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第二十八話 喧嘩祭り 後夜祭

登場人物紹介

◇アリエラ

主人公。魔王軍四天王最強の怪力と頭脳を持つ紅一点。

『殲滅女帝』の二つ名を持つ。

褐色肌にボブカットの黒髪、猫のような紅い瞳、獅子の耳と尻尾が特徴の獣人。

冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。

特級冒険者。

酒に酔っても身体は壊さないが、狂戦士化の制御が甘くなる。


◇ピチカ

蒼い髪と瞳にギザ歯が特徴のアクセサリー付けすぎなギャルっぽいハーピィ。

異世界転生者。チートスキル『楽々御粧し』の使い手。

冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』の一応リーダー。

二級冒険者。

地域によっては酒を呑める年齢だが、咄嗟に飛べなくなりそうで怖いので酒は呑まない。


◇レイメイ

魔王直属暗殺部隊『五毒姫』の末妹。

白い長髪と肌に鬼灯のように赤い瞳と愛嬌紅が特徴。

魔王特製の最上級キョンシー(札は丹田に貼っている)。

冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。

特級冒険者。

いくら呑んでも酔えない上、周囲から注意されるので酒は呑まない。


◇カメリア

中性的な顔立ちで金髪ポニーテールに緑基調の騎士装束のデュラハン(エルフ)の特級冒険者。享年224歳。

二つ名は『首愛でるカメリア』

自らのスタイルに絶対の自信があり、様々な美女や美少女の顔写真との合成写真を作成するのが趣味。

アンデッドであるため全く酔えないが、葡萄酒はたまに呑む。


◇ダチュラ

カメリアの愛馬で白い首無し馬。メス。

周囲の会話内容は結構理解している。

当然酒は呑まない。


◇ヤンロン

真紅の鱗を持ち、汚れた麻服を着た龍人の特級冒険者。

二つ名は『〈五龍仙酔拳〉のヤンロン』

常に酔っ払っている。

酔えば酔うほど強くなる……という事は特に無い。


◇イクストゥス

パキケファロサウルス型リザードマンの男。

戦闘能力だけなら特級冒険者に匹敵する実力の持ち主。

当然頭突きの威力は高い。

二日酔いでよく頭痛になる。



 ◇



「ガァアアアア゛ア゛ァアァア゛ッ!!」

「フフッ……アハ ハ ハ ハッ ! ! !」


 頭突き合戦の衝撃によって一時的に機能を失った観客たちの目と耳が回復すると、舞台となる切り株の上で激しい打撃の応酬を繰り広げるアリエラとイクストゥスの姿があった。


 二人共ほぼ同時に同じ攻撃を繰り出すが、リーチで勝るイクストゥスの攻撃が一瞬早くアリエラの身体に命中し、一拍遅れでアリエラの打撃がイクストゥスに叩き込まれ周囲に二重の衝撃音が響き渡る。

 お互いに攻撃を防ごう等という考えは既に無いのか、拳・蹴り・尻尾の薙ぎ払い……全ての攻撃が小細工無しの大振りである。


 ノーガードの打撃戦に盛り上がる観客たちとは裏腹に〈白毒雲(はくどくうん)〉に乗って観戦していたピチカ・レイメイ・カメリアは血みどろの戦いにはあまり興が乗っていないようだ。


「ギャッヒィ〜……痛そう……」

 打撃の度に皮膚が裂け流血するイクストゥスを見てピチカは顔を顰めた。


「ヤンロンさんは降りたみたいですし……なんでもアリのルールならとっくにアリエラさんの勝ちなんですけどね……」

 レイメイは技術も無く根性で殴り合い続けている状況に飽きてきたのか、〈白毒雲〉の上で寝転がり始めた。


「あーあ……アリエラくんったら顔にケガしちゃって……アレはアレでイイな……後で写真撮ろう……」

 カメリアは頭から流血するアリエラを見て何かブツブツと呟いている。


 三者三様に観戦していると、いつの間にか切り株から降りて喧嘩祭りから離脱したヤンロンが〈白毒雲〉に跳び乗って来た。


「いよっ……っとぉ! グヘヘ!

 いい特等席だなぁ! おぃらもお邪魔するよ〜ン♪」

「邪魔するんだったら帰って下さい……」


「グヘヘへへ!! まあそう言うなよレイメイちゃん!

