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第十八話 饕餮宮崩壊

登場人物紹介

◇アリエラ

主人公。魔王軍四天王最強の怪力と頭脳を持つ紅一点。

褐色肌に短めの黒髪に猫のような紅い瞳の獅子獣人。

特級冒険者。

魔王国全体では四番手くらいの戦闘能力(状況によって多少変動)


◇ピチカ

蒼い髪と瞳にギザ歯が特徴のアクセサリー付けすぎなギャルっぽいハーピィ。

異世界転生者。チートスキル『楽々御粧し』の使い手。

二級冒険者。

昔居た〈朱雀猛蹴撃〉の道場では一番強かった。


◇レイメイ

魔王直属暗殺部隊『五毒姫』の末妹。

白い長髪と肌に鬼灯のように赤い瞳と愛嬌紅が特徴。

魔王特製の最上級キョンシー(札は丹田に貼っている)。

四級冒険者。

『五毒姫』の中では一番呪術師としての才能がある。


◇ガオ・パウシャオ

『饕餮宮』店主のハイオーク。

客が限界まで満腹にならないと退店を許さない。

ウーヴ皇国では『ワン五兄弟』に次ぐ強さを誇る。


◇シィシア

魔王直属暗殺部隊『五毒姫』の四女。

赤いハーフツインの髪に澱んだ黒い瞳が特徴。

『五毒姫』のなかで一番武器の扱いが上手い。


◇タイラン

『朱帝會』構成員のウシ獣人。

自慢の九環刀捌きで『朱帝會』の中でも一目置かれる存在だったが……クスリ、ダメ。ゼッタイ。



 ◇



「ちょっと落ち着いて聴いて下さる? そこに()()()()()()()大妖鬼(ホブゴブリン)やら朱いスーツのウシ獣人が襲撃してきたからワタクシは反撃したというだけで決して好き好んで暴れたワケでは──……」

 アリエラは猫を愛でる時(本人基準)以外では珍しく早口気味に『饕餮宮』店主ガオ・パウシャオへの釈明をしていた。


「そうかい……九環刀に朱いスーツって事はタイランのアホが壁に穴開けたのか?」

「壁はその……タイラン? に攻撃した時ワタクシが……」


「やりすぎだろ!! 弁償してもらうからな!

 しっかし『朱帝會』の連中は何やってんだ……襲撃されねえためのケツ持ちだろうがよォ〜……おい! そこのゴブリン共!! 逃げられると──(ドンッ)あ゛ん?」


 パウシャオがまだ辛うじて息のあるホブゴブリンたちに詰め寄ろうとしたその時、全身から煙を上げている竜人のような異形の者が壁の穴から飛び込んで来た。

 店の外での出来事を知らないアリエラたちはそれが吸血鬼(ヴァンパイア)化したタイランなのだとは思い至らなかった。


「ブフーッ……ゔッ……おぉオ゛おォあああア゛ッ!!」

 タイランは雄叫びを上げ威嚇したが、パウシャオを含めこの場にはそれなりに高い戦闘力を持つ者しかいないためまるで動じる様子も無く全員臨戦体勢に入った。


「ハァ……今度はなんなの?」

「なんだテメェは!? これ以上店壊そうってか!? ブッ飛べオルァ!!」


 パウシャオが拳を握りタイランの顔を殴り抜き、砕けた鱗と牙が飛び散ったが──……


「ガ阿゛ッ!? ブフーッ……グボっがボボ……」

言葉通り遥か遠くに殴り飛ばすつもりだったパウシャオの攻撃に対してタイランは数歩後ずさるだけに留まり、蠍のように変異した尾から床に広がるホブゴブリンたちの血を吸い上げると新たな鱗と牙が生え回復していく。


