1-2-1 魔族の武闘家ノーパン!今日限りでお前はこのチャンネルから追放する!ーただ配信内で脱いだだけなのにー
〜カラオケボックス・ジャイサウンド〜
「な、なんだって……!?そ、そんな、嘘だろ、嘘だと言っておくれよシーフッ!!」
「だから追放だよ、ノーパン。お前には今日限りでこのダンジョン配信チャンネル【聖雀の騎士】を抜けてもらう」
俺がそう吐き捨てると、目の前の武闘家少女は、この世の終わりかのような表情をする。
彼女の名はノーパン。
年齢666歳。
紫色の短い髪。凹凸の少ない健康的な小麦色の肌。
少しあどけなさが残る愛らしい顔立ち。その中央には、紫色のおおきな単眼。
彼女は俺達が保護したサイクロプスの魔族の少女だ。装備オン状態で銀狼人になるユリとは違い、姿は変わらない。
俺達のチャンネル【聖雀の騎士】では、武闘家として活動している。
ちなみに服は着ていない。
繰り返す。
服は着ていない。
「そ、そんな、どうしてボクが──!?」
「その話をする前に、まずは何か着ろ」
「あっうん」
俺から布の服を受け取ると、ノーパンはいそいそと頭から被り、袖を通す。
「そ、それで、どうしてボクが」
「下着とズボンも履け!舐めとんのか!」
「あっうん」
パンツを受け取ったノーパンは、上目遣いで熱視線を送ってくる。
「ボクがパンツ履くとこ、ちゃんと見ててね」
「黙 っ て 履 け」
心底不服そうな顔でパンツに脚を通し、短いズボンを履く。いったいなにが不満なんだ。
◇えっ追放?なんで?
◇仲良くしてくれなきゃやだ!
◇初見は帰れなのだ
なんで?じゃねえよ見ればわかるだろ毒されやがって。
まあ【すべてをお話しします】って雑談枠取っちゃったからな。
さっさと本題に入ろう。
「それで──どうしてボクが追放なんて──」
「実はな、お前のクソッタレな趣味のせいで、よくない噂が流れてるんだ」
「え!?ぼ、ボク、悪いこととかしてないよ……?」
「人前で服を脱ぐのは悪い事なんだよ!!」
「ひいっ!?」
俺が怒声をあげると、小動物のように縮こまるノーパン。少し気の毒だが、ここで引くわけにはいかない。相手は子リスのふりをした変態だ。
◇ぴえん
◇怖いよぉ
◇わァ……ぁ……
◇泣いちゃった
◇おこなの?
◇びっくりしておしっこ漏れちゃった
◇パンツ替えてもろて
◇いま大事な話してるからちょっと黙ってろキッズども
◇ノーパン先生は戦闘面では常に役に立っていた。身軽で全員の中でも突出して最速。前衛はシーフとユリと先生で3人居るけど岩とか壁とか砕けるのは先生だけだから役割も被ってない
◇急に早口になるのはやめるのだ
◇ノーパン先生が脱いでも俺達はいっこうに構わん!
俺が構うんだよ。
◇俺もいま全裸で見てる
風邪ひくなよ。
「お前がそこかしこで脱ぎ散らかしてるせいで、全裸の変態が居るって何度も運営に通報されたんだぞ!?」
「ひぃっ!?……ごっ、ごめんなさい……」
魔族だから常識がない──とかいう言い訳が通じたのは2ヶ月くらいだ。リスナーのみんなも運営も既に気づいている。
ノーパンは好きで脱いでる。
性癖で脱いでる。脱ぐと興奮する。
根っからの変態露出まぞくだ。
「AIのモザイク処理とお前が一応モンスターって立場のおかげでギリギリでチャンネル凍結は免れてるけどさあ!消えてるアーカイブはいくつもあるんだからな!?」
◇AIってすごいなあ
◇感心しとる場合か
◇それはそう
「街中でも!ダンジョンでも!カラオケボックスの中でも!打ち上げで行ったボウリングでも!!ちょっと目を離すといつの間にか全裸になってるじゃねえかお前!!」
「ッごめんなさい!ごめんなさいいっ!」
「どうしてすぐに全裸になるんだよええっ!?」
「だ、だってぇ……」
口元を手で押さえて、目線をせわしなく泳がせるノーパン。
「最初はそんなつもりなかったんだ……ただ服を脱いだ方が身軽に戦えるハズだって思って試してみたら思ったより気持ちよくて……えへへ」
「そうですか」
「もうこんな事はやめようって、何度も思ったんだ。ほ、ほんとうだよ!信じて!」
「普通はね、一度たりとも思う機会はないんだよ」
