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第十一話 ワン・ソンミン暗殺作戦

登場人物紹介

◇アリエラ

主人公。魔王軍四天王最強の怪力と頭脳を持つ紅一点。

褐色肌に短めの黒髪に猫のような紅い瞳の獅子獣人。

特級冒険者。

見た目は20代半ば。


◇ピチカ

蒼い髪と瞳にギザ歯が特徴のアクセサリー付けすぎなギャルっぽいハーピィ。

異世界転生者。チートスキル『楽々御粧し』の使い手。

二級冒険者。

16歳くらい。


◇レイメイ

魔王直属暗殺部隊『五毒姫』の末妹。

白い長髪と肌に鬼灯のように赤い瞳と愛嬌紅が特徴。

魔王特製の最上級キョンシー(札は丹田に貼っている)。

享年14。


◇ワン・ソンミン

東方大陸最大国家ウーヴ皇国を支配する『ワン五兄弟』の末弟。

獣率高めの白虎の獣人。

ウーヴ皇国の西都イーシンの領主。

28歳。

 


 ◇

  

 

 『西方公ワン・ソンミン』の朝は早い。

 夜明け前には目覚めて領主としての仕事をこなし──とは言ってもほぼ部下に指図するだけだが──……昼からは中庭で大兄貴と()()()()()『武皇帝ワン・チィリン』の編み出した〈麒麟震天脚(きりんしんてんきゃく)〉の鍛錬を始める。

 そして日暮れ頃からは自らの考案した〈白虎金剛手(びゃっここんごうしゅ)〉の研鑽が始まる。


「ハァッッ!!!」

 ソンミンは丹田で煉り上げた白い()を手首から先に集中させる事により強化された手刀で束ねた青竹を斬り飛ばした。

 続けざまに硬化させた爪と指で貫手を放ち地面に残った束に風穴を開ける。

 そして先ほど斬り飛ばした青竹が丁度良い位置まで落下して来ると掌底をぶつけて壁に叩きつけ、勢いよく壁に叩きつけられた束はバラバラになり大きな音を立てて散らばった。


 その後も中庭の至る所に配置された青竹の束を爪で切り裂き指力で引きちぎり、全体重を載せた鞭打で粉砕する等、手首から先を使った拳打を除くあらゆる方法で破壊し中庭は竹の破片だらけとなった。


(……まぁこんなもんか。

 あの二人組はそろそろ幽霊屋敷の調査が一段落した頃か?

 ……特級冒険者に一回タダ働きさせてハイさよならってのはちぃっと勿体ねえな……相場の倍くらい報酬払って繋がりを保っといた方が面白そうだな)


 ここ最近は部下たちの付き合いがやたらと悪く、自分に反抗するような者もいなくなって久しい上、兄貴分たちも領主になってからというものお高くとまり出して退屈していたソンミンは特級冒険者という面白そうな存在の来訪に高揚していた。


(あわよくば……ギルドから引き抜いてオレ様のオンナ兼私兵にでもしてぇな……) 

