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第十五話 饕餮宮フルコース

登場人物紹介

◇アリエラ

主人公。魔王軍四天王最強の怪力と頭脳を持つ紅一点。

褐色肌に短めの黒髪に猫のような紅い瞳の獅子獣人。

特級冒険者。

得意料理は丸焼き。


◇ピチカ

蒼い髪と瞳にギザ歯が特徴のアクセサリー付けすぎなギャルっぽいハーピィ。

異世界転生者。チートスキル『楽々御粧し』の使い手。

二級冒険者。

火が苦手で手先が不器用なので料理はしない。


◇レイメイ

魔王直属暗殺部隊『五毒姫』の末妹。

白い長髪と肌に鬼灯のように赤い瞳と愛嬌紅が特徴。

魔王特製の最上級キョンシー(札は丹田に貼っている)。

四級冒険者。

得意料理は蛇肉の激辛料理。




 ◇



 ──ウーヴ皇国の南都『イマニム』──

 『ワン五兄弟』の紅一点であり自称“朱雀の鳥人”『南方公ワン・イェンジュー』が領主を務め、「金さえあれば叶わない欲望は無い」とまで謳われる性風俗街や、南部諸国で栽培された多種多様な香辛料を使った『東方大陸の台所』の異名を持つ飲食店街を有するウーヴ皇国随一の歓楽都市である。

 ワン・イェンジューによって都市近郊での〈麒麟震天脚(きりんしんてんきゃく)〉の修行が禁じられているのもあってか、頻発する地揺れに()()()()を邪魔されずに済むと人気の都市なのだ。

──────────────────


 そんな歓楽都市とは切っても切り離せないのが犯罪組織であるが、西都がそうであったように南都イマニムでも『ワン五兄弟』の一角であり領主でもあるワン・イェンジューが仕切る犯罪組織『朱帝會(しゅていかい)』が幅を利かせている。

 『ワン五兄弟』が牛耳っている時点で法は有って無いようなものだが、西都のワン・ソンミンと異なるのは単なるゴロツキ集団ではなく、『朱帝會』は“()()()()()()()を扱う商会”という建前をとっている点である。

 

 建前のためとはいえ香辛料や嗜好品の流通に関わっているのは本当であり、ワン・イェンジューが新しい物好きなのもあってか、石畳の大通りには天秤棒で荷運びをする人足や馬車に混ざって東方大陸ではまだ珍しい小型蒸気自動車が何台か走っている。

 蒸気自動車は朱いダブルスーツを着た強面の男達、あるいは妖鬼(ゴブリン)系の種族の者が乗り回しているようだ。


「おー……こっちの世界でクルマって初めて見た〜。

 レトロ感あってエモ〜い☆」

 蒼い袖無し旗袍(チーパオ)──俗に言うチャイナドレスを着用したピチカは、前世で見てきた自動車と蒸気自動車を比べて技術の差をしみじみと感じていた。


「中央大陸ではもう型落ちの車種ね……朱いスーツの連中が『朱帝會』の構成員かしら。

 それにしてもやたらとゴブリンが多い都市ね……」

 背中が大胆に開き、胸に謎のひし形の穴が空いた真紅の旗袍を着たアリエラは、旅の始まりにゴブリンの野盗に襲われたせいかゴブリンにはあまり良い印象が無いようだ。


「ゴブリンの方は……最近急成長してきた『ヴロッドランズ協働會』ってヤツでしょうね。

 ゴブリンたちの互助会みたいな組織で……職業斡旋やら人材派遣やら手広くやってるそうですよ」

 手が隠れる程袖が長い純白の旗袍を着たレイメイは、ウーヴ皇国への潜伏のために他の『五毒姫』と集めた情報の一部を披露したが、アリエラとピチカはあまり興味が無いようだった。


(ヴロッドランズ? どこかで聞いたような……そんなに昔ではなかったと思うけれど……)

「ヘェー……あっ、なんか美味しそうな匂いするしどっかお店よってお昼ごはんにしよーよ☆」

「そうですね……あの店なんかどうです?

