第三十五話 特級魔窟『ティルイルの昇天宮』
登場人物紹介
◇アリエラ
主人公。魔王軍四天王最強の怪力と頭脳を持つ紅一点。
『殲滅女帝』の二つ名を持つ。
褐色肌にボブカットの黒髪、猫のような紅い瞳、獅子の耳と尻尾が特徴の獣人。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者。
戦闘ゴーレム実験場で暴れ過ぎて叱られた。
◇ピチカ
蒼い髪と瞳にギザ歯が特徴のアクセサリー付けすぎなギャルっぽいハーピィ。
異世界転生者。チートスキル『楽々御粧し』の使い手。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』の一応リーダー。
一級冒険者になった。
街中で巨大な刃物をぶら下げて飛んだので叱られた。
◇レイメイ
魔王直属暗殺部隊『五毒姫』の末妹。
白い長髪と肌に鬼灯のように赤い瞳と愛嬌紅が特徴。
魔王特製の最上級キョンシー(札は丹田に貼っている)。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者。
結局激辛料理を作って叱られた。
◇カメリア
中性的な顔立ちで金髪ポニーテールに緑基調の騎士装束のデュラハン(エルフ)の特級冒険者。享年224歳。
二つ名は『首愛でるカメリア』
自らのスタイルに絶対の自信があり、様々な美女や美少女の顔写真との合成写真を作成するのが趣味。
アリエラたちを放置して散歩していたので叱られた。
◇ダチュラ
カメリアの愛馬で白い首無し馬。メス。
周囲の会話内容は結構理解している。
店先の小さな馬ゴーレムを咥えて叱られた。
◇
「本当に女神の神殿には寄らなくてよかったのかい? 観光地的な場所は一通り案内しようかと思っていたんだけど……」
ロア・ムト・アゾと別れた一行はレイメイの〈白毒雲〉に乗ってロディア島を去り、カメリアの案内で次なる目的地に向かって飛行していた。
「ワタクシたちは別に女神の信徒でもないし、特に用事もないから大丈夫よ」
「ですね……勧誘されても面倒ですし……」
自分たちが女神狩りを行っている魔王軍の構成員であるのが最も大きな理由だが、当然それをカメリアに言うわけにはいかず、一行は適当な言い訳をして神殿への訪問を避けた。
「カメリーはなんか女神信仰してんのー?」
「ボク? まあこれでも元は貴種森妖精の端くれだからね……昔は『樹の女神エンニル』の信徒……というか器候補の一人だったけど、首無し妖精に転化してから辞めちゃったよ」
「……カメリアさんがデュラハンになった時ってどんな状況だったんですか?
王種妖巨人同様、再現性があるなら仲間を増やせるかもしれないですよ」
「それが首を刎ねられた前後の記憶がまるで無くなっててね……デュラハン仲間も皆同じように覚えてないってさ。
あ、そうそう猫妖精のデュラハンもいてね……機会があれば──」
“ケットシーのデュラハン”……その言葉を聞いた途端にアリエラはカメリアの頭を掴み、瞳孔の開き切った眼でカメリアを見つめる。
ピチカとレイメイは「あ〜あ……やっちまったな」とでも言いたげな表情をして黙り込んだ。
「 ── え っ ? は ? ? ?
それはケットシーちゃんの首を刎ねた存在がいるって事?」
「あ゛っ……まあ……そうなるのかな?」
猫好き(マイルドな表現)のアリエラにケットシーの仲間の話題を振ってしまった事をカメリアは後悔した。
「そう……刎ねられた時の記憶が戻ったら是非教えて頂戴ね? あとデュラハンケットシーちゃんの紹介もよろしくね?」
「うん……あ、そうだ! キングトロールとは逆に頭が減ったデュラハントロールもいてねぇ! そっちも機会があれば紹介するよ」
「トロールは別にいいわ……」
「そ、そっか……しかしまさか本当にキングトロールに変異するとはね……ボクも分裂する瞬間見たかったな〜」
アリエラの掴みから解放されたカメリアは、アリエラから少し距離を取り、話題をケットシーからトロール方面に移す。
「勝手に散歩に行くからよ」
「あーしが分裂させました☆」
「くっ……それよりカメリアさん……言われた通りの方位に飛んでますけど、これ何処に向かってるんですか?」
未だに自分ではなくピチカが新たなキングトロールを誕生させた事を悔しがっているレイメイは悔しさを紛らわせるために話題を現在の目的地に変えた。
「ああ……皆心して挑んでおくれよ?
