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第三話 ハーピィの踊り子

登場人物紹介

◇アリエラ

主人公。魔王軍四天王最強の怪力と頭脳を持つ紅一点。

褐色肌に短めの黒髪で猫のような紅い瞳を持つ獅子獣人。

赤い服が好き。




 ◇



とんでもない(ザワザワ……)爆発だったな……」「『ゲダの指』の仕業か……?」

「『火の女神』教団の残党じゃねぇかな」「あーやだやだ……」


 街からの調査隊を掻い潜りなんとか下山したアリエラは、再びイクネト旧王都城下街にやって来ていた。

 完全に場違いな格好をしていた昨日とは異なり、今日はゆったりとした赤基調の刺繍入り長袖ワンピースに簡素なサンダルを履いている。

 服装がおとなしくなったところで黄金の石棺(サルコファガス)を引き摺っているのは相変わらずなので異物感は消えないのだが、街の住人たちは郊外の『イアシエス山再誕事件』への対応に追われている者も多く、アリエラの事はあまり気にしていない。

 

(やはり騒ぎになっているわね……。

 現場から()()()()()()()()()は検出されないとは思うけれど……迂闊だったわ。

 お酒が入っていたとはいえあんな簡単に狂戦士化してしまうなんて……陛下から御下賜頂いた仮面を置いてきたのは失敗だったかしら。

 野盗の後ろ盾について聞きそびれてしまったし、連中の所持金も奪えなかったから、路銀の調達について真剣に考える必要があるわね……)


 アリエラが考え込みつつ、街中の壁に施されている様々な動物のモザイクアートを鑑賞していると、事件の対応とは別の意味で賑わっている人集りを見つけた。


 この国の主要種族である人間を始め、獣人に鳥人(ちょうじん)蛇人(じゃじん)蟲人(むしびと)など多種多様な種族が集まってなにやら楽しそうに歓声を上げながら投げ銭をしているようだ。


 アリエラが背伸びして観衆の隙間から覗きこむと、わずかに波打った蒼い髪と瞳を持った踊り子が、クジラのモザイクアートが施してある壁の前で踊りを披露していた。

 フェイスベールで口元がはっきりとは見えないが、地べたに置いてある蓄音機型の魔道具から流れる音楽に合わせて楽しげにステップを踏み、時折飛び上がり背景のクジラと空を泳いでいる様な幻想的な踊りであった。


 そしてなによりも観衆とアリエラの目を引くのは、その蒼い髪と瞳と同じ色をした羽毛の生えた大きな翼腕と、低めの身長に対してやや大きな鉤爪の生えた鳥脚だ。


女面鷲(ハーピィ)だわ……! 生きているのをこんなに近くで見るのは初めてね。単独行動してるだなんて珍しい……)

 少し観察している間にも、踊り子と観衆の間に置いてある鍔の広い帽子に投げ銭が溜まっていくのを見てアリエラは路銀を稼ぐ手段を決めた。


(踊りを披露してお金を稼ぐという方法があったわ!

 ……貴女の舞も美事(みごと)だけれど舞ならワタクシも自信があってよ)

 アリエラは勝手にライバル視したハーピィの踊り子を一瞥しながら、踊りの衣装に着替えるべく石棺を静かに引き摺り人気の無い路地裏に向かった。


 路地裏の行き止まりに着くと、石棺を壁代わりに立て、面積の小さな黄金の胸当てと恥部隠し──俗にビキニアーマーと呼ばれる物──を石棺から取り出して身につけ出した。


(魔王城に居た頃は使用人に手伝ってもらっていたから意識しなかったけれど……一人で着替えるのって結構面倒ね……)

 もたつきながら装着し終えると、次は赤い薄布のフェイスベールと前掛けの着いた腰巻きを、両手足に黄金環を三つずつとその他細かな装飾品の数々を身に付けた。


 最後に頭を飾る為に石棺から取り出した黄金のネコ獣人の頭蓋骨に対し、アリエラは懐かしむ様な目を向けながら、張子で再現された猫耳を触りつつ小さな声で話しかける。


「さぁ……久々の出番でしてよ……()()

 取り出した頭蓋骨を頭に被り、アリエラはハーピィの踊り子のいる広場に向かった。


 道中アリエラは初日とは別種の視線を周囲から感じたが、自分の美貌と頭に乗った頭蓋骨の輝きに目を奪われたのだろうと思い、気に留めないどころか少し上機嫌になったのであった。


 広場に到着したアリエラはハーピィの踊り子のほぼ向かいにある黒猫のモザイクアートが施されている壁の前に陣取り自らの舞を披露することに決めた。


 アリエラは隣のラクダのモザイクアートの前で細長い弦楽器を弾いていた楽士の男になけなしの路銀の一部を見せにこやかに話しかける。


「そこの貴方ちょっとよろしくて? これから剣舞を披露したいのだけれど、音楽が欲しいから何か適当に演奏して下さらない? 少ないかもしれないけれどお礼も支払うから。

 投げ銭も山分けがお望みならそれも吝かではなくてよ?」

「え゛っ? ……ああいやいや! そこまでしなくていいですよ! ぇ、演奏ね! 激しい曲でもいいですかね?」


「かまわなくてよ(人見知りなのかしら……)」

 楽士は別に人見知りというわけではなく、紅玉で飾られた黄金髑髏を被った異様な女が妙においしい話を持ち掛けてきたので動揺しただけなのだが、アリエラは自分のズレ具合に無自覚のようであった。