「ヴァンパイア……? ねえレイメイあれって……」

「『竜の血族』系っぽいですね……真祖がこの辺で暗躍してるんですかね」

「いや、ありゃあヴァンパイア(もど)き……“禁竜丹(きんりゅうたん)”の副作用だな。

 魔薬(ヤク)だよ魔薬(ヤク)! くだらねぇ……どこのボケだコイツ」


「オ゛ッ、俺の゛ッカヱせ!!」

 回復しきったタイランがシィシアに攻撃するよう命じられた獣人の女(アリエラ)を睨むと、自らの愛用している九環刀をアリエラが雑に指先で摘むように持っているのを目にし、僅かに残った自我が沸騰。命令以上にアリエラに対する怒りが先走り、右腕を振り上げ襲いかかって来たその時──


「〈屠絲魘縛(としえんばく)〉ッ!!」

──いつの間にかタイランの背後に回っていたレイメイが軽く手を振り引き戻すような動作を取ると、タイランの腕はほんの一瞬硬直し煙を上げて細切れになった。


 レイメイが巻き付けた輝鋼銀(ミスリル)糸がタイランの腕に喰い込み、ろくな抵抗も許さず切り裂いたのだ。

 西都でワン・ソンミンに使った際は抵抗どころか引きちぎられる憂き目に遭ったが、今回は存分にミスリル糸の威力を発揮し、レイメイは自信を取り戻した。


「ッギャア亜アアああ゛ッッ!?」

(そうそう……ソンミンさんが異常だっただけで本来このくらいは余裕で──……!?)


「んギィッ! ごォおオオッッ!!」

 タイランは即座に右腕の断面の血肉を泡立てさせると、あっという間に巨大な蠍のハサミを生やし、腕を切断したレイメイを無視してアリエラに襲いかかる。


「ちょっと! 今の流れで襲うならワタクシではなくレイメイでしょう!?」

 摘んでいた九環刀を放り捨て、胴体を両断せんと左右から迫るハサミを軽々と掴んで受け止めたアリエラは抗議した。


「確かに……何故わざわざアリエラさんに──あっ……(あれはシィシア姐さんの……!)」

 レイメイはタイランの背に貼り付けられた呪符を発見し、この刺客はシィシアからアリエラへ向けられた挑戦であると察しタイランへの追撃を中断。


 だがレイメイが追撃を中断したところで、アリエラが魔王軍四天王である事など知らないパウシャオは自らの客を害する侵入者を赦しはしなかった。

 

「テメェ!! 俺の客に何しやがるッ!!

 これからとっておきの“龍のフルコース”を振る舞うってのによォ!! 邪魔しやがってゴルぁあアアアア゛ア゛ア゛ァア゛ア゛!!!」

 怒りのあまり二回り程大きくなり狂戦士化したパウシャオの拳がタイランの身体を弾き飛ばし、猛追撃を繰り出されたが、アリエラ以外への攻撃を禁じられているタイランは身体を歪ませながら防戦一方で殴られ続けた。


「グウッ……オオぁア阿゛

          アぁあ゛ッ!!」

 それでもタイランはシィシアからの命令に従ってパウシャオには反撃せずに防御と回避に徹し、“禁竜丹”とシィシアの毒で強化された身体能力を駆使して縦横無尽に床・壁・天井を跳び回りスキを見ては蠍のハサミと尻尾でアリエラを狙うものの全て当たる直前で叩き落とされ、少しでも立ち止まればパウシャオが突撃して身体を粉砕してくる。


 凄まじい衝撃が立て続けに発生し部屋中の食器や調度品が散乱、特別頑丈に造られた『饕餮宮』をもってしても全体が軋み、不気味な音を立てて揺れ始めた。


「ちょっと店主! 落ち着いて頂戴!!