「でも、わ、忘れられないんだ!……余計な布切れをすべて脱ぎ去ったときの、あのなんとも言えない、高揚感が……」
「そうですか」
「む、むしろ服を着ていると、本当のボクじゃない気がして、違和感があるっていうか……」
「それはね、お前が変態だからだよ」
「はううっ♥変態露出まぞくでごめんなさぁあい♥」
ノーパンは顔を赤らめて身悶える。
悦んでんじゃねえぞこの雌豚が。
◇ノーパン先生に悲しき過去…
◇わかるよ、つい脱いじゃうよね…
◇通報しました
「あのさノーパン、このままだとアーカイブが消えるとか、お前が変態呼ばわりされるとか、それだけじゃすまないかもしれないんだ」
「ど、どういうこと?」
「もしかしたら俺がお前にいかがわしい要求してるんじゃないかとか、そういう目で見られるかもしれないだろ?」
「そ、そうなんだあ……うへへ♥」
「ん?なにを喜んでいるんだい?ん?」
「ッご、ごめん!ボク達がそんな目で見られてると思ったらつい口元が緩んでっ…………ふへ♥」
初めて会ったときはもっとまともだと思ってたのに……いったい親からどういう教育を受けてきたんだこいつは?親の顔が見てみたい。
──いや、やっぱりやめておこう。
親も裸族だったら耐えられる自信がない。
「ははは。まあまあ、そうカッカしなくったっていいじゃあないかシーフ」
カラオケボックスで大騒ぎしている俺達を見兼ねたのか、ドリンクバーから戻ってきた女子大生女騎士のユリが口を挟んでくる。
◇ユリ参戦
◇流れ変わったな
「たかが布の数枚、誤差だよ誤差。どうせベッドの上では皆、裸になるんだ」
「なにうまいこといったみたいな顔してんだ。オッサンのシモネタじゃねえか」
「それに目の保養にもなる。昨日も私はノーパンの活躍に目を奪われて危うく感覚遮断落とし穴に落ちかけたくらいだ」
「駄目駄目じゃねえか」
「なにより【聖雀の騎士】から美少女が減るなんて、私は反対だ。騎士として看過できん!!」
「お前は真面目に探索と配信してる騎士達に土下座して謝れ!!」
「くぅ〜ん……」
◇この駄犬が…
◇駄犬…
◇流れ変わらなかったな
◇役立たずの雌犬
◇一生ドリンクバー行ってろ
◇ゲスト¥3000:ドリンクバー代
◇辛辣で草生えるのだ
しっしっとユリを手で追い払うと、俺は再びノーパンの方に向き直り強い口調で言う。
「とにかく、お前みたいな危険人物をおいては置けない。これはリーダーである俺の決定だ!」
「そ、そんな──」
「それとお前の装備だが、ちゃんと全部持っていけよ、それはお前の取り分で購入したものだからな」
俺の言葉にノーパンは絶望し崩れ落ちるが、知ったこっちゃない。
『──♪プルルルル──』
カラオケボックスの電話が鳴る。そろそろ終了時間のようだ。俺は受話器に手をかける。
──がしっ!!
「うわっ!!」
袖を引っ張られて、振り返る。
見ればノーパンは、目に涙をいっぱいに溜めて、俺の服にしがみついていた。
「シーフ、シーフぅっ!」
「ひっつくなっての!」
「お、お願い、捨てないで、捨てないでっ!ボク【聖雀の騎士】が好きなんだ!辞めたくないようっ」
「そ、そんな顔されたって、もう決めた事なんだよ!」
「これからは────お、お風呂とトイレくらいでしか脱がないから!」
「絞り出すような声で普通の事を言うな!?」
幼くあどけない顔をくしゃくしゃにして、おおきな瞳から涙を流すノーパン。
◇泣かないで…
◇泣かないで
◇よしよししてあげたい
◇もうゆるしてやったらどうや
◇ゲスト¥5000:泣き声かわいいですね
……参ったな。
これでも、それなりに長く一緒に冒険してきた仲間だ。そんな顔をされると、胸が痛くなる。
「ぼ、ボク、なんでもしますからっ!雑用でも、荷物運びでも、混浴でも、犬の真似でも、深夜のお散歩でも!」
「後半はしなくていい!!!」
「お願いしますっ!お願いしますっ!!」
ノーパンは正座をし、カラオケボックスの床に額を何度も擦りつける。なんとも痛々しい土下座だった。
ちなみに、彼女の服は綺麗に畳まれていた。
繰り返す。
服は綺麗に畳まれていた。
「はあ…………♥はあ…………っ♥」
「………………………………。」
◇……。
◇……。
◇……。
◇おつパン〜