第十二話 レイメイ対ワン・ソンミン
登場人物紹介
◇アリエラ
主人公。魔王軍四天王最強の怪力と頭脳を持つ紅一点。
褐色肌に短めの黒髪に猫のような紅い瞳の獅子獣人。
特級冒険者。
身長180cm近く。
◇ピチカ
蒼い髪と瞳にギザ歯が特徴のアクセサリー付けすぎなギャルっぽいハーピィ。
異世界転生者。チートスキル『楽々御粧し』の使い手。
二級冒険者。
身長160cmくらい(人型部分の体格は150cm相当)
◇レイメイ
魔王直属暗殺部隊『五毒姫』の末妹。
白い長髪と肌に鬼灯のように赤い瞳と愛嬌紅が特徴。
魔王特製の最上級キョンシー(札は丹田に貼っている)。
身長150cmくらい。
◇ワン・ソンミン
東方大陸最大国家ウーヴ皇国を支配する『ワン五兄弟』の末弟。
獣率高めの白虎の獣人。
ウーヴ皇国の西都イーシンの領主。
身長2m越え。
(狙い通り……!)
挑発に乗って自分に向かって掌底を放ってきたソンミンの単純さにレイメイは内心ほくそ笑み、掌に向かって前進した。
外にはアリエラが控えているとはいえ、ソンミンに結界を破られて縮地で逃げに徹されるとかなり厄介な事になる。
故にレイメイは出来る限りソンミンを挑発して自分に攻撃を集中させつつ、怒りで動きが粗くなるようならカウンターの要領で仕止める腹づもりであった。
(突っ込んで来た!?)
「ヘヒヒッ…………(さすがに勘がいい……でも一手遅い!)」
一方ソンミンは渾身の掌底を回避や防御するどころか、頭をぶつけて来るという初めての対応を警戒し咄嗟に攻め手を止めて下がろうとしたが──掌底は当たり切っていないにもかかわらずレイメイの頭は胴体を離れ宙を舞う。
「あぁッ……!?」
「〈五毒飛頭降『蛇』〉ッ!!」
瞬時にその美しい顔と長い髪は白い大蛇に変貌しソンミンの右腕に巻き付き、背中を這って左腕をも締め上げた後鋭い牙で手首に噛みつき〈白虎金剛手〉の最大の武器である両腕を拘束した。
「ぐッ……!!」
(牙が通り切らない! 硬過ぎる……!! でもこっちならどうですか?)
レイメイが念じると首無し状態の身体がソンミン目掛けて飛びかかって来る。
突如大蛇に変貌して巻き付いてきた頭部に気を取られていたソンミンは自分に向かって来るレイメイの身体への反応が遅れた。
「しまっ──」
(喰らえッ──……〈虎指丹弾〉!!)
気付いた時には既に遅く“魔王の右腕”『親指のレイメイ』たる所以の鋭い爪の生えた親指が左眼に深々と突き刺さった。
「〜ッがあああアア゛ァア!? ふざけやがって畜生がぁ! ぁあア゛ッッ!!!」
左眼を潰された痛みと怒りでソンミンの全身の体毛は逆立ち、鍛錬では決して出さない高出力の〈麒麟震天脚〉を発動し、その衝撃に自らの氣を上乗せして身体に巻き付くレイメイ(蛇)を弾き飛ばした。
あまりの衝撃に中庭の枯れた噴水や散らばったキョンシー達の残骸そしてレイメイの身体は跳ね上がり、ソンミンはレイメイ(蛇)を掴んで力任せにレイメイ(首無し)に向かって投げ飛ばし、結界の障壁にぶつけた。
「うぐっ!? ヘヒヒッ……さすがに今のは効いたみたいですね(今のを連発されたら結界が保たない……! 私に攻撃を引き付けなくては……)
ご自慢の〈白虎金剛手〉を喰らったご感想は如何です?」
「チィッ……! オレ様の〈白虎金剛手〉を……!!
〈蛇道鬼門拳〉とか言う流派はどこいったんだ!? あぁ!?」
「“使えそうならなんでも使っとけ”が〈蛇道鬼門拳〉の流儀なので……〈白虎金剛手〉も我流にアレンジして使わせてもらいましたよ。
そして今の技は〈我流・白虎金剛手『虎指丹弾』〉……!」
レイメイ(蛇)はしたり顔をしながらソンミンの血がべっとりと付いたレイメイ(首無し)の親指を見せた。
「勝手に技名付けんなァ!!」
ソンミンは怒り狂いながらも冷静に爪を振るって斬撃を飛ばし、レイメイには近付かないように攻撃した。
レイメイは首無しの身体でソンミン同様に斬撃を飛ばして攻撃の相殺を試み、相殺しきれなかった斬撃は宙を泳ぐ蛇身の硬質な鱗を盾代わりにして防いだ。
(くッ……結界を保ちながらやり合うには少し厳しいですが……そろそろ──)
「(避けずにわざわざ防御した……?)
