1-1-2 女子大生女騎士ユリ!今日限りでお前はこのチャンネルから追放する!ー大神ゆりー
〜ヤマノケ線〜
「いいんでしょうか、あのまま置いてきてしまって」
「いいんだよ。口説いてる途中でケツに蹴り入れたけど気づかなかったし」
女たらしクズ野郎──じゃなかった──女子大生女騎士ユリを追放し、【聖雀の騎士】のメンバーは4人になってしまった。
本来ならばメンバーを補充すべきだが、すぐに新しいメンバーが見つかるわけもない。俺たちは4人のまま、シンジュクにあるダンジョンを攻略しようとしていた。
「まあひとりくらいいなくてもなんとかなるだろ」
「ええ。しかしチャンネルのメンバーが減るというのは寂しいものですわね」
悪役令嬢デスワの表情は、憂いを帯びている。
仲間との突然の別れに傷ついているのだろうか。
「良かったんだ。これで、良かったんだよ。このままあいつを生かしておいたら、【聖雀の騎士】チャンネルはリスナーに手を出す女の敵呼ばわりされて、ゴブリンやオークと同列の扱いを受けていたかもしれない」
「いや死んでませんわよね、ユリ」
そう。これは避けようのない運命だったのだ。
それにユリならきっと、ソロチャンネルでもリスナーを食っていけるだろう。
たぶん。
揺れる吊り革を見上げていると、女子大生女騎士ユリとの想い出が蘇る。
初めて会ったとき。
それからこれまで。
本当に色々な事があった。
【──そうだ、私は女騎士のユリ!騎士の誇りとこの剣に誓って、キミ達を守護ってみせる!──】
【──え、国家認定騎士の資格を取った理由?それはモテそうだしあと単位くれるから──って違う違う、か弱き乙女を守護するためさ!──】
【──すまないが次のクエストにはついて行けそうにない。デート……ゲフンゲフン、健康診断の予定があってな!ほほほ本当だ!騎士の誇りにかけて!……まあ少しエッチな健康診断になる可能性は否めないが──】
『♪〜次は〜〜シンジュク〜〜シンジュク〜〜』
ああっもうすぐシンジュク駅だ!
感情に浸っている暇はない!今は目の前の配信に集中だ!
俺達はヤマノケ線を降り、最寄りのダンジョンに辿り着く。
「装備!オン!」
俺達はダンジョン用の装備を身につける。着替えの面倒がないのは助かるよな。それから配信用自動追跡ドローンをセットすれば、準備は完了。
【聖雀の騎士】のダンジョン配信の開始だ!
「リスナーのみんな、メリクリ〜」
◇メリクリ〜
◇メリクリ
◇はじまった?
◇いま6月ですよ
◇初見は帰れなのだ
◇そういう挨拶なんだよ
「え〜今日もシンジュクダンジョンを攻略していきますわ」
「それとお知らせだが、ユリのやつは発情期が治らなくて実家に帰った」
「わたくしたちも影ながら活躍を祈ってますわ、グスッ」
◇そんな…ユリちゃん…
◇おつらい…
◇さっき雑談枠で追放してたんだよなあ
◇アーカイブ見直してもろて
◇虚 言 癖
◇マ?登録解除しました
◇白々しいのだ
「それじゃみんな〜!気合入れていくぞ!!」
「「「おーっ!!」」」
俺たち4人は士気を高めると、ダンジョンの奥に向かって進んでいく。
魔族の武闘家ノーパン。
JK悪役令嬢デスワ。
実家がナゴヤの聖女アビス。
そしてこの俺、自称勇者のシーフ。
全員、ネット評価ではSランクの探索者だ。
たとえユリが居なくたって、俺達【聖雀の騎士】は、ダンジョンなんかに絶対に負けたりしないッッッ!!!