 おぃら雲に乗って酒を呑むのが夢だったんだぁ……! ングッ……ングッ……」

「でも……いいのかい? ヤンロンくん。アッサリと祭りから降りちゃってさ」


「あー……おぃらがちょっかい出すよりもあの二人がド突き合ってる方が盛り上がるからよぅ……。

 打撃だけであの二人相手すんのは骨が折れちまうしな〜……ングッ……」

 ヤンロンは両手を広げて「お手上げポーズ」をとりながら首を左右に振り、酒壺を空にした。


「ん……流れが変わってきたね」

 カメリアが切り株の上に注目するよう視線を遣ると、二重の衝撃音は重なり、二人の攻撃は同時に命中するようになっていた。


 攻撃の度にアリエラの両腕は徐々に獣化し黄金の毛皮に包まれ、腕自体の大きさも巨人に匹敵する程に巨大化し、その大きさからは想像もできない回転率でイクストゥスの攻撃に先回りして重い連打を叩き込み始めた。


「ゴルロロロロ゛ ロ゛ ロ゛ォオオ゛ッ!!!」

 そして殴り合いは顔までも獣化したアリエラの一方的な殴打に変わり、酔っ払いの観客たちはどよめき始めた。


「ちょっ……狂戦士(バーサク)ってない!?」

「でも爪で引き裂いたり火を吹いたりはしてないですからルールを守る理性くらいは残ってると思いますよ……対戦相手を殺しそうになったら止めに入れるように準備しておきましょうか……」

「手慣れてるねぇレイメイくん……」

「……てかイクストゥス意識失ってねえか〜?」


「オァアアアアァアア゛ア゛!!」

 ヤンロンが長い首を伸ばして切り株の上を窺ってみると、イクストゥスは白目を剥いてアリエラの両腕に叩きのめされながら拳で空を切っていた。


「ア ハ ハ ハ ハ ッ ! ! !」

 アリエラの攻撃も腰の入ったパンチから巨大化した両腕を鉄鎚のように振り下ろす乱暴なものに変わって行き、上からかかる力によって切り株の断面は蜘蛛の巣状にヒビ割れた。

 イクストゥスは反射的に攻撃を自慢の頭頂部で受けてアリエラの拳を損傷させたが、アリエラはお構い無しに腕を振り下ろし続け、イクストゥスの全身の骨と腱は悲鳴を上げ始める。


「オイオイ!」「やりすぎだぜ!!」「中止だ中止ィ!」

 どう見てもイクストゥスを殺す気で攻撃しているようにしか見えないアリエラに観客たちは野次を飛ばすが、直接止めに入る命知らずはいないようだ。


「メ、メイメイ止めようよ!」

「いや……そろそろ決着ですよ」


 レイメイは軽く顎をしゃくってピチカに切り株の方を見るように促す。


「ギギギギギギ……!!」 

 ピチカが目にしたのは口から不気味な音を出しながら上体を逸らして頭突きの体勢を取る巨獣化したアリエラの姿であった。


「また頭突き!?」

 ピチカは先程の頭突きのぶつかり合いのような閃光と衝撃を警戒し、翼腕で目と耳を覆った。


「グウッ──……「ガア゛ッッッ!!!」

 半ば意識を失っているイクストゥスは本能だけで頭突き合戦に応じるべく身体を逸らしたが、イクストゥスが頭突きを放つよりも早くにアリエラは獣化した両手脚で足場を抉りながら跳躍、すっかり髪は真紅に変色し猛り狂った雌獅子のそれとなった頭部を先頭に全身を弾丸のように射出した。


「カッ──「うぐぇ!?」──……ハァッ……!!」

 アリエラの飛び込み頭突きが命中したイクストゥスは胴体をくの字に折り曲げて飛んで行き、真後ろで観戦していた巨人の酔っ払いを巻き込みながら場外に落下した。


「──! 決着ゥ〜!! 優勝は『特級冒険者アリエラ』じゃあ〜!!」 

 イクストゥスの場外落ちを見るや否や喧嘩祭りの主催を務めていた身なりの良い鍛治小人(ドワーフ)がアリエラの優勝宣言をしながら切り株に降り立ち喧嘩祭りは終結した。



 ◇



「それで……優勝賞品の黄金の髑髏を見せて頂けるかしら? さあ早くッ!」

 祭りの終結後、自らと瀕死のイクストゥスに回復魔術をかけて全快したアリエラは主催者である身なりの良いドワーフを目当ての品を見せるように急かした。


「んん? なんで賞品の事を──……ヤンロンか?」

 身なりの良いドワーフはヤンロンの方へ鋭い視線を向けた。 


「グヘヘっ……すまんすまん! このオネーチャンがなんかドクロマニアだって言うからよぉ……」

「ほう……ではこの伝説の髑髏を手に入れるに相応しいかもしれんな! おい! ご開帳じゃ!!」


「ウッス……」

 手を叩きながら声をかけると、身なりの良いドワーフが乗っていた巨人は大事に抱えていた大きな酒瓶に巻かれていた布を取り払う。


 すると中から“黄金の髑髏のラベルが施された酒瓶”が姿を現した。


「どうじゃ!? 見事な髑髏じゃろうて!!