ハハァ……よっぽど結界破られたくねぇらしいな?
そりゃそうか。じゃなきゃわざわざ誘き寄せて閉じ込めたりしねぇわなッ──……ゔっ!? お゛えぇエエ゛!!」
〈麒麟震天脚〉を発動して中庭を揺らし渾身の一撃で結界の破壊に取り掛かろうとしたその時、ソンミンの身体に異変が起きた。
右脇腹の激痛・手足の痺れ・目の霞み・皮膚の痒み・全身の灼熱感そして激しい吐き気に襲われソンミンはその場に血の混ざった吐瀉物を撒き散らした。
「やっと効いてきましたか……あなたの側近たちは皆ろくに抵抗できずに症状が出たのに……さすがは東方大陸に名を轟かす『ワン五兄弟』ってとこですかね」
「毒か……!! 糞がっ……ガふっ……かぁあアあッ!!
スゥ────……フンッ!!!」
ソンミンは身体中を掻き毟り深呼吸をして朦朧とし始めた意識を保ち、力を振り絞って自らの腹に掌底を撃ち込み大量に吐血し、足下が真っ赤に染まった。
「!? 何を……」
「オエ゛ッ……吐くもん吐いたら少しはマシになったぜ……。
頭に上ってた血が抜けてよ〜く考えたらよぉ……テメーの策にハメられてんのに戦ってる場合じゃねぇよなッ?
情け無えが逃げて兄貴達を頼る事にするぜッ!! チィリンの大兄貴なら解毒できるかも知れねえしなあ゛!!」
「どうでしょうね?
仮に結界が破れたとして、その吐血量では大陸中央の皇都まで縮地で辿り着けるか怪しいですし……解毒できるかも賭けですよね?」
「このままこんな所で死ぬよかマシだろうがッ!! それともテメェが解毒するか!? 今なら嬲り殺しは勘弁してやるぜ?」
吐き気が少し治り冷静になったソンミンが結界を破るべく氣を練って指先に集中させたその時、レイメイ(首無し)がその薄い胸をさする動作をしてアピールした。
「ヘヒヒッ……そんなあなたに朗報ですよ。
私の心臓を食べれば確実に解毒が可能です。
兄貴分に情け無い姿を晒さず確実に助かりますよ」
「そしてテメェをぶち殺せる……と。
逃げるよりそっちの方が性に合ってるな……いいぜ乗ってやるよ!!」
ソンミンは三度〈麒麟震天脚〉を発動──。
右脇腹の激痛と手足の痺れが一層酷くなったが気合いで無視して踏み込み、両手に氣を集中させた十指を半分折り曲げるとレイメイに向かってほぼ垂直に構え飛びかかった。
「〈白毒雲〉!!」
レイメイ(蛇)は口腔内の毒腺から雲を噴出させソンミンの残った右眼の視界と嗅覚を妨害し、死角となっている左側から全身をくねらせ襲いかかった。
一方レイメイ(首無し)は死角の防御を強化するためにソンミンが無意識のうちに氣を緩めていた身体の右側を攻め始めた。
「ちっ……! 万全ならテメェなんぞ……!!」
「〈魘々長蛇〉! 〈蛇蝎腿〉ッ!! 〈虎爪蛇手〉!!」
レイメイ(首無し)が伸びる手足を躍動させ鞭打・しゃがんで回し蹴り・引っ掻き攻撃をレイメイ(蛇)の掛け声と同時に繰り出したがソンミンは最低限の手捌きでいなし、あまつさえレイメイ(首無し)の心臓を掴み出さんと反撃してきた。
「いちいち技名叫ぶんじゃねぇ! 五月蝿えんだよぉ!!」
「それでは……技名無しで攻撃しましょうか」
次の瞬間苛立ちから大振り気味の攻撃を放とうとしたソンミンの右脇腹にレイメイ(首無し)の伸びた脚の爪先が突き刺さった。
「がッ……はァ……!」
ただでさえ毒の効能で激痛が走っている右脇腹に激しい衝撃が加わりソンミンは悶絶し、その隙にレイメイ(蛇)がソンミンの身体を締め上げ拘束した。
「──〈蛇道鬼門拳『月禍蛇腿』〉!」
(結局技名言ってるじゃねぇか……!
しかしこの痛みはやべぇぞ……息が詰まる……!
しかもコイツに勝って解毒できたとして外には共犯の『パリピ☆愚連隊』が待ち伏せしてるハズだ……今のオレ様に特級冒険者とやり合う余力は──……仕方ねぇ!武術家の矜持に反するとか言ってる場合じゃねぇな!!)