 料理の腕だけは確かだって評判だそうですよ」


 レイメイが提案した大通りの突き当たりに建つその店は様々な飲食店が立ち並ぶ通りの中でも特に目立つ建物だった。

 建物といえば基本的に四合院造りの平屋建て……二階建てですら珍しいウーヴ皇国の中でその店の道に面した正面部分は豪奢な三重塔になっており、出入り口には『饕餮宮(とうてつきゅう)』と書かれた看板が掲げられていた。


「料理の腕“()()()”ってナニ……?」

「噂だと客が満腹になったと店主が判断しない限り店から出る事を許してくれないそうですよ」 


「面白そうな店ね。フフフ……ワタクシを満腹にさせられるのかしら……?」

 なにやら闘志を刺激された様子のアリエラは黄金石棺(サルコファガス)を引き摺って店の扉を開けて入って行ってしまう。


 店内は外装に引けを取らない豪奢な円卓がいくつか並び、いかにも高級店といった装いであったが、開店前かと思ってしまう程に客が入っていなかった。


「あら……? 入ってもよかったのかしら」

 店内があまりに静かだったためアリエラは少し不安になったが店の奥の厨房から人影が現れる。


「あらあら! お客さん!? いらっしゃいませ!

 お好きな席にどうぞ〜! アナター!! お客さんよー!!」

「おっ!? 久々だな! 注文とってくれ!!」


 店員の顔は豚のような鼻と口先になっており、両足も豚の蹄のようになっている──柔和な目付きをした猪鬼(オーク)の女性だ。

 店員の言葉にしたがって三人は店の中央辺りの円卓に着席した。


()()()お客さんは珍しいから嬉しいわ〜……ハイお品書きどうぞ。

 注文決まったら呼んでくださいな〜♪」


「ありがとう。……何にしようかしら」

「(……“()()()”ってなんなんだろ?)

 色々食べたいからあーしはこの“おまかせフルコース”で!」

「とりあえず全員コースにして足りなかったら各々好きな物を食べてみましょうか」

「そうね。店員さん、注文よろしいかしら」


 全員がコース料理を注文してから少し、一品目が厨房から運ばれてきた。


 ──……一品目は棒棒鶏(バンバンジー)

 前菜となるこの皿は念入りに叩き程よく柔らかくなった蒸し鶏に、店主秘伝の五味全てを兼ね備える複雑な旨みを持った“怪味タレ”を絡め、特に際立つ辛味が客の食欲を刺激し二皿目以降の料理への期待を昂める逸品である。


「……! 期待して損は無さそうね」

「おいしー☆」

「次が待ち遠しいですね……」


「ふふ……少々お待ちくださいな」

 ()()()()の影響で一般客があまり来なくなって少し寂しい思いをしていた店員は、久しぶりに目の前の料理に集中する客の姿を見て顔を綻ばせた。


 ──……二品目はフカヒレの姿煮。

 魔物化したサメのものを使っているのか並の二倍は大きなフカヒレに艶やかなとろみスープが美しい。

 口に運ぶと焦がし葱油・醤油・胡椒・貝柱の旨味が広がり、咀嚼するとゼラチン質に吸収され濃縮された更なる旨味が染み出し至福の一時が訪れる。

 この皿に限っては高級食品によくある「小さくて量が少なくすぐに食べ終わる」という事も無い。


「フカヒレって何気に初めてかも……なんかプルプルしててふしぎなカンジ! おいしい☆」

「アリエラさん……この店もしかすると……」

「レイメイもそう思う? 凄まじいわね……」


 店員が近くにいる手前口に出しては言えなかったが、レイメイとアリエラは『饕餮宮』の料理が魔王城の専属料理人に匹敵し得るのではないかと思い始めた。


(……魔物料理はお口に合わなかったかしら〜?)

 店員は急に神妙な面持ちになった二人を見て少し不安になった。


 ──……三品目〜六品目は八宝菜・酢豚・エビチリ・麻婆豆腐。

 前の二皿で温まった口と胃で迎えるは、主菜となるこの四品。

 まずは八宝菜の彩豊かな野菜たちやウズラの卵を口に運び、次に酢豚で唾液腺を刺激、そして甘辛いエビチリと激辛の麻婆豆腐を口に運ぶと再び八宝菜に戻り辛味を和らげる。これを繰り返す。

