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第二十三話 あの無人島

登場人物紹介

◇アリエラ

主人公。魔王軍四天王最強の怪力と頭脳を持つ紅一点。

褐色肌にボブカットの黒髪に猫のような紅い瞳の獅子獣人。

冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。

特級冒険者。

写真を撮る際は無意識のうちにキメ顔になる。


◇ピチカ

蒼い髪と瞳にギザ歯が特徴のアクセサリー付けすぎなギャルっぽいハーピィ。

異世界転生者。チートスキル『楽々御粧し』の使い手。

冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』の一応リーダー。

二級冒険者。

写真を撮るとよく目が半開きになっている。


◇レイメイ

魔王直属暗殺部隊『五毒姫』の末妹。

白い長髪と肌に鬼灯のように赤い瞳と愛嬌紅が特徴。

魔王特製の最上級キョンシー(札は丹田に貼っている)。

冒険者チーム『パリピ☆愚連隊』所属。

四級冒険者。

写真を撮ると顔が引き攣る。


◇カメリア

中性的な顔立ちで金髪ポニーテールに緑基調の騎士装束のデュラハン(エルフ)の特級冒険者。享年224歳。

二つ名は『首愛でるカメリア』

自らのスタイルに絶対の自信があり、様々な美女や美少女の顔写真との合成写真を作成するのが趣味。

自分の顔写真は撮らない。


◇ダチュラ

カメリアの愛馬で白い首無し馬。メス。

周囲の会話内容は結構理解している。

写真を撮られるのはあまり好きではない。



 ◇



 南東群島──……。

 複雑怪奇な潮の流れの海域で中央・東方・南方大陸と『風の女神』の支配領域である南東大陸本土を隔てる島々の総称である。


 元々はこの世界最大級の大陸である南東大陸の一部であったが、遥か上空で舞う『風の聖女』たちの起こす風雨と海流に長年曝された結果、大陸の約三分の二が侵食によって削られ大小様々な島と化しており、主に巨人やそれに類する種族が暮らしている。


 自由を何より尊ぶ『風の女神』の支配領域であるためか非常に大らかな気風の文化圏である一方、ある日突然新たな小島が出現しては嵐や海流に侵食され消えていき、その度に海流が変化してしまう上に『風の聖女』たちの気紛れで吹き荒れる暴風によって熟練の船乗りでも苦戦する魔の海域である。


 そんな評判の海域を『パリピ☆愚連隊』一行と冒険者組合(ギルド)総本部まで一時的に同行している首無し妖精(デュラハン)の特級冒険者『首愛でるカメリア』とその愛馬である首無し馬(コシュタバワー)のダチュラを乗せた大きな帆船は特に嵐や波に脅かされる事も無く平穏な航路を進んでいた。


「もぉ〜……! 絡まないでくださいよ〜……!」

「ちょっとだけ! とりあえず一瞬でいいから首の取り替えっこしよう? 絶対楽しいから!!

 ボクの顔が好みじゃなかったらコレクションの生首も貸すからさぁ!! ねっ?」

「カメリーがなんかコワい事言ってるぅ〜……」


 レイメイの首が取り外し可能であるという事を知ってからカメリアは、甲板を走り回り執拗にレイメイを謎の遊びに誘っている。

 ピチカはいつの間にかカメリアの事を『カメリー』と呼び始めていた。


「ピチカさんが余計な事言うからでしょ……」

「ゴメンて……」

「……そういえばピチカくんは最初にボクの姿を見た時にレイメイくんのお姉さんかどうか聞いてたけど……もしかして姉妹揃って首が取り外しできるのかな?

 よかったら今度紹介して──」


「……ちょっとカメリア? あまりにしつこいようだとその首を身体と繋げてしまうわよ?」

 レイメイ個人ならまだしも『五毒姫』全体に詮索が及ぶのはさすがに目に余ったのかダチュラの頭を小脇に抱えたアリエラが冗談半分で脅しをかけた。


「……ッ!? なんて恐ろしい事を言うんだアリエラくん!

