1-3-1 廃課金令嬢デスワ!今日限りでお前はこのチャンネルから追放する!ークソガチャやめられなかっただけなのにー
〜カラオケボックス・ジャイサウンド〜
「はあ?つまりどういう事ですの?シーフ?」
「だから追放だよ、デスワ。お前には今日限りでこのダンジョン配信チャンネル【聖雀の騎士】を抜けてもらう」
俺がそう吐き捨てると、目の前のハイブランドな私服の女子高生は、ヤレヤレと肩を竦める。
女子高生の名は勅使河原・姫初。配信者名はデスワ。
年齢は16歳。
しなやかな金髪の縦ロール、育ちの良く見える整った顔立ち。豊満なメロンみたいな胸をはじめとした肥え太った体型。
俺達のチャンネル【聖雀の騎士】では、悪役令嬢として活動している。
……悪役令嬢として活躍しているってなんだ……?
リスナーがそんなこと言い出したんだっけか?
あいつらもうおっぱいとしか呼んでないけど。
ちなみに元大企業の社長令嬢で、ダンジョンから与えられたジョブは【黒魔術師】。攻撃魔法が得意。
◇えっ追放?なんで?
◇仲良くしてくれなきゃやだ!
◇初見は帰れなのだ
リスナーの皆さんも不安がっていらっしゃる。
まあ【言いたいこと全部言います。実は……】って雑談枠取っちゃったからな。
めんどくせえけどやるしかないか。
「ほほほほほwwwなかなか面白いジョークを言えるようになったじゃあありませんの、シーフwww」
こんなときでも高飛車な態度を崩さない。
草生やしてんじゃねえよ。
◇なんだジョークかよかった
◇いやまだ安心できないぞ
「ジョークじゃなくてマジなんだよ。急で悪いけど、もうお前とはやっていけない」
「あのですわねえ。わたくしは大企業ルイーン・ビトンの社長令嬢ですのよ?口の聞き方ってものがあるんじゃありません?」
「もう倒産しただろ。いつまで社長令嬢気取ってんだお前」
「クソガキのくせに生意気ですわ!」
鼻の穴を膨らませる元令嬢。
「わたくしを追放したいというのなら、納得のいく説明をしていただけるかしら?」
◇それな
◇デスワは戦闘面では常に役に立っていた。そもそも攻撃魔法はシーフとデスワしか使えないけどシーフはMPそこまで多くないし性格的にも後衛向いてない。デスワのMPはほぼ無尽蔵で無詠唱で上級魔法連発できる。しかも例の固有スキルがある。デスワは規格外
◇急に早口になるのはやめるのだ
◇規格外って胸の話?
◇デスワが居なくなったらチャンネルのバストサイズ平均が大幅下降するぞ
◇そもそもデスワの乳揺れがなかったらチャンネル見てない
◇やめなー
リスナーも最高潮だ。
まあ人気だけはあるからなこのクソ令嬢。
しかたねえ、見せつけてやるとするか。
納得のいく説明ってやつを。
「これを見ろ」
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アイテム:N
剣のイヤリング
攻撃力がわずかに上昇
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アイテム:R
マスカレードの仮面
スピードが少しだけ上昇
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アイテム:N
ガーネットの指環
一度だけ敵の火耐性を少し弱める
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アイテム:N
剣のイヤリング
攻撃力がわずかに上昇
〜〜・〜〜・〜〜・〜〜・〜〜・〜〜・〜〜
アイテム:N
剣のイヤリング
攻撃力がわずかに上昇
〜〜・〜〜・〜〜・〜〜・〜〜・〜〜・〜〜
アイテム:N
盾のイヤリング
防御力がわずかに上昇
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アイテム:R
ジェネリックポーション
体力が少しだけ回復
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アイテム:N
サファイアの指環
一度だけ敵の水耐性を少し弱める
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アイテム:R
ケモリンガル
10秒間だけ動物と会話ができる
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アイテム:N
剣のイヤリング
攻撃力がわずかに上昇
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………………
……
「これはてめえが40万円使って引いたリアル10連ガチャの結果だ。何か言うことはあるか?」
◇あっ
◇これは酷い……
◇大爆死やんけ
◇ゴミしかない
◇Rまでしか入ってないガチャなのか?
◇俺のソシャゲのガチャみたい
◇トラウマやめろ
◇画面見ただけで吐きそう
◇これアイテムショップで全部売ったらいくら?
◇たぶん2000円とか…
◇ただでもいらない、装備枠の無駄
◇あのジェネリックポーションうちの近所の自販機で150円だったよ
◇もうやめるのだ…
これはデスワが固有スキル【リアル無限ガチャ】で引いたものだ。いい装備アイテムが手に入るならと思っていたが、一回ガチャを回すのにリアルマネーが4万円もかかる上に、出るアイテムの期待値が低すぎて普通にアイテムショップで買った方がマシなレベルなのだ。
なのでこのスキルは封印しろと、朝昼晩きつく言っていた。
だというのに当の本人は────
「もぐもぐ」
「ッ呑気にハニトー食ってんじゃねえよ!!!」
「そうですよ同志!食べるならチロノワールにするべきです!!」
俺はデスワから皿を取り上げる。
これ以上肥え太ってどうする気だこの豚は???
