表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/94

第十六話 饕餮宮騒動

登場人物紹介

◇アリエラ

主人公。魔王軍四天王最強の怪力と頭脳を持つ紅一点。

褐色肌に短めの黒髪に猫のような紅い瞳の獅子獣人。

特級冒険者。

現在真紅のチャイナドレス着用中。

好きな肉は羊肉。


◇ピチカ

蒼い髪と瞳にギザ歯が特徴のアクセサリー付けすぎなギャルっぽいハーピィ。

異世界転生者。チートスキル『楽々御粧し』の使い手。

二級冒険者。

現在蒼のチャイナドレス着用中。

好きな肉はドラゴン肉と鶏肉。


◇レイメイ

魔王直属暗殺部隊『五毒姫』の末妹。

白い長髪と肌に鬼灯のように赤い瞳と愛嬌紅が特徴。

魔王特製の最上級キョンシー(札は丹田に貼っている)。

四級冒険者。

現在白のチャイナドレス着用中。

好きな肉はヘビ肉。


◇ガオ・パウシャオ

家族経営の料理屋『饕餮宮』店主を務めるハイオーク。

料理の腕前は確かだが、客が限界まで満腹にならないと退店を許さない厄介な性格。

好きな肉は牛肉。




 ◇



 『饕餮宮(とうてつきゅう)』の三階貴賓室で提供された料理の数々は、質・量ともに一階で出された料理を遥かに凌駕していた。

 追加で注文した料理はもちろんのこと、注文していない料理も次々と店員(店主の娘)たちが運んで来る。


 最初のうちは一階で食べたコースには出なかったが同程度の値段設定の万人向けの料理が運ばれて来た。

 料理自体の値段は同じでも貴賓室でのもてなしというだけあって食器は色鮮やかで複雑な紋様の陶器や綺麗に磨き上げられた銀食器であり、不思議と料理の味わいも数段高級に感じられた。


 小籠包・シューマイ・水餃子・ラーメン等の自分でも知っている料理の数々を目の当たりにしたピチカは表情を綻ばせ、箸の扱いは不得手であるため銀のフォークで麺を巻き取り食したのだが……。


「う〜ん……? おいしーけど……なんか思ってたラーメンと違うかも……」

 悪気なく口に出た言葉だったが、運悪く自分で料理を運んで来た店主の耳に入ってしまった。

 

「……違う(??)? 何が???」

「あ゛っ……あーしの知ってるラーメンと食感が違ったかなーって……いやおいしーですよ!? スパイス効いたソーメンみたいなカンジ!!」


「お客さん……もっと具体的に何が違うのか食べ終わった後で聴かせてもらっていいかな? なッ!?」

「うぁ……ハイ……」

「余計な事言うからですよ……」


 逃がす気はまるで感じられない店主パウシャオの笑顔の圧にピチカは屈し、その間にもアリエラとレイメイは苦も無く皿を次々と空にしていった。


「並の料理じゃア満足して貰えないかい……そうかそうか。だが本番はこっからだぞ! 俺をナメんなよ!? 吠え面かかせてやるぜッ!!」

 パウシャオは捨て台詞を吐きながら部屋を後にした。


「あの店主は何と戦っているのかしら……」

「評判通り味はいいのにね〜……」

「客が料理を残すまでもてなすのは東方大陸中原だとよくある風習ですけど……ちょっと常軌を逸してますね。

 こんな調子で経営は大丈夫なんですかね?」


「余程の()()でもいるのではなくて?

 ……ところで店員さん? この店って煙管は吸ってもいいのかしら」 

 料理の提供が一時中断され口寂しくなったアリエラは黄金石棺(サルコファガス)を見遣り、煙管を吸うようなジェスチャーをしながら年若い猪鬼(オーク)の店員に尋ねた。


「あ〜……うちではご遠慮いただいているんですよ〜……お父さ──……店主が怒るので」


「あら残念……」

「そもそも吸っていい店でも食事中に吸わないでくださいよ」

「そーだよ」


「それはそうね……近頃はろくに猫ちゃんと触れ合う機会が無いものだからついね……」 

(アーちゃんの()()は“触れ合う”でいーのかな……)