 というかキミこそダチュラの頭捕まえるのやめておくれよ」

「今のそんな恐ろしいセリフだったかしら……?」

「ヒィ〜ン……」

「デュラハン的にはヤバかったんじゃない?」


 アリエラの脅しが効いたのかカメリアはレイメイへの首の取り替えっこ遊びの誘いを止めておとなしくなり、アリエラもダチュラの頭を解放し、ダチュラは自らの身体の居る船内厩舎に逃げて行った。


「ふぅ〜……それにしても南東群島の海域にしては珍しく今日は嵐も無くて心地良いねぇ。

 ピチカくんは確か南東育ちだよね?こんな日もよくあるのかい? ……ピチカくん?」

「え? あー……まあたまにはあるよ?」


「どうしたんだい? 頻繁に耳を塞ぐような仕草してるけど……まだ女面海鳥(セイレーン)を警戒するような海域じゃあ無いだろう?」

「セイレーンはザコだし別に気にしてないけど……あー……なんか耳鳴り? みたいな?

 ──ん? わぁ……! みんなあれ見て!!」


 カメリアの心配を曖昧な返事で受け流したピチカは視線の先に何かを見つけて声を上げた。


「びっくりした……なんですか?」

「……? ただの無人島じゃない」

「そうだね。特に変わった様子は見受けられないけど」


「みんなマジで言ってんの!? あーしあんなん初めて見たよ!! あんな……あんな絵に描いたような無人島!!」


 興奮気味のピチカの翼腕が指す先には“海面から露出した半球状の小さな陸地のど真ん中に立派なココヤシの木が一本聳え立っている”という、落書きをそのまま具現化したような無人島があった。

 

「あー……言われてみれば確かにベタな見た目の島だね」

「そんな興奮するほどの事ですか?」

「んもー! ノリ悪いなー!! ちょっとあーし行ってくるね☆」


 ピチカはそう言うとアリエラの黄金石棺(サルコファガス)から自分の大きなリュックを取り出し、鳥脚で文字通り鷲掴みにして羽ばたき始める。


「船の位置が分かる内に戻って来て頂戴ね?」

了解(りょ)! 行ってきまーす☆」


 ピチカは無人島に向かって飛び去って行った。


「ンフフっ……元気だなぁ。

 ところでレイメイくん。いくら払ったら首外してみせてくれる? 言い値で払うよ?

 あとボクも“メイメイ”って呼んでも──」


「あっ 私も無人島に興味出てきたんで行ってきますね! 〈白毒雲(はくどくうん)〉ッ!!」

 レイメイは再び絡んできたカメリアの話を遮り、口から吹き出した〈白毒雲〉に乗ってピチカを追った。


「あっ待っておくれよレイメイく〜ん! もうお金の話とかしないから〜!

 アリエラくん! ボクも行ってくるからダチュラとボクの身体と荷物見ててね!」

 カメリアは首だけで無人島に飛んで行き、船に残ったカメリアの身体はアリエラと肩を組んで待機状態に入った。


「なんなのよもう……」

 流れで留守番が決定したアリエラはカメリアの手を肩から退けながらボヤいた。



 ◇



「〜♪」

 無人島に到着したピチカはリュックを砂浜に放り投げると、意気揚々と飛翔してココヤシの木に生っていた実を脚で掴んでもぎ取り、リュックの近くに集め始めるとレイメイとカメリア(頭部)も島に到着した。


「ピチカさん何やってるんですか?」

「あっメイメイとカメリーも来たんだ!

