2-5 俺は自称勇者シーフ!今日限りでこのチャンネルは解散する!ーあの雲の彼方までー
〜ハラジュク〜
◇なにこれ
◇こいつら知ってる
◇サイレントナイト?
◇人の枠でなにやってんだ?
……ん?
あれ?
俺達の周囲の空中にコメントが投影されている。
さっき気絶したアホの配信用ドローンか!!
同接とんでもねえことになってんなオイ!!
◇ハラジュクやばい
◇やばたにえん
◇ダンジョン外でスキル使ってね?
◇それって違法じゃ……?
◇バズりまくりじゃん
「うっとおしいですね、壊しときますか同志?」
「……いや、そのままだ!!」
俺は配信用ドローンに向かって吠える。
「おいこら野次馬ども!聞きたいことがある!地上に居るモンスターはどれくらいだ!?」
◇は?
◇は?
◇は?
◇なに言ってんだ?
◇態度悪い
◇地上ってどういうこと?
「さっさと答えろ!!ヤツらは下から来てんのか!?上から降って来てんのか!?どうなんだ!?」
◇それが人にものを聞く態度か?
◇サイレントナイトが戦ってるぞ!
◇炎上中の!?
◇マジ!?スレのみんなに声かけよ!
◇そういえば地上のモンスターは居ないのか?
◇モンスター空にしか居ないってみんな言ってるンゴ
◇降りてきてるのは居るみたいだけど
◇映像だとハラジュク上空に裂け目ができて、そっからモンスターが溢れてきたらしい
やっぱりそうか!
地上の被害は確認できないが、ハラジュクまで走ってきた様子から、火災以外のダメージはそこまで酷い状況には見えなかった。
地上や地下からモンスターが出てきているのなら、こんな事はありえない。
敵はすべて、上空から来ていたのだ!!
それなら──ヤツらを殲滅する手はある!!!
「ほとんどのモンスターが空にいるようですね、けどどうして──」
「さあな。ハラジュク上空にダンジョンがあったのかもしれないし、今は原因なんてわからなくていい!まずは結界だ、アビス!!ハラジュク全体にでかいのを張れ!!」
「はい余裕!【でらバリア】!!」
────スキル発動!【でらバリア】!!
巨大な聖なるバリアがドーム状に出現し、アルティメットバーサーカードラゴンの火球を弾き返す!
◇なにあのでかさ!?
◇結界がでかすぎる
◇家の窓からも見える
◇相変わらずのチート
◇年の功だな
◇見直したぞババア
◇やるじゃねえかババア
◇これが噂に聞くヒツマブシ・パワーか
「ユリ!! お前がヤツらを一箇所に密集させられれば、俺の【切り札】で一網打尽にできるッ!!」
◇え
◇なにそれ
◇ちょっとなに言ってるのかわからない
◇ビーム砲でも持ってんのか?
◇まさかスレで噂になってたあのスキルか!?
◇爆裂魔法!?
◇あれデマじゃなかったのか!?
◇全裸ラジオ体操のこと!?
◇いや…
俺が切り札と言った攻撃系スキルは──ダンジョン攻略中には見せたことのない技だ。だが出し惜しみしていたわけじゃあない、使えなかったんだ。
なんせあまりにも高威力広範囲超射程の攻撃なんで、狭いダンジョンで使ったらなにもかもまとめてブっ壊れちまうからなァ!!
「やってくれるか、ユリ!!」
「やってみよう!!」
────スキル発動!【挑発】!!
上空のドラゴン達はユリの真上に集まっていく!
これで狙いを絞りやすくなった!!
だが同時に──結界内に取り残されたはぐれドラゴンがすべてこちらに向かって来る!!
「ノーパン!!!デスワ!!!迎撃任せたッ!!!」
「かしこまりッ!!」
「ですわッ!!」
────スキル発動!【ハウリング・ソール】!!
────スキル発動!【フレイムカノン】!!
────スキル発動!【発勁鎧通し】!!
────スキル発動!【ライトニングカノン】!!
────スキル発動!【天空脚】!!
────スキル発動!【フリーズカノン】!!
────スキル発動!【無双蓮華】!!
────スキル発動!【クリスタルカノン】!!
◇つよ
◇無双やんけ
◇サイレントナイツの戦闘初めて見たわ
◇ナイト、な
◇こいつらこんな強かったのか
◇戦車や戦闘機超えとる
◇流石に空は飛べないから……飛べないよな?
◇探索者ってすげえんだな
◇いや……サイレントナイトがおかしいだけ
結界内に入り込んだドラゴンは、二人の活躍ですべて粉砕された。
あとは──結界外のドラゴンだけだッ!!