覚悟を決めたソンミンがヒビが入る程に歯を食いしばり力を込めるとメキメキと音を立てて全身が一回り以上大きく膨れ上がり、レイメイ(蛇)の拘束を力づくで解いた。
「うっ!? (狂戦士化した──!?)」
「ガるぁあア゛阿ぁァ
アァ亞゛アァあッ!!!」
顔から理性の色が消し飛んだソンミンは、〈白虎金剛手〉の流儀では握らない拳を握った結果、鋭い爪が突き刺さり血の滴った両手を振り回して暴れ出した。
技の冴えなどまるで無いがとにかく速く重い攻撃にレイメイ(蛇)はソンミンの後方へ、レイメイ(首無し)は前方へ殴り飛ばされ分断されてしまった。
自らの武術家としての流儀すら忘却し狂獣と化したソンミンであったが、「目の前の首無しの心臓を食べなければならない」という事だけは憶えており、理由も分からず本能に任せてレイメイ(首無し)に追撃を始めた。
「オ゛アァ ああぁぁァア亜ッアァ婀゛あぁあアッ!!」
「マズいッ……やられ──カハッ……!」
辛うじてソンミンの乱打を捌くレイメイ(首無し)だったが、圧倒的な手数に対応し切れず胴体を不自然に折り曲げられて結界の角に殴り飛ばされ動けなくなり、そのダメージはレイメイ(蛇)にも伝播した。
ソンミンが本能に従い拳を解き、血塗れの爪をレイメイの胸に突き立てるべく飛びかかろうとしたその時──
(────! 時間切れか……!)
中庭上空を覆っていた結界障壁が甲高い音を立てて砕け散り、一拍遅れて黄金の消防斧……神器【全能鍵】が地面に突き刺さった。
「ゴルルロロ゛ォアア゛ッ!!」
「ガあ゛アッ!?」
そして砕けた障壁の裂け目からソンミンより一回り程巨大に狂戦士化したアリエラが侵入、赫い稲妻を纏い轟音を立てて背後からソンミンに突撃して首に噛みつき、勢いのままに壁を何枚か突き破り屋敷のエントランスに転がり出た。
「フ──……ッ!!」
「かア゛ッ……ぐ….」
アリエラが一層顎に力を込めて噛みつき頭を思い切り振り抜くと、毛皮と肉を喰い千切ったとは思えぬ硬質で不快な音がエントランスに響き、傷口から濁った血が噴出し逆立っていた体毛を寝かせソンミンは力無く大の字に倒れ伏した。
「ペッ……なんとか間に合ったかしら……レイメイ!!」
制御が効かなくなる前に狂戦士化を解除したアリエラが自らの壁に開けた穴から中庭のレイメイに向かって声をかけて安否を確認したところ、レイメイ(蛇)だけが壁の穴から顔を出した。
「アリエラさーん……身体の方が変な風に曲がっちゃって動けなくなってるんですけど〜……」
「一対一でやり合っていたらレイメイが負けていたのではなくて?」
「うぅ……」
「今修復してあげるから待ってなさい。
ピチカが人払いをしてくれているけれど……いつまで保つかわからないから手早くワン・ソンミンの死体に処置を施さなくちゃ……」
アリエラが屋敷の玄関扉の内側に外からの侵入を防ぐために閂代わりに置いていた黄金石棺の中からオオカミ獣人の黄金髑髏を被ったその時──
「でめ゛ぇら゛っ……オレ様をどうずる゛気だ……?」
絶命したかと思われたソンミンが倒れたまま話しかけてきた。
「……! まだ息があるとは驚きね」
「……お友達のザオハンさん同様にキョンシー化して私の手駒になってもらいます。
生きてるフリをしてもらう都合上、自我は残してあげるので安心して下さいね」
「糞がッ……」
何一つ安心する要素の無いレイメイの答えに毒付きながらソンミンは今度こそ意識を暗闇に落とした。
◇〈白虎金剛手〉
ワン・ソンミンが考案した武術の流派。
手首から先に金属性の氣を集中させ強化する。
修得に厳しい部位鍛錬を要するため使い手は少ない。
強化した爪が刺さってしまうので基本的に拳を握る事は無い。
◇〈蛇道鬼門拳〉
蛇人向けに考案された暗殺拳(レイメイは蛇人ではない)。
“使えそうなものは使っとけ”が流儀の実戦派拳法。
必要ならば暗器や罠、他流派の技の盗用も平気でやる。
免許皆伝の際に師父と兄弟弟子全員を殺めてしまったため現在ではレイメイしか使い手がいない。
本来特に技名は無いが、レイメイは勝手に名付けて叫んでいる。




