F 【重大発表あり】あのメンバーがついに……!?
〜ウメダダンジョン〜
僕の名前は森山太郎。17歳。
シンゴという登録名で探索者としてダンジョンに潜り、その様子をダンチューブに配信している。
いま流行のダンチューバーというやつだ。
「おいタロウ、はよ来るんやっ!」
「はいっ!シンゴさん!」
シンゴさんは有名チャンネル【タイガーアドベンチャー】のリーダーだ。数ヶ月前、無名だった僕をパーティーに勧誘してくれた。
学校でも気の合う仲間は見つからずソロで活動していた僕には、本当にありがたい話だった。それからパーティーの仲間たちと、いくつものダンジョンを攻略し、配信してきた。
いまはこのチャンネルが、僕の居場所だ!
「ついたで!ここや!」
シンゴさん達は巨大な扉の前で立ち止まる。
ここはウメダダンジョンの最奥。この扉の先にダンジョンボスが居るらしいのだが、Sランクの巨大モンスターらしくいまだに誰も討伐できていない。
◇まさかボス討伐か!?
◇ダンジョンクリアしちゃう!?
◇やめとけやめとけ、ボスはレベルが高いんだ
◇お前らネット評価Bランクやろ
リスナーもざわついている。
ここのボスはまだ僕たちには早いと思うのだが──
困惑する僕の肩に、シンゴさんは、ぽんと手を置く。
「タロウ!今日の主役はお前や!」
「え?僕?」
「この配信のタイトルに【重大発表あり】ってついてたやろ?」
◇ついてたな
◇いつもついとるやろ
「名付けて──【タロウ卒業企画!ソロでダンジョンボスを討伐してみた!】──や!!」
……………???
え?
卒業?ソロ討伐?
なにを言ってるんですかシンゴさん??
◇タロウ卒業!?
◇卒業するのか
◇突然だな
◇最後にでかい企画もらえてよかったな
◇タロウまじかよ
???
状況にまるで理解が追いつかない。
「あの、僕なにも聞いてない──」
「そりゃそうやろ!サプライズやからな!隠すの苦労したで〜!w」
◇サプライズかよw
◇俺達もビックリしちゃった
◇タロウ唖然w
◇エンタメやな〜
◇タイガーアドベンチャー最高!
◇タイアド最高!
何故かリスナーは盛り上がっている。
鼓動がどんどんはやくなり、嫌な汗をかく。
ようやく状況を飲み込みはじめた。
「卒業おめでとうやで!いままでありがとうなタロウ!」
「おめでとうタロウくん!!」
「うおおおおおおおお!寂しくなるぜえええええええ!!」
◇おめでとう!
◇タロウおめでとう!!
◇888888
◇ありがとう!
◇ありがとうや!
「やっぱり卒業式はバズるなあ!同接うなぎのぼりや!」
「コメントも盛り上がってるぜ!時代は感動だああああああっ!!」
「たとえ離れ離れになっても、私たちズッ友だよ!!」
もしかして、僕、本当に卒業させられる?
こんなわけのわからない、バカみたいな流れで?
いや、これは卒業なんて生やさしいものじゃない。
実質的な追い出し──追放だ。
「うっ……ううっ…………」
このチャンネルが僕の居場所だと思っていたのに。
気がつくと僕は、涙を流していた。
「タロウ──ええ仲間を持って俺も幸せや!!」
「感動で泣いちゃったみたいだぜ!俺も目頭が熱いぜええええ!!」
◇泣ける
◇俺も泣いた
◇貰い泣き
◇タロウのこと忘れない
◇ばいばいタロウ
◇エモ
◇まじエモいな
◇ところでソロ討伐は?
「あっせやせやw忘れるところやったw」
◇wwwww
◇ちょいちょいちょ〜いwwwww
◇でましたうっかり
◇いつものうっかりですねw
◇メインイベント忘れないでくださいよw
ダンジョンボスのいる部屋の扉が開かれる。
ここからでもわかるような強烈なプレッシャーに、すくみあがった。
「さあタロウ!!輝かしい一歩を踏み出すんや!!」
「ッ本当に僕ひとりで戦うんですか!?」
「お前がひとりでダンジョンボスを倒せんようやと、俺らも安心してお別れできへんやろ?」
「む、ッ無理に決まってるじゃないですか!?Sランクモンスターにひとりで挑むなんて!」
「無理やない!俺たちはお前を信じとるんや!!タロウなら絶対にやれる!!しかもいまは卒業パワーもある!!俺らはここでタロウの勇姿を見届けたるんや!」
◇これが仲間との絆か
◇信じることもまた仲間の証
◇タロウの成長のためか
◇ひとりだちするんやもんな
◇さすがリーダー!俺たちにできないことを平然とやってのける!そこに痺れる憧れる!