目的地は特級魔窟『ティルイルの昇天宮』…………旧魔王に関わるダンジョンさ……!」
◇
その後も飛び続けた一行の視界に入ってきたのは、空中に浮遊する巨大な岩塊のような島の上に聳り立つ尖塔であった。
「さあ着いたよ──……って出迎えが来てるね……事前連絡はしてないんだけどな……」
上陸する間際カメリアが改めて説明を始めようとしたその時、島中央の尖塔から駆け寄ってくる人影が見えた。
「カメリア様に『パリピ☆愚連隊』の御三方〜! 丁度良い所においで下さいました〜!!
急ぎの特級案件任務がごさいましてー!!」
慌てた様子で走るのは冒険者組合の受付嬢のようだ。
「特級ダンジョンで特級案件……しかも半強制の任務……厄介そうね……」
「まあ特級三人に一級一人の構成ならなんとかなるさ。
いよっと……任務の詳細を聴かせてくれるかな?」
〈白毒雲〉から降りたカメリアが優しく尋ねると、走ってきた受付嬢は息を整えて任務内容を話し始める。
「オホン……数日前この『ティルイルの昇天宮』に挑まれた特級冒険者の『竜騎執事ヨハン』様とチーム『幻獣騎士自由連合』を組んでらっしゃる二人の計三名と騎獣三頭が消息を断たれまして……最寄りの特級冒険者の方々に向けて捜索任務が発令されました。
というワケでこのダンジョンに訪れた『首愛でるカメリア』様と『パリピ☆愚連隊』の御三方に捜索を引き受けて頂きたい次第で……よろしいですか?」
ただでさえ命懸けとなる特級ダンジョンの攻略に更に任務まで追加する事に引け目を感じているのか、受付嬢は及び腰の上目遣いで任務内容の大筋を語った。
「別にキミが悪いワケじゃあないんだからそんなにビクビクしないでいいよ?
ボクは問題無いけど……皆はどうかな?
ダンジョン攻略しつつ捜索だから……少なくともレイメイくんは協力してくれるとありがたいんだけど……」
「私は別に構いませんよ。ピチカさんとアリエラさんもいいですよね?」
「うん! 早めに助けよっ」
「ワタクシも構わなくてよ。まだ生きているといいのだけど……」
全員が快諾すると受付嬢に尖塔内部の大階段の前まで案内され、階段を登ってダンジョン内に突入する前の準備をしながら軽く情報確認をする運びとなった。
「それで……捜索対象の三人はどんな人たちなんですか?」
「まずはさっき名前が出た特級の『竜騎執事ヨハン』くんは……二つ名の通り飛竜乗りの執事で、片眼鏡かけて手甲と脛当てを付けた燕尾服を着た銃槍使いのおじさんだよ。」
「冒険者なのに執事? ではチームの二人のどちらか……もしくは二人共が雇い主なのかしら」
アリエラは特定の雇い主を持たないのが基本の冒険者という職業において二つ名に“執事”という使用人の代表格を指す言葉が付いているのに違和感を覚えた。
「ん〜……まあそんな感じかな。
チームリーダーがヨハンくんの元雇い主の貴族の御令嬢でね、二級冒険者で鷲獅子乗りの『エメラ』くんが冒険者に転職したヨハンくんに無理矢理着いて行ってチーム『幻獣騎士自由連合』が結成されたんだ。
特級が所属しているチームのリーダーが二級って点では少し前までの『パリピ☆愚連隊』と一緒だね」
「へー! あーしと気が合うかなー?
