第十四話 『不死身のヤブキチ』
登場人物紹介
◇アリエラ
主人公。魔王軍四天王最強の怪力と頭脳を持つ紅一点。
褐色肌に短めの黒髪に猫のような紅い瞳の獅子獣人。
特級冒険者。
『パリピ☆愚連隊』というチーム名に少し愛着が湧き始めている。
◇ピチカ
蒼い髪と瞳にギザ歯が特徴のアクセサリー付けすぎなギャルっぽいハーピィ。
異世界転生者。チートスキル『楽々御粧し』の使い手。
二級冒険者。
他人から『パリピ☆愚連隊』と呼ばれるとちょっと恥ずかしい。
◇レイメイ
魔王直属暗殺部隊『五毒姫』の末妹。
白い長髪と肌に鬼灯のように赤い瞳と愛嬌紅が特徴。
魔王特製の最上級キョンシー(札は丹田に貼っている)。
四級冒険者。
『パリピ☆愚連隊』というチーム名は正直如何なものかと思っている。
◇
『パリピ☆愚連隊』の三人は東方大陸最大の大河『アガン江』本流の河岸に辿り着いていた。
西部に連なる山々から流れ込む大小様々な河川の合流したアガン江は遥かな古代から時に運河や生活用水として文明を豊かにし、またある時は荒れ狂う流れで猛威を奮い文明を押し流した東方大陸中原の歴史とは切っても切り離せない雄大な大河である。
陸からでは対岸の視認も難しい程に幅広い大河には東部に向かうべく河岸と平行に移動する舟や、対岸に向かうべく大河を横断する舟がいるが、不思議とぶつかる事も無く行き交っている。
魚人や一部の蜥蜴人や蛙人は舟には乗らずに自力で河底を泳いで渡る者もいるようだ。
「うわ〜お……空飛んでる時に上から見たことあるけど……近くで見るとマジでっかい河だねー☆」
大量のガラス細工がついた派手な編笠に涼し気な青い着流しを纏ったピチカはアガン江を眺めて感嘆の声を上げた。
「東方大陸最大の河ですからね……まあ私も実際に見るのは初めてなんですけど」
陽光が苦手なレイメイは鍔広の編笠に付いた薄い垂れ衣の隙間から顔をのぞかせながら河を眺めた。
「この河を渡るのが早いのよね?
どの舟に乗ろうかしら。石棺も載せられる程度には大きなのを探さなくちゃ」
レイメイとは逆に陽光に強い耐性を持つアリエラは、笠は被らずゆとりのある赤布の服をはためかせ、黄金石棺を引き摺り河岸に停留している渡し舟に向かって歩き出した。
「あっ! あの舟空いてる」
「じゃああれにしましょ。石棺も載るといいのだけれど……」
「まあ乗れなくても最悪空飛べばいいじゃないですか」
三人は大きな櫂を持って暇そうに煙管を吸っているナマズ顔の魚人二人が乗っている舟を見つけた。
アリエラは「特級冒険者なら割引してもらえるかも」と思い冒険者ベルトを二の腕に装着し水夫に話しかけた。
「ちょっと水夫さん。その舟でこの石棺も載せて向こう岸まで運んでいただけないかしら」
「んあ? ああ! お客さんかい?
……でかいカンオケだねぇ。そのカンオケだけで四人分は頂くけど……よろしいかね?」
「仕方ないわね……よろしくてよ」
「やっぱり飛ぶか泳ぐかした方がよくないですか?」
「お金には余裕あるんだしいーじゃん☆」
割引どころか荷物分の料金が加算されたが揉める事も無く渡航手段を確保できたので、アリエラは特に何も言わずに舟に石棺を載せて自らも乗り込んだ。
「よーしじゃあ行くぞ兄弟!」「おう!」
魚人の水夫二人が舟を進めようとしたその時、やたらと長い人影が声をかけてきた。
「おぉ〜い! 待って下せぇ〜!! アッシも乗りやすぜぇ〜!」
蛇の様な男──というよりは遠目から見ると手足の生えた大蛇にしか見えない極めて蛇率の高い蛇人の男が長い首と尻尾をくねらせながら追い縋って来た。
頭には三度笠を被り、担いだ太刀の鞘に風呂敷に入った荷物をくくり付け、身に纏った着流しから露出した首や肢体には左右対称に黒い蛇の刺青が施されていた。
そして何より目を引いたのはアリエラと同じ紫色──特級冒険者ベルトを右足首に付けている事である。
「……相乗りになりますけどいいですかね?」
「別に構わなくてよ。二人もいい?」
「「別にいいですよ」」
「じゃあお客さん身体大きいから二人分ね」
「しょうがねぇな……受け取ってくんな」
渋々といった様子で蛇人の男は水夫に料金を投げ渡して舟に飛び乗った。
「かたじけねぇ〜……って同業の方ですかい。
しかも特級……もしや最近よく耳にする『パリピ☆愚連隊』の──……」
「アリエラよ。
蛇人の特級という事は貴方──……
『不死身のヤブキチ』でしょ? よろしくね」
「こちらこそよろしくお願いしやす……特級冒険者の肩書は過大評価ですがねぇ。
改めて……ヤブキチと申しやす。以後お見知り置きをば……」
「あーしはピチカでーっす!」
「レイメイです……」
「……!? ちょっと其方の……レイメイさん?