(猫狂いは相変わらずですか……)

 


 喋っているうちに店主をして“本番”と言わしめる料理の数々が円卓の上に並んだ。

 魔物化したものであろう巨大な豚や鶏の丸焼き・熊の掌の煮込み料理・干しアワビや海燕の巣のスープ・月餅や水飴漬けの果実串など高級な珍味甘味類の目白押しだ。


 丸焼きなどの切り分ける必要がある料理も数多く出たので、数人ずつの店員が食べるのを介助にするために付いた。

 並の客ならばこの時点で食欲が尽き、苦しそうに料理を口に詰め込み店主に満腹になったと告げるのだが、アリエラとレイメイは涼しげな表情でかつ店員の介助が追いつかない程の勢いで食べ続けた。

 二人ほど大喰らいではないピチカは甘味類ばかりをチマチマ食べた。


 その様子に店員たちは戦慄し、パウシャオは乾いた笑い声を上げながら近づいて来た。


「ハッ……ハハハ凄まじいなァ……こんなに喰ったのは『ワン五兄弟』以来か……?

 さてどうする? こっから先は裏メニューというか……無理強いして食べさせるような料理じゃアないんだが……まだ俺にもてなさせてくれるかい? 『ワン五兄弟』には断られたんだけどよォ……」

 一見穏やかなようで狂気じみた表情になったパウシャオは特に大量の料理を食べたアリエラを窺った。

 

「フフッ……ここまで来たら最後まで付き合ってあげる」

「裏メニューとやらも気になりますしね」

「あーしはもうムリ〜……」



 ……そしてアリエラとレイメイの前に運ばれて来たのは大小様々なカエル・サソリ・ムカデ・ヘビ・トカゲをふんだんに使った野味溢れる奇食料理──有り体に言えばゲテモノ料理であった。


「俺個人としては奇食(こういうの)はあまり好きじゃア無いんだが……愛好家はいるからなァ」


(ギブアップしといてよかった〜……)

「まあ……好き嫌い分かれるでしょうね。

 ワタクシは別に嫌いではなくてよ?」

「私はむしろこういうやつが好きですよ! ヘビ料理は全部私のですからね!

 あ、サソリ料理はアリエラさんが食べちゃっていいですよ。

 裏メニューと言わず最初から出しといてくれれば良かったのに……今度は姐さま達と一緒に来よっと」


 パウシャオの予想に反して上機嫌になったレイメイはヘビ料理を中心に勢いよく食べ始め、アリエラも勢いこそ落ちたものの淡々とサソリ料理中心に食べ進めて行き、元々一部の愛好家向けの在庫しかなかった奇食料理の皿はあっという間に空になった。

 

「……!! これも平らげるとは恐れ入ったな。

 じゃア次は本来この貴賓室を使う『饕餮宮(ウチ)』のケツ持ち連中をもてなす用のとっておき……“龍のフルコース”をお見舞いしてやる……逃げんなよ?」

「ちょっとお父さん!? さすがにそれはマズいから!」

「そうよ!」「やめて!!」「怒られちゃうわ!」


 出て行くパウシャオを追って娘である店員たちも皆出て行ってしまい、貴賓室は三人だけになった。


「さすがに断った方が良さそうな雰囲気ね」

「“ケツ持ち”って……マフィア的なのが後ろ盾(バック)に付いてる店ってコト? ヤバ……」

「まあ珍しくはないでしょうね。この都では大体の店に『朱帝會』が関わってるらしいですから……。

 “龍のフルコース”とやらは別の機会に頂くとして……店主を説得して──……!?」



「……来るわね」

「ですね。でも襲撃前にバレてるし手練れではないですよ」

「え? なんの話────(ガシャアァン!!)ギャヒィ!?」


 三人も貴賓室を出ようとしたその時、けたたましい音を立てて窓が割れ、十数人の襲撃者が侵入した。

 襲撃者たちはカラスを模した黒い鉄兜で顔を隠し、身体も黒い革鎧とツヤ消しされた手甲と脛当てで一切の肌の露出を断ち、猫背気味で「暗殺部隊です」と全身で自己紹介しているような集団である。