顔面をグーで殴りたくなったが我慢してやろう。
たとえイラついても女を殴るなんて最低の行為だからな。これが俺のフェミニズムだ。
「……登録者1000万人以上の大人気チャンネルの俺の家の主食がどうして味噌野菜炒め定食なのか知ってるか?」
「あ、そういえばそうですわね。今夜は久しぶりにステーキにしましょう」
「おっ、いいですわね〜────ッじゃねえんだよおおお!!」
ドゴォ!!!
「ぐふおおっ!!」
鳩尾にクリーンヒット。
元社長令嬢らしからぬ声をあげて、デスワは床に倒れ伏す。イラついた相手を殴るのに男も女も関係ない。これが俺のフェミニズムだ。
◇ゲスト¥5000:ガチャ代
◇ゲスト¥5000:ガチャ代
◇ゲスト¥5000:ステーキ代
◇ゲスト¥5000:ガチャ代
◇ゲスト¥5000:病院代
お前らもそんなもん払ってんじゃねえ!せめて自分のガチャに使え!!
「ッげほっ、ごほっ──ぶ、無礼者おおっ!」
「無礼講だ無礼講!!」
俺はデスワの両肩を掴み、激しく前後にゆする。セットに何万もかかるパツキン縦ロールと、邪魔くせえ胸ががくんがくんと揺れる。
「ッつーかガチャだけじゃねえんだよ!そもそも!お前は荒いんだよ!普段から金遣いが!」
「いたいいたいいたい!!」
「ッお前はガチャと元の生活のせいで金銭感覚狂ってんの!甘やかされたお嬢様みたいな生活はできないの!!お金は天から降ってはこないの!!」
「いたいいたいいたい!!」
「汗水垂らして稼いだ金を!よくも!よくもおおおおおあああああ!!」
「いたいいたいいたい!!」
◇揺れ
◇揺れとる
◇地震あった?
◇マグニチュード100くらい
◇バインバインなのだ
そう、あれは一年前のこと。
大企業ルイーン・ビトンが未曾有の大事故に巻き込まれ、デスワの親族も皆死んでしまった。
たまたま彼女を助けた俺は一緒に配信者をやる事になったのだが、それが間違いだった。
大企業の社長の一人娘としてかわいがられ、蝶よ花よと何不自由なく育てられたこの馬鹿令嬢は、庶民の感覚をまるで身につけていない常識知らずだったのだ。パンがなければケーキをホールで買ってくるようなやつなのだ!
ちなみにこの女もノーパンと同じく行くところがないので、俺の部屋に住んでいる。我が物顔で。
「ははは。まあまあ、そうカッカしなくったっていいじゃあないかシーフ」
大乱闘を繰り広げている俺達を見兼ねたのか、ドリンクバーから帰ってきた女たらし騎士のユリが口を挟んでくる。
◇ユリ参戦
◇流れ変わったな
◇変わらないぞ(予言)
「私だってほら、女の子にプレゼントを買ったりするしさ」
「そうですわそうですわ!」
「こいつのは桁が違うの!こいつは限度を知らねえんだから!」
「でもほらリアル無限ガチャでいい装備が出たこともあるだろ?私の盾とかURだし」
「そうですわそうですわ!」
「数百回以上引いてマシだったのその1回だけだろ!!ユリ!そうやってお前が甘やかすからつけ上がるんだよ!しっ!しっ!」
「くぅ〜ん……」
手を振って追い払うと、ユリはすごすごと引っ込んでいった。
◇駄犬…
◇撫でてやるよ駄犬
◇かわいそうな駄犬
◇あっちでおじさんとフリスビーしてような
◇好きなだけドリンクバー行っていいぞ
◇優しくて草生えるのだ
悪役令嬢デスワは、ぷくっと頬を膨らませてむくれている。うぜえ。フグかよ。左右から頬を押し潰すとプシュっと空気が抜けた。
「まあそういうわけだ、デスワ。お前には俺達のチャンネル【聖雀の騎士】から抜けてもらう。そして明日から俺達は毎日ステーキを食うんだ」
「……はあ……。仕方ありませんわね」
デスワの肩から、力が抜ける。
どうやら納得してくれたみたいだ。
……というかもっと抵抗するものかと思っていたから、拍子抜けしてしまった。
◇え?あれ?
◇ほんとに辞める流れ?
◇おっぱいのお姉ちゃんやめちゃうの?
◇涙拭け少年
……ううん。
なんかアッサリ承諾されると、それはそれで寂しいというか……抵抗して欲しかったわけじゃない──と思う、けど──複雑な気持ちだ。
「…………今更こんな事言うのは卑怯かもしれないけど、別に俺はデスワの事が嫌いだったわけじゃない。高飛車な態度にムカついたりもしたけど、それもお前のいいところでもある。まあ、お前くらい才能があれば、きっといい働き口が見つかるさ。それで、もし金の大切さを学んだら、また一緒に──」
「はい、どうぞ」
「え?」
デスワから何かを手渡される。
皮の袋だ。
開いてみると、眩い宝石がいくつも入っていた。
…………なにこれ。
「なにこれ?」
「詫び石ですわ!」
「あるんだ詫び石システム」
「なんと10連もできますのよ!」
「10連も」
「今回はこれで、手打ちとしていただけませんこと?」
「…………。」
「まあお互い至らない部分もあったと思いますが、これまでの事は水に流してあげますわ」
「…………。」
「さあ、シーフ!今日も張り切ってダンジョン攻略に行きますわよ〜っ!」
「…………。」
「えいっ!えいっ!お〜ですわ!!」
「………………………………。」
◇……。
◇……。
◇……。
◇おつワ〜