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第二十六話 幽霊船団

登場人物紹介

◇アリエラ

主人公。魔王軍四天王最強の怪力と頭脳を持つ紅一点。

『殲滅女帝』の二つ名を持つ。

褐色肌にボブカットの黒髪、猫のような紅い瞳、獅子の耳と尻尾が特徴の獣人。

冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。

特級冒険者。

好きな幻獣はグリフォン。


◇ピチカ

蒼い髪と瞳にギザ歯が特徴のアクセサリー付けすぎなギャルっぽいハーピィ。

異世界転生者。チートスキル『楽々御粧し』の使い手。

冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』の一応リーダー。

二級冒険者。

好きな幻獣はドラゴン(肉)


◇レイメイ

魔王直属暗殺部隊『五毒姫』の末妹。

白い長髪と肌に鬼灯のように赤い瞳と愛嬌紅が特徴。

魔王特製の最上級キョンシー(札は丹田に貼っている)。

冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。

特級冒険者。

好きな幻獣はヒュドラ。


◇カメリア

中性的な顔立ちで金髪ポニーテールに緑基調の騎士装束のデュラハン(エルフ)の特級冒険者。享年224歳。

二つ名は『首愛でるカメリア』

自らのスタイルに絶対の自信があり、様々な美女や美少女の顔写真との合成写真を作成するのが趣味。

好きな幻獣はラミア(首から上だけ)


◇ダチュラ

カメリアの愛馬で白い首無し馬。メス。

周囲の会話内容は結構理解している。

好きな幻獣はペガサス。



 ◇



 アリエラが冒険者組合(ギルド)支部から出禁を食らった上にレイメイが依頼をほとんど一人で片付けてしまったため、チーム『パリピ☆愚連隊』とカメリアは同日夕方には特級冒険者『黄金のフィアラル』を追ってヤティグ島から出航し、次の島へ向かっていた。


 自分より冒険者としての経験が浅い二人に立て続けに階級を追い抜かれたピチカは船には直接乗らず、訓練のつもりなのかフェイスベールと踊り子衣装を身につけて船の周囲を舞いながら飛んでいる。


「わざわざ急いで探し回らなくてもさぁ……そのフィアラルくんも特級なら組合(ギルド)総本部の会合に来るんじゃないかな? 特権の授与もまだ済んでないだろうし……」 

「ブルルルッ……」


 カメリアはダチュラの頭を撫でながら、あまりに急ぐアリエラを少々呆れ気味に見遣る。


「ワタクシは『黄金のフィアラル』とやらではなくてフィアラルの買って行った髑髏に用があるの。

 ギルドの会合に来る前に売り飛ばされたり紛失されたら面倒じゃない……盗難防止の呪いも発動しているようだし……」

「まあ……それもそうか……」


「それよりも……特権って何の話かしら」

「え、アリエラさん特級になった時に聞いてなかったんですか……?」

「アリエラくんって……『栄誉の壁画』最速攻略で特級冒険者認定されたんだっけ? あそこの受付嬢って仕事が雑なんだよなぁ……。

 まあ特権についてざっくり言うと特定の依頼を優先して斡旋して貰えるようになったり、特注の武器や魔道具を作って貰えたりってとこかな。

 ボクはダチュラの蹄鉄に魔術かけて貰ったり、あとは写真の現像とか……」

 

「武器はもう間に合っているから必要無いけれど……そうね……ワタクシは猫ちゃんや猫妖精(ケットシー)ちゃん絡みの依頼を回して貰おうかしら。フフ……」

 アリエラはまだ見ぬ猫との邂逅を夢想して恍惚とした笑みを浮かべながら虚空を眺めた。


「(場合によって要望は却下されるってのは言わない方が良さそうだね……)