 襲撃者のあまりにベタな出立ちにピチカは軽く感動を覚えかけたが、彼らの手にしている武器を見てそんな場合ではないと我に返った。


 襲撃者たちは皆一様に木製の握りと銃床の短機関銃(サブマシンガン)を三人に──特にアリエラに向けていた。


「ピチカ!! 石棺(サルコファガス)に入ってなさい!!」

「ヒィーッ!!」


「「「「…………!(ドパパパパッ!)」」」」

 アリエラが石棺の蓋を蹴り開けるとピチカは一も二もなく石棺の中に飛び込み、襲撃者たちもアリエラの動きに反応して一斉に銃弾を浴びせかけたが……アリエラとレイメイは傷付くどころか飛んできた銃弾全てを〈白虎金剛手(びゃっここんごうしゅ)〉で強化した指で挟んで受け止めてしまった。


「明らかにワタクシを狙い撃ち……思い当たる節がありすぎて動機がわからないわ」

「機関銃なんて使ってますよ……もし中央大陸からの密輸品だとしたらなんとしても吐かせないといけませんから何人か生け捕りにしましょう」


「「「「……ッ!!(バチチッ)」」」」

 “何人か生け捕り”……裏を返せば自分たちの“半数以上は殺す”という意を汲み取れる発言を耳にした襲撃者たちはたじろぎながらも弾切れの短機関銃を投げ捨て、短剣を取り出し襲いかかろうとした瞬間──アリエラの手先から赫い雷閃が走り、それに呼応するように迎え放電が襲撃者の胸辺りから発生し二つの閃光が接触した。


ぐェッ(ボチュッ)」「ゴバッ!!(ドチャッ)

ギャッ……!(ビシャッ)」「ヒッ……!」

 その瞬間、炸裂音と共にアリエラの拳が襲撃者の胸を貫き、飛び散った血と骨肉片が散弾となり他の襲撃者を傷付けた。

 この流れが瞬時に数度繰り返され、貴賓室に侵入した襲撃者は皆傷付き呻き声を上げるか物言わぬ死体と成り果てたのであった。


「いや……生け捕りは……」

「わざわざそんな事しなくてもレイメイが僵尸(キョンシー)化させて喋らせてしまえばいいのではなくて?

 どうせ口を割ったりはしないのでしょうし……」


「それもそうですね……じゃあもうさっさと処理しますね」

「それにしてもこの血の匂いは……」


 アリエラが襲撃者の鉄兜を力尽くで剥ぎ取ったところ、正体は人間並の体格を持つ妖鬼(ゴブリン)──大妖鬼(ホブゴブリン)であった。


「あー……思い出したわ。“ヴロッドランズ”……聞き覚えがあったわけね」

「ヴロッドランズって……この都のゴブリンの元締めですよね? アリエラさんと何の関係が?」


「ひッ……ひィイイぇ──(ザグッ) げ ェ ッ!?」

 比較的軽傷で済んだホブゴブリンは怪物二人が会話を始めて自分たちへの注意が逸れた事を察知し、一か八かの逃走を図り窓の外へと飛び出したがその瞬間、目の前に突如現れた朱いスーツの巨漢が振るった大ぶりの曲刀に叩き切られ血飛沫を撒き散らしながら屋根を転がり落ちて行ってしまった。


 そしてホブゴブリンを切り捨てた峰に九つの金環が付いた大ぶりの曲刀──九環刀(きゅうかんとう)に付着した血を振り落としながら、貴賓室に牛の角と尾を持つ厳つい顔つきの獣人が窓から入って来た。


「テメェらこの店が『朱帝會』の縄張り(シマ)だと理解(わか)って(ハシャ)いでんのか!? おお゛ォン!?」


 食事の余韻を楽しむ間も無く立て続けに襲い来るトラブルにアリエラとレイメイは辟易とした表情で溜め息を吐いた。

◇機関銃

この世界における機関銃は中央大陸では最新装備の一つで、北西大陸では合法非合法問わず武力組織の標準装備の一つとなっており、その他の大陸では基本的に普及していない。

そのため中央・北西大陸に属さない場所にある機関銃は十中八九密輸品である。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