(レイメイが不自然に攻撃を中断……蠍のハサミと尻尾に加えて背中の呪符……シィシアの差し金ね。

 小突いて斃せる相手では無いし、かといって本気で攻撃すると店主に怪我をさせてしまいそうだし……何か良い手は……)

 ──! あったわ!」


 閃いたアリエラは瓦礫の中から先程まで自分が使っていた銀食器を手に取り頬張ると硬質な音を立てて銀食器を噛み砕き小さな破片に変え、攻撃のために近づいて来たタイランの心臓に狙いを定め──


ぷッッ!!(ボッ!)

──小さな爆炎と共に銀食器の破片を口内から散弾銃(ショットガン)のように飛ばし、タイランの心臓を破壊。


かフッ……(ブシュッ……)!? あ゛っ……」

 シィシアの毒の影響により過剰活性していた心臓から夥しい量の血が噴出した。


「擬きとはいえヴァンパイア……銀は効くでしょ──」

 アリエラがキメ顔で勝利を確信し、念のために手刀に魔力()を込めて首を刎ねようと構えたが……


「ブッ潰れろオルルァアア゛ァア!!!」

パウシャオが動きを止めたタイランの頭を鷲掴みにし渾身の力で顔面を床に叩き付けると、轟音を上げて貴賓室の床を突き破り、勢いあまって二階の床も貫き最初にアリエラたちが食事をしていた一階の円卓を粉々にしてようやく止まった。

 

 心臓と頭を破壊されたタイランは身体から青白い炎を上げると、あっという間に燃え尽き灰の山になってしまった。


「ねぇレイメイ……今回ワタクシはそこの壁を壊した事以外は被害者側よね?」

 アリエラは床の穴から一階の様子を窺いながらやや不安そうにレイメイに尋ねた。


「いや……う〜ん……あのヴァンパイア擬きって多分アリエラさんが殴り飛ばしたウシ獣人の……タイランさん? ですよね……。

 アリエラさんがやり過ぎたからあんな風になってしまったんじゃないですか……?」

「ああ……それで九環刀(この剣)に反応を……あれは話も聴かずに攻撃してきたから……ピチカはどう思──……ワタクシの石棺(サルコファガス)は何処?」 


 ピチカを黄金石棺の中にに避難させていた事を思い出したアリエラは周囲を見回したが、何処にも見当たらない。

 大きく目立つため見失う事はまずあり得ない。床の崩壊に巻き込まれて落ちたのだとしても大きな音がするのは確実なので気付いているはずだ。


「──シィシアが盗んだのかしら? アハッ……良い度胸だこと。

 これってアレよね? 不意打ちもアリでワタクシに勝てば新たな四天王になれるっていう……誘い込みたいってワケね」

「あっ……あ……! 最初に襲撃してきたゴブリンたちの別動隊の仕業かもしれませんよ! いくらチャランポランなシィシア姐さんでもアリエラさんから盗みを働くなんてそんな事っ……あるワケ……無いワケで……ヘ、ヘヒヒッ……」


 なんとか姐の擁護を試みたレイメイの語気はどんどん弱くなり、最終的には笑って誤魔化す事しかできなくなってしまった。


「……まあシィシアだって()()仲間ですもの……ワタクシだって疑いたく無いのよ? 本当よ?

 じゃあレイメイは『朱帝會』の方を探ってきて頂戴。ワタクシはゴブリンの方を潰してくるから。

 フン……〈葬送帝(アヌビス)〉が使えないから死体の修復もできないわ」

「了解です……」


 アリエラは騒ぎの間に全員息絶えていたホブゴブリンの襲撃者たちを一瞥して鼻を鳴らし、自分が開けた壁の穴から店の外へ出て地面に降り立ち、レイメイは縮地を使い貴賓室から姿を消した。


「フーッ……お客さん何処に行こうってんだい? 女面鷲(ハーピィ)の嬢ちゃんは何処行った?」

 店の一階から灰を蹴散らすパウシャオが現れてアリエラを呼び止める。

 