失礼は承知の上で……顔を見せてもらってもいいですかい?」
丁寧に頭を下げて挨拶をしていたヤブキチだったが、レイメイの声を聞いた途端に顔色を変え、長い首をレイメイの目の前まで伸ばしてきた。
「別にいいですけど……? これで良いですか?」
レイメイは懐疑的な表情を浮かべながら垂れ衣を捲り、ヤブキチに顔(ややキメ顔)を見せた。
「お嬢……!? 何故東方大陸に!?
──いやそれよりよくぞ御無事でッ……!!」
「何の話ですか……?」
◇
レイメイを“お嬢”なる人物だと勘違いしてなにやら興奮したヤブキチを宥め、人違いだと理解させている間に舟はアガン江の河道中心に差し掛かり始めた。
「いやぁ……すいやせんね興奮しちまって……。
お嬢の髪と瞳は真っ黒だったんですが、それを差引いてもあまりにもそっくりだったもんで……。
そう簡単に会えるワケ無いわな……」
ヤブキチはバツが悪そうに釈明しながら呟いた。
「私にそっくりですか……幸運な人ですね」
「メイメイってけっこうナルシスト入ってるよね……」
「口ぶりからしてその“お嬢”という人物に何かあったようだけれど……よかったら話して御覧なさい?
ワタクシも特級冒険者の先達に恩を売っておきたいから遠慮しなくてもよくてよ?」
いつの間にか取り出したコブラを模した火皿の煙管を吹かし始めたアリエラが身体をヤブキチの方に少し傾け脚を組んだ。
「……では御言葉に甘えさせて頂きやす。
アッシの名前や風体で察しはついているかも知れやせんが……アッシは極東列島──『ヤト國』出身なんでさァ」
「極東……あーしちょっと気になってんだよね」
「ピチカさんもですか? 異世界人って極東好きですよね」
レイメイが何気なく漏らした一言に舟は一瞬沈黙に包まれた。
「──! レイメイ!! 余計なこと言わないの」
「あっ……! すみません……」
「いーってコトよ☆ 気にしてないし!」
「ピチカが気にしなくても周囲がそうとは限らないでしょう? ねぇ水夫さん達? 今の聞かなかった事にして下さる?」
「んあ? あぁ……別に俺らは異世界人とか気にしてねぇから大丈夫だよ。なあ? 兄弟」
「おう。凶暴そうにも見えねーし」
「アッシは異世界人ではねぇですが神器なら持ってやすぜぇ。
銘を【弐之太刀不知】……! 何に対しても一回きり絶大な切れ味を発揮する妖刀……!
アッシを追放した連中から掻っ払ってきた逸品でさァ」
ヤブキチは担いでいた太刀をチラつかせた。
「あーしの神業は【楽々御粧し】……!! 着替えの速度であーしに敵う者はいないッ……!
……アーちゃんはチート紹介しないの?」
座ったまま見栄切りポーズをしながらチートスキルの軽い説明をしたピチカはアリエラに向き直り、期待のこもった視線を浴びせた。
「意味も無く手の内を明かすワケ無いでしょ……ねぇ? レイメイ」
「(くっ……! 私にもチートスキルがあれば参加できたのに……)え? ああ……そうですね」
レイメイは生返事をした。
「(また余計なことをかんがえていたのかしら)……話が脱線したわね。
それで? なぜ追放されたの?」
気を取り直してアリエラがヤブキチに話を再開するように促した。
「それこそアッシが『不死身のヤブキチ』と呼ばれる由縁であるこの身体に刻まれた黒蛇の呪印……“『闇の女神』の呪い”が原因なんでさァ……!」
ヤブキチは忌々し気に身体に刻まれた黒蛇を睨み、自らの過去を語り出した。
「アッシがガキの時分のヤト國ってのはですね……皆が同じ帝を奉じてる一つの國なのに大名──地方領主同士が大将軍の座を己が物にせんと民草を徴兵して内戦をしていた……狂った國でやんした……。
まあ紆余曲折ありましてそんな時代も終わりを告げたんですが……アッシが仕えていた『クチナワ家』ってのも元は地方領主の一族だったんですが大将軍サマと折り合いが悪くて改易されちまいやしてね……」
「はぇ〜カイエキされたんだ……」
「あ、改易ってのは領主の地位を剥奪されたって事です」
「わ、わかってるよ? 続けて?」
「へい……んでアッシが仕える頃クチナワ家は元領主でちょいと金持ちの篤志家といった感じの一族でしてね……。
そのクチナワ家の御令嬢がアッシがレイメイさんと間違えた“お嬢”──……
『クチナワ・カガチヨ様』ってワケです。
お嬢も蛇人なんですがアッシとは真逆の極めて蛇率の低い蛇人で──」
「それで“『闇の女神』の呪い”と“追放”にはいつ繋がるんです?」
話が本題からお嬢の詳細に脱線しかけたのを察知し、所在不明の『闇の女神』の手掛かりを早く聞き出したいレイメイが軌道修正にかかった。
「おっと失礼。
そんでクチナワ家は領主ではなくなったんですが……後任の領主よりも地元民に慕われてたってのが面白くなかったんでしょうね……。
難癖つけられて反乱の疑い有りってんで大軍勢が押し寄せて来て焼き討ちされたんですね」
「ひどすぎない……?」
「力で抑えるしか能がないのかしらね」
(アリエラさんが言うのか……)
「アッシも抵抗したんですが多勢に無勢……。
先に逝かれた旦那様の遺言に従ってお嬢が辱められぬように介錯したその刹那……!