 レイメイくんは何にするんだい?」

「私は……蛇の魔物に関する情報でも貰おうかと……個人的には特権よりどんな二つ名が貰えるかが楽しみで──」 


「キィイ゛ヤ゛ア゛ア゛────ッ!!!!!」


 突如三人の会話を遮り、脳内を引っ掻き回されるような不快な金切り声が周囲に響き渡る。


「──ッ!? なんなのこの声は……」

「……ピチカさんじゃないですか? 何かと戦ってますね……」


 船の周囲を一人舞いながら飛んでいたピチカはいつの間にか似たような翼腕を持つ者の群れと金切り声を上げて激しく空中で争っていた。


 ──女面海鳥(セイレーン)と呼ばれる幻獣である。

 ピチカの種族である女面鷲(ハーピィ)の鷲部分を海鳥に変えたような姿をしており、美しい歌声で船を惑わせ沈没させる厄介者だ。


「あれは……セイレーンだね。

 どれ……好みの顔があるかもしれないしボクも参戦しようかな。ちょっとダチュラの身体を連れて来るね!」

 カメリアはダチュラの頭と共に船内に駆けて行った。 


「ワタクシたちの手助けは……必要無いみたいね」

「ですね。ピチカさん前にセイレーンの事ザコ扱いしてたくらいですし……」


「ピィイ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛ッ!!!」

 二人が話している間にもピチカは凄まじい軌道を描いて飛び回りセイレーンたちを圧倒、幻惑の歌声は逐一金切り声で掻き消し、隙を見ては鳥脚で頭を掴んで海面に激しく叩きつけて撃破していく。


「ピチカさんって……意外と殺しに躊躇無いですよね」

「まあ異世界人とは言ってもハーピィとしてこの世界で生きた時間も長いでしょうからね……ワタクシたちは他の乗客や船員の警護でもしましょ」


 特に心配するでも無くアリエラとレイメイが伏兵や新手に注意を配り始めた頃になると、カメリアがダチュラに騎乗して霊体化状態で甲板をすり抜けて現れた。


「お待たせ──ってもう終わっちゃったみたいだね」

 カメリアがピチカの戦っていた方向を見遣ると、セイレーンの群れの最後の一羽にピチカが蹴りを入れて海に叩き込んでいる瞬間が目に入った。

「ヒヒィン……」

 戦う気マンマンだったダチュラは残念そうに嘶く。


「いやぁ〜ビックリした〜☆」

 少し間を置いてセイレーンを殲滅し終えたピチカが船の甲板に着地した。


 他の乗客もピチカがセイレーンから船を守った事は理解しているが、金切り声を上げて暴れ回る姿が衝撃的だったのか無意識に距離を取った。


「ビックリしたのはこっちですよ……」 

「ゴメンゴメン☆ セイレーン相手ならあの戦い方がイチバン楽だからさ〜……まだなんか来るかもしれないから念のためにアーちゃんに金ピカドクロ被せとくね。ホイッ☆」

「そうね……さっそく()()()()がいらっしゃったみたいよ──〈暴嵐帝(セト)〉!!」


 ピチカの神業(チートスキル)楽々御粧し(ドレスアッパー)】で黄金髑髏を頭に乗せたアリエラは、すぐさま〈暴嵐帝(セト)〉を発動。

 黄金髑髏の眼窩に赫い光が宿り、アリエラの魔力は揺らめく炎のような赫色から烈しい雷を伴う青紫色の嵐のように変質した。


「へえ……! そのドクロってそうやって使うんだね」

 黄金髑髏の事を“呪いの置物”程度にしか思っていなかったカメリアは興味深そうにアリエラの魔力の変化を観察する。


「関心している場合ではなくてよ。

 そのまま戦闘態勢を維持していて頂戴ね。

 海の底から明確な害意を持ったナニかが浮上して来るわ」

 