……いやでもワガママそうだな……」
「グリフォンを手懐けているのなら実力は中々のモノだと思うけれどね……」
「もう一人はどんな人なんですか?」
「もう一人はエメラくんの侍女で、二級冒険者の鷲馬乗りで突撃槍使いの『アンバー』くんだよ。
いくらヨハンくんが信頼されてるからってお嬢様と二人旅はマズいって事で同行してるんだってさ。
あ、そうだ エメラくんとアンバーくんの顔写真ならあるから見るかい?」
カメリアは捜索対象三名の説明をすると黒檀の棺から『“金髪縦ロールに翠色の瞳の勝気そうな表情の少女”……の顔を合成したカメリアの身体の写真』と、『“夜会巻きにした黒髪と琥珀色の瞳が特徴的な女性”……の顔を合成したカメリアの身体の写真』を一行に見せた。
「…………ヨハンさんの写真は無いんですか?」
「無いね!」
「そうですか……まあいいでしょう」
「ちゃんとしたダンジョンに挑むのは何気に初の事だから気を引き締めて行きましょ。
ピチカ 勝負服に着替えさせて頂戴」
「オッケー! ホイッ☆」
【楽々御粧し】の能力で一瞬にしてアリエラとピチカは勝負服の女剣闘士服と踊り子衣装に着替える。
「いつ見ても便利だねぇ……ん? ピチカくんは取り戻した大曲剣は装備しないのかい?」
全身凶器のアリエラはさて置き、武器無しでは特級ダンジョンに挑むにはやや心許ないピチカがせっかく取り戻した大曲剣を装備していない事をカメリアは疑問に感じた。
「するよー☆ でも【楽々御粧し】の対象ってオシャレ道具だけだからさ〜……剣はアーちゃんの金ピカカンオケに預けてんの」
そう言いながらピチカはアリエラの黄金石棺の中にその大きな鳥脚を突っ込み、T字型の特徴的な柄の大曲剣を引き出した。
「でも……ピチカくんってさ……たまに投げナイフなんかを【楽々御粧し】で瞬間装備してるよね?」
「確かにそうね……」
「あれ便利ですよね」
「あれはナイフをアクセに加工してあるからセーフ系なんじゃない?」
「なら武器もオシャレの一部だと捉えれば良いのではなくて? 例えば今のワタクシだって剣闘士の格好をしているのだから無手よりも何か武器を装備している方がサマになるでしょう?
試しにワタクシの新月刀を装備させられるか調べてみましょ」
そう言うとアリエラは石棺から装飾された黄金のシャムシールを取り出してピチカに手渡した。
「う〜ん……できるかな……」
「神業の扱いにしろ何にしろ……簡単に限界を決めつけてはダメよ。
ほら……今のワタクシって剣を持っていた方が絵になるでしょう?」
「そうですよ! アリエラさんを素手で活動させたら何でもかんでも壊しちゃうんですから何か武器を持たせた方がマシですよ」
「そうだそうだー!」
「ヒヒィーン!」
「ちょっと! 真面目にやっているのだから悪ノリしないで──……ッ!?」
レイメイとカメリア、それにダチュラまで野次を飛ばしてきたのに異議を唱えようとしたその時──アリエラの右手にはいつの間にかシャムシールが握られていた。
「あ できた。
“たしかにアーちゃんは武器持ってたほうがいいな……”って思ったらできたーッ!!」
「おぉー……やったねピチカくん!」
「武器も適応されるなら戦術の幅が拡がりますね」
「まあ……経緯はともかく良かったわ」
「そんじゃ あーしの剣も……しまえたー☆」
ピチカが恐る恐る大曲剣を脚で持ち上げてから降ろすような動作をすると、大曲剣は虚空に姿を消して収納されていった。
「ますます便利な神業になったわね」
「ですね。ではそろそろ突入しましょうか。
早めに見つけないと捜索対象が全滅しているなんて事になりかねませんからね」
「そうだね。でも突入する前にちょっといいかな?」
「なんですか?」
「手短にね」
「うん。到着前にも言ったけどここはかつての魔王の一角……『魔王ティルイル』が自分の城の防衛設備の実験のために造ったとされるダンジョンだからね……。
キミたちが仕える魔王に敗れたとはいえ、魔王の罠がたくさん仕掛けられているから気を引き締めて行こうッ!!」
「「「 え ? ? ? 」」」
聞き捨てならない言葉に三人の視線はカメリアに集中した。
「ん? だってキミたち魔王軍でしょ?
あ、魔王陛下って呼んだ方がよかったかな?」
「「「……!!!」」」
一体いつからなのか……カメリアには三人が魔王軍所属だとバレていた。
◇『樹の女神エンニル』
南西大陸を支配する女神。
翠色の髪と瞳を持ち、頭頂部に華が咲いた少女の姿をしているとされる。
植物と妖精たちの守護者であり、それ以外の種族は大地に還り植物の糧になるべきだと主張している。
現在は南西大陸の中央に聳える『世界樹』の頂点で複数の器に受肉しており、全員をまとめて『星華隊』と呼称されている。
聖獣は象と鹿。