 ココナッツジュース飲もうと思って集めてたんだ☆

 二人も飲む? 船で水もらうとお金かかっちゃうから節約だよ節約☆」

「あんまり美味しくないって聞くけどね」


「あー……ね たしかにけっこう薄味だけどそこはまあ雰囲気(フインキ)込みで楽しむもんでしょ☆ じゃあ今から穴開けるね! ガヴッ!! ……んギギッ……!」

 ピチカはココナッツに鋭いキバを突き立てて食いちぎると、その堅い繊維を吐き出さずに咀嚼して呑み込んでしまった。


「うおっ……大丈夫なのかい? 歯ァ折れてない?」

「折れてもすぐに生え変わるからヘーキヘーキ☆」

「そういえばそのキバってサメ魚人由来ですもんね。

 ……私も一個貰いますね──ふッ!!」


 レイメイはココナッツを氣で強化した手刀の横一閃で綺麗に切断して見せると、ココナッツの中から芳醇な甘い香りが周囲に漂い始めた。


「おお〜……いい匂〜い♡ このココナッツ当たりのヤツなんじゃない!?」

「レイメイくん! ボクも飲みたいから割っておくれよ」


「しょうがないですね……よっ……と」

 レイメイはココナッツを右手に取ると宙に放り投げ、一瞬伸びた手刀で断ち割り中の果汁を一滴も溢す事無く再び右手で受け止めた。


「おぉ〜ありがとう……レイメイくん今手ェ伸びた?」

「目の錯覚です」


「あーしストローとちっちゃいパラソル持ってるから挿して飲もう! バカンス気分だね☆」

 ピチカはリュックを漁って麦わらのストローとドリンクの飾り用の小さなパラソルを人数分取り出した。


「おっ いいね。ボクのにも挿しておくれよ」

「なんで頭だけで来ちゃったんですかもう……ホラできましたよ」


「ンフっ……ありがとう。では早速……」

 カメリアがストローを咥えてジュースを啜ろうとしたその時、ピチカの待ったが入った。


「あ、ちょっと待って! せっかくだからそれっぽいカッコに着替えるね。えいッ☆」

 特に必要ないかけ声と同時にピチカは神業(チートスキル)楽々御粧し(ドレスアッパー)】を発動し、服を旅装束からカラフルな袖無しワンピースに替え、髪には大量の海を連想させるアクセサリーを付け頭に星型のサングラスを乗せた。


「ちょっ……ピチカさん……!」

「……!? ピチカくん今どうやって着替えたんだい?」

「えっ? あ……まあしばらく一緒に旅するんだし秘密にするのも悪いかー……あーし異世界転生してるんだ☆」


「へえ……じゃあ今のはチートスキルかあ……」

「そーだよ☆ あーしのスキルは【楽々御粧し(ドレスアッパー)】……!」

「そんな簡単にバラしていいんですか?」


「カメリーって異世界人とかキョーミなさそうだし……あ、いい意味でね?」

「そうだね。便利で良いチートスキルじゃないか」

「まあ気にしてないならいいんですが……」

 

「メイメイも着替えるぅ?」

「そうですね……お願いします」


「オッケー! えいっ☆」

 ピチカがまたかけ声を出すと、レイメイの旅装束は白いフリルワンピースとビーチサンダルに替わり、頭には大きな麦わら帽子が乗った。


(1.身体が伸びる

 2.船で旅をしている

 3.麦わら帽子を被っている

 メイメイはル◯ィだった……!?)