 集金箱代わりに蓋を開けた石棺を観衆との間に設置し、その石棺の中から柄頭に立派な獅子の飾りが付いている黄金の新月刀(シャムシール)を取り出し、どこか暴力性を感じる微笑みを浮かべ楽士の演奏と共に舞い始めた。


(──〈享楽女帝(バステト)〉!!)

 アリエラが術名を念じると苛烈にして流麗に動く肢体の軌跡を深い藍色の中に明るい青色の燐光が瞬く魔力が染め上げ、手足に付けた黄金環がぶつかる度に涼やかな金属音を奏で、背景の黒猫と共に夜空を駆け狩りにおもむき時に戯れる様な神秘的な舞が始まる。


 向かいのハーピィの踊り子とは方向性の違う美しさを感じる舞に通りがかりの観衆が集まり出し、向かいの観衆からも何人かはアリエラの舞を見物に来る程()()()上々の評判であった。


(そろそろ頃合いね……!)

 楽士の奏でる曲が激しく転調した途端にアリエラも豹変し、頭に被った獣人の頭蓋骨の眼窩に妖しい光が揺らめき、あくまでも剣舞の範疇であった剣技や体捌きは実戦さながらの鋭さを見せ始める。


「ゥぐっ……」

(何モンだこの女ッッッ……!?)

(バカなッ……! オレでは勝てねえッッ……!?)


 観衆の中でも冒険者や隊商の用心棒など、暴力が絡む仕事に就いている者達はアリエラのシャムシールと爪に切り刻まれ蹂躙される自分の姿を幻視し戦慄した。

 曲の進行と共に剣舞は一層殺気を帯び、戦いに関わらない一般人達も魅了されるというよりは「少しでも動いたら殺されるかも」という恐怖に縛られ、投げ銭もせず油汗を流して立ち尽くすのみであった。


 その一方、唯一アリエラの周囲で動いている楽士も「少しでも音を外せば自分に矛先が向くかもしれない」という危機感を抱き、油汗を流しながら彼の人生最高のパフォーマンスを発揮していた。


(……? いまいち盛り上がりに欠ける……。

 実際には殺していないとはいえ殺戮剣舞はウケが悪かったかしら)

 あまり手応えを感じられぬままに楽士の演奏が終わりを迎えると共にアリエラの剣舞も終了した。


 無事に済んだ事に楽士は胸を撫で下ろし、観衆は中が底無しの暗闇になっている石棺に恐る恐る投げ銭を入れ足早にその場を立ち去った。


「ねぇ楽士さん……ワタクシの舞ってこの辺りではウケが悪い類の舞なのかしら? 自信があっただけに傷ついたわ……」

「ぇあっ……いやいや! すごい剣舞だったからお客さん達も圧倒されてしまっただけだと思いますよ……。

 あっそうだ私用事を思い出したのでこれにて失礼させて頂きますね! お疲れ様でしたー!!」


 楽士はそそくさと片付けをして逃げるように走り去ってしまった。


「え? ちょ──……まあいいわ。

 宿賃くらいは集まった事だし……一服しましょっと……」


 言いながら「母上」と呼んだネコ獣人の頭蓋骨を石棺の中にしまい、その流れでコブラの形をした火皿の付いた大きめの煙管を取り出しコブラの口に刻み煙草を詰め込むと、魔術で着火し石棺に腰掛け吸い始める。


「ッフゥー……ふっ、ふっ……。

 それにしてもお向かいさんは盛況ね……」


 吹き出す煙を輪っかやクラゲの様な形など様々な形で飛ばしながらハーピィの踊り子を見やると、いつの間にか小さな竪琴を脚の爪でかき鳴らしては宙返りして上空に放り投げ、地面に激突する前に脚で掴んでかき鳴らすアクロバティックな舞を繰り広げていた。

 さらに竪琴に魔術が掛けてあるのか音の波紋が柔らかな虹色の光となって可視化され、アリエラ含む観衆の目を釘付けしたのであった。


(旅に出てからこんなに早くワタクシを上回る者に遭遇するだなんて……やはり世界は広──……!?) 