お嬢の身体は刎ねた筈の首を拾い、事も無げに胴体と繋げると下卑た笑い声を上げてこう言ったんです。
【この器の願い故お前は死なせん】──と」
名前すら碌に伝わっていない邪神として有名な『闇の女神』に関わる体験談を聞かされ一同は息を呑んだ。
「そして気がつくとアッシは捕縛され全身に呪いを受けた穢れ者として孤島に追放……される途中の船が女神の放った大蛇に襲われて漂流──そのドサクサで【弐之太刀不知】を頂いて大陸に流れ着き、呪いの影響で死ぬに死ねずになんやかんやで特級冒険者ってワケでやすね」
最後の方は雑になっていたがヤブキチは『闇の女神』との因縁を語り終え一息ついた。
「なるほどね。それで……女神や領主に復讐したいの?」
「復讐なんて考えちゃいませんよ。
でも女神の言った事が本当ならアッシの不死身の呪いはお嬢の願いらしい……女神が歪んだ形で叶えたのか……それとも最後の最後まで戦い抜かずに諦めたアッシを恨んで死すら許さず苦しめという事なのかは確かめたいと思ってやす……」
「あーしは女神のイジワルに一票かな〜ヤブキっつぁん元気出しなよ。
お嬢さんのコトあーしはよく知らないけどそんな呪いかけてくるタイプじゃないと思うな」
「私もそうだと思います(ヤブキっつぁん……?)」
「そうだといいんでやすがねぇ……」
励まされても懸念は消えないらしくヤブキチは浮かない顔だ。
そんな様子を見たアリエラは「いい事を思いついた」と言いたげな表情を浮かべながらヤブキチに話しかけた。
「ねぇヤブキチ? 向こう岸に着いたら提案したい事があるのだけれど……」
「?」
◇
「はーいお疲れさんでしたー」「また乗ってくれよな」
その後舟は無事に到着し、ナマズ顔の魚人水夫に別れを告げた一行は歩き出した。
「それでアッシに提案というのはなんなんでやしょうか?」
「本題の前にまず伝えなければならない事があって……ワタクシたちって実は魔王軍なのよね」
「「ちょ!? なにバラしてるんですか!!」」
アリエラの突然の暴露に慌てた二人に対し──……
「ほう……中央大陸を征覇したという……極東列島で覇を競っていたのがちっぽけに思えて来やすねぇ……」
ヤブキチの反応は思いの外薄いものであった。
「あら? もっと驚くと思ったけれど……。
ワタクシは魔王軍四天王筆頭『殲滅女帝アリエラ』よ」
「四天王ですかい……! それなら驚異の最速昇級にも合点がいきやした。
……それで提案とは?」
「魔王軍が女神狩りをしているのはご存知だと思うけれど、極東に『闇の女神の器』が居るのならいずれ狩りに行く事になる筈だから、その時貴方には案内を頼みたいの。
協力だけではなくていっそのこと魔王軍に加入してみるのもおすすめよ」
「そ、そーですよ! 名前の印象ほど凶悪な組織じゃあないですし!」
「今入ればヤブキっつぁんは直の後輩だからあーしが可愛がってあげるよっ☆」
暴露したからには協力してもらわないと困る『パリピ☆愚連隊』は必死に勧誘をした。
「ピチカさん余計な事言わないでください!」
「余計じゃなーいッ!!」
「騒がしくてごめんなさいね……。
協力したくないなら秘密にしておいてくれると助かるのだけれど……」
「魔王軍加入は保留にさせていただきやすが……『闇の女神』狩りの協力は惜しみやせんぜ。
目処が立ったら連絡してくだせぇ!
そんじゃアッシはこっちから行きますんで……いずれまた会いやしょう!!」
「ええ。また」「またねー☆」
違う進路をとり別れた『パリピ☆愚連隊』と『不死身のヤブキチ』だったが──……
「「「「あっ……」」」」
数時間後にバッタリ出くわし、想定より早過ぎる再会に気まずい雰囲気が流れた後、今度こそ別れたのであった……。
◇神器【弐之太刀不知】
太刀の形をしたチートアイテム。
あらゆるモノに対し一度だけ絶大な切れ味を発揮する。
一度切りつけたモノに対してはナマクラ未満の切れ味となる。
ハヤブサ鳥人の異世界転生者に『闇の女神』が与えたとされ、その子孫たちに代々受け継がれてきたが、ヤブキチを追放する際に奪われてしまった。




