表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/94

第二十話 『中指のシィシア』

登場人物紹介

◇アリエラ

主人公。魔王軍四天王最強の怪力と頭脳を持つ紅一点。

褐色肌に短めの黒髪に猫のような紅い瞳の獅子獣人。

特級冒険者。

現在赤チャイナドレス着用中。

石棺を盗まれて憤慨中。


◇シィシア

魔王直属暗殺部隊『五毒姫』の四女。

赤いハーフツインの髪に澱んだ黒い瞳が特徴。

四天王立候補者としてアリエラに挑戦中。




 ◇



 『朱帝會』本部はウーヴ皇国ではかなり珍しい三階建て且つ四合院造りでもない大きな館で、パウシャオの言った通り土地勘の無いアリエラにも簡単に見つけ出す事が出来た。

 南都イマニムでも有名な『饕餮宮』や『ヴロッドランズ協働會』が立て続けに崩壊し、今度は『朱帝會』本部付近に凄まじい落雷が発生したため一般人は都市の中心部から避難し、周囲は静けさに包まれている。


 その静まり返った大通りをアリエラはつかつかと歩き、屋敷の門扉の前に着くと躊躇なく蹴破り前庭に侵入すると、そのまま正面玄関に向かって歩いて行く。


 暴力組織の敷地に荒々しく侵入したというのに構成員は駆けつけて来ない。


「アリエラ様でスね゛? 中へドうぞっ……」

 それどころか玄関ドアの脇に立っていた朱色のスーツをきたガタイの良い強面の男がドアを開き中へ入るように促してくる始末だ。

 アリエラは男の呂律が回っていない喋り方と顔に貼り付けられた呪符を見て『朱帝會』は既にシィシアの手中に落ちたのだと理解した。


「……ワン・イェンジューも僵尸(キョンシー)になってるのかしら?」

「いエ。會長(ボス)は保護しテあり(ます)


「保護ぉ……?」

「妊娠してイたそウデす」


「ああ……それじゃ殺すに殺せないわね」

「アの……そろソろ中へ……巻キ添えが出ないヨうに結界で館を封鎖しまスのデ……」


「そう。ドアボーイご苦労様」

 男に館の早く中へ入るよう急かされたアリエラは気の無い労いの言葉をかけながら進むと、静かにドアが閉じられ館の窓から見える景色は淡く輝く赤い障壁に遮られた。



 両階段の吹き抜けになっている館のエントランスには、一階から三階まで玄関脇にいた男と同じく顔に呪符を貼られた屈強そうなキョンシーたちがズラリと並び、獣人や鳥人が中心の彼らはそれぞれが生前の愛用武器を持ち不動の姿勢で待機している。

 

 そして二階の張り出し部分に今回四天王立候補者としてアリエラに挑戦してきた『五毒姫・中指のシィシア』が手摺りに頬杖を突き、不適な笑みを浮かべていた。

 『朱帝會』に構成員として潜入するために着ていたスーツを脱ぎ、勝負服である赤い長袍(チャンパオ)に着替えている。


「まんまと誘い込まれちまったッスねェ〜?」

「四天王立候補者からの挑戦は受けて立つようにと魔王陛下からのお達しだもの……面倒だからって無視する訳にはいかなくてよ。

 でも──……気を悪くしないで頂戴ね?

 『五毒姫』長女の『スーシャン』ならともかく貴女は四天王になるには少し戦闘能力不足だと思うのだけれど……大丈夫?」


 アリエラは本心からシィシアの事を心配したのだが、当のシィシアには挑発または侮辱しているようにしか聞こえない。


「あ゛……? ふーッ……まあ確かに正面切って戦うよりは不意打ちのが得意ッスけどね……職務放棄して自分探し(笑)の旅に出ちゃうヒトよりかは向いてるんじゃないッスかね」

 一瞬見せた殺気をすぐに収めたシィシアはアリエラを挑発し返した。


「う゛……それを言われると……もうさっさと始めましょう! いい!?」

「逆ギレしないで欲しいんスけど……さっさと()ろうってのは同感ッスね。

 ……()れェッ!!」


 シィシアが中指を立てて号令を出すと同時に投擲武器を持ったキョンシーが一斉にアリエラに攻撃。

 アリエラはその殆どを紙一重で躱し、躱しきれない飛刀や針などを手先で弾き落としその内何本かを指の間や歯で止め、一拍遅れで近接武器を振り回して襲いかかって来たキョンシー目掛けて投げ返した──……がシィシアによって自我も痛覚も奪われているキョンシーたちは顔や身体に突き刺さる針などは意に介さず武器を振り抜く。

    

「ガァあああ゛ア!!」「ウガァあア゛ああ!」   「ル゛オオああア゛!!」「ギぁオオ゛ぁアア゛!」


「チッ……これだから亡者(アンデッド)は……!」

 アリエラはキョンシーたちの振るう東方大陸中原で古くから使用されてきた様々な武器を素手で捌いて叩き折り、すかさず拳・肘・蹴り・尻尾を叩き込み反撃する。

 しかしキョンシーたちは生者ならば悶絶や失神はするであろう重傷を負っても構わずに〈朱雀猛蹴撃(すざくもうしゅうげき)〉の第二段階の渾身の蹴りを繰り出してきた。


「そんじゃあ時間稼ぎヨロ〜ッス♪」

 奮闘するアリエラを尻目にシィシアは手をひらひらと振りながら奥のドアの中に引っ込んで行き、直後エントランスが赤い障壁によって他の部屋から隔離された。


(“時間稼ぎ”……ワタクシ相手に準備不足で戦いを挑んだというの……!? 不敬が過ぎるわ!!)