 大昔にここらの海域を荒らしまわった伝説の海賊『提督アダン』の故郷で造られていたラム酒を再現した銘酒『アダンの望郷』じゃあ!!

 今では中々手に入らん逸品じゃぞ!!」

 

 身なりの良いドワーフは誇らし気にコレクションを紹介し、酒の知識がある観客は感嘆の声を上げたが……


「ふぅん……すごいお酒なのね(ハズレか……)」

 盗難に遭った自らの蒐集物ではなかったため、「ハズレ」とは口に出さないものの落胆の色は隠せなかった。


「ありゃ? ご期待に添えんかったかのぅ……」

「あー……ワタクシが蒐集しているのは絵やラベルではなくて南方大陸で出土するような黄金髑髏だから……」

「グヘヘヘ! あの曰く付きのヤツかぁ!

 でも『アダンの望郷』だって相当いいモンだぞぅ? ……いらないんだったらおぃらに──」


「いらないなんて言ってないでしょう? お酒は好きだしありがたく頂戴させていただくわ。

 それにしてもアダンって最近聞いたような……?」

「アーちゃんが昨日(※第二十六話)やっつけた海賊じゃない?」


 優勝賞品が気になって降りてきたピチカがアリエラの疑問に答えた。


「あぁ〜……あの亡者(アンデッド)ね」

「なんと!? あのアダンがアンデッドとな……!?」


「『ゲダの指』だって言ってたよね〜」

「言ってたわ」

「マジかぁ……アンデッドとしてもやられたって事はアダン伝説も終いかぁ……そんじゃアダンを偲んで今日は弔い酒で宴だァーッ!! グヘへ」


「なんでもいいから呑みたいだけではなくて?」

「バレたか! グヘヘっ」


「でもせっかく故人縁のお酒がある事だし……皆で呑みましょうか?」

 目当ての品こそ手に入らなかったが、優勝して大らかな気分になったアリエラは銘酒『アダンの望郷』を希望者全員に振る舞う事にした。


「おぉ〜ッ!!」「いいぞーッ!」「太っ腹ァ!!」

「おいイクストゥス起きろ!」「んが!?」「ワハハハハ!」


 巨人基準でも大きな酒瓶に入っていたラム酒はアクンダク島にいた酔っ払い全員にギリギリ行き渡り、伝説の銘酒を皆で味わったのだが……


「う〜ん……?」「まあ……ラム酒だな」「ちょっと甘めかのぅ?」

「……おぃらは好きだぜぇ?」「こんなモンかぁ……」「柑橘で割るとイイ感じだな」


 あまり評価は高くなかった。


 だが皆で同じ酒を呑み感想を共有した事で初対面の者とも打ち解け、その後は各々のとっておきの酒を振る舞い合い、酒宴は大いに盛り上がった。


「……これ徹夜コースじゃない?」

「そうなるでしょうね……」

「まあ ここ数日ゆっくりできてなかったからボクらはボクらでゆっくりしようよ。

 そうだ! ダチュラと遊んでやっておくれよ」


 その間、酒を呑まない……或いは呑んでも酔えないピチカ・レイメイ・カメリアは暇を持て余したので、島の周りをダチュラと一緒に走り回って遊んだり、ピチカの神業(チートスキル)楽々御粧し(ドレスアッパー)】を駆使した高速ファッションショーで時間を潰したのであった。



 ◇



「あ゛〜……頭痛え……」「ウボロロロロ……」「オレはまだ呑めるぞぉ……」

「決めた……ワシ禁酒する……」「絶対無理だね! グヘヘヘヘ!!」「楽しむのはいいけれど……もっと上品に呑んで欲しいものだわ」


 翌朝……アクンダク島は酔っ払いたちの溢した酒と吐瀉物の異臭に満ち、頭痛に苦しむ呻き声の合唱会場と化していた。

 酒宴に参加した者で体調を崩していないのはアリエラとヤンロンだけである。


「わァ……地獄絵図……」

「……もう別の島に行きませんか? この島嫌なんですけど……」

「アリエラくんは無事そうだし出発しようか」

「ヒヒィーン!」


 出発の算段を立てていると、徹夜で酒を呑んだというのに元気なヤンロンが話しかけてくる。


「グヘへへ! 今日出発は無理だと思うぜぇ!!」

「……なんでですか?」


「そりゃ どの船もほとんどの船員が酔い潰れッちまってるからなぁ……早くても明日出航じゃねえかな? グヘヘへェ!」

 ヤンロンは呻いている酔っ払いの群れを指差して何が可笑しいのかはわからないが笑った。


「……ワタクシたちは船に頼らなくても海を渡れるのだからもう空を飛ぶなりなんなりして次の島に行きましょう?