 アリエラの警告の直後、陽が落ちて真っ暗になった海面を突き破って半ば朽ちた八隻の帆船が周囲を取り囲むように出現した。

 正面に出現した一際大きな船の帆には湾刀(サーベル)と砂時計を持った骸骨が描かれている。

 誰がどう見ても海賊の幽霊船である。


 あまりにもベタな幽霊船っぷりに一行が呆気に取られていると、幽霊船の船長らしき人影が粗末な拡声器(メガホン)を使って話しかけてくる。


「お前らかぁ!? ウチのセイレーン共を()ったのは!!」


 そのしゃがれた怒鳴り声の内容に近くの船員や乗客の視線が一斉にピチカに向けられた。


「え゛っ……あーしのせい!? まあそうか……。

 はいはーい! あーしが()りましたー!! なに? あやまればいいのォ!?」

 ピチカは観念して素直に名乗り出たが、先に襲ってきたのはセイレーンだった上、味方に特級冒険者が三名(内二名は魔王軍幹部)がいるため反省の気持ちは感じられない強気な態度で答えた。


「テメッ……なんだその態度はゴルァ!!」

 ピチカのナメた態度が声から伝わったのか幽霊船の船長らしき人影は船首から身を乗り出し、その姿を露にした。


 船長は羽根付き三角帽子(トリコーン)を被り、薄汚れた真っ赤な肩章(エポレット)付きコートを羽織って腰にはサーベルを下げていかにも「海賊船長です」と言わんばかりの格好をしていた。

 その左目には眼帯(アイパッチ)、左手は鉤爪状(フック)の義手、左脚には丈夫な木の棒で出来た義足が付いている。

 そして当の船長自身は殆ど白骨化していると言って差し支えない干からびた身体の亡者(アンデッド)であった。


 似たようなアンデッドの配下たちはバンダナとボーダーのシャツを身に付けている。


「海賊欲張りセットだ!」

 要素過多な船長の見た目にピチカは思わず感想を口に出してしまった。


「なんだその威厳の無い呼び方はァ!!

 オレは『ゲダの指』が一柱(ひとはしら)體涜(ていとく)アダン』だ!

 そこのハーピィ! テメェは(バラ)してサメの餌にしてやる!!

 残りの連中は我が船団に加わる栄誉をくれてやるぜぇ! 野郎共ッ!! 大砲放てェッ!!」

 アダンがサーベルを勢いよく引き抜いて振りかざし配下に号令を出す。


「「「「──!!! …………?」」」」

 ……だが大砲は発射されず、辺りは気まずい沈黙に包まれた。


船長(キャプテン)! ずっと潜水してたからか火薬が湿気っちまって使えませんぜ!」

「なにィ〜? ……じゃあ直接乗り込めェ!!

 一人残らずブチ殺してオレらの仲間入りさせてやれィッ!!」


 再びアダンが号令を掛けると配下たちは一斉に鉤縄を取り出して振り回し、文字通り四方八方から投げ放ったが──……


「──〈暴嵐帝(セト)〉を発動した以上船には擦り傷の一つも付けさせなくてよ」 

 いつの間にかアダンの背後に浮遊していたアリエラがそう言うと船の周囲を不自然な強風が通り過ぎ、見る見るうちに青紫の魔力を帯びた風の膜を形成、膜にぶつかった鉤縄は虚しく海に落ちていった。


「んなッ……!? テメェいつの間に!?

 あの風の膜……大した術だが……マヌケかテメェ〜……術者本体から近寄って来るとはよォ!! 野郎共ッ!」

 背後を取られて少し動揺したのかよろめきながら後ずさったアダンだったが、すぐに気を取り直して配下に攻撃を命じる。


「「「了解(アイアイ)船長(キャプテン)!!!」」」

 配下たちは号令に応じて各々サーベルや銛を持ってアリエラに踊りかかった。


 ……がしかし碌な魔力も込められていない武器で攻撃したところでアリエラには全く効果は無く──というかそもそも当たってすらいない──反撃されたアダンの配下は次々とアンデッドから物言わぬ屍に変えられていった。


「航海の邪魔だから他の船ごと処分させて頂くわね──……(ピシャアッ!)

