1-4-3 実家がナゴヤの聖女アビス!今日限りでお前はこのチャンネルから追放する!ー地下111階層ー
〜ダンジョン地下111階層〜
「──ッく!このままじゃ押し切られる!──」
ダンジョンの地下で、俺たちは超危険レアモンスターの毒ガスリザードと対峙していた。
◇あれは毒ガスリザードなのだ
◇知っているのかコメだもん
◇ 身体から常に毒のガスを噴出しているせいで、スリップダメージがかなりきついやつなのだ。体力万全じゃないと全滅もありうるやべー敵なのだ
◇詳しい
◇賢い
◇俺もこいつに殺されたんだけどかなり苦しかった
◇成仏してもろて
そもそもこの階層までの連戦に次ぐ連戦で、俺達の疲労はピークに達していた。もうポーションも他の回復アイテムも底をつきている。
万全の状態ならこんな相手に苦戦することはなかったはずだ。
◇サギシノちゃんはやく回復してあげて
◇サギシノちゃんは?
◇いつの間にかいなくなってた、迷子だと思う
◇心配だな
「確かに……サギシノどこいったんだよ!?」
「そういえば7階層目くらいからずっといませんわよね」
それだいぶ序盤やんけ。
気づけよ俺。あとリスナー。
◇もしかして騙されたんとちゃいます?
◇そんなわけない!サギシノちゃんは俺たちにも優しいギャルなんだ!
◇だってギャルは嘘つかないだろ!?
「大丈夫ですわ!サギシノさんから2万円で買ったハイ・エリクサーがここに!」
「……にま……!?」
「さあシーフ毒味をどうぞ!」
「ごくっごくっ!喉が超〜潤ったぜ!飲んでみな!」
「ごくっごくっ!なんともおいしい水ですわね!それに慣れ親しんだ味ですわ!」
「そりゃジャイサウンドのドリンクバーのとこに置いてある無料の水と同じ味だからな!!!」
ポーションですらなかったとは。もし生きて帰ったらデスワにはまた、川の水をたらふく飲ませてやろう。
そしてわかった。
やはりサギシノのやつは、ただ俺達を騙してカモにしてただけのようだ。
◇がんばえ〜
◇はやく撤退してもろて
◇俺はまだサギシノちゃんを信じてるから。ここから逆転するから
◇あいつネット界隈じゃ有名な詐欺師やろ。ワイはとっくに気づいどったで
◇は?
◇そういうのなんでもっとはやく教えてくれないの?
◇すまん。ネタバレはアカンかなって……
◇撮れ高ポイント潰しちゃ悪いしな
◇謝れてえらい
クソリスナーがよ!!!!!
◇詰んだもんなのだ
「ッ優しいギャルとお付き合いできると思っだのにいいいい!!!!!」
「いいぞユリ!!存分に暴れろ!!!」
「ッいやもうかなり限界!!!」
面接の重要性を軽視し過ぎた。
リーダーである俺のミスだ。
「ッくそ──こんなハズじゃあ──!!」
俺たちは、こんなところで全滅するのか。
──そう覚悟を決めたときだった。
「ッゼェ、ハァ──迷える愚かな仔羊達よ!!」
「「「「!!!!」」」」
洞窟内に俺達を呼ぶ声が反響する。
苦戦する俺たちの前に、黒い修道服を垂らし、後光のさす姿が現れる。
あれは。あの肩で息をする姿は。
◇きたあああああああああああ
◇シャチホコ!!
◇きたああああああああ!!
◇確 定 演 出
◇シャチホコ!!!!
◇相変わらず体力ないな
◇わかるよ。30になると一気に階段の上り下りとかキツくなるんだよね
◇ナゴヤ帝国に栄光あれええええええ!!
────リーダースキル【超新星】発動!!
仲間になったアビスの潜在能力が極限まで引き出される!!
「見るがいいすべてのナゴヤ帝国民!!そしてすべての異教徒ども!!」
アビスが天に右手を掲げると、目も眩むばかりの白光が集まっていく。
「──聖ぃいいいいいいっ!!!」
────スキル発動!【でらヒール】ッ!!
俺達の毒・怪我・疲労・大腸ポリープは一瞬で全回復した。
「ゼェ、ゼェ──い、今です同志たち!!────ヤバトン神の力を見せつけるのです!!」
「「「破ぁああああああ!!」」」
全回復した俺達の前に、毒ガスリザードは無力だった。
「アビス、どうしてここに──」
「ッゼェ、ハァ──とっ、とちゅっ──ハァ──」
「あー……水あるけど飲む?もう歳なんだから無理すんなよ?」
「18歳!!!!!!」
1本2万円の高級水道水を一気飲みするアビス。
「それで、どうしてここに──」
「途中でお会いした背信者サギシノを尋問──じゃなかった──ヤバトン神の指し示す方向にしたがい、脚を運んだまでの事です」
「ッそうじゃない!俺達は、お前を追放した、それなのに──」
それなのにどうして、助けに来てくれたんだ?
あとサギシノはどうなったんだ?
わからない。
俺には、わからなかった。
「ふふっ、わかりましたか?これがヤバトン神の力なのです」
「…………。」
「みなさんもナゴヤ帝国に移住したくなりましたか?ふふっ、そうでしょうとも」
「…………。」
「ナゴヤ帝国にひれ伏せ異教徒どもが!」
「…………。」
「シャチホコ!シャチホコ!!」
「…………あー、もう!わかったよ!確かに俺たちにはお前が必要だ!布教でもなんでもすりゃいいさ!」
俺はアビスと同じように両手を上げる。
ただしこれはシャチホコではなく、お手上げのポーズだ。
「やたっ!」
「けど洗脳はよくない。メスガキヤは三郎系ラーメンに戻してやれよ。いいな?」
「そんな……みなさんせっかく立派なメスガキになれたのに……」
「 い い な ? 」
「……はぁ〜い」
◇8888888
◇8888888888
◇てぇてぇ…
◇てぇてぇだな……
◇てぇてぇって言いたいだけちゃうんかと
これからはできるだけパーティー追放なんてしない。
洗脳されつつあるコメント欄を見ながら、俺はそう胸に誓った。
「それじゃあみんな、キリもいいし今日の配信はここまでだ!ハッピーニューイヤー!」
◇ハッピーニューイヤー!
◇ハピニュ
◇ハピニュ
◇シャチホコ!
◇シャチホコなのだ!
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