◇がんばれタロウ!
◇ファイト!
◇エモ
◇エモいな
◇まじそれな
なに言ってるんだみんな!
こんなの自殺するようなものじゃないか!?
「ッ無理!絶対に無理です!!」
「無理やない!タロウ!諦めたらアカン!!」
「卒業はしますから!もう帰らせてくださいっ!!」
◇なんか空気読めてなくない?
◇ダル……
◇タロウさあ……
◇なにこいつ萎えるわ〜
◇なんやこのチキン
◇リーダーに迷惑かけんなや
◇氏ねばいいのに
◇友達少なそう
◇エモくないよタロウくん
◇これはエモくないなあ
◇エモくないですね
◇エモくない
◇エモくない
◇エモくない
◇エモくない
◇エモくない
◇エモくない
◇エモくない
◇エモくない
◇エモくない
◇エモくない
◇エモくない
◇エモくない
◇エモくない
◇エモくない
◇エモくない
「おいタロぉ〜っ!おもろないことやめろや!リスナーさん達がシラけてもうてるで!」
僕はシンゴさん達に羽交締めにされる。
「しゃあないから俺らが扉の先まで連れてったるわ!」
「やめて!痛いっ!離してください!!」
「ガチョウ倶楽部やな!わかっとるでタロウ!甘やかすだけが仲間やない──俺は心を鬼にするで!これが俺たち仲間としての最後の贈り物!勇気の一押しや!」
◇エモい
◇エモい
◇エモい
◇エモい
◇エモい
◇エモい
◇エモい
◇エモい
◇エモい
◇エモい
◇エモい
◇エモい
◇エモい
誰か──誰か助けて────!!
「──邪魔だどけ雑魚どもォ!!!!!!!」
「「「うぎゃああああああああああ!!?」」」
突然、後ろからものすごいスピードでなにかがぶつかってきた。シンゴ達は壁に吹き飛ばされ、僕はつんのめって地面に倒れこむ。
◇え?
◇え?
◇え?
◇え??
◇は?
◇え?
◇なに?
その真っ赤な影は半開きの扉を吹き飛ばし、続いて4つの影が扉の奥の暗闇に消える。それから数秒後に、部屋の中からダンジョンボスらしきものの悲鳴が聞こえてきた。
助かった、のか──?
◇え?
◇これボスの声か?
◇どういうこと?
◇クリアされた?
◇コアは?
困惑するリスナー達。
やがて扉から、5人の男女が顔を出す。
「おいデスワ!!タイムはァ!?」
「25分32秒ですわ!!おっそwww」
「ッちくしょう!10分以内って宣言したのによ!!」
「わたくしがリスナーならもう飽きてポテチ食ってるところですわwww」
なんて人達だ。
Sランクのボスを倒したというのに、攻略タイムを悔しがっているなんて。
◇なにこれ乱入?
◇おもろない展開
◇てかあいつら知ってる
◇俺も
◇Sランク探索者のシーフじゃん
◇じゃあ【聖雀の騎士】か!?
◇配信の邪魔すんなよ
◇コアは?コアも壊されたのか?
◇エモくない…
登録者数1224万人の有名パーティー【聖雀の騎士】。
その活躍は僕も知っている。
女子大生女騎士ユリ。
魔族の武闘家ノーパン。
JK悪役令嬢デスワ。
実家がナゴヤの聖女アビス。
そしてリーダーは自称勇者のシーフ。
──これが──
ネット評価Sランクの最強パーティーだ!!!
「ッおいアビス!てめえが途中で他の探索者と井戸端会議なんかしてるからだろうが!!!」
「布教活動と言ってください。そもそも同志デスワがチャンネルの資金を使い込むから私がいろいろと苦労してるんでしょうに。これだから異教徒は……」
「わたくしの課金は必要経費ですわ!だいたいお金の話をするならノーパンだってチャンネルの収益化を停止させてるじゃありませんの!」
「だ……だってボクが脱ぐとみんな喜んでくれるしぃ……へ、へへ……ね、ユリもそう思うよね……?」
「ああ。こんなことで争うのはやめてくれ、キミ達はみんな私の大事なハーレムのメンバーじゃないか。美少女には、笑顔が一番似合うよ」
「だからてめえのハーレムじゃねえんだよ!リーダーは俺なの!なにどさくさに紛れてチャンネル乗っ取ろうとしてんだてめえ!!」
ぎゃいぎゃいと言い争う5人組。
──これが──
ネット評価Sランクの最強パーティー???
最後まで読んでくれてありがとうございました!
シャチホコ!