 ぼんやりと煙を吹かしながらハーピィの舞を眺めていたアリエラは自らの眼を疑った。


 舞の所作に一切の淀みが無いというのにハーピィの服装と装飾品が次々と変わって行き、それに合わせて髪・瞳・両翼と尾羽・爪も目まぐるしく色を変えていった。


「おぉ〜……!?」「魔術師だったんか!」「ありゃどうなってんだ?」



(ワタクシの動体視力でも捉えられないという事は手品の類ではなく魔術なのでしょうけれど……あれだけ連続で着替えているのに一向に魔力が減る気配が無いという事は……まさかあのハーピィ……神業(チートスキル)を──)


「あの〜……そこの獅子獣人のオネーサン? ちょ〜っと話聞かせて貰ってもいいかな?」

「ん……かまわなくてよ。何の御用かしら?」


 ハーピィに踊り子としてのものとは違う興味が湧いてきていたアリエラに声をかける男達が現れた。

 頭に布を巻き顎髭をたくわえ、ゆとりのある極彩色の衣服を着て腰に曲剣を下げている風貌からして地元の自警団であると思われる背の低い中年の男と、似たような格好の体格の良い男二人が後ろに控えていた。


「オネーサンさっきまでここで剣舞を披露していたらしいけど……ちゃんと組合(ギルド)に申請して場所取りしたかい?」

「……っふぅ〜……ギルドって?」


「芸能ギルドだよ芸能ギルド!

 ダメだよ勝手に場所取りしてお金取っちゃ〜……」

「あらそうなの……これは失礼。

 それじゃあ事後承諾になって悪いけれど報告に行きたいからそのギルドとやらに案内してくださる?」



 ◇



 石棺に煙管を放り込み立ち上がったアリエラは自警団の男達の案内で芸能ギルドに向かい事の仔細を説明した結果、投げ銭のほとんどを違反金として没収され、芸能ギルドに登録する為の手続きに掛かる手数料まで取られる羽目になった。


(稼ぐどころか所持金が減ったわ……今日も野宿かしら。でも昨夜の山は調査隊がうろついているし……)

 豪奢な館を流用した芸能ギルド会館を出たアリエラは身の振り方に思いを馳せ、出かけた溜め息を飲み込んだ。

 

(この程度の失敗でうなだれている場合では──)

「あー!! さっきのライオンのおねーさんだー☆」


 旅の決意を新たにしようとしていたところ妙に明るい声で話しかける蒼い髪と瞳のハーピィが現れた。

 頭の左側にまとめたボリュームのある髪にはこの街で買ったのであろうモザイク調の髪飾りが大量に突き刺さっており、広場ではフェイスベールで隠れていた口からはサメのようなギザ歯が覗き出していた。

 舞を披露していた際の神秘的な雰囲気とは打って変わって気さくな──悪く言うと軽薄そうな──口調にアリエラは一瞬虚を衝かれた。


「ウェーイ☆ な〜んか元気なくない? 大丈夫? ……アメちゃんあげよっか?」

「フフッ……結構よ。

 広場での舞は美事だったわ……情けまでかけられるとは……ワタクシの完敗ね」


「別に勝ち負けとかじゃなくない?

 チラ見してたけどおねーさんのダンスもすごかったよ☆」

「光栄だわ。

 ……名乗っていなかったわね。アリエラよ」


「あーしは『ピチカ』だよ! よろしく☆

 『アリエラさん』じゃ固苦しいから『アーちゃん』って呼んでいい?」

「構わなくてよ」


「アーちゃんってこの辺の人じゃないよね?

 旅始めたばっかり? あーしも最近旅始めたんだ☆

 カンオケ引きずってるの『荒◯の用心棒』みたいでかっこいいね! ちゃんと見たことないけど!」

 

「…………ねぇピチカ。単刀直入に聞くけれど……貴女ってもしかして『異世界転生者』じゃなくて?」



 ──『異世界転生者』──

 それはこの世界を支配する女神達によって読んで字の如く異世界から転生させられた者達を指す言葉。

 その他にも『転移者』も存在しており、そのいずれもが『神業(チートスキル)』『神器(チートアイテム)』『神獣(チートキャラ)』等という常軌を逸した贈り物を女神達から授かる事で良くも悪くも世界に多大な影響を齎すため、その名を聞くのを恐れ忌避する者も少なくない。

 女神により授かった強大すぎる力に呑まれて身を滅ぼし、その後遺された神獣(チートキャラ)が制御不能になり暴れ、神器(チートアイテム)を巡って戦争が勃発した結果、国家どころか土地そのものが消滅したという逸話が各地に残っている程だ。

────────────────


 そんな歩く火薬庫のような危険を孕んだ存在をこの世界ではまとめて『異世界人』と呼称しているため、アリエラは戦闘に突入してもいいように身構えて質問したのだが……。


「そーだよ☆」

 ピチカはあっさり認めた。 

◇ハーピィ

幻獣の一種であり鳥類。

翼腕と鳥脚と尾羽を持った美女の姿をしている。

鳥類なのだが人間や亜人種、あるいは風の精霊との間に子をつくり、仲の良い三羽前後の共同体で子育てをする。

卵生だが擬態のためなのか臍がある。

人里近い森や断崖を好んで住処とする。

住処の近くで戦争が起きるとすぐに飛び去り別の地に移住するため、平和の象徴とする見方もある一方、暗殺・窃盗・売春で生計を立てる者が多く嫌う者も少なくない。

現在は可愛らしい姿をしているが、古代では巨大かつ醜い姿をした怪物だったと言われている。

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