「ほぉ……他人も着替えさせられるんだねぇ……帽子似合ってるよォ〜……レイメイくん♡」

「ひぇっ……早く飲みましょう! さっさと戻らないとアリエラさんが拗ねちゃいますよ!」


「そだね……じゃあいただきまーす☆

 んっ……甘ーい!!」

「意外にとろみがあるね……」

「美味しいのは良いんですけど……これ本当にココナッツなんですかね?」


「「「………………」」」

 レイメイの言葉で三人は一瞬嫌な沈黙に包まれた。


「なんだかキナ臭くなってきたね……ボクは一応亡者(アンデッド)だから毒の類は効かないと思うけど……ピチカくんとレイメイくんは大丈夫そうかい?」

「(実は私もアンデッドですけど……)大丈夫です」

「あーしも今んとこ大丈夫……」


「ふむ……即効性の毒じゃあ無いってだけかもしれないし、解毒剤が必要になった時のためにいくつか実を持ち帰っておこうか。

 本当に毒が無いならアリエラくんへのお土産って事で」

「味わった感じ毒は無さそうでしたけど……誘い込まれたかもしれないですね」

「マジ? じゃあ急いで戻ろっか! カメリーも一緒に運ぶから一旦リュックに──ギャヒィ!?」


 三人が急いで船に戻ろうとしたその時、小さな無人島が大きく傾いた。



 ◇



「なんだか楽しそうね……」

 島が傾くほんの少し前……船に残ったアリエラはもたれかかってくるカメリアの身体を押し退けながら、石棺から取り出した黄金の遠眼鏡で無人島の様子を眺めていた。


(ワタクシも……いやダチュラと荷物を置いていくのは良くないわね……おとなしく待つとしましょ──(ザバァアア!!)……!?)


 アリエラが遠眼鏡をしまって船内厩舎のダチュラの様子を見に行こうとした瞬間小さな無人島が傾き、ちょうどココヤシの木の葉の真下辺りにびっしりと牙の生えたしゃくれた大口が開き、丸々と太った巨大なチョウチンアンコウのような魚の魔物が浮上した。

 ココヤシの木が生えた無人島だと思っていた部分は魔物の頭部の瘤と擬似餌だったようだ。


「魔物……!? カメリア(身体)! 行くわよッ!!」

 アリエラは当然返事のできないカメリア(身体)に一応声をかけてから担ぎ上げ、カメリア(身体)が感電しないように気を遣いつつ全身に赫い雷を纏って跳躍、海面に浮上した魔物の背中に落雷と化して衝突した。


「ギジャアアア゛アアァアァアァア゛!!!」

 魔物は感電し、全身から煙を出して痙攣しつつも悍ましい叫び声を上げ、乱杭歯を剥き出しながら飛んで逃げようとしているピチカたちに喰らい付こうとしたが──


「ンフフっ──ボクの身体も連れて来てくれてありがとうアリエラくん」

 

 ピチカの鳥脚に鷲掴みにされていた運ばれていたカメリア(頭部)が呟くと、カメリア(身体)は蕾の柄飾りの付いた剣を鞘から引き抜きながら魔物の首付近に跳躍した。

 カメリア(身体)が鞘から抜き放った切先の無い直剣──処刑剣に黒い靄のような魔力を纏わせ、空中で身を捻り回転して処刑剣を振り抜くと魔力によって斬撃が拡張されて飛んで行き、巨大なチョウチンアンコウの魔物の首を通過した。


「──……? カア゛ッ……!!」

 一拍置いて頭は胴体と泣き別れとなり、鮮血が海を赤く染め魔物は沈黙した。


「やるじゃない……さすがは特級冒険者。

 では船に戻りましょうか」

 アリエラはカメリアに賛辞を送りながら再び担ぎ上げ、来た時と同様に赫い雷を纏って跳躍し、甲板を傷付けないよう勢いを殺して船に着地した。



 ◇



「お客さん方よォ……俺らは金貰ってる以上お客さんの命と財産を護らなきゃなんねぇんだからよ……勝手に船から出てトラブル起こされちゃたまんねーんだワ。

 俺の言ってる事わかるだろ? 自分らで解決できりゃ何やってもいいと思ってんのか? ん?」


 この騒ぎに船長は大層ご立腹だった。


「ハイ……あっ、いえ思ってないです……すみませんでした……」

 これにはさすがにピチカも深く謝罪した。

◇『風の女神』

南東群島と南東大陸を支配する女神。

蒼い髪と瞳を持つとされている。

何よりも自由を尊ぶ女神として有名。別名『自由に囚われた女神』

踊り子や旅人、盗賊などの守護者。

殺人よりも監禁などの自由を奪う行為を禁忌とする。

現在は多人数の優れた踊り子を器として支配領域の上空で嵐を起こしながら踊り続けている。

決まった名前を持っておらず、どうしても固有の名前で呼ぶ必要がある場合は取り憑いている器の踊り子の名前で呼ばれる。

器の踊り子たちはそれぞれ異なる風を司っており、強大な風や恩恵のある風を司る器は信徒が多い。

聖獣は翼のある生き物と猫。

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