 企てが妄想に変わり出した頃中庭の出入り口からソンミンに声をかける者が現れた。


「ソンミンさん今いいすか?」

 ソンミンの側近であり個人的な友人でもある獣率の高いヒョウ獣人の『ザオハン』だ。


「ザオハンか。どーした?」

「『パリピ☆愚連隊』のお二人が報告に来てますぜ」


「パ……? あぁ……あの二人そんなチーム名なのか……よっしゃそれじゃ──……」

 ソンミンは珍妙なチーム名に困惑したが状況から昼間の二人の事だと察し、すぐに会いに行こうと思ったが鍛錬でかいた汗で自慢の体毛が濡れているのに気づいた。


「……待たせます?」

「そーだな……汗だくで相手すんのもなぁ……風呂入ってくるから待つように言っといてくれや。

 久しぶりにお前も一緒に入るか?」


「俺はまだ仕事あるんで遠慮しますわ」

「なんだよ……最近オメーら付き合い悪いぞ?」


「良さげな女でも居りゃヒマになるかも知れねーんすけどね」

「グハハハッ!! わかったわかった今度見繕ってやるよ。

 そんじゃあの冒険者二人には茶と菓子でも出してもてなしといてくれ」


 軽口を叩き合える側近との距離感に心地良さを感じるソンミンは「今度側近たちと久しぶりに酒池肉林でもやるか」等と考えながら浴場に向かった。



 ◇



 約一時間後、『パリピ☆愚連隊』の待つ謁見室に風呂上がりで湯気を漂わせるソンミンが豪奢な刺繍の入った着物を羽織りながら現れた。


「いやぁ待たせて悪いな。で……屋敷はどーだった?」

 ソンミンは上座にある豪華な玉座にどかっと座り込み、頬杖をついて話を聞く体勢をとった。


 一応跪いて待っていたアリエラと見よう見まねで跪いていたピチカは「風呂入ってたのかよ」とソンミンには見えないように顔を顰めた。


「……結論から申し上げますと『ゲダの指』の構成員が拠点として利用していたようですわ。

 白骨を武具にする魔術を使用していたので行方不明者はおそらく……撃破と共にこの本体の頭蓋骨以外は粉になってしまって……」

 そう言ってアリエラは手に持っていた捻れた角と牙の生えた異形の頭蓋骨を床に置いて見せた。


「ほぉーん……強かったか?」

「いえ……見掛け倒しで大したことありませんでしたわ……領主様や部下の方々と戦うのを避けていたのではないかと思いますわ」


「そうか。そんならオレ様がさっさと行って始末しときゃあよかったな!

 調査だけのつもりが戦わせちまって悪かったな。

 特級冒険者に相応しい額の謝礼でも──」

「──ああ! そうそう『ゲダの指』が屋敷に財宝を大量に隠しているのを発見しましたわ」


 自分のセリフを遮られ不機嫌そうな表情を見せたソンミンだったが、財宝という言葉を聞いた途端に目の色を変え玉座から立ち上がって二人の前まで歩み寄って来た。


「いいねェ。案内してくれ」


 レイメイの予想通りワン・ソンミンはあっさり釣れたのであった。



 ◇



 『パリピ☆愚連隊』の案内で幽霊屋敷の中庭への扉の前にやって来たソンミンは乱暴に扉を開く。


「ここに財宝があるんだな?」

「ええ。その通りです……わッ!!(ドガッ)


 返事と共にソンミンはアリエラに背中を蹴り飛ばされ中庭に放り出された。


「がッ!? なにしやがる!!」

「退くわよピチカ!!(バタンッ)」「うん!(バシッ)


 ソンミンの抗議を聞くそぶりも見せずアリエラは扉を勢いよく閉じ、その後扉になにかを叩きつけるような音が響くと外にまだいるであろう『パリピ☆愚連隊』の二人の気配を全く感知出来ない事に気づいた。


「(──まさか!)フンッ!(ズンッ!) ぜぇいッッ!!」

 ソンミンは〈麒麟震天脚〉由来の強力な踏み込みから〈白虎金剛手〉で鍛えた爪による斬撃を放ったが半透明の白い壁のような物に弾かれてしまった。

 

「チッ……結界……さっきのはフダを貼り付けた音か。

 何が狙いだァ!? 出て来ォい!! 今出れば命だけは──……ん? なんだありゃあ?」


 ソンミンが荒れ果てた中庭を見回しながら怒鳴り散らしていると中央部にある枯れた噴水の柱に異様に飾り立てられた板がぶら下がっているのを発見した。


『★♡★♡★♡★

 ♡おたからは♡

 ★ココだヨ♩★

 ♡★♡★♡★♡』


「あ゛ぁッ!? そんなもんどこに────(ヒュンッ……)

 さすがに自分が財宝をエサに騙されて誘き出された事くらいは理解しているソンミンが腹立ち紛れに噴水に向かって手を振り下ろそうとしたその時、視界の端に小さな光の反射を見た。

 次の瞬間咄嗟に身を丸めて防御したソンミンの全身に目視するのも難しい程に細い白銀の糸が四方から巻き付き、服を容易くボロ切れに変え毛皮に食い込んだ。


ぐっ……!?(ギチチッ……) (金属……こりゃ輝鋼銀(ミスリル)の糸か!?)

 ()()()()何もんだ? ……『ゲダの指』か?

 この服高かったんだぞ? どうしてくれんだ全くよォ〜……」


 ソンミンはいつの間にか視界の両端に立っていた白い長袍(チャンパオ)を着た人相も顔色も悪い男たちを睨み付け、背後で同じく自分に糸を巻き付けているであろう二人分の気配にも殺気を飛ばした。

 視界に入っている二人の顔にはこれ見よがしに呪符が貼り付けられており、ソンミンは僵尸(キョンシー)……つまり亡者(アンデッド)が組織立った行動をした事から『ゲダの指』ではないかと推察した。