 アリエラはシィシアが自分との戦いにルールの範囲内で全力を尽くしていないと感じ憤慨……蹴りを入れてきたキョンシーの脚を掴むとそのまま武器代わりに荒々しく振り回し他のキョンシーたちにぶつけ始めた。


 掴んでいたキョンシーがボロボロになれば投げ捨てて別のキョンシーを掴んで振り回す……この行程を三回程繰り返し最終的には両手に一体ずつのキョンシーを掴んで振り回し、階段を登りながらエントランスのキョンシーを殲滅しドアの前に到着した。


「さて……お灸を据えに行きましょう……かッ!!(バキャッ)

 アリエラは拳に炎を宿し、結界障壁ごとドアを粉砕した。


「ほォォオッああ゛ッ!!(バシュッ)

 ドアの奥は正面に長い廊下が伸びており、その突き当たりに待ち構えていたサル獣人のキョンシーが槍を豪速でアリエラ目掛けて投擲した──


「ふッ……返すわッ!(ドバシュッ!)


が……アリエラは凄まじい速度で反応し身を捻りつつ後方へ跳躍しながら槍を掴み、サル獣人に投げ返した。


「ホキャあ!? ……ッ!」

 エントランスで殲滅したキョンシーと同程度の性能ならば確実に眉間を貫いて斃せていたはずだったが、サル獣人は槍を躱し、壁に突き刺さった槍を引き抜いて館の更に奥に姿を消した。


「エントランスの連中とは一味違うようね」

 ちゃんとした戦力も用意していた事が確認できて少し機嫌を直したアリエラは廊下を進む。


 先程のサル獣人と同様の待ち伏せや罠があるだろうが、その場合は正面から粉砕するという気概でズンズン進んで行くと、廊下の左右に複数ある応接室のドアを柳葉刀で斬り刻みながらウマ獣人のキョンシーが突撃してきた。


ぬォお゛オ゛ッ!!(ヒュンヒュンッ)

 柳葉刀を持つ手を替えつつフェイントを織り交ぜながら蹴りも狙う曲芸染みた攻撃をアリエラは冷めた目でいなし、溜め息混じりに反撃する。


「フゥ……悪いけれど曲芸に付き合う気分では無いの」

ゴお゛ッ(ドゴォッ)!? かっ……ハァ……」

 ウマ獣人が放った蹴りを左手で受け止め、肘から小さな爆炎を発生させて加速させた右拳をウマ獣人の腹を殴り壁に叩きつけた。


「それに〈朱雀猛蹴撃〉はもう見飽き──(ズドォッ!)うぐぅ!?」

 アリエラの言葉を遮り、反対側にある応接室のドアを破った流れでシィシア渾身の蹴りがアリエラの背中にめり込む。

 アリエラの強靭な肉体に致命傷を与える程ではないが、ウマ獣人キョンシーへの追撃を中断する程度には痛かった。


「〈朱雀猛蹴撃〉に飽きたんならアタシの

螫蠍死踏拳(せきかつしとうけん)〉はいかがッスかァ〜?

 てか“うぐぅ!?”だって! ヒャヒャヒャヒャ!!」

「……ッ!!」


 まんまと一撃喰らわされた事で頭に血が上ったアリエラはつい振り返りざまにシィシアの顔目掛けて裏拳を放ってしまった。


「ヒャヒャッ──〈五毒飛頭降(ごどくひとうこう)『蠍』〉!!」

 アリエラの裏拳に押されて滑るようにシィシアの頭が胴体から分離。

 すると一瞬で赤い髪の二つ括り部分は巨大な蠍のハサミに、後ろ髪は蠍の毒針がついた尾に、そして澱んだ黒い瞳を除けば可愛らしい顔も醜悪な蠍のそれに変化し──……


「ワタクシとしたことがッ……」


……──ハサミで切断されたアリエラの右手が鮮血を撒き散らしながら宙を舞った。 

◇〈螫蠍死踏拳〉

蠍の象形拳から派生した殺人拳。

強烈な蹴りと武器攻撃を主軸にしている。

〈朱雀猛蹴撃〉に近いものがあるが、〈朱雀猛蹴撃〉とは逆に蹴り(または毒針)を見せびらかして注意を引き武器(ハサミ)でトドメを刺すスタイル。

シィシアもレイメイ同様自らの師父を殺害して免許皆伝となっている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