第三十三話 橋のトロール
登場人物紹介
◇アリエラ
主人公。魔王軍四天王最強の怪力と頭脳を持つ紅一点。
『殲滅女帝』の二つ名を持つ。
褐色肌にボブカットの黒髪、猫のような紅い瞳、獅子の耳と尻尾が特徴の獣人。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者。
不要な被害を出しがちで依頼失敗率はそこそこ高い。
◇ピチカ
蒼い髪と瞳にギザ歯が特徴のアクセサリー付けすぎなギャルっぽいハーピィ。
異世界転生者。チートスキル『楽々御粧し』の使い手。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』の一応リーダー。
二級冒険者。
単独で受けた依頼の成功率は結構高い。
◇レイメイ
魔王直属暗殺部隊『五毒姫』の末妹。
白い長髪と肌に鬼灯のように赤い瞳と愛嬌紅が特徴。
魔王特製の最上級キョンシー(札は丹田に貼っている)。
冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。
特級冒険者。
単独で受けた依頼は現状全て成功している。
◇カメリア
中性的な顔立ちで金髪ポニーテールに緑基調の騎士装束のデュラハン(エルフ)の特級冒険者。享年224歳。
二つ名は『首愛でるカメリア』
自らのスタイルに絶対の自信があり、様々な美女や美少女の顔写真との合成写真を作成するのが趣味。
長年冒険者をやっているので成功も多いが、失敗も多い。
◇ダチュラ
カメリアの愛馬で白い首無し馬。メス。
周囲の会話内容は結構理解している。
カメリアが失敗しかけると、そっとフォローする。
◇
東西に分断されたイース島を後にした一行は、今度は南北に分断された『ロディア島』に到着した。
ロディア島──……。
魔王軍が中央大陸を制覇した結果、肩身の狭くなった女神の神殿勢力が『南ロディア島』を転居地として選び、その影響で元々は豊富な鉱山資源の眠っていた『北ロディア島』は女神の偶像や衛兵代わりの動像造りで栄えている。
一行が上陸したそんな北ロディア島は本日も大小巧拙多様な偶像やゴーレムが販売され賑わっている。
観光客を狙っている区画なのか戦闘用ゴーレムは殆ど展示されておらず、観賞用に細かいポーズ指定が可能な物や、小さなゴーレム同士を闘わせる子供向けの物が主だった商品のようだ。
「おぉ〜……色々あるねー☆」
「……なんだかどこかで見聞きしたようなデザインのゴーレムが多いですね」
特級案件を終えて平服に着替えた一行──アリエラとダチュラが棺を引き摺っているため目立ってはいる──が市場をざっと見回すと、レイメイの本業である魔王直属暗殺者としては興味を惹かれる造型が並んでいるのが目に入った。
「女神の偶像はもちろんのこと、古今東西各大陸の有名人を模ったものは人気だからねぇ……『至高天使』たちに『悪逆令嬢ガーネット』だろ? あ、あっちには『最後の女王ネフェラリエラ』とか『星華隊』に『ワン五兄弟』──……」
「……錚々たる顔ぶれだけれど……本人に許可は取っているのかしら」
「ないだろうね……まあ本人が文句を言えば作らなくなると思うよ。
ボクをモデルにしたゴーレムもあったけど再現度が低くてねぇ〜……アリエラくんとレイメイくんも特級だし、活躍や二つ名が広まればモデルにしたゴーレムが作られるかもね」
「そうなったらキッチリと監修しなくては──……ねえ……あのゴーレムはもしかして……」
アリエラの視界に入った店には見覚えがあるような造形の、片手で持つには少し大きな四体のゴーレムが展示されている。
「ああ……『魔王軍四天王』だね。中央大陸で有名どころと言えばだよね」
アリエラとカメリアにつられて残る二人と一頭も注目したその先には、中央後部で仁王立ちをする『格闘覇王マスクドヴィゾフニル』・その右手側で剣を構える『魔剣聖君ジーク』・左手側で指揮棒を構える『蝿蛆元首バアル・ゼブブ』……そしてマスクドヴィゾフニルの前で新月刀の切先を足場に突いてしなだれかかる『殲滅女帝』を模ったゴーレムの姿があった。
「なんなの……これは……!?」
シャムシールを足場に突き立てているのも気に食わないが、アリエラが何より文句を言いたいのが──……
「ヘヒヒッ……本物より随分とまあ……」
「盛ってあるね……(これヤバそう)」
「まあよくある事だよ。ボクを模ったゴーレムも盛られててね……理解ってないよねぇ全く……」
展示されている『殲滅女帝』のゴーレムの胸部や太腿が本物よりも大幅に増量している事である。
「ちょっと店主!! このワタク──『殲滅女帝』のゴーレムだけ再現度が低いのではなくて!?」