 しかし背後から聞こえた気怠げな少女の声でそれは否定された。


「いや『ゲダの指(あんなの)』と一緒にしないで下さいよ……。

 それと()()()()()の事はよく知ってるんじゃないですか? ヘヒヒッ……」

「ああ゛……? 誰の事だ?」


 縛られたままソンミンが首を動かして後ろを確認すると見慣れたヒョウ柄の身体が目に入った。

 前の二人と同じく白い長袍を着て顔に呪符を貼り付け、袖口から出たミスリル糸で身体を縛り付けてくる友人の姿を見た。


「やあさっきぶりっすねソンミンさん。ビックリしました?」

「ザオハン……!? なんでお前が……!」


「数週間前からキョンシー化させて潜入させてたんですけど……意外とバレないもんですね……。

 すんなりここまで釣り出せましたし……上手くいき過ぎて怖いくらいですよ……。

 あ、そうそうどうせあなたも殺すから教えときますけど他の側近もキョンシー化済みですよ」


 まんまと罠にハメられた事、あっさりと友人達の死を告げられた事、そして自分を殺すつもりでいる事を一気に聞かされたソンミンは乾いた声で笑った。


「グハハっ……オレ様を()ろうってのか……?こんな糸で勝った気になってる小物がァ!? ナメんなよ糞餓鬼がッッッ!!! グルぁああ゛ァアアアァアアああぁアア゛ア゛ア゛!!!(ブチブヂッ)!!」

 怒号と共に丹田から氣を巡らせ全身の毛を逆立て筋肉を怒張させたソンミンは巻き付いたミスリル糸を力尽くで引きちぎった。


「なっ……!? ミスリル糸が!」

「さーっすがソンミンさん。やっぱヤベーわこの人」


 驚くレイメイとは裏腹に、潜入のために生前の自我や記憶を残してキョンシー化されたザオハンは大して驚いた様子も見せず笑った。


 自由になったソンミンは襲いかかって来た前方のキョンシー二体に対し〈麒麟震天脚〉仕込みの激しい震脚から〈白虎金剛手〉で鍛えた手先を乱雑に振るい、その身体を穿ち抜き切り刻みバラバラにした後、レイメイとザオハンのいる方へ向き直った。


「……来いよザオハン。オレ様が直々に楽にしてやるからよ」

「別に苦しくは無いんすけどね……レイメイ様よろしゅうございますか?」

「不意打ちは失敗したしもういいですよ……でもあんまり派手な損壊は修復が面倒なんでサクッと終わらせて下さいね」


「“よろしゅうございますか”だァ〜? ザオハンお前マジでそいつの支配下かよォ〜……」

「案外悪くないすよ。ぁ、ソンミンさんも仲間入りするんだったら俺の方が先輩なんで……よろしくッ!!」


「抜かせッ!!」


 両者同時に白い氣を指先に集中させ踊りかかり、肉体同士がぶつかっているとは思えぬ硬質な音が結界内に響いた。


 最初こそ互角の戦いのように見えたが最終的には体格・技量で勝るソンミンが圧倒し、ザオハンの五体をバラバラに引き裂き顔面の呪符を剥がして握り潰した。


 その後、ザオハンと男二人のバラバラ死体から無数に湧き出した蛇も難なく切り裂いたソンミンは深い息吹を吐く。


「気色悪りぃな……フゥ──────……オレ様の交友関係ってよぉ……兄貴分達はいつまでもオレ様をガキの頃のあだ名で呼んでくるし、部下はオレ様にビビってるんだよな」

「なんですか急に自分語りしちゃって……」


「まあ聞けや……そんな中ザオハンは部下の中でも気さくな奴でなぁ〜……一緒に強盗(タタキ)に入ったり酒池肉林したり……」

「えぇ〜……」


「自分の女にガキが出来ても認知しねぇし……よく金の無心をする困った奴だったけどよ……魔薬(ヤク)にだけは手を出さねぇ芯の通った男だった……」

「改めて始末しといて良かったと思いましたよ」


 しみじみとロクでも無いザオハンとの思い出を振り返っていたソンミンだったが、レイメイに向き直り真剣な眼差しで構えた。


「ザオハンと他の側近の仇討ちだ……!

 オレ様は『西方公ワン・ソンミン』……流派は〈白虎金剛手〉だ。

 テメーも名乗れ……名前はレイメイだったっけか?」

「はぁ……そうですレイメイです。

 所属は……秘密で……流派は〈蛇道鬼門拳(じゃどうきもんけん)〉です。

 一応言っておきますけど私は決闘じゃなくて暗殺をしに来てるんで正々堂々なんて期待しないで下さいね」


「……テメーのやり口知っててそんな事期待するワケねーだろこのボケがあッ!!」


 猛然と襲いかかるソンミンの掌底がレイメイの顔に迫った。

◇氣

魔力の別名。

特に東方大陸中原で使われる。

他の大陸や地方で主流の九大属性思想とは体系が異なり、木火土金水の五行思想を取り入れている。

丹田への意識の集中が重要だとされている。


輝鋼銀ミスリル

希少金属の一種。

銅のような加工の容易さと鋼を超越した強度、そして羽根のような軽さが特徴。

単純な武器よりは防具や矢弾、暗器に用いられる事が多い。

近年はほぼ採り尽くされ取引価格が高騰している。

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