「……さっきのドサクサ紛れでピチカを避難させていたワタクシの黄金の石棺(サルコファガス)が盗まれたみたいなの。

 ワタクシはまずゴブリンの方から叩きに行くわ」


「ゴブリンて事は『ヴロッドランズ協働會』だな? 俺も行く。

 ハーピィの嬢ちゃんには俺のラーメンの何が違うのかまだ訊けてねぇからよ」


「いや──「俺も行くッ!」


「ちょっと──「絶対行くッ!!」


「ハァ……わか──「行くったら行くッ!!!」──わかったからッ!!!」


「「あッ……(メキメキバキバキッ!)」」

 アリエラとパウシャオの怒鳴り声が響いた瞬間、声の振動がギリギリ持ち堪えていた骨組みにトドメを刺し、『饕餮宮』は上階から順に音を立てて無惨にも崩壊した。


「あっ……今のはワタクシのせいではなくてよ?」

「ウゴゴゴゴッ……『ヴロッドランズ協働會』も『朱帝會』もブッ潰してやるルルァあ゛ッッッ!!!

 行くぞ! 乗りなッッ!!」

 

 怒りでまたしても狂戦士化し三回り程も大きくなった背中にアリエラが乗り体毛を手綱代わりに掴むとパウシャオは四足走行で『ヴロッドランズ協働會』のある方向へ駆け出した。



 ◇



 一方ピチカは避難した黄金石棺内部の異空間を漂っていた。

 だだっ広く黒い空間に薄ぼんやりと光る大量のアリエラたちの私物がピチカ同様無重力状態で空中を漂っている。


(宇宙ってこんな感じなのかな……。

 外どーなってんだろ……まあアーちゃんとメイメイなら大丈夫だと思うけど……音がしなくなったしもう出ても平気かな?)


 痺れを切らしたピチカが石棺の蓋を押し開けると外から光が差し込んできた。


「ふん゛っ……あ! 開いた──……ココどこ……?」

 ピチカが石棺内部から顔を出すとそこは『饕餮宮』貴賓室ではなく、重厚な両開きの扉に真紅の絨毯の敷かれた建物の中だった。


「──誰だ貴様は」

「ギャヒィ!? だれ!?」


 不意に背後から声を掛けられたピチカが驚いて振り返ると部屋の奥にある執務机に座っている女の姿が目に入った。


「質問しているのは私だぞ? さっさと名乗れ」

 その女は髪・身に纏ったスーツ・口紅・鳥脚のような質感の手足に塗られたマニキュア・背中から生えた翼の全てが朱色尽くしの鳥人(ちょうじん)だった。


「あっハイ……あーしっ……わたしはピチカでーす……」

 その態度と朱色尽くしの姿とで相手が誰か察したピチカは少し言葉遣いを丁寧にして受け応え始めた。

 目の前に居るのはピチカが旅に出ると決めた際、にわか仕込み程度ではあるが修行した〈朱雀猛蹴撃(すざくもうしゅうげき)〉の創始者──


「私は『南方公ワン・イェンジュー』だ」


「は、はじめましてぇ〜……」


「……で? 私を暗殺しに来たのか?」

「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!!

 あーしもなんでここにいるのか理解(わか)ってないんですぅ!!!」


 わざと侵入した訳ではないが目の前のワン・イェンジュー含む『ワン五兄弟』の暗殺を計画している魔王軍に所属しているピチカは生きた心地がしなかったのであった。

◇吸血鬼

ヴァンパイア。

闇の女神と地の女神が協力して創造したと言われる生者と亡者の狭間に位置する種族。

不老不死・肉体の高速再生・変身能力・怪力その他諸々の多彩な能力を持ち更にそれらは吸血によって活性化する。

多彩すぎて他の女神たちに嫌われ、陽光・銀・ニンニク・真水などの数多くの弱点も与えられている。

心臓に能力が宿っており、チートスキルと同様に心臓を食べるか移植することで能力を奪える。

十三の血族とそれを統べる『十三真祖』の内五名は魔王国に所属している。

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