 アリエラがアダンの船団の他七隻の船を見遣って軽く指先を振り下ろすと昼間よりも眩い光が瞬き、その直後凄まじい八つの雷鳴がほぼ同時に響くと、アダンの船団は船員のアンデッドごと粉々に弾けた。

 

「ウワぁあ あ あ あ あ(バチバチバチバチッ)!!!」

 雷に全身を貫かれてもアダンは配下たちより頑丈なので意識を保ち、滅びずに済んだ。それでも身体の大半が炭化して消失するという未知の感覚には恐怖を禁じ得ず絶叫した。


 辛うじて手首辺りまで焼け残った右腕を使って木片につかまり浮いていたアダンの近くにアリエラが面倒臭そうな表情をして現れた。


「……今ワタクシちょっと急いでいるの。無駄に粘らないで頂戴」

「かッ……あガ……テメ……何者」


「ワタクシ? 魔お──……通りすがりの特級冒険者よ」

 危うく“魔王軍四天王”と言いかけたが、アリエラはなんとか堪えた。


「そうかッ……もしや……最近『潰帝(かいてい)』と『白鎧(はくがい)』を()ったのもテメェか……!?」

「カイテイ……は確かに斃したけれど……ハクガイ?はよく分からないわ。

 (レイメイが斃していた(※第十話参照)骨のアンデッドの事かしら)」


「ははっ……そうか……少なくとも『ゲダの指』を二本は折ったってワケかい……。

 終わりだよテメェ……何本も指を折られて『導師ゲダ』が黙ってる筈が無え!

 いずれ『指輪付き(エンゲージド)』がテメェを消す! ざまあみろだ!! ハーハハハハハハ ガッ(グシャ)……!!」


 高笑いをしていたアダンの頭をアリエラは無言で握り潰した。


 すると霊体化したダチュラに騎乗して宙を駆けて来たカメリアが話しかけてくる。


「おつかれアリエラくん。

 ンフっ……『ゲダの指』最高幹部『指輪付き(エンゲージド)』かあ……美女揃いだって噂だからボクとしては是非お目にかかりたいなぁ……」


「そうね。まあ美女とは言ってもワタクシ程ではないでしょうけれどね」 

「違いないねぇ! ンフフっ……。

 いや〜しかしすごい殲滅力だったね!

 ……ん? ()()──? ってどこかで……」


「──さあ! さっさと木片をどかして航海を続けて貰いましょ! 先に船に戻って船長さんに伝えて頂戴!!」 

 アリエラはピシャリと手を鳴らしてカメリアの言葉を遮り、ハキハキとした声でカメリアに指示を出した。


「え、ああ……そうだね。よし! ダチュラ! ハイヨーッ!!」

「ヒィーヒヒヒヒヒヒヒィン!」



 アリエラはカメリアとダチュラが船に戻るのを確認してホッと息をつく。


(危なかった……今ワタクシが『殲滅女帝』だってバレかけてたわ……)


 なんとか正体を誤魔化し、木片を吹き飛ばして撤去したアリエラも船に戻り、次なる目的地である『巨人の宴会場・アクンダク島』に向かうのであった。

◇セイレーン

幻獣の一種であり鳥類。

ハーピィの鷲部分を海鳥に変えたような姿をしている。

美しい鳴き声で歌い、船乗りを幻惑して船を沈没させて乗組員を喰らう。

ハーピィと違って言語は解さない。

同種や亜種だと思われて攻撃される事があるため、ハーピィはセイレーンを嫌っている。


◇『指輪付き(エンゲージド)

カルト死霊術師団『ゲダの指』最高幹部の事。

全員美しい女性のアンデッドと噂されるが真相は不明。

左手の薬指に『導師ゲダ』が付けている物と対になる指輪をしているとされる。

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