アリエラはなんとか素性を隠しつつ、四天王のゴーレムを販売している店の店主に詰め寄る。
「い、いやぁ……本物に忠実すぎるよりは多少の誇張表現をした方が売り上げがいいもんでぇ……」
扱う商品の方向性からか、あまり女性相手の接客に慣れていない店主はタジタジになりながら言い訳をした。
「ふぅ……魔王軍に許可を取らずに売り出しているのでしょう? 『殲滅女帝』本人に知られる前に販売を止めるか正確な造型に直すのがアナタの身のためだと思うのだけど……? まあ少しの売り上げのために命を賭ける覚悟があるのならもう止めはしないわ」
ここで怒りを露わにすれば自らの正体を明かすようなものである──特に気付きかけているカメリアには──という事を分かっているためアリエラは出来る限り落ち着いて店主に販売中止を促し店から立ち去る。
「……アリエラくんって『殲滅女帝』のファンなのかい?」
「あー……まあそんなカンジ? ね?」
「ですね……あ、またアリエラさんが揉めてますよ」
カメリアの質問に対し「同一人物です」と言うワケにもいかず、ピチカとレイメイは曖昧に肯定しながら、他店の猫妖精型ゴーレムの造型にケチを付け始めたアリエラを追いかけた。
◇
一行がアリエラを宥めつつ、戦闘用ゴーレムの市場を抜けて南ロディア島に繋がる大橋の前に到着すると、橋の中道に仁王立ちをして威圧感を放っている巨漢によって通行人が足止めされ人集りが出来ていた。
4m程もあるその男は異様に盛り上がった肩と首の筋肉によりかなり猫背気味になっており、苔むした岩のような色の肌・尖った耳・大きな鷲鼻と妖鬼を巨人並みの体格にしたような──妖巨人と呼ばれる種族である。
腰に大きな獣の毛皮を、手足には革紐を巻き付け、何かが大量に入った袋を足下に置いている。
トロール自体は南東では特段珍しい種族ではないが、橋を占拠しているそのトロールにはなかなかお目にかかれない珍しい身体的特徴があった。
「この橋を渡りたくば我らに死闘か!」「財宝を!!」
傷んだ赤い髪を撫で付けた右の頭と、同じく赤い髪を編み込んだ左頭……そのトロールには二つの頭があった。
「貴種妖巨人ってヤツ? あーし初めて見た〜……」
──貴種妖巨人──
無尽蔵ではないとはいえ、他の種族であれば致命傷になり得る手足の欠損・内臓損傷・頭部の破壊等の負傷すらも短時間で再生できるトロールの中でも特に優れた再生力を持つトロールのみが稀に変異する上位個体である。
再生力の暴走なのか不具合なのかは不明だが、致命傷を負った際に頭部が分裂して再生し、知能・筋力・再生力が跳ね上がるのだ。
「あ、急用がある者や」「傷病者は別に通っていいぞ!」
ハイトロールが追加の宣言をすると、南ロディア島への生鮮食品を運搬する者や、神殿で治癒の奇跡を賜るために訪れていた者たちは仁王立ちするハイトロールを避けながら橋を渡って行った。
「ある程度の良心はあるみたいですね……」
「んでもさ〜……それならみんな急用があるって言って通っちゃうんじゃない?」
「そうでもないみたいだよ……挑戦者のお出ましだ」
「お手並拝見ね」
「オレが相手してやるぜぇ!!」
ハイトロールを避ける商人や傷病者が概ね通り過ぎて行くと、残った人混みの中から宝石の首飾りをした巨人の男がハイトロールの前に躍り出る。
「よォし……我が名は『ロアム』!」「我が名は『トアゾ』!」
ハイトロール改め右頭の『ロアム』と左頭の『トアゾ』は足下の袋を少し離れた場所に放り投げて構える。
「我らに勝つか頭を増やす事が出来れば袋の中の財宝をくれてやるッ!」「逆にお前が負けた場合は何か……その首飾りを頂くッ!」
ロアムは袋を見ながら、トアゾは巨人の男の首飾りを見ながら闘いの簡単なルールを説明。
「「異論無いかッ!?」」
「ああ問題無ぇ──ぜッ!!」
答えると同時に巨人の男は駆け出し、不意打ち気味にロアム・トアゾに殴りかかったが──
「「ふッ!」」
半身に構えたロアム・トアゾはその場で股間が足場につく程勢いよく開脚、伸ばした脚で巨人の足を挫き──
「「むんッ!!」」
「ぐボォッ……!?」
体勢を崩して倒れ込んできた巨人の鳩尾を開脚姿勢のまま殴り上げた。
「我らの勝ちだな……」「約束通り首飾りは貰っておくぞ」
ロアム・トアゾは転がって悶絶している巨人の男から首飾りを奪い、袋の中に捻じ込み、残った群衆に目を向ける。
「さあ! 他に挑む者は!?」「戦闘用ゴーレムが相手でも良いぞ!」
「おっ良い度胸だな」「目に物言わせてやらぁ!」
「丁度試したい新作があるんだ!」「やり過ぎたらごめんな(笑)」
トアゾが宣言すると、群衆の中の戦闘用ゴーレム職人たちの目の色が変わり、次々と自慢の戦闘用ゴーレムと賭ける財宝を運んで来たが──
「「フンッ!
