が発動する場合があるから慎重にね」

「やっぱりそういう路線の罠なんですね……他にはどんな罠があるんですか?」


「さっきの平原にあった罠はもちろんのこと……『感度3000倍になる薬』が塗られた針が飛び出したり……」

「3000倍ですか……!?」

「急に凶悪な罠になるのね……」

(なんか前世(どっか)で聞いたコトある……!)


「後は……恐らくヨハンくんたちが行方不明になった原因だとボクが睨んでいる罠が『交合(セッ◯ス)しないと出られない部屋』……!!

 二人以上で入らないと発動しないらしいから、この階層で小部屋を見つけたらレイメイくんが安全確認するまで入らないようにする事! いいね?」

「うん……なにこのダンジョン……」


「──……よし。この辺りの罠は看破完了ですかね」

 カメリアが注意を促している間にも、レイメイは周囲を入念に調べ罠の位置を特定・解除・分解し、解除が困難な罠は袖の内側に隠していた塗料で目印を付けて実質的に無力化した。


「さすがの手際ね。

 ……閉じ込める罠もあるなら()()の出番かしら……ピチカ! 盾と【全能鍵】を」

了解(りょ)! ホイっと☆」


 要請に応じてピチカが神業(チートスキル)楽々御粧し(ドレスアッパー)】を発動すると、アリエラの左手には立派な鬣を持つ獅子の顔を模った黄金の丸盾(バックラー)が装着され、右手には新月刀(シャムシール)に代わりあらゆる封印・拘束・施錠の類を断ち切る黄金の消防斧型神器(チートアイテム)【全能鍵】が握られた。

 

「【全能鍵】……!? そうか……今はアリエラくんが持ってたんだね。という事は──……(ブツブツ)……」

 見覚えと聞き覚えのあるチートアイテムの登場にカメリアは一瞬驚きを見せたが、何やら納得したような様子で独り言を呟き始めた。


「…………もしかしてカメリアは【全能鍵(コレ)】の元の持ち主と知り合いなのかしら」

 いくら自分たちが魔王軍所属であるという事を気にしていないとは言っても、さすがに知人の仇ともなれば穏やかな感情は抱かないであろうと思ったアリエラは、カメリアから半歩距離を取りバックラーを構える。


「ん? ああ、いやいや知り合いっていうか元の持ち主が賞金首で昔追ってたんだよ。

 十五年前くらいに南方大陸に逃げたって情報を掴んで向かおうとしたら『第二の太陽事件』が起きて行方不明になってたんだけど、アリエラくんがその斧を持ってるって事は……恐らくそういう事だよね?」

「ええ。ワタクシの私物を盗みに寝所に侵入した結果、焼け死んだ……と()()()()()()


「なんだか気になる言い回しだけど……今は追及してる場合じゃないね。

 閉じ込められているかもしれない捜索対象を助け出すのにもってこいの便利なチートアイテムじゃないか!」

「そうね……油断せずに行きましょ。

 レイメイ。引き続きよろしくね」

「はい……」


 『第二の太陽事件』という言葉が出てから段々と表情に陰りが見え始めたアリエラは淡々と捜索再開を促す。

 レイメイは何やら気まずそうに罠の解除を始めた。


(あまり触れられたくない話題だったかな?

 しかし……魔王軍に参加する前のアリエラくんの素性はなんとなく察しが──……いかんいかん! 冒険者たる者詮索は良くない! 任務に集中!!)

 カメリアは胴から離れた頭を振り、余計な考えを払って任務に専念する方向に意識を集中させた。



 ◇



「ピュィイイイ!!!」「キュイイィ!!」

     「アギャアァアアォ!!(ガリガリガリガリ)


 その後、レイメイが多種多様かつ珍妙な薬液を採取しつつ罠を無力化しながら進むと、悪魔や幻獣が配置されていないはずの迷宮に複数の悲鳴のような鳴き声と壁を引っ掻く音が響いた。

 

「この鳴き声は……!!」

鷲馬(ヒポグリフ)鷲獅子(グリフォン)、それに壁を引っ掻いているのは飛竜(ワイバーン)……腰や尻尾の付け根辺りに荷物を積んでいるし、捜索対象の騎獣と見て間違いなさそうね」

「おーい! キミたち! こっちおいで!」


「「「──! ピュイィイイイ!!!(アギャアァアア!!)」」」

 行方不明になっていたチーム『幻獣騎士自由連合』の騎獣である幻獣たちは主人たちとはぐれて不安になっている中、聞き覚えのあるカメリアの声に縋るように駆け寄って来る。

 いくつか罠が起動したが、霧状に噴き出した『服だけ溶かす薬』はそもそも服を着ていないので意味は無く、『感度3000倍になる薬』が塗られた針は先頭を駆けるワイバーンの緑青色の鱗に弾かれ無効化された。


「キュウゥゥ……」

 馬よりも一回り二回り大きな幻獣三頭が駆け寄る姿は中々迫力があったが、攻撃的な雰囲気は無く、一行の目の前で急停止して懇願するような鳴き声を上げながらカメリアに頭を擦りつけてきた。


「よーしよしよし……この子たちが一ヶ所に留まっているという事は──……引っ掻いていた壁の向こうが『交合(セック◯)しないと出られない部屋』かな……?

 レイメイくん アリエラくん! 罠の解除と【全能鍵】で壁の強行突破よろしく!

 ピチカくんは幻獣(この子)たちを宥めるの手伝っておくれ」


 この場で冒険者の経験が最も長いカメリアの指示に従い、各々作業に取り掛かかる。


「しかし……なんで数日も閉じ込められっぱなしになってるんですかね? 男女混合チームなら一時間とかからずやる事やれば出られるでしょ……」

 レイメイは周囲の罠を解除しながら愚痴り始めた。


「いやいや……チーム内で()()()()()()になると拗れやすいって聞くしね……エメラくんは論外としても、ヨハンくんとアンバーくんだって親子ほど年齢(とし)が離れているし……」

「下劣なダンジョンだわ全く……こんなふざけたモノを造るようなのが陛下と同格扱いされていただなんて……攻略したら破壊してしまいましょ」

「落ち着いてくださいよ……周囲の安全確保完了しました。

 じゃあアリエラさん。壁を壊してみてください」


「ご苦労様。それじゃいくわよッ(ガシャッ)!!」

 言うと同時に石壁に【全能鍵】を叩きつけると、石壁を割ったとは思えぬ軽い破砕音が鳴り、あっさりと『交合(◯ックス)しないと出られない部屋』は破られたが──……


「ヨハン! アンバー! 喧嘩はお止めなさい!!」

「ア、アンバーさんッ! 落ち着きなさい!」

「大丈夫ですエメラお嬢様ッ!! 今ヨハン様と()()()する真っ最中なので!!」


部屋の中では特級冒険者『竜騎執事ヨハン』をベッドに組み伏せようとするメイドの『アンバー』と、その二人が喧嘩していると勘違いして半泣きで止めようとしているチームリーダーの『エメラ』の姿があった。


「…………お邪魔だったかしら」

鷲馬(ヒポグリフ)

幻獣の一種で哺乳類。

鷲の上半身と馬の下半身を持つ。

雄のグリフォンと雌馬の間に産まれる交雑種。

父親は育児をせず、母親からは授乳を拒否されるため、野生個体は滅多にお目にかかれない。

気性が穏やかなため騎獣として人気。


飛竜(ワイバーン)

亜竜の一種。

前脚が翼手になっており、尻尾には毒針がある。

飛行能力に関してはドラゴンすら上回る。

賢い犬程度の知能を持ち、意外と人懐っこい。

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