 急ぐ旅ではないけれど無駄に同じ場所に留まるのはちょっとね……」

 アリエラは酔い覚ましに革袋の水筒入った水を飲みながら合流した。


「そうだね……あ、そうだ! 一般の船を使わないなら提案があるんだけどいいかな……?」

 カメリアは三人揃った『パリピ☆愚連隊』を見て何か思いついたようだ。


「なにかしら?」

「せっかく特級冒険者が三人……ピチカくんもボクの見立てでは一級冒険者並の戦力はありそうだしさぁ……組合(ギルド)総本部に向かいがてらこの面子で特級案件を幾つかやっつけてみないかい?」


 ──特級案件──

 それは読んで字の如く特級冒険者でないと手に負えないと判断された案件の事である。

 しかし特級冒険者ならば必ず解決できるかといえばそうでもなく、特級案件の解決に向かったっきり消息を断った冒険者は枚挙に暇が無い。

──────────


「面白そうね……ワタクシは賛成」

「私もいいですよ」


「あの〜……あーし二級なんだけど参加していーの?」

 軽く引き受けるアリエラとレイメイに対し、ピチカはおずおずと挙手してカメリアに質問した。

 

「特級と同じチームで二級以上の冒険者なら大丈夫だよ。あ ヤンロンくんもどうだい?」

「おぃら? あ〜……やめとくわ。オッサンが混じっても気まずいだろ。

 総本部の会合には参加するから近いうちにまた会おうぜぇ! 死ぬなよ!

 おいイクストゥス!! このオネーチャンたちが出発するってよ!」


 ヤンロンが声をかけると、回復魔術でアリエラとの戦いの傷が癒え、今は二日酔いの頭痛に悩まされているイクストゥスが歩み寄ってきた。


「デカい声出すなよ……あ゛〜頭痛え〜……。

 外側からも内側からも頭痛えなんて初めてだぜ……アリエラだったっけ? 次は負けねーからな?」

「フフ……次があれば一対一で最後まで()りましょう? 貴方ならワタクシの蒐集に加えてあげてもよろしくてよ」


「──それじゃあ行きましょうか……〈白毒雲〉!」

 別れの挨拶を済ませるとレイメイが口から雲を吹き出し、『パリピ☆愚連隊』メンバーとカメリアとダチュラを乗せてアクンダク島から飛び去って行く。


「達者でなぁ! 『ガブリエラ』様もまた来てくれよなー!! 今度は呑もうぜぇ!!」


「ギャッ……」

 ヤンロンに突然本名で呼ばれたピチカは出かかった悲鳴を飲み込んだ。


(『ガブリエラ』……? 誰かしら)

(ピチカさんってやっぱり……)

(まあ蒼い髪と瞳の女面鷲(ハーピィ)なんてそう何人もいないよね……)


「だダッ、誰のコト言ってんだろーね!? 酔っ払いはこれだからなー!!」

「全くね……人の名前も曖昧になる程酔うだなんて特級冒険者が聞いて呆れるわ」


 下手な誤魔化しでレイメイとカメリアはピチカの本名と素性を確信したが、世情に疎いアリエラは『ガブリエラ』が誰を指すのかよくわかっていないようだ。


 まだアリエラ以外の二人も自分の素性にはギリギリ気付いていないと思っているピチカを乗せて、〈白毒雲〉はカメリアの案内で特級案件の待つ島へと飛んで行くのであった。


──────────


「……なあヤンロン」

「おん? どしたぁ」


 アリエラたちの姿が見えなくなるまで見送った後、イクストゥスはアリエラの気になる発言について思い出し、ヤンロンに尋ねてみる。


「なんかアリエラに蒐集に加えてもいいとか言われたんだが、ありゃどういう意味なんだ?」

「あ〜……なんか強えヤツの心臓喰ってそいつのドクロを飾るのが趣味なんだってよ」


「なんだそりゃ!? アイツどこの蛮族だよ……」

「グヘヘ! かなり特殊な生まれだろうな!

 まあ実力を認めてるって事でいいんじゃねぇか? お前さんのドクロなら蒐集映えするだろうしな!

 そんな事より今度はお前さんの快気祝いに呑み明かそうぜぇ!!」

◇ヤンロン

真紅の鱗を持つ龍人の特級冒険者。

二つ名は『〈五龍仙酔拳〉のヤンロン』

本名『チン・ヤンロン』 37歳。

東方大陸中原の武術の名家の出身だが修行の一環で呑んだ酒に溺れて勘当されている。

『ワン五兄弟』の三男『東方公ワン・ソンフゥ』とは血の繋がった兄弟であるが、その事について聞かれると真顔になる。

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