 普段は三人共種族的に野菜はあまり好まないのだが、今日ばかりは関係無いようだ。


「いろんな味があって楽しい☆」

「フフ……たまには本格的な店で食べないとダメね……」

「旅をしているとつい簡単に済ませようとしてしまいますからね……」

 

(旅人なのね……。いっぱい食べて良い思い出になってくれると嬉しいわ)

 料理を高く評価しているようで店員は安心し、主菜が半分程度平らげられたのを確認して次の料理を取りに厨房へ向かった。


 ──……七品目は炒飯(チャーハン)

 半球状に盛られた黄金色の米に混ざる大きめの角切り焼豚と小さな剥き海老が嬉しい一皿。

 主菜四品の合間にパラパラ食感を楽しむも良し、麻婆豆腐をかけて麻婆炒飯にして楽しむもまた良し。

 ピチカは前世の記憶を懐かしみ、他の二人とはまた違う感動を味わっていた。


「チャーハン食べるの超久しぶりでなんか感動するわァ〜……」

「次はいよいよデザートね」

「さて……何が来ますかね」


「はーい! 今日のおまかせフルコースの最後を飾るのはこちら!」


 ──……八品目は杏仁豆腐。

 透き通ったガラスの器には、角切りの杏仁豆腐がシロップ漬けのミカンとキウイと一緒に盛り付けられており、フルーツポンチに酷似したその上には赤が鮮烈なクコの実が添えてある。

 強いがしつこく無い甘味が口を満たし、満足感を与えてくれる。


「このナゾの赤いヤツ好き♡」

「クコの実って言うんですよ」

「期待を大きく上回る店だったわ……。

 結構満足したしお会計を──」


「“()()()()”ゥ……?

 そりゃつまり“()()()()()()”ではないって事だよな?」


 そろそろ店を出ようとしたその時、厨房から猪のような鼻と上顎から口外へ斜め上に突き出した牙をした巨漢──大猪鬼(ハイオーク)の店主『ガオ・パウシャオ』が現れた。


「……勘違いしないで欲しいのだけれど、別に不満があるわけではなくてよ? それどころか──」

「いやそれは理解(わか)ってるさ。俺の作った飯食って不満なワケあるかよォ……。

 フゥーッ……でも限界ギリギリまで満腹になったって感じじゃア無いよな? なッ?」

「アナタ! お客さんが迷惑してるでしょ!

 この人ったら昔っから料理の事になるとこんな感じで……」


 息が荒くなり目の血走ったパウシャオは妻である店員が羽交い締めにしようとしても全く意に介していない様子だ。


「まあ……食べようと思えばまだまだイケるけれど……」

「私もそんな感じですね(噂は本当だったか……)」

「あーしはもうギリギリ気味かな……」


「フゥーッ……! よォーしッ!! じゃあ三階の貴賓室で限界まで食ってってくれェ!!

 店の奢りだから金の心配はせずに満腹になっていってくれよナッ!!」


 明らかに正気を失い出した様子で厨房に引っ込んだ店主パウシャオの背中を見送ると三人は店員の案内で三階の貴賓室に通された。


「……まあせっかくですし目一杯奢られるとしましょうか」

「そうね。遠慮しすぎも悪いわ」

「アーちゃんが本気で食べたら店がスッカラカンになっちゃいそう(笑)」

 

 貴賓室と言うだけあって一階と比べ立派な調度品が置いてある広い個室の白い布が掛けられた大きな円卓に着席し、三人は料理が運ばれて来るまで談笑して時間を潰し始めた。



 アリエラとレイメイが周囲を何者かに包囲されつつあるのに気付くのは料理が提供され始めてからしばらく後のことであった……。

◇オーク

猪や豚のような顔と脚が特徴である幻獣の一種。

『地の女神』が猪や豚を強制的に進化させた結果生まれた種族だとされている。

しかし『地の女神』の支配領域である北東大陸では他種族から差別され奴隷にされるか或いは駆逐されている。

優れた味覚と嗅覚を持っており、綺麗好きでもあるため料理人向きな種族である。

男は女に比べて毛深く、牙が大きく発達する。

寿命は人間と同じくらい。


◇ハイオーク

オークの上位種。

並のオークより一回りか二回り程大きな体格をしている。

狂戦士としての素養が非常に高い。

同種には男女問わずすごくモテる。

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