ゼイッッ!!
でりゃあ!!!
ぬぅおおおお!!!!」」
──運ばれて来た見栄えも重視した巨大な鎧騎士のような物・ゴーレムと聞けばまず想像するような土砂と岩石で出来た物・両拳がトゲ付き鉄球になっている物・モデルは不明だが美少女を象った物など様々だったが、いずれのゴーレムもロアム・トアゾと数合打ち合えば打ち砕かれ、装飾に宝石や貴金属を使われている物は財宝と共に袋に捩じ込まれてしまった。
「なかなかやるようね……ワタクシも参戦しようかしら」
「あ〜……その前に一旦組合に寄って行かないかい? 冒険者的にはあのハイトロールをどう扱えばいいのか訊いてからにしよう。
殺していいかどうかでやり方も変わってくるだろう?」
「あ! あーし昇級査定受けたい! 上がってるかなー☆」
「アリエラさん……殺していい相手だったとしても橋が壊れるような攻撃はしないでくださいね」
アリエラが憂さ晴らしに不要な破壊行為をしないか警戒しながら一行は一旦引き返してギルド支部へ向かった。
◇
「最悪殺してしまっても問題ございませんよ。
他ならぬロアム・トアゾ様本人が依頼人となってご自分を殺せる程の強者を募っておられますので……」
ギルドでロアム・トアゾの扱いについて問い合わせた結果、受付嬢はアッサリと殺しを許可した。
「“頭を増やす事が出来れば”……とか言ってたから王種妖巨人に変異するのが狙いかしらね」
──王種妖巨人──
ただでさえ珍しいハイトロールの中でも更に一握りの優れた再生力を持つ者のみが変異できるという、トロール系種族の最上位種である。
三つに増えた頭と、三倍以上に跳ね上がった膂力を誇るが、歴史上キングトロールに到達した者は数名しかいない。
「キングトロールかぁ……現代も生きているのは“魔王軍最強の怪力”の『三巨頭』くらいだよね」
「えっ……魔王軍って四天王より強い幹部とかいるの!?」
「むっ……『三巨頭』はあくまでも単純な膂力だけで比べた場合最も強いというだけの事であって総合的な戦闘能力としては四天王が──」
「──アリエラさん。その辺で……」
アリエラは魔王軍四天王が軽く見られているように感じてしまい早口で語り始めたが、レイメイに止められ冷静さを取り戻した。
「……熱くなってしまったわね。
とにかく、殺されるのも覚悟の上で王を目指しているのならワタクシにも手伝える事は多そうだわ……」
そう言うとアリエラは口角を上げながらギルドを出て行った。
「あーし地雷ふんじゃったカンジ……?」
「いや別に怒ってはないと思いますよ。
それよりもアリエラさんを一人にすると怖いので早く追いかけましょう」
「違いないね。何かあったらまたピチカくんも叱られちゃうよ」
「ギャッ!! はやく追わなきゃ!」
昇級査定の事もすっかり忘れてピチカはアリエラを追いかけた。
◇動像
魔術で仮初の生命を吹き込まれた偶像や人形。
最初は人の手で生命を造り出す事を目的としていたが皆早々に諦め、現在では人手不足解消やエンタメ目的で造られる事が多い。
自我が宿る程の精巧なゴーレムを造れるのは魔王か女神だけと言われている。
◇妖巨人
妖精の一種。
身長4m程。異様に盛り上がった肩と首の筋肉によりかなり猫背気味になっており、苔むした岩のような色の肌・尖った耳・大きな鷲鼻と、妖鬼を巨人並みの体格にしたような種族。
ゴブリンに似ているが、全くの別種である。
優れた再生力を持ち、単純な物理攻撃ではなかなか死なない。
なぜかよく橋を占拠する。