「よくやってくれたユリ!残りのヤツらは真上に集まってるんだよな!?」
「いや……わからない!!」
「え?」
「ッ一応!!一応やったけども!やってみたけども!!これちゃんと一箇所に集まってるのか!?高過ぎて見えないぞ!?」
「マジかよ!?」
「双眼鏡とか持ってない!?」
「あったよ双眼鏡!!」
「でかした!!…………いや!ダメだ!やっぱり見えないッ!!」
「おい聞いてたかリスナー!?聞いてたな!!結界上空の様子はどうなってる!?」
◇態度最悪で笑う
◇聞いてたけどなんだ
◇いつもの配信でも大概クソガキだけどあれでも猫被ってたんか
◇ドラゴンどうなの!?
◇結界の周囲からは居なくなってるぞ!!成功してるんじゃね!?
◇タワーから見えるよ!ちゃんと結界の上に集まってる!
◇スレで聞いてみたけどドラゴン、一箇所に集まってるってよ
◇チンパンジー:報道ヘリからだけどドラゴン結界のてっぺんに群がってて怖い……
◇報道関係者きちゃ!
◇このひと仕事中にダンチューブ見てます
◇なんで【挑発】スキルで一箇所に集められるの?数学的にありえなくない?
◇だからヘイトを縦に伸ばしてるんだろ?
◇そっか
◇そっか(達観)
◇ヘイトって縦に伸ばせるのか…こんどやってみよ
よし、狙いは成功した!
「あらためて、よくやってくれたユリ!!!」
「──ああ、だが──」
「まだなんかあるの!?」
「直線上に飛行機やヘリが無いかも調べないと!」
「ッマジかよ!?オイどうなんだリスナー!!リスナーさん!?リスナーさまあああああ!?」
◇全部こっちに聞いてくるじゃん
◇わからないことを人に聞けるのえらい
◇クソリスナー→リスナー→リスナーさん→リスナー様
◇どうなんだ航空関係者!?
◇お客様の中にどなたかパイロットはいらっしゃいませんか!?
◇確認したのだ。東京上空を通過中の航空機はないはずなのだ
◇おまえ航空関係者!?
◇助かる
◇そんで報道ヘリは!?
◇チンパンジー:報道ヘリからだけどそもそも誰も近づけない
◇だそうだ!現場からは以上!!
「ッよくやったリスナーどもォ!!お礼に最高のクリスマスプレゼントをくれてやる!!」
◇そういえばもうすぐクリスマスなのだ
俺は頭上の影に向けて、真っ直ぐに剣先を向ける。
「アビス!!俺が合図したらバリアを解除しろッ!!」
「合点承知!!」
俺の剣先に紅蓮の焔がまとわりつき、眩い光を放つ!
「同志シーフのこの凄まじい魔力の昂まりは──あのときの──!?」
「ああ。シーフの持つ、最強の切り札だ──!」
「ですわ──!!」
「こっ、これなら、いけるかもしれない……ッ!」
いけるかもしれない、だって?
違うな。
いくしかねえんだよおおお!!!!
「アビス!!今だッ!!」
結界が消え、頭上に漂っていたドラゴン達は真っ直ぐに急降下してくる。
「ッ破ぁああぁぁあああああああああああああアアアアアアアアアアあああああああああああ嗚呼あああああアアアアアアアァァアぁあっ!!!」
──スキル発動!【赤華のトナカイ】!!
紅く輝く剣を振るうと、激しい爆炎がドラゴン目掛けて飛んでいく。
『──グルッ!?──』
『──ギャオッ!?──』
『──ッグァアアアアア!!?』
着弾だ。
『────ドドドドドドドドドォオオオオン────!!!』
アルティメットバーサーカードラゴン達は真紅の光に飲み込まれて、次々に粉微塵に消し飛んでいく。
◇え?
◇えっ
◇えっ
◇核の光!?
◇天の槍!?
◇ガッズィーラ!?
◇なにこれ戦略兵器でもぶっ放したの??
◇とんでもない威力で草
◇シーフくんとんでもない切り札もってんじゃん
──身体が重い。
【赤華のトナカイ】はアホみたいに強いが、一発撃つととんでもない魔力と体力を消耗するのだ。
勝利を確信した俺の身体は、地面に倒れこむ。
「「シーフッ!!」」
俺はすんでのところでユリとノーパンに受け止められ、地面への激突を回避する。
「わ、悪いノーパン!ユリ!助かった!!」
「ううん!シーフすごかった!すごいよシーフ!やりますねえシーフ!!」
「ああ、すごかった!マジですごかったぞシーフ!」
◇すごい
◇すごい
◇すごい
◇すごい
◇すごい
◇お前ら語彙力ないなったの?
◇神の怒りだってニュースになっとるぞ
見上げると空の煙が晴れていく。
アルティメットバーサーカードラゴンは影も形も無く、そして上空には、まるで少女の靴下のような雲が広がっていた。
──ははっ。
これで100枚達成ってことにしてやるか。
俺は虚空に向かってパチンと指を鳴らす。
「メリークリスマス」
降り注ぐ真っ白な灰は、まるで淡い粉雪のようだった。




